俺様勇者と武闘家日記   作:星海月

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海原での一戦

 

 祠の牢獄でサイモンさんの魂と会うことが出来た私たちは、ついにガイアの剣を手に入れた。ナギの予知夢では、その剣をネクロゴンドの火山に突き刺すことで魔王の城への道が拓けるとのことで、ようやく一歩近づいたことになる。

 

 それと、ルークは初めてお父さんと向き合えたようで、あれから少し肩の荷が下りたのか、すっきりした顔をしていた。

 

 そんな彼にも心境の変化があったようで――。

 

「ごめん皆。一度サマンオサに戻って、母さんに父さんのことを報告したいんだけど、寄ってもいいかな?」

 

 ルークがそう切り出したのは、サイモンさんとの再会から一夜明けた朝。食堂で皆と同じテーブルで朝食を食べていた時のことだった。

 

「ああ。サイモンさんのことなら、すぐに伝えたほうがいいもんな。オレは賛成だぜ」

 

「あたしも〜♪ るーたんのお母さんのためにも、早めに行っといたほうがいいよ☆」

 

「二人の言う通りだよ。私も皆の意見に賛成!」

 

 ナギとシーラはすぐに了承した。もちろん私も大賛成で手を挙げた。

 

 同じくルークの話を聞いていたユウリが、いつもの仏頂面でルークに尋ねた。

 

「そうか。ならとっとと一人で国に帰れ。お前、ルーラが使えるんだろ?」

 

「一応使えるけど、魔力が足りないのか移動範囲が隣町程度までしかないんだ。ここからサマンオサまでは、遠すぎて行けないよ」

 

 そこへシーラが口を挟む。

 

「そもそもここでルーラなんか使ったら、行くのはいいけどサマンオサからあたしたちのところには戻ってこれないと思うよ?」

 

 ルーラが移動できる場所は、主に大量の魔多い町や村がほとんどだ。ここからサマンオサまで移動するのは良いのだが、サマンオサから今私たちがここにいる船の上に移動するには、移動先であるこの船内に魔力を持っている人間がある程度いなければならない。

 

「ふん。使用者の魔力と応用力さえあれば、出来ないこともないはずだがな」

 

 この前テンタクルスと戦ったとき、ユウリはルーラで船まで戻ってこられたが、それは移動距離が短かったのと、移動先にいたシーラの魔力量、ユウリの応用力がなせる業だった。移動距離と魔力は比例しているらしく……ユウリに聞いただけでは私にはうまく説明できないが、とにかくここでルークがルーラを使ってサマンオサに向かうのは難しいようだ。

 

「だから結局あたしたち皆でどこか大きな街に寄って、そこからルーラでサマンオサに行くしかないんだよ。この近くならポルトガかなあ?」

 

「ったく、いちいち面倒な奴だな」

 

 はあ、とユウリはわざとらしくため息をつくと、食べ終わった食器を持って席を立った。

 

「ヒックスに、ポルトガまで向かうよう伝えてくる」

 

 料理長に食器を返しながらそう告げると、ユウリは食堂を後にした。

 

「……僕未だに、ユウリがいい奴かどうかわからないんだけど」

 

「安心しろ。オレだって未だにあいつのことはよく分からねえ」

 

 ルークの疑問に、ナギは神妙な面持ちで答える。

 

「いやいや、ナギちんがわからないのは単純に鈍感なだけだよね?」

 

「なんだと!? シーラ!!」

 

 シーラの一言が癇に障ったのか、ぎろりと彼女を睨むナギ。そんな彼を脅威と感じたのか、すぐにシーラは席を離れる。

 

「盗賊のくせに鈍感なんだもんな〜、ナギちんは」

 

「おいこら! 今のは聞き捨てならねえ!!」

 

「ここまでおいで〜♪」

 

 シーラに掴みかかろうとするが、彼女はいつになく素早い動きでナギから逃れると、そそくさと食堂から去っていってしまった。

 

「待ちやがれ!!」

 

 一方ナギも、自分のアイデンティティを馬鹿にされたからか、いつも以上に躍起になってシーラを追いかけようと彼女の後を追った。それでも、あの二人のやりとりはいつものことなので、そっとしておくことにした。

 

「……ふふっ、やっぱりあの二人、面白いな」

 

 二人のやり取りを見ていたルークは彼らがいなくなった途端、堪えきれず笑みを漏らした。つられて私も口元が緩む。

 

