俺様勇者と武闘家日記   作:星海月

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それぞれの恋愛事情

 

 稽古場の外で佇んでいるビビを見つけたあたしは、なるべく脅かさないようにゆっくりと彼女に近づいた。

 

「ああもう、なにあのルークって人!? 目茶苦茶タイプなんですけど!? どうしよう、あんな挙動不審な姿見せちゃって、第一印象最悪じゃない!!」

 

 わりかし大きな独り言が聞こえるけど、本人は気づいてないのかな?

 

「ビビ?」

 

「きゃああああああっっっっ!!??」

 

 あたしが呼ぶと、ビビは思い切り背筋を伸ばしながら絶叫を上げた。

 

「……って、シーラじゃない。脅かさないでよ!」

 

「全然脅かしてるつもり無いけどね?」

 

 ビビがこんなに取り乱す姿は初めて見るので、なんだか新鮮だった。それなら余計に、あたしは忠告しなければならない。

 

「それよりビビ、るーたんだけは止めといたほうが良いよ」

 

「や、止めるって何よ!?」

 

「……るーたんには好きな人がいるの。だから、諦めるなら今のうちだよ」

 

「なっ、何言ってんのよシーラ! 好きな人とか、諦めるとか、まるで私がルークさんのことを好きみたいじゃない!!」

 

「違うの?」

 

「ちっ、違うわよ! そりゃあ顔もタイプだし優しそうだしそれでいて筋肉質なところとか男らしいとか包容力がありそうだとかいろいろあるけど、だからといってそんな簡単に好きになるわけないじゃない!」

 

 今の一瞬でそんだけの魅力を言えるなんて、好きでもなければできないと思うけど?

 

 なんて本人に言うと更に反論されそうなんで、取り敢えず黙っておいた。

 

「まあ、違うならいいんだけどさ。ビビはもうすぐステージ上がるの?」

 

「もちろん! 私メインのステージだからね。気合い入れて練習しないと。そうだ、シーラたちも観に来てくれる?」

 

「うーん……、ユウリちゃんたちが来るまでなら観れるけど、どうだろう?」

 

「そう……。もし観れるなら観てね! よかったらルークさんの分のチケットも用意するから!」

 

 そういえばあたしたち四人は前にここで手伝いをした時に、いつでもステージを見られるフリーパスをもらってたんだった。ていうかビビ、早速るーたんに自分のステージを観てもらおうとしてない?

 

「ナギちんもいるから、せっかくだし観てこうかな。アルヴィスは? 仕事?」

 

「あー……。アルヴィスは今、冒険者としてロマリアに出張に行ってるわ。最近また魔物が頻繁に現れるようになったんだって」

 

「へえ? アルが駆り出されるなんてよっぽどの事態だね」

 

「最近は冒険者自体減ってるからね。一週間くらいしたらまた戻ってくると思うけど」

 

 言いながらあたしは、今まで立ち寄った町や村での魔物に関する情報、遭遇した魔物の種類や状態などを思い起こした。ほんの少しの異変が、魔王討伐に近づくためのヒントに繋がるかもしれないからだ。

 

「どうしたの? シーラ」

 

「あ、ううん。なんでもない。それじゃステージ楽しみにしてるね☆」

 

 特に今気にすることでもないなと判断したあたしは、はぐらかすように笑顔を作ってみせた。

 

「うん! 今日はステージが終わった後も用があるから皆には会えないかもしれないけど、もしミオたちに会ったら一緒に観てよね!」

 

「おっけー♪」

 

 なんてやり取りを交わしながら、あたしはまた別のことを考えていた。

 

「ミオちんたちが来たら、もっとややこしいことになりそうだなあ……」

 

 特に恋愛ごとに関しては、色々と面倒臭いことが多い。だからあたしは、恋愛なんてこりごりなんだ。

 

 

 

 なんて懸念していたけれど、結局ミオちんたちがあたしたちと合流したのは、ビビのステージが終わった後だった。売れっ子のビビはこの後も多忙でそれきり会うことはなかったけれど、ミオちんはビビのステージが観られなくて最後まで残念がっていた。だけど内心、ビビとミオちんが鉢合わせしなくてホッとしている。

 

 あたしがヤキモキするのもお門違いだが、もしるーたんの好きな人がミオちんだってビビにバレてしまったら、二人の関係にヒビが入るかもしれない。あたしは二人とも大好きだから、二人には傷ついてほしくない。そんな勝手なエゴを理由に、あたしは一人、誰にも気づかれないまま胸をざわつかせていたのだった。

 

 ちなみにどうしてミオちんたちがこんなに遅くなっていたかと言うと――。

 

「あのさミオ、一つ聞いてもいいかな?」

 

 ステージが終わってビビ目当てのお客がいなくなり、残ったのはステージの余韻に浸る人たちと、劇場内の食事を楽しむ人たちのみになった。ちなみにあたしたちは後者である。

 

 丸テーブルに向かい合わせに座り、各々軽い食事を頼んだ。ミオちんとユウリちゃんはついさっき来たけれど、何故か飲み物だけを注文していた。気にはなりつつ、あたしは隣に座ったミオちんに、ユウリちゃんが着ている新しい防具とミオちんの頭に挿してある髪飾りに目が行ったので尋ねようとしたんだけれど、しれっとミオちんの反対側の隣に座っているるーたん(服は着ている)が先に口を開いた。

 

「……今までユウリと二人でどこ行ってたの?」

 

 普段の朗らかなるーたんの目が、今や恐ろしいくらいに血走っているのをあたしは見逃さなかった。

 

「え? いや……、だから、ドリスさんのところに……」

 

「それにしては随分遅かったよね。それまで二人で何してたの?」

 

「べ、別に何もないってば! お店からここまでまっすぐ来たんだよ!」

 

 ああ、ミオちん。そんなわざとらしく首を振っても却って誤解されるよ? 

