俺様勇者と武闘家日記   作:星海月

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圧政の国サマンオサ

 

「なんかこう、いけ好かない感じの町だな」

 

 サマンオサに入ってから、いきなり無遠慮な台詞を言ったのは、ナギだった。

 

「ちょっとナギ、そういうことあんまり大っぴらに言わない方が良いよ!?」

 

 私は慌てて人差し指を口の前に当てながら忠告する。だが言われた当人はそ知らぬ顔で、町のメインストリートに並ぶ多くの店を眺めながら歩いている。

 

「ふん。俺もバカザルの意見には賛成だな」

 

 いつもは犬猿の仲のユウリも、ナギの言葉に同意している。

 

 まあ、実は私も薄々気がついてはいた。家や店の建物自体は一見立派そうに見えるが、よく見ると塗装が剥げていたり、外壁にヒビが入ってたりしている。旅の扉があった建物ほどひどくはないが、こんな人通りの多い場所なのにちゃんと管理していないのはどう言うことなのだろうか。

 

 それに、町行く人々も皆、浮かない顔をしている。ずっと窺うように辺りを見回す男性や、足早に去っていく女性、母親と手を繋いでいる子供でさえ、どこかぎこちない表情だ。

 

 そう、まるで誰かに監視されているような、物々しい雰囲気なのである。

 

「二人とも。ここはミオちんの言うとおり、大人しくしといた方がいいと思うよ」

 

 二人に反発したのはシーラである。やはり彼女もこの町の異変に気がついているようだ。そして、私たちにしか聞こえない声で続けた。

 

「町の入り口にいた兵士の言葉、たぶんあれ、本気で言ってるんだと思う」

 

 少しでも目に余るようなことをしたら、相応の罪を償ってもらう。確かそんなことを言っていたはずだ。

 

「……お前が言うのなら、本当なんだろうな」

 

 いつになく真剣なシーラの言葉に、ユウリも納得せざるを得ない様子を見せた。というか最近のユウリは、シーラの言うことには素直に従ってる気がする。

 

「じゃあさ。取り敢えずサイモンさんの居場所を見つけてからお城に行こうよ。その前に問題になったら大変だし」

 

「そーだな。手紙自体は急いで渡さなくてもいいんだもんな」

 

 私の提案に、ナギを含む3人が頷いた。私たちの目的はあくまでサイモンさんに会ってガイアの剣のことを聞くこと。出来れば譲ってほしいところだが、そこは交渉次第と言うことだろう。

 

 今歩いているメインストリートをこのまま真っ直ぐ行けばお城に着くので、迷うこともない。私たちは取り敢えず手当たり次第サイモンさんの家を尋ね歩くことにした。

 

 

 

「あっ!! ねえねえ、格闘場があるよ!!」

 

 格闘場の看板を目にしたシーラが、今までになく興奮した顔で私の服の裾を引っ張った。賭け事が大好きなシーラにとってモンスター同士を戦わせる格闘場は、最高の娯楽施設だ。しかし、さすがに寄り道している場合ではない。

 

「ダメだよシーラ。まずは目的を果たさないと」

 

「わ、わかってるって〜。それにお腹も空いてるしご飯も食べないとね」

 

 そう言って、シーラは照れたように笑った。こんなかわいい仕草、世の男性たちがされたらほぼ100%堕ちるだろう。

 

 なんて考えてたら、ふと視界に入ったユウリの様子もなんだかおかしい。格闘場の看板を名残惜しそうに眺めている。

 

 そして私は思い出した。彼がロマリアの王様姿となって格闘場に入り浸っていたときのことを。

 

 お金に厳しいユウリはなぜか賭博には興味があるようで、私とシーラのやりとりを見てしまったからか、何かを言いそうになって結局我慢しているという複雑な表情を浮かべている。

 

 けれども私は心を鬼にして格闘場の前を通りすぎる。一瞬私たちを引き留めるかのような大歓声が聞こえてきたが、迷わず無視した。

 

 そのあとも色々な人にサイモンさんに関する話を尋ね回るが、何故か皆一様に口を閉ざすか首を振るかの二種類に分けられた。この町に住んでいれば、嫌でも耳にするのではないかと思ったのだが、まるでその話題には触れてほしくないかのように頑なだった。

 

「おかしいね。なんで皆知らないって言うんだろ」

 

 まるで勇者サイモンの存在をわざと消しているのではないか、というくらい顕著である。言ったらなにか罪にでも問われるのだろうか。

 

 だが、これだけ人に尋ねていると、たまに口をうっかり滑らせる人もいた。

 

「そういえば西通りの二丁目に、サイモンさんの奥さんとその息子が住んでいて……」

 

「あんた!!」

 

 道を歩いている老夫婦に尋ねたところ、旦那さんがついポロっと話した言葉に、隣にいた奥さんが慌てて止める。だが、そんな大事な言葉を聞き逃すほど私たちは甘くない。

 

「助かりました。ありがとうございます!」

 

「まっ、待ってちょうだい!! まさか城の兵士には言わないわよね!?」

 

「は? そんなこと言うわけないだろうが」

 

