俺様勇者と武闘家日記   作:星海月

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新しい国

 

「よくぞ参った、我が国を救いし勇者たちよ。そなたたちの功績はすでに国中の民が知っておる。こちらからは、改めて礼を言わせてもらう」

 

 次の日、再びお城を訪れた私たちは、衛兵たちの手厚い歓迎を受けたあと、玉座の間へと通された。そこには、牢屋で会った時より幾らか血色のよくなった王様が堂々たる佇まいで座っていた。

 

「いえ、魔物に支配された人々を救うことが我々の使命ですので」

 

 相変わらず身分の高い人にはへりくだるユウリが、リーダー然とした態度で答えた。

 

「それでも、そなたたちの活躍で私は再び王の座を取り戻すことが出来た。この十数年、何度人として生きることを諦めたことか。絶望にうちひしがれる中、そなたたちは私にとって唯一の希望となった。そして今、その絶望を打ち払い、我が国サマンオサも新しく生まれ変わった。これも皆全て、そなたたちのおかげだ」

 

「当然のことをしたまでです。我々は魔物に苦しめられた人々を救うのが目的で旅をしているのですから」

 

「そう言ってもらえるとありがたい。本来ならそなたたちには謝礼を受け取ってもらいたいのだがな。あの魔物め、国の金をほとんど自身の欲に使い果たしてしまったようで、今我が国の財政は貧窮しておるのだ。せめてもの礼としてそなたたちの泊まっている宿の代金はこちらの方で立て替えさせてもらった。そなたたちに対する感謝を形にして渡すことが出来ず本当に申し訳ない」

 

「いえ、そこまでしていただいただけでも十分です。陛下のお心遣いに感謝致します」

 

 慇懃に答えるユウリに、王様は浮かない表情で返す。その様子に、王様の人柄が垣間見えた。

 

「ところで陛下、我々は勇者サイモンのことでお伺いしたいことがあります。彼は今、『祠の牢獄』という場所にいるとのことですが、なぜ彼はそこに連れて行かれたのでしょうか?」

 

 ユウリの言葉に、王様は苦い顔をした。

 

「うむ……。私もその頃には牢へと入れられていた故、詳しいことはわからぬのだが、生き残った臣下から聞いた話によれば、あの魔物めが適当な理由をでっち上げ、祠の牢獄へ閉じ込める口実のために罪を着せたらしい」

 

「え……!?」

 

 それって、サイモンさんに罪はないのに、無実の罪を着せたってこと!?

 

「おそらく魔物にとって、サイモンは脅威となる存在だと恐れられたからだと思われる。確か彼には妻と子供がいたそうだが……」

 

「サイモンさんの子供なら、先日私たちとともに魔物を倒しました」

 

 平静を装いながら、きっぱりと私は言い放った。

 

「なんと……! そう言えばあの夜、もう一人いたような気がしたが、まさかその子が……?」

 

「ルークは、この国の住民として、自分の国を守るために私たちに協力してくれました。彼がいなければ、私たちはあの魔物を倒すことは出来ませんでした」

 

 そう、称えられるべきなのは私たちだけではない。むしろルークこそ、この場にいなければならない人間なのだ。

 

「そうであったか……。ならばルークとやらにも礼をせねばならんな。して、彼は今どこにいる?」

 

 私はルークの家がある場所を王様に伝えた。正確な住所はわからないが、近くの建物の特徴や名前を教えたら、傍にいる兵士の一人が王様に伝えてくれた。

 

「うむ。ではルーク及びその家族には、最低限の生活を保障すると約束しよう。さらにサイモンは魔王軍に立ち向かったサマンオサの英雄として、後世までその武勇を伝え残そう。これでサイモンの汚名をそそぐことが出来れば良いのだが……」

 

「ありがとうございます。きっとルークも喜ぶと思います」

 

 王様の配慮は今のルークにしてみれば好待遇だろう。けれど、サイモンさんへの風評被害がこれでなくなるかはわからない。

 

 ただ、少しでもルークやコゼットさんの生活が楽になるのなら、それは願ってもないことだ。

 

「陛下。実は我々は、魔王を倒すためにどうしてもサイモン殿にお会いしたいのです。彼がいるという『祠の牢獄』とは、一体どこにあるのですか?」

 

 ユウリの問いに、王様は沈痛な面持ちで答える。

 

「そうであったか。だがそこは、並大抵の覚悟ではそこにたどり着くことすら叶わぬ。何故ならその牢獄は、この大陸よりはるか遠い、地図にも載らぬような孤島にあるのだ」

 

