俺様勇者と武闘家日記   作:星海月

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夢見るルビー

 

 マディンさんの息子とエルフの女王の娘を探す手がかりを見つけるため、ノアニールの近くの洞窟に向かった私たち。

 

 洞窟の中はひんやりとしていて、不思議と力がみなぎるのを感じた。魔物も現れたが、どういうわけかこの洞窟にいるときの方が戦いやすい。

 

 自分の体の変化を皆に伝えたら、やっぱり同じように思っていたようで、ユウリも彼なりの見解を示していた。

 

「もともとここが聖なる場所だからなのか、エルフの里に近いからなのかわからないが、確かに不思議な力を感じるな」

 

「見て! ここの湧き水すっごいキレイだよ!」

 

 

 シーラが指差す通り、岩壁の隙間から流れる湧き水は透き通っているどころか、ぼんやり青く光っているようにさえ見える。ためしに両手で掬って飲んでみると、今までの疲労感が一気に消え去って行くのを感じた。

 

「すごい! このお水飲んだら疲れが取れたよ!」

 

 私の言葉に、皆が興味津々で湧き水を飲もうと集まってきた。水を口に含むと、皆私と同じような感想を漏らした。

 

「もしかしたら源泉を辿って行けば何か手がかりが見つかるかも知れないな」

 

 ユウリがポツリとそういうと、まるで地図でも見て歩いてるのかと思うほど迷いなく、一本の細い通路へ進んでいってしまった。

 

「まっ、待ってよユウリ!」

 

 慌てて追いかける私たち。もうすっかりこのシチュエーションが定番になってしまっている。

 

 そんなこんなで奥へと進んでは見たが、手がかりらしきものは今のところ何も見つかってはいない。ついには行き止まりの場所まで来てしまった。行き止まりと言っても岩壁に囲まれてる訳ではなく、湖の上に立っているような感覚であり、おそらくここが源泉かと思われる。

 

 鍾乳石から流れ落ちる水滴の音しか聞こえないこの場所に私たち以外の人間がいるはずもなく、一同に重い沈黙が続く中、突然ナギが大声で叫んだ。

 

「おい! こっちに何かあるぞ!」

 

 ナギが指差した方を見ると、地面に何やら光る物体が、半分ほど顔を出しながら埋め込まれていた。

 

 それに近づいてよく見ると、それは血のように真っ赤な宝石だった。宝石の横には手で持てるくらいの大きさの瓶も埋まっており、中には手紙が入っている。

 

 私はなんでこんなところにあるのだろう、そう思いながらも、あまりにも美しいその宝石に目が離せないでいた。

 

 ずっとその赤い世界を、見つめていても、飽きないほど、魅力的で……。

 

 赤い景色が……、光って……、まるで……。

 

「…………!! …………ぃ!! …………だ!!」

 

 何も……、聞こ……えな……い……。せか……が……、と……、って…………。

 

「ミオ!!」

 

 がしっ!!

 

 後ろから肩を掴まれ、私はハッと我に返った。

 

 今……私どうなって……?

 

「ミオちん! 大丈夫!? 返事がないから心配したよ~!!」

 

「どうしたのシーラ? 私今どうなってたの?」

 

「あの宝石見たとたん、いきなりミオちんが石像みたいに動かなくなっちゃったんだよ!!」

 

「どっ、どういうこと!?」

 

「本っ当にお前はトラブルメーカーだな! あのままずっとあの宝石を見てたら今頃マヒして一生動けなくなるところだったんだぞ!!」

 

「ゆっ、ユウリ?! どうして!?」

 

 後ろを振り向くと、怒りと焦りに満ちた顔のユウリが私の体を支えていた。

 

「あの宝石は、見た者をマヒさせる危険な宝石だ。そしておそらくあれが……、エルフの里の宝だ」

 

「!!」

 

 そう言って手を離すと、その場にしゃがみこみ、地面にめり込んだルビーを力を入れて外した。

 

「どうしてこんなところにあるのかわからないが、これだけでもエルフの女王のところに返していかないとな」

 

 ユウリはなるべくルビーを見ないように埃を払い、自分の懐に入れた。

 

「なあ、きっとこれ、二人が書いた手紙だよな」

 

 ナギがルビーと一緒に置いてあった瓶を掘り起こすと、中にある手紙を取り出した。私たちもそこに集まり、ナギが手紙を広げるのを待つ。

 

 手紙には、小さな文字でこう書かれてあった。

 