 何を言ってるんだと言わんばかりに眉をひそめるユウリ。けれど夫婦は心底安堵したように息を吐いた。

 

「そ……そう。ならいいんだけど……」

 

「なあ、なんで皆そんなに怯えてんだ?」

 

 ナギの言葉に、びくりと肩を震わせる夫婦。

 

「な、なんでもないんです。私たちはこれで失礼しますので」

 

 旦那さんはそう言い残すと、奥さんをかばうようにそそくさとその場から去った。無理に引き留めて申し訳ないなと思う反面、あんなに露骨に脅えるのは何故なのかという疑問が膨らむ。

 

「取り敢えず、教えてもらった場所に行くぞ」

 

 ユウリの言葉に従い、さらに町の人に西通りがどこかを尋ね、サイモンさんの家へと足早に向かう。旦那さんの話だと、どうやらサイモンさんではなく、奥さんと息子さんが住んでいるらしい。その二人だけでも会いに行くことにした。

 

「なんだろう、あれ」

 

 その道すがら、通り沿いに黒い服を着た人だかりが見えたので、私は思わず立ち止まった。そこは教会で、近くにはお墓があり、神父さんが人だかりの中央で何か話している。

 

「葬式か」

 

 ユウリがポツリと言った。彼の言うとおり、黒い服は喪服で、ほどなく教会から棺桶が運ばれてきた。すると、棺桶を追うように、一人の女性と子供が飛び出してきた。そして女性の方が、遠くからでもわかるくらいの大きな声で泣き叫んだ。

 

「あなた!! あなた!! どうして私たちを置いて行ってしまうの!! お願い、ブレナン……、ああ、行かないで!!」

 

 悲痛な叫び声がこっちまで響き、他人の私まで胸が締め付けられた。

 

 そして近くにいた通行人の一人が、ぼそりと他の通行人と会話しているところを、偶然にも聞いてしまった。

 

「かわいそうに……。まだ子供も小さいのに、王様の怒りを買ってしまってあんなことに……」

 

「まさか王様の悪口を言うだけで死刑にされるなんて……。いつかおれたちもあんな風になっちまうんじゃないのか?」

 

「バカッ!! こんな人の往来の激しいところでそんなこと言うな!! 誰かが聞いてたらどうするんだよ!!」

 

 そこまで言うと、二人はお互い面識もないのか、逃げるようにこの場を去った。

 

「ブレナン!! ブレナン!!」

 

「神よ! どうかその御慈悲で迷える魂をお救いください……」

 

「ねえ、母ちゃん。父ちゃんはどうしてあのハコの中に入ってるの? なんでおうちに帰らないの?」

 

 いつまでも泣き叫ぶ奥さんと、必死に神への祈りを続ける神父、さらに父親の身に何が起こったのかわからず母親にひたすら尋ねる子供。

 

 それを一部始終聞いていた私たちは、無言でこの場をあとにするしかなかった。赤の他人が彼女たちに対してかけられる言葉など到底見つからない。私たちにできるのは、必死に悲しみをこらえて通りすぎることだ。

 

「……ミオちん、涙と鼻水両方出てる」

 

 シーラにハンカチを差し出され、しゃべることもできない私は無言でそれを受け取って拭いた。ごめんシーラ、あとで必ず洗って返すから。

 

「……想像以上にひどい国だな」

 

 ユウリも忌々しそうに舌打ちをする。

 

 国民がこんな辛い思いをしているのに、なぜこの国の王様はこんなことをするのだろう。会ったこともないが、だんだんと怒りがこみ上げてきた。

 

「ユウリ、用事が済んだら……」

 

「今はガイアの剣が優先だ」

 

 にべもなくそう言い放つと、ユウリは歩く速度を早めた。彼の背中からは、近寄りがたい雰囲気が漂っていた。

 

 その後私たちは、この辺りに母と息子の二人暮らしで住んでいる家が何処にあるかを周辺の人に尋ねた。もちろんサイモンさんの名は伏せている。そうして聞き込みをすること数十分。ようやく見つけた一軒の家は、身内に勇者と讃えられた人がいるとは思えないくらいのあばら屋だった。

 

 さらに壁には、そこかしこに石か何かを投げつけられたようなあとが残っており、窓には牢屋のような鉄格子が張り巡らされている。一つしかない玄関の扉の取っ手には太めの鎖が何重にも巻かれており、まるで囚人を閉じ込めているかのような佇まいだった。

 

「なんか……、こっちの勇者は相当闇が深そうだね……」

 

 冗談半分でシーラが呟くが、あまりの様相に私は絶句していた。

 

「とにかく、中に人がいるか確かめるぞ」

 

 呆然としていたユウリも、気を取り直して扉をノックする。だが、何度鳴らしても反応がない。

 

「留守か……」

 

 あからさまに鍵をかけているので、当然と言えば当然だ。家主が帰ってくるまで、一度宿を取りに行こうと踵を返したときだ。

 

「あのう、どちら様ですか……?」

 

『!?』

 

 今のは明らかにこの家の中から聞こえてきた。今にも消え入りそうなくらいか細い女性の声だ。ユウリのノックに反応したのだろうか。

 

