俺様勇者と武闘家日記   作:星海月

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新しい国

 

「なあ、ヒミコ様が亡くなったと言うのは本当か!?」

 

「オロチがこの村にやってきて、あの神の御使い様達が倒してくださったらしいぞ!!」

 

「いや、ヒミコ様を殺したのはあの旅人たちって聞いたわ!!」

 

 屋敷の外では、来たときよりも多くの村人が今の状況を知るために集まっていた。どうやら先程飛び出していった侍女があちこちに触れ回ったようで、そのせいか情報が錯綜している。

 

 村人たちは屋敷から出た私たちに気づくと、一斉に静まり返った。どんな噂であれ、私たちが関係していることは周知のようだ。

 

 衆目を集める中、一歩前に出て大衆を一瞥したユウリは、声高に話し始めた。

 

「俺はユウリ。先日ヒミコの神託によりこの国に蔓延るオロチを倒すため、異国よりやってきた者だ」

 

 そして隣にいる私たち三人に目を向けて、自分と同じ仲間だと言う風に簡単に紹介をした。

 

「ヒミコ様のご神託……?」

 

「やはり彼らは、神より遣わされた大いなる存在だったのか!?」

 

 ヒミコ様の名前を出すことにより、私たちに対する不信感を減らすことには成功したようである。ヒミコ様の神託などというのはもちろん嘘なのだが、ここで今正直に話せば変に疑われてしまう恐れもあるので、ボロが出ない程度にでっち上げの設定を急遽考えたのだ。

 

「お前達が今までヒミコだと思っていたのは実はオロチだったんだ。だが、そのオロチは昨日俺たちが倒した。だからもうこの国が脅かされることもないし、生け贄も必要ない」

 

 きっぱりと言い放ったその言葉に、村人たちは再び騒然となる。

 

「ヒミコ様がオロチ……!?そんな馬鹿な!!」

 

「でもあたし昨日、あの人たちがオロチを倒したのを見たわ!!」

 

「もう娘を生け贄に出さなくてもいいのね!!」

 

「待てよ、じゃあ本物のヒミコ様はどこに……!?」

 

 様々な疑問や意見が飛び交うが、皆半信半疑と言った様子であった。確かにオロチは倒した。けれど、本当にこの人たちを信用していいのか、そんな迷いが彼らの表情から見て取れた。

 

 すると、一人の男性が胡乱な目でこちらを睨み付けてきた。

 

「何が神の使いだ!! もしそれが本当なら、証拠を見せろ!! それとも本当は、お前達がオロチの仲間なんじゃないのか!?」

 

 その一声に、風向きが一気に変わってしまった。

 

 周りの人々に疑念と動揺の色が広がる。それは水面の波紋のように、際限なく広がっていくようであった。

 

 少し考えれば、私たちがオロチの仲間でないことはわかるはずなのに。この国の人たちは一人でもそういう考えを持つ人はいないのだろうか。

 

「そうよ!! なぜ私たちをお守りしてくれるヒミコ様はいないの!?」

 

「まさかお前達がヒミコ様を唆したんじゃ……」

 

「いや、もしかしたら殺したのかも……」

 

「ヒミコ様をどこへやった!! 我々のヒミコ様を返せ!!」

 

 次第にその声は怒号となって私たちに襲いかかった。ある者は足下にあった石を投げつけ、ある者は聞くに耐えない罵声を浴びせ続ける。

 

「……」

 

 もしかしたらこうなるかも、とは思っていたが、実際最悪の状況に陥ると、こうも恐ろしく映るものなのだろうか。なぜそこまでヒミコ様を盲信しているのか、この国の人間でもない私がわかるわけがない。けれど今のままでは、この国の未来を案じていたアンジュさんの想いを成し遂げることはできない。なんとかしてこの人たちの考えを変えていかなければ――。

 

「待ってください!!」

 

 突然大声で叫んだ女性の声に、口々に叫んでいた村人たちの視線が声のした方に向けられる。その先にいたのは、ヒイラギさんとヤヨイさんだった。

 

