俺様勇者と武闘家日記   作:星海月

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師の願い

 

「どっ、どうして師匠がこんなところにいるの!?」

 

 私は夜中にも関わらず叫んでしまった。隣にいたユウリが手で制す。

 

「にわかには信じがたいが……。あれは幽霊だな」

 

「幽霊!?」

 

 その言葉に私は思わず身震いした。私は幽霊とかの類いが死ぬほど嫌いなのだ。

 

「ここが墓場で、謎の発光とともに死んだはずの人間が現れたってことは、まず幽霊で間違いないだろ」

 

 そりゃあ幽霊ってのはわかるんだけど、なんで今現れたんだろう? それに私は生まれてから一度も幽霊なんかみたことないし、急に不思議な力が備わったにしても唐突すぎる。

 

「もしかして、ユウリが何かしたの?」

 

「バカ、そんなわけあるか。ついさっきお前の話を聞いたばかりなのに、あの幽霊のことなんかわかるわけないだろ」

 

 じゃあ一体、と幽霊姿の師匠をじっと見る。姿が師匠でなければ逃げ出していたが、それでも腰が引ける。私はおそるおそる師匠に近づいてみた。すると、

 

《ミオ……。お前の強い意志、確かに感じた……》

 

 師匠の声が聞こえてきたではないか。幽霊って話せるの?!

 

《おれはお前を中途半端なままここに残してきたことが心残りだった……。だが、今のお前ならきっと大丈夫だろう……。おれが眠る場所を探してみるといい……》

 

 そう言い終えると、光とともに師匠の姿は消え、辺りはもとの暗闇へと戻った。あっという間の出来事だった。

 

 そして沈黙を破るかのように、ユウリが口を開く。

 

「眠る場所を探せって言ってたな」

 

「うん。多分そこのことだと思う」

 

 私は幽霊が現れた場所にある、小さい石碑を指差した。手入れされた石碑には、師匠の名前が彫られている。

 

「とりあえず掘ってみるか」

 

「え?! 勝手にお墓荒らしちゃって、神父さんに怒られないかな」

 

「お前の師匠が言ってたんだから構わないだろ」

 

 私の答えを待たず、ユウリは剣を鞘から抜くと、その鞘を使って石碑の下の土を掘り始めた。さすが勇者、行動力が早いなあ。

 

 いや、感心してる場合じゃなかった。とりあえず怒られる前に後で謝ろう。私もユウリの向かいにしゃがみこみ、手で掘ることにした。

 

 すると、鞘に何か硬いものが当たる音がした。掘り進めると、木箱のようなものが現れた。急いでその木箱を掘り起こしてみるが、なかなか出てこない。

 

 それもそのはず、取り出してみると、私の指先から肘くらいの大きさがあったからだ。

 

 木箱を開けると、さらに金属製の箱が入っていた。随分厳重だなと思いながら、蓋を開ける。

 

「……! これって……」

 

 箱に入っていたのは、師匠が生前、かつて世界中を冒険していたときに使っていたと私に見せてくれた、『鉄の爪』だった。

 

「なんで、こんなものがここに……?」

 

「知ってるのか?」

 

「うん。師匠が昔、使ってたものだよ。私が修行してたとき、たまに見せてもらったことあるもの。たしかここに傷が……あっ、あった」

 

 爪を手に取り、傷があった場所を確かめると、それは紛れもなく師匠のものだとわかった。でもなんでこんなところに埋めてあったんだろう?

 

 私が鉄の爪を不思議そうに眺めていると、ユウリが私の手からそれを取り上げる。

 

「要するに、お前に使ってほしいからここに埋めたんだろ」

 

「え?」

 

「本当は生きてるうちに渡したかったが、そのときはまだお前は半人前以下だった。だから、お前が一人前になってまたここを訪れたときに渡せるよう、ずっとここで留まってたんじゃないのか」

 

「……じゃあ、師匠は幽霊になってもずっと、ここで私が来るのを待ってたってこと?」

 

「そういうことなんじゃないのか」

 

 ユウリは鉄の爪をひとしきり確認したあと、私に再び渡した。

 

 だけど、師匠が亡くなったあともしょっちゅうここに来てたのに、一度もこんな風に現れなかった。そのときはまだ師匠が私を一人前だと認めてなかったってことなんだろうか。

 

「けど、今のでお前の師匠とやらの魂は、天に召されたようだな」

 

「本当?」

 

「ああ。ここに来るとき何人かの気配はしてたが、今は一人減ってる気がする」

 

「へー、そうなん……」

 

 え、ちょっと待って。幽霊って気配とかでわかるの? しかも今何人かいるって言ってなかった?

