俺様勇者と武闘家日記   作:星海月

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ジパング
異国の地ジパング


 

「ユウリさん! 南南西の島に、人が住んでそうな集落を発見しました!」

 

 ヒックスさんの声が、船上に響き渡る。その声を聞いた途端、甲板にいたユウリと近くにいた私たちは、すぐさまヒックスさんのところに駆けつけた。

 

「見て下さい。きっとあれがジパングですよ」

 

 ヒックスさんに望遠鏡を渡されたユウリは、彼が指さした先をその望遠鏡で覗いてみた。

 

「確かに方向も合っている。間違いなくあれがジパングだろう」

 

 そう言ってユウリは私に気づくと、自分で確かめてみろと言わんばかりに無言で望遠鏡を渡した。流されるまま、彼と同じ方向に望遠鏡を向けて覗くと、大陸よりは小さく、島と言うにはかなり大きな規模の陸地が映し出された。

 

「あれがジパング……!」

 

 ルザミの島を離れてから約一か月。フィオナさんに教えられたとおりの航路を進み、ようやく私たちはジパングの島を見つけることができたのだ。

 

「では、早速船を近づけます。このあたりの海は潮の流れが複雑なので、一度皆さん船室にお戻りください」

 

 ヒックスさんは近くの船員に指示を出すと、操舵室へと戻り舵を切る。そして私たちはヒックスさんの言葉に従い、船室に戻ることにした。

 

「やっとジパングに到着するんだね。やっと陸地に上がれる~」

 

 ずっと船の上だったからか、船室が並ぶ廊下で心底嬉しそうにシーラが声を上げる。

 

「最近体がなまってしょうがねえよ。早くジパングに着かねえかな」

 

 ナギも伸びをしながらシーラと同じようなことを言う。かくいう私も二人も同じ気持ちだった。

 

 そういえばずっと船に乗っているが、ユウリは大丈夫なのだろうか。元々酔いやすい体質の彼は、旅の扉に入るときや船に乗っているときなど、体調を崩すことが多い。ちらりと視線を彼に向けると、たまたま目があってしまい、ぎろりと鋭い目つきで睨まれた。

 

「何間抜けな顔で突っ立ってるんだ、間抜け女」

 

「いや、あの、今さらだけどユウリは船酔いとか大丈夫なのかな、って思って」

 

「ずっと船に乗っていれば、嫌でも慣れる」

 

 そういうものなのかな? と完全には彼の言葉を鵜呑みに出来ないでいると、さらに彼は付け足した。

 

「これ以上お前に看病されるのは御免だからな。それを考えたら船酔いくらい自力で治せる」

 

「それどういう意味!?」

 

 心配する私の心情などお構いなしに失礼なことを言い放つユウリに対して腹が立った私は、これ以上話す気も失せ、上陸の準備をするために船室へと戻ったのだった。

 

 

 

 ヒックスさんは突然現れた大きな船に島の人が驚かないよう、あえて集落から離れた場所に船を接岸した。

 

 人気のない海岸に降りた私たちは、すぐに集落のある方へと歩き始めた。辺りは見たこともないような木や草が生い茂っており、かつてスー族の里に初めて到着したときのことを思い起こさせる。

 

 しばらく歩くと、やがて集落が見えてきた。集落というより村といった方が正しいだろうか。船からでも見えたが、この島の建物はスー族の里とも違う独特な形をしている。木を組んで作られた小さめの家には、藁を集めて作ったような屋根が乗っていた。そんな見慣れない家々が建ち並ぶ集落の中心に、不自然なくらいに大きな木造の屋敷が建っていた。

 

「何だあれ!? 変な形の家ばっかりじゃねーか!!」

 

 ナギが率直な感想を漏らす。スー族の里の家を見てきた私とユウリにとっては別段驚かなかったが、普段私たちが住んでいる町に比べたらこの見慣れない風景は騒がざるを得ない。

 

 それでも自然と共存しているかのようなこの平穏な雰囲気は、この集落にはとても似合っているように感じた。

 

 よく見ると、集落の入り口らしき場所には、塀どころか家々を取り囲む柵すらない。これでは魔物も入り放題なのではないだろうか?