「この人たちの言っていることは本当です!!あの人たちのお陰で、オロチは倒されたんです!!」

 

 二人の姿に、村人たちはどよめく。

 

「ヒイラギさん!? あんた、娘さんを亡くしたんじゃ……」

 

「ユウリさんたちは、生け贄となったヤヨイを救うため、自らオロチを倒すことを約束してくれました!! そしてその言葉通り、彼らはオロチを倒してくれたんです!!」

 

 ヒイラギさんの叫びに、村人たちの動揺がざわめきとなって周囲に広がる。

 

「お母さんは、私に生きて欲しいから、生け贄に出さないために私を死んだ者として家から一歩も外に出さないようにしてました。けれどそれを聞いたユウリさんたちが、私たちを見かねて助けてくれたんです!! 彼らはとても優しくて強い人たちなんです!!」

 

 普段は人見知りなヤヨイさんも、大声を張り上げて説得している。その様子に、私は胸に熱いものがこみ上げた。

 

「私が皆の前にいられるのは、ユウリさんたちのお陰なんです!! だからどうか、彼らの言葉を信じてください!!」

 

 ヤヨイさんが言い終えたときには、辺りは静まり返っていた。

 

「……おれの妹も、生け贄に選ばれたくないから、普段は男の格好をしていたんだ」

 

「私の娘もよ……。でも、もうその必要はないってこと?」

 

 誰に問いかけるわけでもなく、数人の村人が震えた声で呟く。それを聞き取ったユウリはすぐさま答えた。

 

「そうだ。オロチはもういない。だから性別を偽る必要はないんだ」

 

 その答えに、何人かの人たちは喜びに打ち震えた。

 

「だが、本物のヒミコももういない。この本によると、ヒミコはこの国を守るため、何年も前に自らオロチの犠牲となったと書かれている」

 

『!!??』

 

ユウリの言葉に、全員が息を飲む音が聞こえた。

 

「そんな……、ヒミコ様が……」

 

「オロチに喰われたってことか!?」

 

「まさか……、いやよ、信じたくない!!」

 

 やはりヒミコ様の死は、彼らには受け入れがたい事実のようだ。再び疑心に陥りそうな村人たちに、ユウリはさらに言葉を重ねる。

 

「この本は、ヒミコの日記だ。だが、お前たちには読めない字で書いてある。何故だかわかるか?」

 

 村人たちに問いかけるが、返事を待つ間もなくユウリは自答する。

 

「お前らがヒミコを頼りすぎるあまり、ヒミコ自身がお前らに助けを乞おうとしなかったからだ。異国の言葉でこの日記を残し、俺たちのような旅人にすがるしかなかったんだ」

 

『……!!』

 

 そう、日記には直接書かれていないが、内容を読む限り、そう言ったニュアンスが含まれていると私たちは感じた。魔王を倒すほどの実力を持つアンジュさんは、責任感も人一倍あったのではないか。彼女と対等に渡り合えるほどの強さや指導力を持ったこの国の人間が結局いなかったのだとしたら、頼れるのは自分だけだと思うのも不自然ではないと思ったのだ。

 

「ヒミコとオロチがいない今、お前たちの国を作るのは、お前たち自身だ。自分達がこの国でこれからどう生きるか、一度自分たちで考えた方がいいんじゃないのか?」

 

 そこまで言うと、ユウリは一番近くにいた屋敷の関係者らしき人に、日記を手渡した。

 

「俺たちの役目はここまでだ。日記の内容が知りたいなら、あんたらが牢に押し込んだ異国の罪人にでも翻訳させればいい」

 

「な、なぜそれを……!?」

 

 それはもちろん、屋敷を出る前に確認したからだ。ヒイラギさんが言っていたことをシーラが思い出し、すぐに屋敷を探し回った。すると屋敷の離れに鎖に繋がれた金髪の神父を発見した。

 