『お母様へ。先立つ不幸をお許しください。私たちエルフと人間、この世で決して許されぬ愛ならば、せめて天国で幸せになります。――アンより』

 

 そんな……。まさか二人は……。

 

 私は無意識に湖の底を覗き込む。けれど、底は闇が広がっているだけで何も見えない。その暗くはっきりしない闇は、まるで今回の出来事を反映しているかのように思えた。

 

 手紙を読み終えたナギも、沈痛な面持ちで湖を見つめる。

 

「……二人はここへ身を投げたってことなんだよな。もっと早く周りが気づいてやってれば、こんなことにはならなかったんだろうに」

 

 そういうとナギは、湖に向かって拝礼をした。シーラもナギの隣に座り、必死に涙を拭っている。

 

 私たちがもっと早くここに来ていたら。

 

 理解してくれる誰かが周りにいてくれてたら。

 

 エルフの女王がアンさんのことを受け入れてくれてたら。

 

 もしエルフの女王がアンさんを探しに動いていれば――。そこまで考えて、どうしてアンさんがエルフの宝を持ち出したのか、なんとなくわかったような気がした。

 

 もしかしたら彼女は、女王に気づいてもらいたかったのかもしれない。自分たちがしたことが、宝を持ち出すほどの覚悟だったのだと。

 

 けれど結局真相はわからないまま、マディンさんとエルフの女王、お互い誤解を生んだまま、十年以上もの歳月が過ぎてしまった。お互いもっと話し合っていれば、こんな悲しい結末にはならなかったのではないだろうか。

 

 ただそれに気づいた所で、ニ人は帰っては来ない。わかっているのに悔しい気持ちが溢れ出し、必死に堪らえようと掌を握りしめる。

 

「とりあえず、俺たちが今できることをやるぞ」

 

 ふと肩にぽん、と手を置かれ振り向くと、ユウリが湖の方を見ながら何かを決意したように言った。

 

 そうだ。ユウリの言うとおり、私たちにしか出来ないことがあったんだ。

 

 このルビーと手紙を女王様に返せば、何か変わるかもしれない。私たちはユウリの呪文で洞窟の外へと戻り、再びエルフの里へと向かった。

 

 

 

「この手紙の文字は間違いなくアンの字……。ではアンはあの男を本当に愛していたのですね……」

 

 ユウリからルビーと手紙を受け取った女王様は声を震わせ、自身を納得させるようにそう呟いた。陶器のような肌の彼女の顔は、以前会った時よりも蒼白の色が滲み出ている。

 

「私が二人を許さなかったばかりに、アンには辛い思いをさせてしまった……。私は、私はなんて愚かだったのでしょう……」

 

 真紅の瞳から零れる無数の涙が、彼女の娘に対する愛情の深さを表している。女王様も、娘のアンさんに幸せになって欲しかったのだ。

 

「……わかりました。こうなってしまったのは私にも原因があります。この『目覚めの粉』を持って行きなさい。それでノアニールの呪いは解けるはずです。きっとアンもそれを望んでいることでしょう」

 

 女王様は側にいるエルフに『目覚めの粉』を持ってこさせ、ユウリに渡した。ユウリは深々とお辞儀をし、申し訳なさそうに言った。

 

「ありがとうございます。私も女王様の心中を察することもせず、不躾な態度をとってしまい申し訳ありませんでした。では、私たちはこれで失礼させて頂きます」

 

 くるりと踵を返し、この場から離れようと歩を進めようとしたとき、女王様に呼び止められた。

 

「先日、あなたは勇者オルテガの息子とおっしゃいましたね。あなたも、魔王を倒すのですか?」

 

「はい。父は私が幼い頃魔王を倒しに行ったまま、消息を絶ちました。未だ魔物が蔓延る世を平和へと導くため、私は父の意志を継ぐことにしたのです」

 

 そう並べ立てるユウリの口調は、どこか空々しかった。

 

「……そうだったのですね。私は人間全てを許した訳ではありません。ですが、この世界を救ってくださるあなた方には、出来る限りの協力をします」

 

 そういうと、今度は右手の中指に嵌めてあった小さな指輪を外した。

 

「アンの居場所を教えて下さったお礼も兼ねて、この『祈りの指輪』を差し上げましょう」

 

 小さな宝石がついたその指輪は、なんとなくだがさっきの洞窟と似た神秘的な雰囲気を出しているように見える。

 

「ありがとうございます。必ず魔王を倒し、世界に平和をもたらすことを約束します」

 

 指輪を受け取ったユウリは、まっすぐに女王様を見据えて言った。そこに映る眼差しは、一体何を伝えているのか、私には到底わからなかった。

 

