俺様勇者と武闘家日記   作:星海月

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灼熱の戦い

 

 私はシーラの立てた作戦通り、先ずはユウリと合流するために走り出した。

 

 オロチの攻撃によって重傷を負ったユウリは自分には回復呪文をかけず、代わりにナギを回復させると、無謀にも一人でオロチのもとへと走って行ってしまったのだ。

 

 そして私が走り出したころには、ユウリはオロチと再び戦闘を繰り広げていた。

 

——急がなければ!!

 

 私は星降る腕輪の力を最大限に発揮させ、複数のオロチの首と対峙しているユウリのもとへダッシュした。

 

 今戦っている四頭の首——紛らわしいので、中央の司令塔となる首を『本体オロチ』、手前側左の首を『牙オロチ』、奥側右の首を『炎オロチ』、奥側左の首を『追撃オロチ』と呼ぶことにする——は、剣で必死に捌くユウリに次々に襲い掛かっている。よく見るとシーラの言うとおり、主に攻撃をしているのは牙オロチで、牙オロチに隙が生まれたのを見計らって横から追撃オロチが同じように攻撃をしてくる。その間、炎オロチはほとんど動かず、様子を窺っている。

 

 いや、本体オロチの目が光った! それと同時に炎オロチがゆっくりと息を吸い込んでいる。今から炎を吐く気だ!

 

 私はさらに加速し、炎オロチが炎を吐き出す直前に、他のオロチの攻撃を躱しつつユウリに体当たりした。

 

「っ!?」

 

 急に私に体当たりされ、一瞬動揺するユウリ。そのまま私たちはもんどりうって地面に転がる。

 

 その瞬間、炎オロチが炎を吐き出すが、誰もいない地面を焦がすだけだった。

 

「ミオ!?」

 

 ユウリを後ろから押し倒すような形になりながら、私は顔を上げる。その瞬間、彼の想像以上に酷い怪我に愕然とした。破れた服の下から見える焼けただれた体は私以上に酷く、この状態で戦えているのが信じられないほどだった。

 

 それでも私は感情を押し殺し、彼に作戦を伝えた。

 

「ユウリ、シーラから伝言!! 皆で連携して倒そう!!」

 

 もちろん伝えることはそれだけじゃないのだが、今はオロチの攻撃を避けることが最優先。私はそれだけ言うとすぐにユウリから離れた。

 

 その間にも、二頭のオロチが続けざまに攻撃を繰り出してくる。

 

 回避能力に関しては、星降る腕輪の力を使った私の右に出る者はいない。正直ユウリよりも回避できる自信がある。……まあ、腕輪の力があればの話だけど。

 

 私はユウリからある程度の距離を保ちつつも、難なく二頭の攻撃を躱す。

 

 そして三頭のオロチの動きが偶然にも同時に止まったころを見計らい、私はユウリのもとへと跳んだ。

 

「ユウリ! 私と一緒にオロチの注意を引き付けて!! シーラが合図したらいったん離れて!!」

 

 私の伝言に、何かを察したのかユウリは短く頷く。

 

 次いでそれぞれのオロチの特徴を、簡単に説明した。一瞬ユウリの眉間にしわが刻まれたが、すぐに戻り一言「わかった」とだけ答えた。

 

 すると、まるでタイミングを見計らったかのように三頭が一斉に再び私たちに襲い掛かってきた。私は右に、ユウリは左にそれぞれ跳び退く。

 

 オロチたちは、真っ先にユウリの方に狙いを定める。攻撃を避けられる私より負傷しているユウリが狙いやすいと思ったのだろう。三頭のオロチは再びユウリに攻撃を浴びせる。

 

 ユウリも最初より大分動きが鈍っているのがわかる。あの炎をまともに食らって、ほぼ全身にわたって火傷を負っているのだ。むしろここまで動けることが奇跡に近い。

 

 これ以上ユウリに負担をかけたら、彼の命が危ない!!