 事情を聞くと、彼は半年ほど前に布教のためにここにやってきたそうだ。まずは権力者であるヒミコに話を聞いてもらおうとしたところ、些細な言いがかりをつけられてしまい、すぐに牢へと入れられたという。おそらくオロチの好みではなかったのか喰われることはなく、かといって下手に殺せば騒ぎになると思ったのか、飼い殺し状態で今まで生かされてきたらしい。

 

 私たちがやってきたとき、彼は最低限の食事しか与えられていなかったのか、ひどく衰弱していた。しかしヒミコがいなくなったことを伝えると彼は、自分が村人にとって必要とされたときに牢から出ると言った。彼なりの考えがあるようだ。

 

 ともあれこれ以上は私たちの出る幕ではない。この国の人たちや、神父の手に委ねるしかないだろう。

 

「俺たちはここを出る。ヒミコの願いを果たしたからな。あとは自分達でなんとかしろ」

 

 半ば切り捨てるようにそう言うと、ユウリは群衆をかき分け、村の入り口へと歩きだした。私たちもそれに続く。

 

「あ、あの……。オロチを倒してくださって、ありがとうございました」

 

 ぼそりと、村人の一人が声を発したような気がした。するとそれに反応するように、あちこちから控えめなお礼の言葉が挙がってくる。

 

 けれどあえて気づかない振りをした私たちは、足早に村を去ったのであった。

 

 

 

「はあ~、疲れたぁ~!」

 

 船に乗り込むなり、シーラは開口一番ため息を吐いた。

 

「おいおい、疲れてるのはお前だけじゃねえんだぞ」

 

「だってナギちん、今回お酒一滴も飲めなかったんだよ? ヤバくない?」

 

「ヤバイのはお前の思考だ」

 

 横から口を挟んできたユウリが、呆れたようにシーラを横目で見る。

 

「で、でもさ、オロチも倒せたし、何よりオーブが見つかって良かったよね!」

 

 フォローしながら私はユウリの鞄に目をやる。そう、屋敷を出る前に神父に会っただけではなく、私たちはアンジュさんが記した宝も探し出したのだ。

 

 するとその中に、紫色に輝くオーブも入っていたのである。

 

 宝は祈祷部屋の床下に埋まっていたが、その中に鍵のかかった宝箱があった。早速最後の鍵を使い開けると、中にはパープルオーブが入っていたのだ。

 

「けどよ、なんでオーブだけ鍵のついた箱に入ってたんだ?」

 

 ナギの疑問にすぐさま答えたのはユウリだ。

 

「おそらくあの箱にオーブを入れたのはアンジュだ。それにオロチが気づかないまま、ずっとあの部屋で保管されてたんだろう。魔物が執拗に狙う代物だ。最後の鍵でなければ開けられないよう鍵穴に細工をしたのも、オーブが魔物の手に渡らないよう警戒したに違いない」

 

 ユウリの言う通り、幸いにも今までオロチがオーブに気づくことはなかったが、もし魔物の手に渡っていたらと思うとゾッとする。

 

「とにかくこれで、6つのうちの半分が見つかったね!」

 

 終わりよければすべて良し。私はホクホク顔でユウリに言うと、彼はすべてを台無しにするかのように私の鼻をつまんだ。

 

「んぎっ!?」

 

「何言ってるんだ。残り三つは手がかりすらないんだぞ。その手がかりを探すだけでどれだけ時間がかかると思ってるんだ」

 

 ユウリは気色ばんだ顔でそう言うと、ぱっと手を離した。だからって人の鼻をつまむのは良くないと思う。

 

「もうっ、二人ともイチャついてないで早く帰るよ?」

 

『イチャついてなんかないっ!!』

 

 シーラの的外れな発言に、私とユウリは揃って否定する。何処をどう見たらそう見えるんだろう?

 

 ともあれオーブも残り3つとなったが、それ以外にもガイアの剣探しや自分たちのレベルアップなど、やることは山積みだ。私たちは新たな目的のため、次なる目的地を目指すのだった。

 

 




ジパング編終わりです!
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