 

「随分不用心な村だな」

 

 ユウリも私と同じことを考えていたらしい。するとそこへシーラが口を出す。

 

「なんかこの村、ダーマの結界みたいなもので守られてるみたい。それが何なのかはわからないけど」

 

 ダーマの魔物除けの結界と言うと、あの石像みたいなもののことだろうか。私はダーマで見た時のことを思い出した。

 

「そんなことがわかるのか?」

 

 ユウリが驚いたようにシーラを見返す。シーラはユウリの反応に気をよくしたのか、鼻を高くする。

 

「へへん。フィオナさんちの本を見て、ついでに魔力を感知できる技を身につけたんだよね♪ すごいでしょ☆」

 

「ふん。そのくらい、知識があれば俺だってできる。だから俺にもその技を教えろ」

 

「ムリムリ☆ だって賢者にしかできないって書いてあったもーん♪」

 

 そう言うとシーラは、ユウリから逃げるようにぴょんと跳ねながら先に行ってしまった。

 

「お前が出来るんなら俺に出来ないはずないだろ。いいから教えろ!」

 

 なおも食い下がるユウリは、早歩きでシーラのあとを追いかける。別にシーラが身に付けてるならいいじゃん、と思うが、彼のプライドが許さないのだろうか。

 

「そういや、ここにオーブがあるかもしれないんだろ? 確かめなくていいのか?」

 

「あっ、そうだった! おーい、ユウリ!!」

 

 ナギのもっともな疑問に、私はすかさずユウリを呼び、山彦の笛を吹いてもらうことにした。

 

「バカザルに指摘されるとは、やはり本調子じゃないようだな」

 

 何やらぶつぶつ言いながらも、ユウリは山彦の笛を鳴らす。するとほどなく、彼が奏でた音と同じ音がどこからか聞こえてきたではないか。

 

「おい、今同じ音が返ってきたぞ!?」

 

 初めて山彦の笛が反応したのを目の当たりにしたからか、素直に驚くナギ。その様子にユウリどころか、シーラまで小馬鹿にするようにナギを見ている。

 

「そりゃ『山彦の笛』って名前がつくくらいだもん、山彦が返ってくるのは当たり前でしょ?」

 

 彼女の発言に、ムッとしながらナギが答える。

 

「何だよシーラ。お前賢者になってから、調子に乗ってないか?」

 

「奇遇だな、バカザル。俺も今同じことを思っていたところだ」

「やだなあ、ユウリちゃんまでそんなこと言うなんて♪ ひょっとしてユウリちゃん、具合悪すぎてナギちんと同レベルになっちゃった?」

 

『なんだと!?』

 

 二人揃って怒り出す二人に対し、なぜかシーラはこの状況を楽しんでいるように見える。

 

「そんなことより二人とも、オーブがこの村にあるのは間違いないんだからさ、早速情報を集めに行こうよ☆」

 

「くっ……、おまえに言われなくてもわかってる!!」

 

「シーラ、後で覚えとけよ!」

 

 二人をからかい倒して満足したのか、シーラはスッキリした顔で私のところにやって来た。

 

「いやあ、たまにはストレス発散するのも大事だよね☆」

 

「今のストレス発散してたの!?」

 

 さすがシーラ、発想が私みたいな凡人とはかけ離れている。私が尊敬の眼差しを向けると、シーラはますます満足そうに微笑んだのだった。

 

 

 

「わあ、ガイジンだ~!!」

 

「これはこれは、ようこそジパングへ!」

 

「随分と変わった服を着ているなあ」

 

「あんなキレーな髪の人、見たことない!」

 

 ジパングに入った途端、その場にいた村人たちが一斉に私たちに注目した。

 

 好奇の目に晒される中、特に彼らが興味を持ったのは、ナギとシーラだった。

 

