俺様勇者と武闘家日記   作:星海月

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※ 時系列的にムオル〜バハラタの間辺りの話です。


第3部 番外編1
ミオと惚れ薬


 

 魔王の城に向かうのに必要なオーブを探すため、今日も勇者とその一行は船で旅を続けていた。

 

 そして一行が今回訪れたのは、ミオの弟ルカが経営している、ルカバーグの町である。

 

 前回からそれほど間を置かずに再びこの地に向かうことになったのは、指示をしたユウリ曰く、町の様子を確認がてら、戦闘に必要なアイテムや食糧の補充をするためらしい。しかしそれは建前で、本音はスー族の老人グレッグと二人で未知の大陸に残すことになったルカのことが心配なのだと、他の3人は気がついていた。

 

 しかしそれとは別に、彼らは思わぬところで足止めを食っていたのである。

 

「ねえ、るーくん! このアイテムなーに?」

 

「あ、えっと、それはしびれクラゲの毒から取った麻痺薬で……」

 

「んじゃあ、あそこの棚にあるのは?」

 

「あれはビッグホーンの角を削って作られた強壮薬です」

 

「ふんふん、なるほどー♪ るーくんのお店は興味深いアイテムばっかりで飽きないねえ☆」

 

 ルカと再会し、彼の元気な姿を確認し終えたあと、賢者になったばかりのシーラが店頭に並ぶあらゆるアイテムに目を留めたのがそもそもの始まりであった。ルカの仕入れた見慣れぬ商品は彼女の知的好奇心を刺激し、戸惑いながらも律儀に説明を続けるルカによって、さらに興味深いものへと昇華させている。

 

 一方、彼女から一歩下がったところにいる他の三人は、そんな二人のやりとりに口を挟めず手持ち無沙汰となっていた。

 

「おい。いい加減あいつの暴走を止めろ」

 

「なんでオレの目を見て言うんだよ!」

 

「お前あいつの保護者だろ」

 

「違うわ! なんで自分より年上のやつの保護者にならなきゃなんねーんだよ!」

 

 半ば八つ当たり気味に言い放つナギに対し、不満の色を滲ませるユウリ。物事を自分の予定どおりに進めたい勇者にとって、この状況では不機嫌になるのも当然だった。そして、そんな彼の雰囲気にいち早く察知していたのが、彼の隣にいたミオだった。

 

「し、シーラ! そろそろ目的のものを買いたいんだけどいいかな?」

 

 おずおずと、だがはっきりとした口調でシーラに話しかけるミオ。するとシーラはくるりとミオたちの方に振り向くと、いつのまにか手にしていた見慣れない液体の入った瓶をミオに差し出した。

 

「ミオちん、これ飲んでみて!」

 

「え?! だってこれお店のものじゃ……?」

 

 比較的流されやすい彼女も、さすがにいきなり見知らぬ液体を差し出されて二つ返事というわけにはならなかった。するとカウンターに立っているルカが口を挟む。

 

「それ、アッサラームにいたとき師匠の知り合いがくれたんだ。何でも飲むと魅力的になるとか……」

 

「魅力的になる? どういうこと?」

 

「ちょうど店が忙しいときに来たから、あんまり詳しく聞かなかったんだよ。飲むとその人の魅力が上がるんじゃないかな?」

 

「そんな適当な……」

 

 呆れたようにミオが言うと、先程まで傍観していた勇者が彼女の方に顔を向けた。

 

「なんだ。お前にぴったりじゃないか」

 

 その言葉に、ミオはムッとする。

 

「それって、どういう意味?」

 

「どうもこうも、そのままの意味だ。壊滅的に田舎臭さが抜けないお前が飲めば、少しはマシになるんじゃないか?」

 

「!!」

 

「エジンベアでコンテストに出場できたのが奇跡なくらい、今は元のド田舎女に戻ってるもんな」

 

「……」

 

 次々と皮肉を重ねるユウリの横で、ミオの周りには近寄りがたいオーラが漂っている。彼女にしては珍しく、怒りを内に秘めているようだ。

 