「地図にも載らない……? そんな場所があるのですか?」

 

「国を揺るがすほどの罪人が収容される場所だからな。世間 的にはその存在自体秘密とされている。昔は別の場所にも流刑地があったとされるが、年月が経つうちに誰も知る人がいなくなってしまってな、新たに祠の牢獄を流刑地として選んだのだ」

 

 知る人が少なすぎて、次第に知っている人すらいなくなってしまったと言うことだろうか。私はふと、ルザミの島にいる元サマンオサの男性を思い出した。

 

「我々はどうしてもサイモン殿に会いたいのです。どうか場所を教えていただくことは出来ないでしょうか?」

 

 王様はしばし悩んでいたが、やがて決意を固めたように手で膝を叩いた。

 

「わかった。祠の牢獄の場所についてはあとで臣下に調べるよう伝えておこう。他に困ったことはないか?」

 

「いえ、我々のためにここまでご配慮していただいただけでも身に余るお言葉でございます」

「そう堅いことを言うでない。そなたたちは私の命の恩人だからな。また助けが欲しくばいつでも来るがよい」

 

「ありがとうございます。この国に平和と繁栄が訪れることを願っております」

 

 ユウリが恭しくお辞儀をすると、王様は優しく頷いた。そして私たちが玉座の間を離れるときも、王様は私たちを笑顔で見送ってくれた。

 

 

 

「とりあえず一件落着だな」

 

 玉座の間を出てから、肩の荷が下りたように息を吐いたのはナギだった。

 

 今までサマンオサの王として圧政を敷いていた魔物ボストロールを倒し、本物の王様が治めることになったこの国は、これから新たな国として生まれ変わるだろう。

 

「あとはサイモンがいる祠の牢獄の場所がわかれば、この国とはおさらばだな」

 

 相も変わらず王様との謁見とは打って変わった態度を見せるのは、言うまでもなくユウリだ。お城のエントランスまでたどり着くと、扉の前にいる衛兵に扉を開けさせるよう視線で促した。すると特に機嫌を損ねることもなく、衛兵は素直に扉を開けた。

 

「入国した時と違って、随分愛想がいいな」

 

「ナギちん。その言い方意地悪だよ」

 

 衛兵に聞こえない程度の声で、ナギとシーラが会話する。確かにこの国に入るときは殺伐としていたのに、魔物を倒してからはお城の兵士たちの雰囲気が変わってきた気がする。

 

「うわあ、いい天気」

 

 王城の外はさわやかな青空が広がっており、気持ちのいい陽気だった。あれだけ人通りの少なかった大通りも、いつの間にか多くの人でにぎわっている。その人たちの表情も目に見えて明るい雰囲気が現れていた。

 

「やっぱり城下町はこのくらい賑やかなのが似合うね」

 

「そうそう。ナギちんもミオちんぐらい気の利いたこと言わないと」

 

「なんだよ、人の感想にケチつけんじゃねえよ」

 

 私の感想に、シーラがナギに諫めるように答えた。

 

 ひとまず王様から祠の牢獄の場所の情報が届くまで、私たちはこの町に留まることになった。と言っても次の目的地に向かうための準備や魔物との戦いに必要なアイテムの補充位しかやることがないけれど……。

 

「ねえ、ユウリちゃん♪ ひと段落着いたし、モンスター格闘場に行ってもいい?」

 

 シーラが瞳をキラキラさせながらユウリに懇願する。どうせ止められるかと思いきや、彼もまた目をキラリと光らせた。

 

「ふん。お前一人だけで行かせたらどうなるかわからん。俺も行く」

 

 いやいや、そう言っときながら本当は自分も行きたいんじゃないの!? ……なんて口には出せず、心の中でツッコミを入れる私。

 

「ミオちんはどう? 行ってみる?」

 

「いや、私は遠慮する。それよりもルークのところに行ってくるよ」

 

 あの後体調がどうなったのかも心配だし、何より彼の方からもう一度来て欲しいとお願いされたのだ。なのでこの国を出る前にどうしても会いたい。

 

「ふーん。じゃあオレも行こうかな。あいつの具合も気になるし」

 

「ホント? じゃあ一緒に行こうよ、ナギ」

 

 というわけで、私とナギはルークの家に、ユウリとシーラはモンスター格闘場へとそれぞれ向かうことにした。

 

 

 

「えっ、いないんですか!?」

 

 早速ルークの家に向かった私たちは、出迎えてくれたコゼットさんにルークがいるか尋ねると、彼は今朝早く職場へと行ってしまったそうだ。

 