 

 

 ノアニールに戻り、ユウリは早速『目覚めの粉』を使用した。粉を手のひらに乗せてみると、粉がひとりでに宙を舞い、やがて村全体に散らばっていった。

 

 手のひらから粉が全てなくなると同時に、静寂に包まれた村に人の話し声が次々と聞こえてくる。人の足音、動物の鳴き声、どれも当たり前に耳にする音だ。だが、この村にとっては十数年ぶりのことなのだ。

 

「よかった……! これで皆普通の生活に戻れるね」

 

 私がほっとしながら言うと、隣にいたユウリが難しい顔でため息をつく。

 

「そんな簡単に普通の生活に戻れるとは限らないけどな」 

 

「え?」

 

「眠ってたとは言え十数年も経ってたんだ。色々困ることも出てくるだろ。例えば、あそこの家を見ろ」

 

 ユウリに言われるがまま、西側に建っている家を見た。よく見れば、あちこち壁に穴が空いており、ちょろちょろとシロアリやネズミが行き来している。さらに屋根と壁の間には蔦や蜘蛛の巣が張っており、見る限りとても今後人が住めるような状態ではなかった。

 

「おそらく村人は呪いの副作用で老化までは進んでいないようだが、建物までは作用してなかったようだな」

 

「でもよ、案外何とかなると思うぜ? オレが住んでた塔だって、ジジイがオレくらいの頃からアジトとして使ってたらしいし」

 

「お前ら家族と同じに考えるな」

 

 冷静にユウリが言い放つ。

 

「そういえばナギのおじいさんって、昔何やってたの?」

 

 確かおじいさんの弟子が、ユウリが今持ってる盗賊の鍵を作った人だったんだっけ。てことはやっぱり……。

 

「ジジイの話だと、当時アリアハンじゃ知らない人はいないくらい有名な義賊だったらしい」

 

「義賊?」

 

「昔のアリアハンって今より魔物がいなかったからなのか知んないけど、貧富の差とか結構ひどかったみたいだぜ。そんでジジイをリーダーに盗賊団結成して、悪どい商売してるお偉いさんから金品盗み出して貧しい人たちに分けてたらしい」

 

「へぇ~、ナギのおじいさんってすごい人だったんだね!」

「てぇことはぁ、ナギちんもおじーちゃんみたいになりたくて盗賊になったの?」

 

「ちっ、ちげーよ!! ジジイに勧められたのもあったけど、ただなんとなく生活するのに便利だと思ったからだよ!!」

 

 シーラの鋭い指摘に、ナギは顔を赤くしながら必死に反論した。なんて分かりやすい反応なんだろう。

 

「お前ら、無駄話してないでさっさと行くぞ」

 

 ユウリに促され、はっと顔を見合わせる私たち。そうだった。もう一人、報告しなければならない人がいるんだった。

 

 

 

「そうか……。あいつはエルフの娘さんと一緒に行ってしまったのか……」

 

 落胆するマディンさんの表情は、何か吹っ切れたようだった。

 

 きっと、こうなることを予想していたのかもしれない。女王様の時とは違い、妙に落ち着き払っている。

 

「ありがとう。息子の居場所を探してくれたばかりか、村の呪いまで解いてくれるとは、夢にも思わなかった。おそらく今まで呪いがかけられていたことを知っているのは、わしの他にはいないだろう。村を代表して、重ねて礼を言うぞ」

 

 村の呪いが解けても、マディンさんの息子さんは帰ってこない。それでも、一人残されたマディンさんは生き続けなくてはならない。

 

 マディンさんにとって、それはとても辛いことだ。それでも彼は、笑顔で私たちを見送ってくれた。

 

 そもそも、皆がこんな辛い思いをするくらいなら、駆け落ちなんてしない方がいいんじゃないのかな?