 

「あ、あのさユウリ。まさかここに師匠以外の幽霊がいるってこと?」

 

「はっきりと見えるわけじゃないが、何人かいるのは間違いないな」

 

 そういって、明後日の方向に視線を移すユウリ。その様子を見たとたん、私の顔は青ざめた。

 

「ユウリ! もう夜も遅いし、早くうちに帰ろう!!」

 

 私はユウリの返事も待たず、あわてて彼の手を引っ張ると、一目散にこの場から逃げ出したのだった。

 

 

 

「で、お前の師匠が残したものってのが、それ?」

 

 寝ぼけ眼で私が手にしている鉄の爪を指差したのは、結局朝まで爆睡していたナギ。同じくシーラも今しがた起きてきたばかりで、ぼんやりとこの鉄の爪を眺めている。

 

 あれからすぐに家に帰った私とユウリは、お母さんに事情を話したあと、ユウリの分の布団を用意してもらった。お父さんが商人だからなのか、急な来客に対応できるよう何組か布団は用意してあるらしい。このけして広くない家に、どれだけの布団がしまいこんであるのだろうか。

 

 ともあれ、無事にユウリを休ませることができ、私もつかの間の実家での一夜を過ごすことができた。

 

 ただ寝付いたのが明け方近くだったので、ほとんど睡眠が取れていない。けれど私が起きて居間に行くと、すでにユウリは起きていて、いつもと変わらない様子で居間のテーブルに座り、お母さん特製のベーコンエッグを口にいれていた。

 

 ほどなくナギとシーラがやってきて、キッチンにいたお母さんとエマは、先に私たち四人分の朝食を用意してくれた。

 

 私は二人に鉄の爪を見せようと持ってきたのだが、寝起きだからか微妙な反応。夕べのことを説明し、ナギの問いに私がうなずくと、ナギは訝しげな顔をした。

 

「でもお前、今まで素手で戦ってきたんだろ? 使いこなせるのか?」

 

「多分大丈夫だと思う。修行中、爪を使った武器の訓練もやって来たから」

 

 ただ問題は、爪だと武器を装備している分、動きが若干鈍くなることだ。師匠程にもなると、その重さを逆に利用したりするけど、爪での実践経験ゼロの私にはそこまでの技量もない。要は慣れなのだろうと、自分に言い聞かせた。

 

「はい、おまたせ。ポトフと焼きたてのパンだよ」

 

 エマが再び皆の分の食事を運んできてくれた。テーブルに所狭しと並べられた朝食を眺め、私は自分がいない間に培われたエマの家事能力に感動していた。

 

「こんなにたくさん、頑張ったね。エマ」

 

 私が絶賛すると、エマはふふっ、とはにかんだ笑みを浮かべ、ちらっとユウリの方を見た。よく見るとユウリの周りのテーブルだけ、異常な量の食事が置いてある。

 

「ユウリさん、これ全部私が作ったんですよ。是非召し上がって下さいね」

 

 そういうと彼女は、家でも滅多に見せたことのないとびきりの笑顔をユウリに向けた。だがユウリは彼女の方を見ることなく、一言ああ、と返すと、黙々と食事を続けた。

 

 ユウリってば、あんなにあからさまに好意を寄せられているのに、なんて反応が薄いんだろう。我が妹ながら、少し可哀想になってくる。

 

「ところでミオちん、ゆーべ幽霊見たってホント?」

「えっ!? いきなり何?」

 

 突然シーラが尋ねてきたので、私はパンを取り落とした。

 

「だって、あたし幽霊なんて見たことないからさ、どんな感じなのか気になって☆」

 

「そ、そんなに興奮すること?」

 

「だって、滅多に体験できないことだよ? いーなー、うらやましいなぁ、ミオちん」

 

 いやいや、全然うらやましくなる要素なんてないんですけど。出来ればもう二度と体験したくない。シーラはお化けが怖くないんだろうか?