「ええ。あの子ったら何も言わず、今朝早く職場に行ってしまったの。今日は仕事が休みのはずなんだけど……」

 

「そうなんですか……」

 

 もしこのまま会えなかったら、またあの頃と同じ寂しさを味わうかもしれない。私は意を決してコゼットさんにお願いした。

 

「あの、もう少し待たせてもらっても大丈夫ですか?」

 

 図々しいお願いなのは百も承知なのだが、このまま挨拶もせずにお別れするのは悲しすぎる。隣にいたナギも必死に懇願する私の姿を見て思うところがあるのか、止めずにいてくれた。

 

「もちろん。あの子もこのままミオさんとお別れするなんて考えてないはずよ。遠慮しないでリビングで待ってて」

 

「ありがとうございます!」

 

 コゼットさんの気づかいに、私は感謝の言葉を告げる。

 

「あなたと出会ってから、あの子はずっとあなたのことを私に話してくれるの」

 

 私たちをリビングに案内しながら、コゼットさんはそんなことを話した。

 

「私のこと……ですか?」

 

 一体どんなことを話しているんだろう、とドキドキしながらコゼットさんの次の言葉を待つ。

 

「あなたのことを話しているときのルークは、それはもうとても楽しそうに話すのよ。それでつい私も自分の子供のことのように聞き入ってしまうの」

 

「そ……そうなんですか」

 

 どんな内容なのか聞くに聞けず、思わず曖昧に頷いてしまう。

 

「へえ、例えばどんな?」

 

 ナイス、ナギ!! 私は心の中でナギを褒め称えた。

 

「カザーブにいた時、武術の先生の授業を二人でこっそり抜け出したこととか、あなたの家に遊びに行ったこととかかしら。小さいころのミオさんって、意外とおてんばだったのね」

 

「えっ、そんなこと言ってたんですか!?」

 

 予想外の内容に恥ずかしくなり、私は顔を赤らめる。

 

「まあ、武術の修行をしたがる時点で相当なおてんばだよな」

 

 ナギまで余計なフォローしないでいいのに!! ああ、こんなことなら聞かなきゃよかった。

 

「もしあなたが私の娘だったらきっとこの家も楽しいでしょうね。なんて、ふふ。冗談よ」

 

 そう言って笑うコゼットさんは、心なしか照れ臭そうだった。私も、ルークやコゼットさんとこんな風にお話したら、きっと楽しいんだろうなあ、そう思わずにはいられなかった。

 

 バンッ!!

 

 するとちょうどリビングに入る手前で、玄関の扉が勢いよく開いた。

 

「ただいまっ!!」

 

 扉が開くと同時に入ってきたルークは、急いで走ってきたのか息を切らしていた。

 

「あっ……、二人とも来てたの!? あれ、他の二人は?」

 

「ユウリとシーラはモンスター格闘場に行っちゃった。それより、あれから怪我の具合はどう?」

 

 私がルークのお腹に視線を向けたことに気づいたのか、ルークはだらしなく出ていたシャツの裾を慌ててしまった。

 

「ああ、あの怪我ならもう大丈夫だよ。シーラが治してくれたから」

 

「よかった……!」

 

 彼の素振りを見て無理して言っていないことがわかり、ほっとする。

 

「それにしても、こんなに早く来てくれるなんて思わなかったよ。もしかしてもうこの国を出るの?」

 

「ううん。でも祠の牢獄の場所がわかったらすぐ行くと思う。だからその前に一度、ルークに会いたくてここに来たの」

 

「そっか……」

 

「……?」

 

 何か思いつめたような顔をしているルークに、私は首を傾げる。すると、ナギが何かに気づいたように口を挟んだ。

 

「ルーク。お前、ミオに何か話したいことがあるんじゃないのか?」

 

「え?」

 

「なんならオレは席を外すけど?」

 

「いや、出来ればナギにも聞いてほしい」

 

 いつになく深刻な表情のルークに、私とナギは思わず目を見合わせた。

 

「ええと、私はお邪魔かしら?」

 

「母さんもここにいて。今から大事な話をするから」

 

 気まずそうにリビングから離れようとするコゼットさんを、ルークはぴしゃりと言い放ち呼び止める。そして彼は空いているソファーに腰を下ろし、決意したかのように話し始めた。

 

「単刀直入に言うよ。二人とも、僕を君たちの冒険に連れていって欲しい」

 

『へっ!?』

 

 思いがけない言葉に、私とナギの目が点になる。

 

「るっ、ルーク!? あなた一体どういうつもり……」

 

「もう職場に退職届は出してきた」

 