 

 考えるまでもなく、私は隙だらけとなっている三頭のオロチの首元を狙い、大きくジャンプした。

 

「はあっ!!」

 

 飛び降りざまに、炎オロチにかかと落としを食らわせる。急所に当たったのか、炎オロチは首を上下に動かし激しく暴れ始めた。

 

 私に狙いを変えた炎オロチは、着地した私の姿を見つけると、ものすごい勢いで私に体当たりをしようと迫ってきた。私は全速力でその場から逃げる。

 

 そのまま、二頭のオロチと戦っているユウリの横を通り過ぎ、本体オロチのいるところまで回り込む。その瞬間、本体オロチの目が赤く光り始めた!

 

 するとユウリと戦っていた追撃オロチが、急に私の方へと向きを変え、炎オロチとともに私を追いかけ始めた。おそらく本体オロチは今、追撃オロチに指示を出したのだろう。

 

 けれど逆に好都合。これでユウリの相手は牙オロチ一頭となった。一方の私は、炎オロチと追撃オロチに追いかけられながらも、持ち前の俊足と回避能力で二頭の攻撃を避け続ける。

 

 その時、全くの勘だが、身の危険を肌で感じ、思わずちらりと後ろを向く。すると案の定、炎オロチが再び炎を吐き出す準備をしているではないか!

 

—―まずい、この位置だとユウリにも炎が当たる!!

 

 私は踵を返し、炎オロチたちに向かって猛ダッシュした。急に狙いがこちらへ向かってきたことで、オロチたちに一瞬の動揺と隙が生まれる。

 

 その瞬間、私は炎オロチの長い体を踏み台にして素早く駆け上がり、空高く跳び上がった。

 

 一方炎オロチの体は反応しきれず、虚空に向かって炎を放つ。炎を吐き出した後の無防備なオロチの頭を、私は落下の速度を利用して思い切り拳で叩いた。

 

『ギャアアアアッッッ!!』

 

 初めて聞くオロチの断末魔に、思わず空中で耳をふさぐ私。炎オロチはそのままぐったりと動かなくなる。

 

 だがその間に、追撃オロチが大きな口をあけながら、私が落ちるのを待っていた。

 

「いやあああっっ!?」

 

 このままだと追撃オロチの口の中に落ちてしまう。私は必死で落下の軌道を変えようと体を捻ろうとするが、思うように体が動かない。心当たりがあるとすれば、星降る腕輪の多用で身体に負担をかけすぎた可能性が一番高い。

 

 そんなことはお構いなしに、追撃オロチはさらに首を伸ばして私を口でキャッチしようとしている。まずい、なんとか体勢を立て直さなきゃ……。

 

「ミオ!!」

 

 私を呼ぶユウリの声が聞こえると同時に、追撃オロチの首が不自然に傾く。それととともに、紫色の血が噴き出した。

 

 下を見ると追撃オロチの首が真っ二つに斬られていた。牙オロチの攻撃の間隙を縫い、ユウリが追撃オロチの首を斬ったのだ。

 

「ユウリ、ありがとう!!」

 

 ユウリの姿を確認した私は、ほっとしながら地面に着地する。

 

「無茶しすぎだ、バカ!!」

 

「それはこっちのセリフだよ!!」

 

 なぜか頭ごなしに怒られたので、思わず私も言い返す。見るとユウリの顔が火照っている。おそらく火傷のせいだろう。目の焦点も心なしか定まっていないように見える。早く手当てをしなければ……!

 

『おのれ……。人間どもがぁぁああ!!』

 

 しかしそこへ突如、本体オロチが咆哮を上げた。最初の時よりも数段パワーアップしているのか、離れているのに衝撃波で体が動けない。

 

 そこへ、私とユウリが動けないところに、牙オロチが襲い掛かってきた!

 

「ヒャド!!」

 

 いつの間にかオロチの近くまで来ていたシーラの呪文が声高に響く。ちょうど私の目の前まで迫ってきた牙オロチの頭が、彼女の呪文によって氷漬けにされた。

 

「くらえっっ!!」

 

 続いてナギのチェーンクロスが牙オロチの頭を粉砕する。まるでこの時を待っていたかのような見事な連係プレーに、私は思わず感嘆の声を上げる。

 

「二人とも、すごい!!」

「バカ、まだ油断するな!」

 

 動けるようになったユウリが、私の首根っこを掴みながら後ろに飛び退いた。一瞬何事かと混乱したが、

 

 ゴオオオッッッ!!