 

「ねー、ナギちんも見たいよね?」

 

 話を振られたナギは、どことなく苦い顔をしている。

 

「別に幽霊には興味ないけどよ……。なんか今お前が言った話、それ夢で見たわ」

 

「は? あ、ひょっとして……予知夢?」

 

「そ、多分な。前ロマリアで、墓場でおっさんの幽霊見たって言ったろ? それミオのことだったんだな」

「あー、そう言えば言ってたね。でもナギ、懐かしい感じするとか言ってなかったっけ?」

 

「それはオレじゃなくて、ミオの目線で感じたからだと思う。実際目が覚めたときは何も感じなかったし」

 

 確かに夢だと楽しかったり、怖かったりとか感じるときあるけど、朝起きて思い起こしたりすると全く関係ない感情だったことってある。

 

「じゃあ自分だけじゃなく、他の人の未来も見えるってことなんだね! すごいじゃんナギ!」

 

 私は目を輝かせて言った。ナギはまんざらでもない様子でふんと鼻を鳴らした。

 

「まーでも、見たいときに見れないのが難点だよね~」

 

「それに内容が抽象的過ぎて忘れちゃうよね」

 

「なんだよお前ら! 散々上げといてから一気に落とすんじゃねえよ!」

 

 シーラと私の指摘に、即座にツッコミを入れるナギ。ユウリと違って、ナギだとこういう冗談も言えるからつい言い過ぎちゃうんだよなあ。気をつけよう。

 

 その後私たちはひとつ残らず朝食を平らげると、お母さんとエマにお礼を言った。

 

 ユウリもあんな態度をとってはいたが、エマが作った分のお皿も残さず食べていたので、エマはとても喜んでいた。

 

「もう出発するのかい?」

 

「うん。これからノアニールに向かうから、早めに出るつもり」

「ノアニール……。そういえば昨日言ってたよね。何でまたそんなところに?」

 

 私は二人に事情を話した。すると、ノアニールがそんな事態になってることを知らなかったようで、二人は顔を見合わせた。

 

「なんだか心配だね」

 

 エマが言うと、お母さんは意を決したように私たちの方を見た。

 

「そんな遠いところに行くんなら、途中でお腹空くだろ。ちょっと待ってな。今から急いでお弁当作ってあげるよ」

 

「え、いいよそんな無理しなくて」

 

「ダメだよ! 食事はちゃんととらなくちゃ! 生きてく上で健康が第一なんだよ!」

 

 お母さんにぴしゃりと窘められ、小さくなる私。隣でユウリが小さく呟いた。

 

「親が親なら子も子だな」

 

「? 何か言った?」

 

 ユウリはなにか言いたげな顔をしたが、それきり無言だった。

 

 

 

 日が高くなりはじめた頃、私たちは皆に笑顔で見送られながら、実家を後にした。

 

 途中で村の教会に寄り、神父さんに夕べお墓を掘り起こしたことを謝ると、神父さんは怒るどころか、私が来ることを察していたようだった。

 

「フェリオさんからお話は伺っています。自分の弟子にどうしても渡したいものがあるからと。もしお墓を掘り起こしても、咎めないでくれとおっしゃっていましたよ」

 

「そうだったんですね。ありがとうございます」

 

 私は神父さんにお礼を言うと、教会を出た。道具屋で旅支度を済ませ、村の反対側の出入り口へと向かうと、突然ナギが私に話しかけてきた。

 

「もう出発しちゃって平気なのか?」

 

「うん。アリアハンに旅立つときにもうお別れの挨拶しちゃったし、それにあんまり長くいても別れるのが惜しくなるだけだもん」

 

 平気と言えば嘘になるが、私だけ家族や村の皆にいつまでも甘えるわけにはいかない。

 

「ミオちん、その荷物って全部お弁当?」

 

 シーラが気になっているのは、私が持っている大きめの荷物。

 

「そうだよ。随分張り切って作ってくれたみたい」

 

「おっきいねぇ~」

 

 一人用と大人数用のお弁当箱が一つずつ、布製の袋に入れられている。おそらくユウリだけ特別なのだと思われる。

 

「お昼になったら、みんなで食べようよ」

 

「やった~!」

 

 もう完全にピクニック気分だ。たまにはこういうのもいいな、と思わず笑みが溢れる。

 

 村を出たあと、途中何度か魔物に遭遇したが、カンダタ一味を撃退した私たちの敵ではなかった。

 

