俺様勇者と武闘家日記   作:星海月

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次なる旅路

 

 バハラタでのレベルアップを終え、ポルトガに戻った私たち。結局バハラタには一月近く滞在し、私のレベルは26になった。他の皆も順調にレベルが上がり、ユウリは34、ナギは28、シーラは18にまでなった。特にシーラは今までとは比べ物にならないくらい様々な呪文を習得し、4人の中では一番の成長を遂げた。

 

 そんな私たちが今どこにいるのかと言うと、ポルトガとロマリアの間にある関所である。

 

 ナギの予知夢を分析し、魔王の城に行くためには『ガイアの剣』と言うものが必要だとわかった。そしてその剣の所有者は、かつて仲間と共に魔王討伐に向かった勇者サイモンだという。

 

 けれど彼が今どこにいるのかは不明であり、世間もユウリの父親であり英雄と称されたオルテガさんの話題は上がるが、サイモンの所在に関する噂は耳にしない。そんな中、ルザミで彼の故郷がサマンオサだという情報を得た私たちは、これからそこに向かおうとしていた。

 

 だが、サマンオサは険しい山脈に囲われており、さらには大陸周辺の海流が複雑で、船で向かうには厳しいとのことだった。そこで一番楽に行ける方法と言うのが、私たちが今いる関所から旅の扉を通ってサマンオサ大陸へと渡る方法であった。

 

 ここ、ロマリアの関所は、以前初めてポルトガに行くときに通った場所でもある。あのとき、関所内の建物で野宿をしたのだが、そのときに魔法の扉でも開かない扉が一つあったのだ。その扉の向こうに、サマンオサへと続く旅の扉があるのだと、周辺の町で聞いた。

 

 さて、問題はここをどう通り抜けるかだ。前回は入国規制があったので、夜中に魔法の鍵を使って侵入したのだが、今回もそうなるのだろうか。

 

 関所から少し離れた場所——以前皆で王様ゲームを行った場所——に固まって座り込んでいるのは、私とユウリとシーラだ。ナギは関所の様子を探るため、忍び足の特技を使い調査に向かっている。

 

「なんかここで待ってたら、王様ゲームをやりたくなっちゃうね」

 

「あっ、私も今そう思った!」

 

「ふん。今は遊んでる場合じゃないだろ」

 

 ポルトガに行く前に4人で王様ゲームをしたことを思い出したが、即座にユウリに却下される。初めて遊ぶゲームに戸惑いながらも楽しんだ記憶があるが、ユウリだけ王様になれなかったことを思い出す。

 

 結局私とシーラで他愛のない話をして盛り上がったところで、関所を探っていたナギが戻ってきた。

 

「あ、お帰りナギ」

 

「……オレが必死で探ってた間に、ずいぶん楽しそうにおしゃべりしてたんだな」

 

「まーまーナギちん、そんなことより首尾はどう?」

 

「んー……。なんか知らねえけど、普通に皆通ってた」

 

「えーとつまり、入国規制されてなかったってこと?」

 

「ああ」

 

 私の問いに、自信たっぷりに頷くナギ。状況を探るのが得意な彼が言うのだから間違いない。

 

「なんでかな? もう町の中に魔物がいなくなったとか?」

 

「さあな。危険がないとわかって解除したのかもしれないし、自由に国を移動できない商人や冒険者の反感を買ったのかもしれん」

 

 ユウリの見解にふと、以前アッサラームで暴動が起きたときのことを思い出す。あのときはアルヴィスが珍しく戦士姿になってたっけ。

 

「なら別に今通っても大丈夫だよね」

 

「そうだな。夜になると逆に通れなくなるから、早く行くぞ」

 

 こうして、私たちはこっそり忍び込むこともせず、堂々と昼間に関所を通ることにした。

 

 ところが——。

 

「サマンオサに行きたい?」

 

 関所の前には二人の兵士が立っていた。中年の兵士の顔が不審者を見つけるような目つきになっているのに気づき、私は一歩後ろに下がる。

 

「もう入国規制はなくなったんだろ? サマンオサに行くのも自由だろ」

 

 もう一人の年若い兵士の顔を見ながら、ユウリは不満げな様子で主張した。

 

「確かに他国の行き来は自由ですが、もしかしたらサマンオサ側からは入国出来ないかもしれませんよ」

 

 その言葉に、四人は顔を見合わせる。

 

「どういうことだ? オレたち、どうしてもそこに行きてえんだけど」

 

 ナギも不思議そうに兵士に尋ねる。すると中年の兵士が面倒くさそうに答えた。

 

「なんだ、知らなかったのか? あそこは大分前から、鎖国状態でな。他国との交流を禁じているらしい」

 

「あ……! そういえば前にるーくんが言ってたかも!」

 

 シーラに言われて私もハッと気づく。確かイシスでルカと最初に別れたとき、そんな情報を聞いたような気がする。

 

「そんなこと言ってもなあ、こっちは関係ないっつーの」

 