「あのう、ここはサイモンさんのご家族の家でしょうか?」

 

「っ!?」

 

 私の問いに、扉の向こうからハッと息を飲む音が聞こえた。その反応から察するに、関係者なのは間違いない。私は穏やかな口調を心掛けながら、扉に向かって尋ねた。

 

「突然すみません、私はミオと言います。実は私たち、サイモンさんの家がここにあると聞いてお伺いしたんですけれど、もしそちらにサイモンさんがいらっしゃるのなら、お会いさせていただくことは可能でしょうか?」

 

「……すみません。こちらからでは全ての鍵を開けることはできないので、息子が帰ってからでも大丈夫でしょうか?」

 

「あ」

 

 そういえば、こちら側の扉の取っ手には何重にも巻いた鎖が鍵付きできっちりと固定されていた。と言うことは、息子さんが鍵を持っているのだろう。

 

「ええと、それでも構いません。ガイアの剣のことで知っていることがあれば……」

 

「待つ時間が無駄だ。どいてろ」

 

 するとユウリは、私を押し退いて扉の前に立つと、鞄から最後の鍵を取り出したではないか。

 

「え、ちょっと待って、それって……」

 

 不法侵入になるんじゃ、と言う間もなく、ユウリは錠前に最後の鍵を差し込んだ。

 

 カチャリ。

 

 ぎこちなく響く錠前は、いとも簡単に解錠することができた。

 

 え、これって大丈夫!?

 

「オレよりあいつの方がよっぽど盗賊みたいだよな」

 

 横でぼそりと言い放つナギに、私は激しく同意する。

 

 どうか騒ぎ立てられませんように、と必死に祈りながら、ユウリが扉を開くのを待った。

 

「あ、え? あの、鍵……」

 

 案の定、扉の向こうには、突然鍵が開いたことに戸惑いを隠せないサイモンさんの奧さんらしき人の姿があった。

 

 若い頃はきっと美人なのだろうと思う顔立ちだが、頬は痩せこけ、顔も青白い。色素の薄い茶色の髪は寝起きなのか、後ろで結んでいるにも関わらずまとまりがない。おそらく四十代前後のようだが、顔色の悪さと異常なくらい細い身体のせいか悲壮感が漂っている。

 

 あれ? でも何となくどこかで見たことがあるような……?

 

「俺はアリアハンから来た勇者のユウリだ。どうしてもサイモンのことで聞きたいことがあって、勝手ながら鍵を開けさせてもらった」

 

 そういいつつあまり悪びれる様子もないユウリに、女性は怪訝そうに私たちを眺めている。

 

「ユウリちゃん、今のはどう見ても不法侵入者だよぉ。ごめんなさい、あたしたち、魔王を倒すために旅をしてるんだけど、魔王の城に行くにはガイアの剣が必要なの。聞いた話だとその剣はサイモンさんが……うぷっ」

 

 シーラの話を遮った目の前の女性は、いきなりシーラの口を塞ぐと、強引にシーラを家の中へと連れていってしまった。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!! シーラをどうする気ですか!?」

 

 シーラが連れ去られたことに唖然とした私たちは、すぐさま二人を追いかけて中に入る。

 

 部屋の中は最低限の家具とソファーが置いてあるだけで、かつて勇者が住んでいた部屋とは思えないほど質素であった。

 

 女性はシーラをそのままソファーに座らせると、厳しい口調で言った。

 

「あまり外で魔王とかサイモンとか、大声で言わないで下さい。もし城の兵士に聞かれたら、牢屋に入れられてしまいます」

 

「え、どーいうこと?」

 

 シーラだけでなく、遅れて部屋に入ってきた私たちの頭にも疑問符が浮かぶ。

 

「すみません、ご挨拶が遅れました。私の名はコゼット。お察しのとおり、サイモンの妻です」

 

 コゼットさんは、さっきまでの剣呑な雰囲気から一変、控え目に自己紹介をした。そして私たちをソファーに座るよう促すと、自身も向かい合うように座った。

 

 シーラとナギもお互い名乗り、改めてガイアの剣のことを尋ねることにした。

 

「あの、サイモンさんはこちらにはいらっしゃらないんですか?」

 

 私の問いに、コゼットさんはしばらく沈黙したのち、口を開いた。

 

「夫はここにはいません。約十年前、あの人はサマンオサの城の兵士に呼ばれ、城へと連れていかれました」

 

「ええっ!?」

 

 せっかくここまで来たのに、と私は思わず目を丸くする。だが、ユウリは当然といった面持ちで私を横目で見る。

 

「国の英雄ともなると、国王からの頼まれごとも多いんだろう」

 その言葉に、コゼットさんは思いきり首を横に振った。

 

「あの人は英雄などではありません。それに彼が城に連れて行かれたのは、国家反逆罪に問われたからです。そしてそのままどこかも知れぬ『祠の牢獄』へと投獄されました。それから今でも彼は戻ってきてません」

 

『!!??』

 

——投獄!?

 

 コゼットさんの衝撃の言葉に、ユウリはおろか彼女以外の全員が驚愕した。

 

 

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