 

「ふうん……。そっか」

 

 するとスッと目を細めたるーたんは、いきなりミオちんの口元を指でなぞるように触った。

 

「るっ、ルークっ!!??」

 

「口元になにか付いてたみたいだけど、ここに来る前に何か食べてきた?」

 

「うっ!?」

 

 るーたんの一言に、慌てて自分の袖口で口元を拭うミオちん。異性にあんなことをされても慌てるだけのミオちんは、いくら恋愛対象とは見てなくても流石だなと思った。そしてさっきからユウリちゃんの視線がこっちにまで突き刺さるほど痛い。

 

「ごめんなさい! 本当はここに来る途中、露店で串焼きを食べてました!」

 

「やっぱりね。さっき飲み物しか注文してなかったから、おかしいと思ってたんだ」

 

 ユウリちゃんですら舌を巻くような名推理に、るーたんに責められているミオちんは頭が上がらない様子だ。

 

「あ、それと、口元に何かついてたってのは嘘だから」

 

「え!?」

 

「カマかけたんだよ。もし心当たりがあれば、何かしらの反応するかなと思って」

 

「ええっ!?」

 

 この男、羊の顔をして中身はとんだ狼だ。あたしはミオちんの身の危険を案じ、彼女を横から抱きしめた。

 

「うわー、るーたん意地悪ーい★ ミオちんは純粋だから、こーゆー男に引っかからないようにあたしが守ってやんないとね♪」

 

「何言ってんだよシーラ! 僕よりユウリのほうが質悪いじゃないか!」

 

 そう言ってユウリちゃんをビシッと指差するーたん。その発言に、向かいに座っているユウリちゃんの額に血管が浮かぶ。

 

「おい。今お前、聞き捨てならないことを言っただろ」

 

「先に抜け駆けした奴が偉そうに言わないでくれるかな?」

 

「そもそもお前が変態覆面男みたいなことをするからだろ」

 

「覆面? 変態はわかるけど覆面ってなんだよ!?」

 

「いや変態もわかっちゃ駄目でしょ!?」

 

 火花散る二人のやりとりにミオちんがツッコミを入れるが、そんな言葉など聞く耳も持たないのか、それ以降もしばらく二人の応酬は続いた。

 

「……ねえ。あの二人って、前からあんなに仲悪かったっけ?」

 

 二人の争いから離脱したミオちんがあたしに尋ねる。

 

「う〜ん、多分あたしたちの知らない間に何かあったのかもしれないね☆」

 

「いやそんなめいっぱい明るく言われても……」

 

「それよりミオちん、その髪飾りカワイイね! すっごく似合ってるよ!」

 

 あたしの言葉に、ミオちんははにかむような笑みを浮かべた。

 

「ありがとう。ドリスさんの店で買ってもらったの」

 

「買ってもらった? もしかしてユウリちゃんに?」

 

「あ! ……う、うん」

 

 あたしに気づかれて、しまったという顔をするミオちん。うん、あたしもるーたんのこと言えないな。

 

「へ〜、ユウリちゃんがミオちんにね〜、へ〜?」

 

 あたしはニヤニヤしながらユウリちゃんに視線を向ける。囃し立てられることを嫌うユウリちゃんは、あたしの視線をわざとらしくそらすと、完全無視を決め込んだ。

 

 さらにミオちんの横では、るーたんが一転、落ち込みながらぶつぶつと独り言を言っている。

 

「アクセサリーを買ってあげたり、二人で串焼き食べたり……。それってもう完全にデートじゃないか……」

 

 一方、ビビの踊りを見て陶酔しきってるのは、言うまでもなくナギちんである。

 

「ああ……、今日のビビアンちゃんの踊りも最高だった……。神に感謝したい」

 

 普段から信心深いわけでもないのに、ホントナギちんってば調子のいいことばっか言う。結局ナギちんやるーたんも、この町の男の人と同じように、女性のために一喜一憂するんだなあ、としみじみ思った。

 

――だからだろうか。余計に昔のことを考えてしまう。

 

 家出同然でここにやってきて、ホームレス生活をしていたこと。大人や男に騙されて色んな目に遭ったこと。ボロボロのあたしをアルヴィスが拾ってくれたこと。劇場で働き始めてから、スタッフと色々揉めたこと。ビビアンと出会って、新しい自分に生まれ変われたこと。

 

 だけど今のあたしがあるのは、この町のおかげだ。色々あって酸いも甘いも噛み分けたけど、結局この町があたしの原点なのだ。

 

 そんな懐かしい気持ちに浸りながら、あたしはようやく来たウイスキーのボトルを勢いよく開けたのだった。

 

 

 

 

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