「でもだからって無理に入ろうとしたら、余計面倒なことになっちゃうよ」

 

 私はエジンベアでのことを思い出した。あのときはマギーに助けられたが、あんな奇跡は二度とないと思う。

 

「そもそもなんで鎖国状態なんだ? 王が変わった話も聞かないが」

 

 ユウリの質問に、若い兵士の目が輝いた。まるでその質問を待っていたかのように。

 

「サマンオサに行く人は皆そう聞いて来ます。けど、われわれの立場から見ても、なぜサマンオサがそうしたのかはわかりません。一つだけ言えるのは、他国との接触を禁じたのは、正確には今から十年以上前だと言うことです。それまではむしろ、積極的に他国との交流を図っていましたよ」

 

「よく覚えてるな、若いのに」

 

 中年の兵士が感心するように言う。若い兵士の方はこういう知識に詳しいようだ。

 

「それじゃあ、ポルトガとも交流をしていたのか?」

 

「はい。そもそもサマンオサと行き来できるように旅の扉を置くように交渉したのは、我が主君のお力によるものですから」

 

 どことなく誇らしげに話す兵士。つまりサマンオサに行けるようになったのは、ポルトガ王のお陰と言うわけだ。そう考えると、黒胡椒好きの王様と言うイメージだけで測ってはいけないのかもしれない。

 

 すると、ユウリが何やら考え込むような素振りをした。

 

「……よし。俺は一度ポルトガに戻る。お前らはここで待ってろ」

 

「え!? 待ってユウリ一体どういう……」

 

 引き留める間もなく、ユウリはルーラの呪文で飛び去ってしまった。その一連の行動に、皆ポカンとする。

 

「まーまーミオちん、きっとユウリちゃん、何か考えがあって行ったんだよ。とりあえずあたしたちはここで待とう」

 

「う、うん……」

 

「ホントあの陰険勇者、自分勝手だよなー」

 

 突然リーダーが離脱して心中穏やかでない私とは裏腹に、二人はやけに落ち着いている。

 

 ここは二人の言う通り、大人しく待つことにしたのだった。

 

 

 

 ユウリが戻ってきたのは、既に日暮れ時を過ぎた時間だった。

 

 本来なら既に開門時間は過ぎており、ロマリアの兵士たちも城へ戻らなくてはならないのだが、事情を知っている若い方の兵士が、親切にもユウリが来るまで待ってくれていた。

 

「大丈夫? 随分遅かったけど」

 

「これでも大急ぎで戻ってきたんだ。無茶言うな」

 

 そう言われては納得せざるを得ない。なんて思っていると、待ってくれていた兵士がひょっこりと顔を出した。

 

「あの、そろそろよろしいですか?」

 

「あっ、はい、すいません!!」

 

 慌てて私が返事をすると、若い兵士は扉から少し離れた小さい建物へと案内してくれた。

 

 そこは、以前皆でこっそり寝泊まりした場所であった。それを懐かしみながら通ると、前を歩いていた兵士が扉の前に立ち、持っている鍵で扉を開けた。

 

 中には、私たちにはお馴染みの旅の扉があった。水面に渦を巻いたようなその出で立ちは、相変わらず眺めるだけで不思議な感覚に陥る。

 

「この旅の扉を通れば、サマンオサの国境付近に辿り着けます」

 

「ありがとうございます」

 

「いえいえ、どういたしまして」

 

 お礼を言うと、兵士は朗らかに笑ってその場に立っている。私たちが今旅の扉に入るのを見届けてから鍵を閉めるのだろう。

 

「じゃあ、早速行くぞ」

 

 すっかり旅の扉に慣れたユウリが、先陣を切って飛び込む。長い船旅で、すっかり乗り物酔いに耐性がついたようだ。旅の扉を乗り物と表現していいのかはわからないけれど。

 

 私たちもすぐに後に続く。うーん、この視界が滅茶苦茶になる感じはなかなか慣れることができない。

 

 そして長いとも短いともとれる時間が過ぎ、半ば放り出されるように扉から飛び出した。

 

 辺りを見回すと、ロマリアの関所と同じような内観の建物だった。こちらから旅の扉に入る人は殆どいないのか、建物内には兵士どころか人っ子一人いない。

 

「随分と寂しいところだな」

 

 ナギの言うとおり、ロマリアの関所と比べて、こちらは建物も薄暗く、床や壁はあちこちひび割れている。いつ魔物が現れてもおかしくないほど荒れ果てていた。

 

「長い間ほったらかしにされてたって感じだね〜。ほんとにこんなところに町なんてあるのかな」

 

 シーラも辺りを警戒しながら呟く。

 

 壊れかけた扉を通り抜けて外に出ると、そこは鬱蒼とした森であった。長い間人の往来が殆どなかったのか、街道はいつしか無造作に生え散らかした草木に覆われ、獣も通らない道となっている。

 

「これは……野宿確定だな」

 