 

 いつの間にか復活した炎オロチが炎を吐き出していたことに気づき、慌てて体勢を立て直す私。

 

「う……、ごめん」

 

 だが、残るは炎オロチと本体オロチのみ!! しかも今炎を吐き出したから、炎オロチには隙がある!!

 

「二人とも、こっちへ!!」

 

 突然、切迫した表情でシーラが叫んだ。あれはシーラの合図だ!

 

 私はユウリとともに急いでその場から離れる。ここまでは作戦通りだ。

 

『許さぬ……、許さぬぞ!! わらわをここまで侮辱するとは、あの女以来だ……!』

 

 あの女!? って、どの女!?

 

 すると本体オロチは、例の予備動作をし始めた。これはまさか、あの強烈な炎のブレス!?

 

「ユウリ、急ごう!!」

 

 ユウリもわかっているのか、無言で走る速度を速める。ようやくシーラたちの近くまでやってきたと思った時だ。なぜか二人はその場に動こうとしない。

 

「二人はもっと遠くに逃げて!!」

 

「シーラたちは!?」

 

「今やらないと間に合わない!! ナギちん、お願い!!」

 

「ああ!!」

 

 どういうこと、と尋ねる暇もなく、シーラは目を閉じて精神を集中させる。

 

「二人もここから離れないと、炎が……」

 

「オレたちは大丈夫だから!! お前はユウリと一緒に早く逃げろ!!」

 

 ナギにぴしゃりと突き放され、私は押し黙る。

 

「……二人を信じよう」

 

 ユウリも納得しきれない顔ではいたが、煮え切らない私の腕を掴むと、すぐに走り出した。

 

 そんな……! もともと体力の低いシーラがあの本体オロチの炎をまともに浴びたら……!!

 

 ……いや、でもここはユウリの言うとおり、シーラたちを信じよう。私は震える拳を必死に抑え、ユウリとともにその場から離れた。

 

「ルカニ!!」

 

 シーラの放った呪文は、相手の防御力を激減させる効果を持つ。途端、オロチの周りに紫色の光が淡く輝く。その間にも、本体オロチは大きく息を吸い込み続けている。

 

「ナギちん、あとはお願い!!」

 

「任せろ!!」

 

 シーラの横をすり抜け、ナギがチェーンクロスを振りかぶりながら本体オロチに向かって突っ込んでいく。勢いよく跳躍すると、そのままオロチの頭にチェーンクロスを振り落とした。

 

『ガアアァァッッ!?』

 

「まだまだぁっ!!」

 

 続けて二発、三発と、怒涛の勢いで攻撃を浴びせるナギ。ルカニのおかげか、ダメージは相当大きいらしく、一撃受けるごとに本体オロチの悲鳴が絶え間なく響く。

 

 しかし、まだ倒れない。どれ程体力があるのだろう。しかし加勢するにもこの距離では遠すぎるし、何よりシーラ達に後を任せた手前、ここで再び戻ったら彼らを信じていないことになる。

 

 でも……。

 

「大丈夫かな……」

 

 ぼそりと、本音が漏れてしまう。それを聞いていたのか、ユウリが答えた。

 

「今の俺たちが行っても足手まといになるだけだ」

 

 そこまで言うと、ユウリはその場に崩れ落ちるように座り込んだ。炎によって焼け焦げた両腕や両足の皮膚は白、あるいは黒く焼けただれ、もはや痛覚もないのか、痛みよりも発熱によって苦しんでいる。さらに顔は化粧とオロチの返り血でぐちゃぐちゃになっており、もはや美少女と呼ばれた容貌は影も形もない。

 

 私は急いで鞄からありったけの薬草を取り出し、患部に貼り付けた。薬草は細かくして飲むほかに、傷口など患部に直接貼っても効果がある。

 

「油断したな……。まだまだ修行不足ってわけか」

 

 自嘲するように、誰にともなく呟くユウリ。それはユウリだけではない。私もまた自分自身の不甲斐なさを痛感している。

 

 二人の間に、気まずい雰囲気が漂った。何かしたくてもできないもどかしさが、余計に自分を落ち込ませる。

 