 

 私にはまだ恋とかしたことないし、偉そうに言える立場じゃないけど、やっぱり自分が幸せになるなら周りにも祝福してほしい、って思う。

 

 などとぼんやり考えながら夕日を眺めていると、視界の端で呆れ顔をこちらに向けているユウリと目があった。

 

「相変わらずの間抜け面だな、間抜け女」

 

 もう何度目のやり取りだろう。もうすっかりユウリの毒舌が一種の挨拶として定着してしまっている。私は半ば諦めたようにため息をついた。

 

「そんなに私の顔って間抜けかなぁ?」

 

「そんなことを聞いてる時点ですでに間抜けだろ、間抜け女」

 

 そうすげなく言い返され、小さく肩を落とす。もうちょっと言い方をなんとかしようとは思わないんだろうか。

 

 と、ふとあることを思い出す。

 

「間抜け女じゃなくて、ミオだってば。……洞窟にいたときはちゃんと名前で呼んでくれたじゃない」

 

 私は唇を尖らせながらユウリを見た。実は私が洞窟でルビーを眺めてたとき、ユウリが私の名前を呼びながら止めてくれたのを知っている。

 

 すると、いつもの強気な姿勢はどこへいったのか、急に沈黙してしまった。

 

「もしかして、今気づいたの?」

 

「……」

 

 無言。てことは、無意識だったのかな?

 

 それはさておき、彼の様子を見るに、今まさにユウリに一矢報いるチャンスかもしれない。これを機に私やシーラたちにもちゃんと名前で呼んでもらおう。

 

「じゃあさ、試しにもう一回名前呼んでよ! 私、またユウリに名前呼ばれてみたいな」

 

「なっ……、バカか! 用事もないのに呼べるか!」

 

 いつになく動揺の色を隠せないユウリ。気分を悪くしたのか、そのままそっぽを向いてしまった。

 

 なんだか見てはいけないものを見たような気分になり、これ以上からかうのはよそうと口を噤んだ。

 

 そこへ、ナギとシーラが走りながらこちらへ戻ってきた。シーラの手にはこの前おじいさんと約束したお酒がぶら下がっている。

 

「ったく、ホントにお前は酒のことになると人一倍しっかりしてるよな」

 

「えへっ、だって約束してたもん♪ ちゃんと守らないとね♪」

 

「二人ともあのおじいさんのところにずっといたの?」

 

「いや、そのあとちょっと村の様子をぐるっと見て回ってた。その間シーラは酒もらいにずっとじいさんの家にいたみたいだけどな。そんで、村の人と話してるとき、ちょっと気になる情報を掴んだんだ」

 

「気になる情報?」

 

 そう言うとナギは、ユウリの顔をちらっと見て、意味ありげに含み笑いをした。

 

「ああ。多分勇者サマも知らない情報だと思うぜ。何しろ十数年前の話だからな」

 

「……いいからさっさと教えろ」

 

 ユウリの言葉に、ナギは小さく首を振る。

 

「タダじゃあ教えられねーなー。そうだな、1000ゴールドくれたら話してやるよ」

 

「ベギラマ」

 

「おーっと! そんな何回も食らってたまるか!」

 

 ひらりとその場から飛び退くナギ。だが、着地点に向かってユウリが再び手をかざした。

 

「メラ」

 

「うわわわわ!?」

 

 ナギの足が着く前に小さな火柱が現れ、炎が彼を包み込んだ。割とショッキングな出来事なのだが、いつも通り魔力を制御しているためか、大事には至らない。

 

「で、情報ってのは一体何だ?」

 

 事も無げに再びナギに質問をするユウリ。だがナギはしばらく喋ることが出来ない。代わりにシーラが一緒に聞いてたらしく教えてくれた。

 

「んーとね、ユウリちゃんのお父さんが『魔法の鍵』ってのを手にいれるために、アッサラームに行っちゃったんだって」

 

「親父が!?」

 

 と言うことは、十数年前にユウリのお父さん……オルテガさんがここに来て、ここからアッサラームに向かったってこと? そもそも『魔法の鍵』って何?

 

「古い文献によると『魔法の鍵』は、『盗賊の鍵』よりも複雑で魔法のかかった扉なんかも開けられるようになる鍵だ」

 

 私の心を読んだのか、それとも顔に書いてあったのだろうか。ユウリが的確に私の疑問を解決してくれた。

 

「でも、なんでオルテガさんはその鍵を手にいれようとしたんだろう? 結局鍵は手にいれたのかな?」

 

「さあな。とりあえず、アッサラームまで行ってみないとわからない。ここから徒歩で行くには遠すぎるし、ひとまずルーラでロマリアまで戻るぞ」

 

「あ! ロマリア行くなら宿入ろうよ! あたしシャワー浴びたい!」

 

 シーラの提案に満場一致で賛成した私たちは、再びロマリアに戻ることにした。

 

 宿のおかみさんにノアニールのことを報告すると、おかみさんはほっと胸を撫で下ろし、私たちを快く泊めてくれた。

 

 その夜、シャワーを浴び終えたシーラがまた格闘場に行こうとしたのを私が必死に止めたのは余談である。

 

 

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