 ユウリの言葉に、三人は無言で肯定した。その言葉通り、延々と続く森は先へと進もうとする私たちの足を鈍らせ、時折襲いかかる魔物の容赦ない攻撃は私たちの精神的疲労を増大させた。おまけに地理的な理由からか、時々水瓶をひっくり返したような大雨が容赦なく降り注ぐ。それが結構な頻度で訪れるので、なかなか思うように進めなかった。

 

 それでも消えかけた街道を調べながら歩くこと五日。大分歩いてきたと思うのだが、もうそれぞれの携帯食料は残り少ない。なんとか現地で食料を調達してきてはいたが、それでも追い付かない。

 

 空腹と慣れない土地で、私の疲労はアープの塔以来の極限状態を迎えていた。

 

 その時だ。木の実を探しに一人離れた場所にいたシーラが突然声を上げた。

 

「ねえ皆! これ見て!!」

 

 彼女の切羽詰まった声に、私たちは急いで集まる。シーラが指差しているのは、一枚の古ぼけた看板だった。

 

「この先、サマンオサ国……?」

 

 ユウリが目を凝らしながら読み上げたのは、サマンオサの看板だった。あまりにも長い間ほったらかされていたのか、字が殆ど見えなくなっているが、確かにそう書いてあるように見える。

 

「よくやった、シーラ!!」

 

 ナギが諸手をあげて喜んだ。けれど、それ以上に喜んだのはシーラである。

 

「わーい!! やっとお酒が飲める!!」

 

 あ、そっちなんだ。相変わらずなシーラに、疲れた私も笑みがこぼれる。

 

「気を緩めるな。ここで迷ったら俺たち四人とも野垂れ死ぬ可能性もあるからな」

 

 はしゃぐ二人を横目で見ながら、ユウリが釘を刺す。そうだった。こういうときこそ気を引き締めないと。

 

 けれど、街道にそって歩くにつれ、先ほどと同じような看板がちらほらと目につくようになった。どうやら本当にサマンオサは近いらしい。

 

 やがて広大な森を抜け、見通しのいい草原に出た。遠くを見ると、わずかにお城のような建物が見える。

 

「あれが、サマンオサ……?」

 

 だが、私の呟きなどもはや誰も聞いておらず、皆脇目も振らずお城に向かって駆け出している。極限状態なのは私だけではなかったのだ。

 

 私も急いで皆の後を追いかける。途中魔物が襲いかかろうとしていたが、気迫に圧されたのか、結局戦闘になることはなかった。

 

「おいこら、止まれ!!」

 

 いつの間に辿り着いたのか、サマンオサの兵士に呼び止められた。

 

 見渡すと、大きな塀が町を囲うように伸びており、目の前には町に入るための唯一の手段である大きな扉がぴったりと閉じられている。

 

「ここはサマンオサだ。我が国は他国からの入国者を制限している。相応の理由がない限り入国することはできない」

 

 どうやらよっぽどの理由がなければ入れないらしい。だが逆に考えると、理由があれば通れると言うことだ。

 

「それならここに、ポルトガ王からの書状がある。俺たちはこの手紙を城に届けるためにやってきた」

 

「手紙だと?」

 

 そう。サマンオサに入国できる全うな理由を作るために、ユウリはポルトガ王に頼んで手紙を書いてもらったのだ。黒胡椒の件もあり、ポルトガ王は快く引き受けてくれた。

 

 それにもともとサマンオサの王とは親交が深かったが、十年以上音信不通だったサマンオサ王の様子を気に留めていた。そこをユウリが助言したことで まり、本物のポルトガ王からの手紙を正式に預かることができたのだ。ここに来るまでの間にユウリに聞いただけなので詳細は彼にしかわからないが、これだけでも随分大変だっただろう。

 

「ちょっと貸してみろ」

 

 兵士がユウリの手にある書状に手を伸ばす。だが、ユウリはその手を振り払うように遮った。

 

「これはサマンオサ王に宛てた大事な手紙だ。本人に渡すまでは誰も触れるなと仰せつかっている。そもそも、一介の兵士にその権限があるのか?」

 

「ぐ……」

 

 ユウリの正論に、ぐうの音も出ないサマンオサの兵士。そして無理矢理納得したのか、苦い顔で扉の閂を開けた。

 

「……わかった。ならば通そう。ただし、国内で少しでも目に余る行動を起こしたら、すぐに牢に入れるからな」

 

 厳しい口調でそう言うと、兵士は早く行けと言わんばかりに顎で促した。ロマリアの兵士の対応とは雲泥の差だ。

 

 ユウリも文句を言いたそうな顔をしていたが、騒ぎになるのを懸念したのか、黙って扉をくぐった。

 

「ミオちん、行こっ♪」

 

 シーラに手を引かれ、私もサマンオサへと入る。後ろにいるナギもやっとまともな食事にありつけると、心底安堵した顔であとに続く。

 

 けれどまずは、サイモンさんが何処にいるか探さなければならない。逸る気持ちを押さえながらも、私は未知の国サマンオサへと一歩踏み出した。

 

 

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