 どうもここの人たちは、見た目が自分達と異なる人たちをあまり見たことがないらしく、他の国ではそれほど珍しくもない金髪のシーラを、物珍しそうにじっと眺めていたり騒いだりしている。

 

 さらに珍しい銀髪で金色の目をしたナギに関しては、なぜか遠巻きにされている。まるで珍獣扱いされているようだとぼやくナギは不服そうだが、この村の人たちにとっては初めて目のあたりにする存在に、むしろ恐れを抱いているように感じた。

 

「おい、お前ら。俺は勇者だ。オーブというものがここにあるらしいが、どこにあるか知っているやつはいるか?」

 

 遠巻きに見ている村人たちに聞こえるように、大きな声でユウリはオーブの居場所を尋ねた。どことなく機嫌が悪いのは、体調が悪いからか、それとも自分よりナギやシーラに人々の注目が集まっているからなのか、それは本人にしかわからない。

 

 普段は自身の持つカリスマ性を存分に発揮して周囲の人の注目を集めるはずなのだが、この村ではあまり発揮できないらしい。というのも、この村の人は皆、ユウリと同じ黒髪だからだ。ただ、ユウリほど顔立ちの整った人はこの村にはいないので、全く目立たないと言うことはないのだが。

 

 それを言ったら同じ黒髪の私のほうが3人に比べたら一番目立たない存在だ。現に村人の誰一人として私に視線を送る人はおらず、今しがた言い放ったユウリの方に一斉に視線が集まっている。

 

「しゃ、喋った!?」

 

「ガイジンなのに、言葉が通じるぞ!」

 

「おうぶ? なんの話だろうね」

 

「はあ、なんて綺麗な子たちなんだい? まるでこの世の人ではないみたいだ」

 

 言いたいことを言う村人に、ユウリのこめかみがわずかに引きつる。

 

 そんな中、一人の中年女性が一歩前に出て、警戒心を露にしながら尋ねてきた。

 

「……『ユウシャ』ってのがなんだか知らないが、仙人か何かの使いかい?」

 

『は?』

 

 村人の一人が言った『センニン』という馴染みのない言葉に、ユウリだけでなく私たちも間の抜けた声を出す。

 

「仙人にしては随分と物騒な武具を身に着けているぞ」

 

「どっちでもいいだろ、そんなこと」

 

「もしかしたら神樣の使いかもしれんな」

 

「おお、ならばこの村をお救いしに来て下さったのか!」

 

「ナンマンダブ、ナンマンダブ……」

 

 どういうわけか、いつのまにやら神様の使いにされている。これでは埒があかないので、ちょうど一番近くにいる中年の男性に話を聞くことにした。

 

「あの、すいません。この村で一番偉い人のところに案内してくれませんか?」

 

 その途端男性は大げさなくらい驚くと、

 

「あわわわわ!! 仙人様の使いと目があっちまった!!」

 

 そう言うや否や、一目散にこの場から走り去ってしまったではないか。

 

「ちょ、ちょっと!!」

 

 だから『センニン』って何!?

 

 そう叫ぶ前に男性が行ってしまったので、諦めて他の人に尋ねようとしたのだが、シーラに呼び止められた。

 

「ミオちん、何か皆いなくなっちゃったんだけど」

 

「ええっ!?」

 

 ほんの一瞬の間に、先ほどまでいた数人の村人は皆忽然と姿を消してしまった。最初に『センニン』と言った人も、いつの間にかいなくなっている。まさか幽霊?と思ったが、ナギ曰く私が目を離した隙に皆逃げてしまったらしい。先ほどの男性のように怖がる人もいれば、関わり合いになりたがらない人、興味はあるが遠巻きに眺めている人など、様々だ。

 

「こりゃあ、オーブを探すどころじゃねえな」

 

 ナギの言うとおり、村人に話が聞けなきゃ何も始まらない。とにかく村人がこれ以上逃げないよう、他に話が出来る人を探すことにした。

 

 ところが――。

 