「とりあえず今は、ここを乗り切ることを考えよう。……強くなるのは、それからだよ」

 

 私は前線で戦っている二人に目をやる。ナギの怒涛の攻撃に、本体オロチはいまだに炎を吐き出していない。

 

「ナギちん、もうすぐ呪文が切れちゃう!!」

 

「んなこと言っても、こいつなかなか倒れねえんだけど!!」

 

 そう言っている間に何発も攻撃を加えるナギ。相手はだいぶ弱っているようだが、それでも瞳の赤い光は完全に消えていない。

 

『グ……、ググ……』

 

 あれほど流暢に喋っていた本体オロチも、もはやうめき声しかあげていない。もう少しで倒れそうなのに……!!

 

 すると、オロチの身体にまとっていた紫色の光が静かに消えた。ルカニの効果が切れたのだ。

 

「ナギちん!!」

 

「ちくしょう!!」

 

 とどめの一発も、オロチを倒すまでは至らなかった。

 

『ふ……、ふふふふ……! 万策尽きた……、ようじゃの……。わらわの……勝ちじゃ……』

 

 息も絶え絶えなオロチであったが、このセリフから察するに、まだ何か勝つ見込みがあるのだろうか?

 

 一歩下がったナギは、シーラをかばうように彼女の前に出る。一瞬の静寂が場を支配した、その時だった。

 

『はあっ!!』 

 

 ギュイイイイィィィン……!

 

 気合の一声とともに、オロチが放ったのは、旅の扉を数倍大きくしたような渦だった。自分の目の前にその渦を生み出すと、オロチはそのままその渦へと飛び込んだではないか!

 

『!!??』

 

 想定外の行動に、私たちの脳裏に『?』の文字が浮かび上がる。魔物であるオロチがそんな技を使うことにも驚愕したが、なにより今際の際で逃げ出すなんて普通なら信じられない行動だった。

 

「逃げやがった!?」

 

 突然倒すべき目的がその場から消え、戸惑うナギ。それはその場にいた全員が同じ気持ちであった。

 

「ナギ、シーラ!! 一体どういうこと!?」

 

 近くにいた二人ならわかるかと思い、大声で尋ねてみる。しかしこちらを振り向いたシーラも、どういうことか把握しきれていないのか、首を横に振った。

 

「あいつ……、逃げちゃった……。ごめん、あたしが力不足なせいで……」

 

「何言ってんだよ!! それはオレのセリフだっての!! オレがもっと攻撃を叩きこめていれば……」

 

「違うよ!! 私だって、もっとうまく立ち回れていれば、二人を危険にさらすこともなかった!! 私がもっと強ければ……」

 

「お前ら何三人そろって言い訳じみたこと言ってるんだ! まだ戦いは終わってないだろ!!」

 

 三人の間に割って入ったユウリの一喝に、私たちは一斉に彼の方を見る。ユウリは私が貼った薬草を押さえながら、その場に立っていた。

 

「見ろ。まだあいつが作った旅の扉はそこにある。今から後を追えば、まだ間に合うかもしれないだろ」

 

 彼の言うとおり、オロチがいた場所を見るといまだに旅の扉はそこにある。オロチが入っていったということは、あの旅の扉の向こうにオロチがいるということだ。

 

「で、でもユウリちゃん、扉の向こうがどうなってるかわからないのに、むやみに入るなんて無茶だよ! それにユウリちゃんが一番ひどい怪我してるのに、これ以上動いたらホントに命にかかわるよ!?」

 

「それでも、俺たちはあの親子と約束したんだ。オロチを倒すと」

 

「……っ!!」

 

 ユウリの言葉が、一言一句私の胸に突き刺さる。自分がボロボロになっても、ユウリは自分が言った責任を果たそうとしているのだ。

 

 意を決した私は、口許を引き結んだ。

 

「……ユウリ。今度は私が前線に出るから、ユウリはその隙をついてオロチを攻撃して」

 

「ふん。元よりそのつもりだ」

 

「待て待て。ミオだって怪我してんだろ? その役はオレに任せろ」

 

「ナギ……」

 