「おいユウリ、それはちょっと言いすぎじゃねえか?」

 

 そんな彼女の様子を察したのか、ナギが慌てて止める。けれど眉をつり上げたままのミオはナギの制止も聞かず、強引にシーラから薬を奪い取ると、勢いよく瓶の蓋を開けた。

 

「そんなに言うなら飲んでみようじゃない!!」

 

 ミオはそのまま瓶の口を自分の口許に持っていくと、勢い良く飲み干した。

 

「せいぜい効き目が出るといいな」

 

「っ!!」

 

 半ばやけになっているミオに対し、ユウリは小さく鼻で笑うだけ。それがさらに彼女の沸点を低くさせた。

 

「ユウリちゃんって、ホントデリカシーがないよね……」

 

 はあ、と大きくため息をつくシーラ。その態度が癇に障ったのか、ユウリがじっと彼女を睨みつける。

 

「お前だって、そう思ったからあいつに勧めたんだろ?」

 

「あたしはもともと可愛いミオちんに、自分の魅力にもっと自信を持ってもらいたいから勧めただけだよ! ホントユウリちゃんってば乙女の気持ちわかってないよね!」

 

「そーだぞ。さすがのオレも今のはヤバいと思う」

 

「……ふん」

 

 二人に責め立てられるも、考えを改める気はさらさらないユウリ。すると、隣から何やら熱い視線を感じ、反射的に彼はその視線の元に向かって振り向いた。

 

 するとそこには、顔を赤らめて熱いまなざしを向けているミオの姿があった。

 

「な、なんだ!?」

 

 ぎょっと目を見開くユウリと彼女の目が合った途端、彼女の顔が更に二倍増しで赤くなっていく。

 

「ど、どうしたの、ミオちん!?」

 

 他の三人も、彼女の異変に気がついたようだ。

 

「お、おい、どうしたんだ……」

 

「大好きっ!!」

 

 ユウリの言葉も言い終わらぬうちに、ミオはそう叫びながら彼に抱きついてきた。

 

『は!?』

 

 一同の目が点になる。目がハートマークのミオを除いて。

 

「なっ、なっ……!?」

 

 あまりに突然のことに、普段は無表情のユウリも動揺を露にしている。

 

 そんなあり得ない光景を目の当たりにしながら、他の3人はこの状況を冷静に考えていた。

 

「一体何が起きてるんだ?」

 

「えーと……。要するに、自分が魅力的になるんじゃなくて、相手が魅力的に映るってこと?」

 

「……ああ、なるほど!!」

 

 いち早く察したシーラの見解に、合点がいったかのように手を叩くルカ。

 

「いや、なるほどじゃないだろ!! どうするんだ、これ!!」

 

 呑気に理解している店主に対し、ミオに抱きつかれているユウリはただただ困惑している。しかしそんな状況を楽しんでいる人が約一名いた。

 

「とかなんとか言ってユウリちゃんさあ、満更でもない顔してるよ?」

 

 にやにやしながらそう言い放つのはシーラである。彼女の言葉に勇者の顔が一瞬強張る。本人は無自覚なのだろうが、今の彼の顔は傍にいるミオに負けず劣らず真っ赤であった。

 

「そ、そんなわけあるか!! おい、いい加減目を覚ませ!!」

 

 力ずくで彼女を引き剥がそうとするユウリ。その行為に、ミオは心底嫌そうな顔をする。

 

「やだっ!! 離れたくない!!」

 

 通常では絶対に言わないであろう台詞に、ユウリの手に躊躇が生まれる。さらに目を潤ませな上目遣いでこちらを見る彼女の姿に、彼の手は硬直し、動くことが出来なかった。

 

 すると、見かねたナギがミオの手を掴んだ。

 

「おいミオ。さすがに困ってるみたいだからやめとけって」

 

 だが、ミオの視線がナギに移った途端、再び彼女の目がハートマークになった。

 

「ナギ、大好きっ!!」

 