「えっ!?」

 

 突然の退職に、コゼットさんも動揺の色を隠せない。仕事が休みなのに職場に行ったのは、このためだったのだろうか。

 

「えっと、ちょっと待ってルーク? なんでいきなり……」

 

「僕は今まで、自分の意志で運命を変えようとしなかった」

 

 混乱する私にかまわず、ルークは話を続ける。

 

「環境に流されるまま、勇者サイモンの息子という自分の運命を呪い、世の中を恨みながら生きてきた。けど、それじゃあダメなんだってことに気づいたんだ」

 

 するとルークは、ひた、と私をじっと見据える。

 

「それに気づかせてくれたのは、ミオなんだよ」

 

「え?」

 

「幼馴染の女の子だった君が、仲間とともにあの魔物を倒し、この国を救った。君の勇気が、僕の生きる道を照らしてくれたんだ。だから今度は、僕が君の道を照らしたい。君が僕にそうしてくれたように」

 

「ルーク……」

 

 そのまっすぐな瞳には、一切の迷いが感じられないように見えた。

 

「母さん。しばらく一人にさせてしまうことになるけど、ごめん」

 

「大丈夫よ。お城から生活援助も受けられるようになったし、お父さんの名誉も回復したわ。私も……一人で生きていけるように頑張らないとね」

 

 すまなそうに謝るルークだったが、コゼットさんはどこか吹っ切れたように笑顔を返した。

 

「で、でもルーク、私たちの旅は……」

 

「いいじゃねえか、ミオ」

 

 言い淀む私の言葉を、ナギが制する。

 

「ルークがお前のためについていきたいって言ったんだ。それを拒否したら、ルークの気持ちを否定することになる」

 

「……」

 

「ルークもわかってるさ。オレたちの旅がどれだけ過酷か。それを知ったうえで、オレたちと一緒に行きたいんだよ」

 

 ナギにまで説得され、私は黙考する。確かにルークの気持ちも受け止めてあげたいけど、ボストロールにやられた怪我を思い返すと、いつまたあんなひどい怪我をしてしまうか心配になる。この先、ボストロールよりも強い魔物が私たちの前に立ちはだかるのは明白だ。そんな旅に、ルークを巻き込むわけには行かない。

 

「でも私は、ルークがまた傷つくのを見たくないよ。ナギも心配でしょ?」

 

 だが、ナギは理解しかねるといった表情で返す。

 

「それは、オレたちだって一緒だろ?」

 

「そうだよ、ミオ。君だって、戦いで怪我をするかもしれない。最悪、命に関わることもあるかもしれない。僕だけ特別視するのはおかしいだろ?」

 

「ま、まあ、確かに……」

 

「そもそもミオだって、ラーの鏡を探すとき一人で何体もの魔物と戦って、傷だらけになってたじゃないか。忘れたとは言わせないよ」

 

 そう言えば、ゾンビマスターが呼び出した腐った死体たちと戦ったとき、何発か攻撃を食らってたっけ。

 

「それに、僕とまた一緒に武術の修行を積めば、ミオだって今よりもっと強くなれるよ。武器の使い方だって教えるし」

 

 うーん、確かに同じ武術が使えるルークと一緒にトレーニングすれば、今以上にレベルアップ出来るかもしれない。

 

 そもそもルークは私が思っている以上に強いのだ。今までの彼の戦い方を見る限り、ちょっとやそっとじゃやられるような人ではないはずだ。

 

「……そうだね。戦力的にも、ルークくらい強い人がいたらこの先魔物との戦いも安心かもしれない」

 

 私が納得したところで、何か思い出したかのようにナギが苦い顔をした。

 

「あー、でもオレらがいいっつってもさ、リーダーの陰険勇者が首を縦に振らない限り難しいかもな」

 

「ああ、そうかもね……」

 

 せっかくルークの加入に乗り気になったと思ったのに、ナギの至極もっともな意見にすぐさま意気消沈する。

 

 一気に雰囲気が暗くなり、ルークも何事かと不安そうな顔になる。

 

「僕が仲間に入ることが、そんなにダメなことなの?」

 

「つーか、オレらの意見は大体否定されるんだよな。要するにひねくれてんだよ、あいつ」

 

「ふうん。じゃあ、否定されないような理由を作ればいいんじゃないかな」

 

「否定されないような理由?」

 

 私が問うと、ルークはいたずらっぽく笑った。

 

「うん。きっとユウリも、納得するんじゃないかな」

 

「??」

 

 私はナギと顔を見合わせたが、なんのことかさっぱりわからなかった。

 

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