 そう元気そうに振舞ってはいるが、ナギだって完全に回復したわけじゃない。それに先ほどの本体オロチへの攻撃で、体力は相当消耗しているはずだ。

 

「安心しろバカザル。いざとなったらお前をオロチの口の中に放り込むからな」

 

「言ってる意味が分かんねえんだけど!?」

 

「待って三人とも!! ここは一度リレミトで村に戻って体制を整えて……」

 

「そんな暇はない。そもそもあいつにそんな猶予を与えてしまったら、次は倒せなくなる」

 

「……っ」

 

 ユウリに一蹴され、シーラは泣きそうになる。それはユウリに言われたわけではないことは明らかであった。

 

「ダメだよ!! それでもし死んじゃったら……、魔王を倒すどころじゃなくなっちゃう!! あたしたちの目的は魔王を倒すことでしょ!?」

 

「けどよ、オロチごとき倒せなかったら、それこそ魔王なんて一生かかっても倒せねえよ。それにここで退いたら、絶対オレ後悔するし」

 

「大丈夫だよシーラ。今までだって何とかやってこれたんだもん! それに、皆で力を合わせれば、絶対にオロチに勝てるよ!!」

 

「皆……」

 

 シーラを納得させるために言ったのだが、彼女は涙を止めることをやめない。それどころか、どんどん溢れてくるではないか。落ちた涙が次々と、彼女が手にしている賢者の杖へと染みていく。

 

「うう……、やだよう……。お願いだから、一度村に戻ろう? もし皆がいなくなったら、あたし……」

 

 すると突然、彼女の持っていた杖が光り出した。所有者本人も、一瞬何が起きたのかわからず、目を瞬かせている。

 

「え!?」

 

 この光り方は、彼女が賢者に転職したときに似ている。確かその時は、賢者の杖にイグノーさんの意志が宿っていて、そのおかげで彼女は賢者になれたのだ。

 

 そして光は杖だけでなく、私やユウリ、ナギへと伝わっていく。その光を浴びた途端、まるで暖かい陽の光に包まれているような感覚に陥った。

 

「何これ……。すごくあったかくて気持ちいい……」

 

 そこまで言って、ふと自分の両腕を見る。なんと、やけどでただれていた皮膚が、一瞬にして治っていったではないか。

 

 他の二人も気づいたのか、自分が負った怪我が見る見るうちに治っていく様子を、茫然としながら眺めている。

 

「シーラ、これって……?」

 

 シーラに尋ねるも、彼女も何が起きているのかわからず、ポカンとしている。すると、何かに気づいたのか、きょろきょろと辺りを見回し始めた。

 

「お祖父様!?」

 

 どうやら彼女にだけお祖父様……イグノーさんの声が聞こえているらしい。何事かを聞いたのか、シーラは何度か頷くと、一言「ありがとう」と言った。

 

「なあ、いきなりオレたちの怪我が治ったんだけど、シーラ、お前がやったのか?」

 

 ナギの問いに、シーラは首を横に振る。

 

「ううん。お祖父様の持っていた、この賢者の杖の力だよ。お祖父様の込めた魔力が、皆を回復させてくれたの」

 

 シーラの言うとおり、あんなにひどい火傷だったユウリですら、身体のほとんどの部位が元の健康な状態に戻っている。かくいう私も両腕の火傷や、星降る腕輪の反動で思うように動かなかった体も、すっかり元に戻っている。

 

「イグノーさんって、改めてすごい人だったんだね……」

 

 感心しながら私が言うと、

 

「そんな話はあとでやれ。今はオロチの後を追うことが先決だ」

 

 そう言ってユウリは一足先にオロチが生み出した旅の扉へと走り出したではないか。

 

「くそっ、あいつに先を越されてたまるかよっ!!」

 

 ナギも続いて後を追う。私も置いてかれないよう二人を追おうと駆けだそうとして、くるりとシーラの方を振り向いた。

 

「シーラ、ありがとう!! シーラのおかげで、オロチを倒せるよ!!」

 

 私が素直にお礼を言うと、シーラは照れたようにはにかんだ。もう彼女の目には、涙は残っていなかった。

 

 

 

 

 

 

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