「え!?」

 

 彼と目が合った途端、今度はナギに抱きついた。これにはナギのみならず他の三人も唖然とする。

 

 ユウリと同じことが、今度はナギにも起きている。そして突然自分から離れていったミオを、どことなく名残惜しそうに見ているユウリに対し、シーラは敢えて突っ込まなかった。

 

「気持ちは嬉しいけど、オレはビビアンちゃん一筋だから!! すまん!!」

 

 そう言うと、ナギはユウリと同じようにミオを引き剥がそうとした。すると彼女は、今度はあっさりと引き下がった。そして眉を下げると、今にも泣きそうな顔でナギを見上げている。

 

「皆私のこと、嫌いなの?」

 

「うっ……! そ、そんなわけないだろ!! なあ、シーラ!!」

 

「へ!? あっ、うん、そーだよ!! 皆ミオちんのことが好きに決まってるじゃない!!」

 

 急に話を振られ驚くも、勢い良く頷くシーラ。そのとき勇者が何やら文句を言っていたようだが、彼女は無視した。

 

「シーラ……、大好きっ!!」

 

「ふええっ!?」

 

 今度はシーラに向かって言い放つ。そしてお約束とでも言うように、ミオはシーラに思いきり抱きついた。

 

「おいルカ。お前の身内だろ。なんとかしろ」

 

「いやあ、今は身内だと思いたくないです」

 

 ユウリの言葉に、ルカは沈痛な面持ちで答える。だがシーラに抱きついて甘えている当の本人は、全く気にしていない様子だ。

 

「シーラ、ずっと傍にいてもいい?」

 

 瞳をキラキラと輝かせながら、ミオはシーラに懇願する。戸惑う男たちが見守る中、シーラはニコニコした笑顔で、

 

「うん☆ いーよ♪」

 

 そうあっさりと言い放った。

 

「ホント!? 嬉しい!!」

 

 シーラの返事にミオは心底嬉しそうな表情を浮かべ、さらに強く抱き締める。そんな中、シーラは男たちを眺めると、勝ち誇った笑みを浮かべた。

 

「ふふーん♪ うらやましいでしょ?」

 

 挑発的に言うその姿は、大人の女性の余裕を見せつけていた。恋愛経験豊富な彼女に対し、目の前の男たちはこと恋愛に関しては赤子同然だったからだ。

 

「くそっ……、何だかわからんけど負けた気がする……!」

 

「こ、これが大人の女性ってやつなんですね!!」

 

「……」

 

 敗北感にうちひしがれる盗賊と、新しい扉を開いてしまいそうな商人。その二人の様子を、勇者は何とも言えない顔で眺めていた。

 

「……それでルカ、あのボケ女はいつになったらもとに戻るんだ?」

 

 冷静な口調でルカに尋ねるユウリ。だが、ルカは首をかしげる仕草を見せた。

 

「さあ……。そこまで聞いてなかったんで……」

 

 だが、皆の心配をよそに、ほどなくミオの飲んだ薬の効き目は切れた。シーラの頬にキスする手前で、はっと我に返ったからだ。

 

「えっ!? 何?! なんで私こんなことしてるの!?」

 

 周囲の状況に気づいた途端、慌ててシーラから離れるミオ。シーラが今までの出来事を説明すると、ミオは顔から火が出るくらい真っ赤になった。

 

「やだ私、そんなことしてたの!? うわあああ、滅茶苦茶恥ずかしいっ!!」

 

 その後ミオはユウリやナギに謝った。シーラにも謝ろうとしたのだが、彼女は首を横に振り、

 

「なんで謝るの? あたしはミオちんに好きって言われて、すごく嬉しかったよ♪ それに皆だって、ミオちんに好きって言われたから、あたしと同じ気持ちになったはずだよ☆」

 

 そう言って、「ね?」と男性陣に向かって意見を求める。だが男たちは肯定も否定もできず、ただ一様に微妙な表情を浮かべていた。それに気づいているのかいないのか、ミオは少し安堵したような顔をする。