 なるべく目立たないようにしつつ、片っ端から家を尋ね回ることにしたのだが、すでに初めに私たちを見かけた人たちから聞いたのか、尋ねた家の家主と顔を合わせた途端、口を揃えて皆『センニン』とか言い放ち、すぐに家の扉を閉めてしまうのである。これでは情報を聞くどころではない。

 

『オーブ』のことを尋ねても、「おうぶ? それは仙人様の術ですか?」とか見当違いの答えが返り、さらには「その術で何をする気ですか?」と怯えて家にこもってしまう始末だ。

 

 そしてふと気づいたのだが、この村の人たちを見てみると、私やシーラ位の年の若い女性が全くと言っていいほど見当たらない。声をかけてきたり、家の中にいる人のほとんどが男性か、中年以降の女性なのだ。

 

 そんな些細なことを考えているうちに、気づけばすっかり辺りが暗くなり始めた。まだ日は沈みきってはいないものの街灯などはなく、代わりに設置型の松明が数軒灯るのみである。村全体が闇に覆われるのも時間の問題だ。

 

 そんな中、タイミング良くお腹が鳴った。私は皆に聞こえてないかと辺りを見回しながら、お腹を押さえる。

 

「聞こえてたぞ」

 

「ひっ!!」

 

 少し離れていたはずなのに、ユウリの耳には届いていたらしい。私は顔を赤らめながらユウリを恨みがましく見返す。

 

「ここって宿屋もねえのかな。さすがに今船に戻るのも面倒だよな。素泊まりでもいいんだけど」

 

 歩き疲れたのか、ナギは船に戻るよりここで宿泊することを望んでいた。

 

「あたしたちを神の使いかなにかだと思ってんなら、お酒とかご馳走とかお供えに来てくれればいいのにね☆」

 

 嘆くナギに対し、冗談か本気なのか区別のつかないことを言うシーラ。確かにそんな人が一人くらいいてもおかしくはないとは思うが……。

 

「あ、あの……。あなた方が噂の『神の御使い』様でしょうか?」

 

 いつのまにか『センニン』から『神の御使い』に名前が変わっていることに戸惑いを覚える。いや、それよりこの女性はいったい何者なんだろう? 私の母親と同じくらいの年代のその女性は、悲壮感漂う雰囲気を纏っており、顔つきもどことなくやつれていた。

 

「『神の御使い』? なんなんだそれは。俺は『勇者』だ。それよりあんた、俺たちに何か用か?」

 

 ユウリが尋ねるが、なぜか女性は話しかけたはいいものの、なかなか次の言葉を言い出せずにいた。

 

 女性は何か躊躇っている様子だった。そんなじれったい彼女に待ちきれず痺れを切らしたユウリが立ち去ろうとすると、いきなり彼女はユウリの手をつかんで引き留めた。

 

「す、すいません!! ユウシャ様にお願いがあります!! 一度家に来てくれませんか!?」

 

 意を決して放った彼女の言葉は、想定外のものだった。ユウリはしばし考え込むと、彼女をひたと見つめてこう答えた。

 

「わかった。その代わり、俺たちは今腹が減っている。食事と寝る場所を用意してくれたら、頼みを聞いてやってもいい」

 

「わ、わかりました!!」

 

 女性はすぐに了承した。半ば脅すようなそのやりとりに、私は申し訳ない気持ちで家へと向かう女性の後ろ姿を追う。

 

「ユウリ、いくら今夜の宿の当てがないからって、そんな安請け合いしちゃっていいの?」

 

 私がヒソヒソ声でユウリに話しかけると、ユウリはしれっとした顔で、

 

「俺は頼みを『聞く』と言っただけだ。実際どうするかはこっちの自由だろ」

 

 なんて無責任なことを言ってのけた。うーん、勇者がそんなことを言っちゃっていいのだろうか?

 

「さっすがユウリちゃん、相変わらずの屁理屈だね☆」

 

「黙れ。こっちは空腹で気が立ってるんだ。早く用事を済ませるぞ」

 

 軽口を言うシーラを、ユウリは不機嫌な顔で睨み付けたのだった。

 

 

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