 その上師匠からもらった鉄の爪の威力が想像以上に高くて、武器の重さなどほとんど気にならない。何しろ今まで出したことのない会心の一撃まで出せるようになったのだから、扱えた感動よりも驚きのほうが大きかった。

 

「いいな~ミオ、オレも強い武器ほしいな~」

 

「ナギだってロマリアで武器買ったじゃない」

 

「お前の方が入手方法がかっこいいじゃん」

 

「どういう理由なのそれ?」

 

「ねーねー、ユウリちゃん、お腹空いたー!! お昼にしようよー!」

 

「お前ら、少しは静かにできないのか? ……まあいい。ちょうど魔物の気配もないし、ここで一度食事にするぞ」

 

「やったー!!」

 

 ユウリの同意を得たシーラは、満面の笑みでエマの用意したお弁当の包みを開ける。

 

「この小さいのがユウリで、あとの大きいのが私たちのだよね、きっと」

 

 言いながら私はユウリに小さい方のお弁当を渡す。手にしたユウリは訝しげに私を見た。

 

「なんでこれが俺のなんだ?」

 

「え、いや、だって、朝食のときもユウリの分だけやたら多かったし……」

 

 エマってば、会う前から勇者であるユウリを気にしていたからなあ。昨日実物を見てますます好きになっちゃったんだろう。

 

「そういえばお前の妹、夕べ俺の隣で何か喋ってたな。全く覚えてないが」

 

「えっ、覚えてないの?」

 

 夕飯のとき、さりげなくユウリの隣に座って、飲み物を注ぎながら一方的に話しかけてたエマを見ていたが、まさか覚えてすらいなかったなんて。

 

「ひょっとしてユウリ、見た目の割にお年寄り並みの記憶力とか……?」

 

「そこの崖から落としていいか」

 

「ごめん、冗談だよ」

 

 あまりにも我が妹に興味が無さすぎる彼に反抗心が募り、つい意地悪で言ったつもりだったが、ユウリの目は本気だった。

 

「いーから早く食べようよぅ!」

 

 待ちきれないとばかりにシーラが、目の前の大きなお弁当箱の蓋を開ける。中には何種類ものおかずやサンドイッチがぎっしり入っていた。

 

「うわぁ、美味しそう~!!」

 

 言うやいなやシーラはサンドイッチに手を伸ばし、ナギも目を輝かせながら、衣をまぶして揚げた鶏肉を頬張る。

 

 すぐになくなりそうだったので私も急いで食べようとしたとき、お弁当箱の隙間に手紙のようなものが挟まっているのに気がついた。

 

 開くと、エマの字でこう書いてあった。

 

――ユウリさんの分、たくさん作りすぎてしまったのでみんなで分けてください。エマ

 

「え!?」

 

 その一文に、私は思わず驚愕の声を漏らす。

 

 これって、もしかして……。

 

「まさか、この大きいのがユウリの分だったの!?」

 

 どう見ても三~四人前は入っているんだけど。これ全部ユウリに食べてもらうつもりだったんだろうか?

 

 振り向くと、皆してユウリのお弁当に手を伸ばしている。

 

 まあ結局みんなで食べてるからいっか。エマってば、夢中になると周りが見えなくなるところは変わってないな。

 

「なに思い出し笑いしてんだ。気持ち悪い奴だな」

 

「ほら、これ見て。やっぱりユウリのことが好きなんだよ。この大きいのがユウリのなんだってさ」

 

「ふん。いいから早く食べろ。今日中にはこの山を越える予定だからな」

 

 からかい混じりに私はいい放つ。こういう話には慣れてないのか、照れ隠ししているのがはっきりわかる。こういう彼を見るのは新鮮でちょっと楽しい。

 

「ところでさ、ノアニールまであとどのくらいなんだ?」

 

 地図を眺めているナギに尋ねられ、私は大体の場所を指差した。

 

「そうだね、この地図で見ると確かノアニールがここだから……」

 

「山道が多いことを考えると大体5日ってところだな」

 

 ユウリが瞬時に答えを出してくれた。とりあえず食糧は多めに買い足してあるので困ることはないはず、だった。

 

 今思えば、10年間ノアニールに異変が起きていることがどれだけ深刻なのかをもっと真剣に考えるべきだったのだ。

 

 ただの調査で終わるつもりが、こんな大事になるだなんて、このときは誰も想像すらしていなかったのだから……。

 

 

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