 

「その時のこと、私全然覚えてないんだよね。はあ、すっかり皆に迷惑かけちゃったな」

 

「いや、そもそも勧めたのはあたしだし、ミオちんは悪くないよ。それよりさ、買い出しはあたしとユウリちゃんでやっとくから、ミオちんはナギちんと先に宿屋に戻って休んでなよ☆」

 

「おいザルウサギ、何を勝手に……」

 

「はあ、オレもなんかどっと疲れたわ。行こうぜ、ミオ」

 

 大きく息を吐くと、ナギはミオの背中をポンと押して店の入り口へと足を向けた。しかしミオは後ろ髪を引かれるようにナギとシーラを交互に見ている。

 

「い、いいの? 私たちだけ先に行っちゃって」

 

「うん☆ ここはあたしたちに任せて♪」

 

 ここで意地になる理由もないミオは、仕方ないといった様子で、ナギのあとを追いかけるように店を出ていった。

 

「なんで二人を帰らせたんだ?」

 

 二人が店を出たあと、憮然とした顔でシーラを睨み付けるユウリ。対してシーラはそんな剣呑な雰囲気を気にすることなく、ミオが飲み干した薬の空瓶を無造作に振った。

 

「ユウリちゃん。まだ在庫あるみたいだけど、この薬、飲んでみる?」

 

「は? バカなのか?」

 

 何をふざけたことを抜かしてるんだと言わんばかりに、ユウリはにべもなく言い放つ。だがシーラはいたって真面目な顔で、

 

「人間時には正直に生きることも大切だよ?」

 

 そう意味ありげに答えた。

 

「……何が言いたい?」

 

「いくら惚れ薬だからって、もともと嫌いな人を好きになるほどの効力はないと思うんだよね。だから、ミオちんがあんなに情熱的だったのも、もともとミオちんはあたしたちのことが好きだったんだよ。この薬はそれを最大限まで引き出しただけなんだと思うんだ」

 

「だから?」

 

「つ・ま・り、ユウリちゃんもこれを飲めば、きっともっとミオちんに対して素直になれると思うんだよね♪」

 

「……これ以上ふざけたことを言ったらもう酒代出してやらないからな」

 

「ゴメンなさいもう二度といいません!!」

 

 ユウリの一言に、急に手の平を返すように態度を返るシーラ。そのあまりにも清々しい態度にユウリも思わず呆気にとられる。

 

「えっと、どういう意味です?」

 

「何でもない。それより会計を済ませてくれ」

 

 興味津々でルカが口を挟むが、ユウリは強引に本題に戻した。

 

「ちぇっ。せっかくデレた姿のユウリちゃんが見られると思ったのになあ」

 

「え!? それはちょっと気になりますね」

 

 急に食いついてきたルカを、ユウリは凄まじい形相で睨み返す。そして何やらぶつぶつと小声で口を動かした。

 

「……そんなものに頼るなんて、俺のプライドが……」

 

「ユウリちゃん、何か言った?」

 

 耳聡いシーラが即座に反応するが、ユウリは完全に無視した。その後無言で会計を終えると、シーラを置いてさっさと店を出ていったのだった。

 

「シーラさん、もしかしてユウリさんを怒らせたんじゃないですか?」

 

 心配そうにルカが尋ねる。だが、シーラはいつもの調子でにっこり笑うと、

 

「ああみえてユウリちゃんって、結構子供っぽいところあるからねえ。でも、るーくんは気にしなくて大丈夫だから☆」

 

 そう言って、ポンポンとルカの頭を撫でると、ユウリのあとを追うように店を出た。

 

 そして一人残されたルカは、シーラに撫でられた頭に触れながら、小さくため息をついた。

 

「……本当は、シーラさんに飲んで欲しかったんだけどなあ。まさかあんな薬だったなんて」

 

 店の片隅でどこか残念そうにしながらも、淡く頬を染める少年の願いは、どうやら叶わなかったようである。

 

 

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