「……ミオ。サマンオサに戻ったとき、君も一緒についてきて欲しいんだけど」

 

 急に真顔で話すルークに、私は目を瞬かせる。

 

「? 別にいいけど、他の皆も一緒に来ると思うよ?」

 

「あー、えーと、あんまり大勢で行くのも申し訳ないし、他の皆には待っててもらおうと思って」

 

「そう? 別に私は構わないけど……」

 

 むしろサイモンさんのことを話すなら、皆と一緒のほうがいいと思うけど。

 

「よかった! ありがとう」

 

 嬉しそうに答えるルークを見て、私は疑問に思いつつも笑顔で返した。

 

 

 

 その後私たちは、船の進路をポルトガに変更することに決めた。そこまでは良かったのだが――。

 

 祠の牢獄からポルトガに行くのに、直線距離で見ればそれほど遠くはないのだが、地形や潮の流れの関係で、かなり遠回りしていかなくてはならないらしい。ヒックスさんの見立てでは、一週間以上はかかるのだとか。まあ、今更船の長旅には慣れてるし、旅自体も順調なので大した問題なはなかったのだが。

 

 ところが五日目の昼を過ぎた頃、突然事件は起きた。

 

「船長! 一時の方向に船影が見えます!」

 

「何っ!? この海域でか!?」

 

 それはちょうど、私たち五人が甲板で戦闘のトレーニングしていたときだ。見張り台の上から、切羽詰まった声が聞こえた。すぐに反応したヒックスさんたちの話の内容から察するに、どうやらこのあたりで他の船を見るのは珍しいようだ。

 

「どうしたんだ、ヒックス? 船くらい見かけても不思議ではないだろ」

 

 ユウリの言う通り、今までの船旅でも数は少ないが何度か他の船を見かけたことがある。魔物が増えて船を出す国は少なくなってはいるが、それでも経済上、その他諸々の事情で船を出さなければならない場合があるからだそうだ。

 

「ええ。ですがここはどの国も航行区域に入ってないはずなんです。私達の船は魔王討伐の名目で特別にどの海域でも航行できるよう許可されていますが、私たちの船以外でこの区域外に船がいるとしたら……、海賊船かと」

 

『海賊船!?』

 

 ええと、海賊船てことは、海賊が船に乗ってるってことで、海賊っていうのは、盗賊の海バージョンってことで……。

 

「まさか俺達の船を狙っているってことか?」

 

「そのまさかだと思います。海賊たちも、最近通る船が減ってきているから、ここまで範囲を広げているのでしょう。近づかれたら襲いかかられるかもしれません。航路を変更して逃げたほうが良いかと」

 

「いや、いっそのこと返り討ちにしてやればいい」

 

「え!?」

 

 驚愕するヒックスさんに、ユウリは自信に満ちた目で答える。

 

「勇者であるこの俺が、海賊ごときに尻尾を巻いて逃げるなんてありえない。このままあの船に向かって突撃するぞ」

 

「な、なんと……! さすがは勇者様ですな!」

 

 ユウリの勇姿に、ヒックスさんは尊敬の眼差しを彼に向けながら感嘆した。

 

「そーだぜ! 魔王を倒すオレ達が、今更海賊ごときにビビってたまるか!」

 

「海賊ってサマンオサ近海にいるって聞いたよ。故郷の海が荒らされるのは僕も黙ってられないな」 

 

 ユウリの意見に、ナギやルークも海賊と聞いて息を巻いている。

 

「あーあ。男どもはやる気だね。まあ、あたしもおんなじ考えだけど」

 

 シーラまでもがやる気満々である。これでは私だけ乗り遅れてしまってるではないか。

 

「え、えっと、私も海賊と戦う!」

 

『うん。頑張れ』

 

 空回りする私に、皆は冷めた目で答えたのだった。

 

 

 

「おれたちゃ、泣く子も黙るアシッド海賊団だ! 金目の物を置いていけ!! さもなくばこのおれのブロンズナイフの餌食に……」

 

「イオラ」

 

 ぼおおおぉぉぉん!!

 

『ぎゃああああああっっ!!』

 

 ユウリの呪文により、ナントカ海賊団の半数以上が吹っ飛んだ。

 

「ユウリちゃん! ちょっとはあたしたちの分の活躍も残しといてよ!」

 

「お前らがどんくさいのが悪い」

 

 ふんと鼻を鳴らし、目の前にいる黒焦げの海賊たちを横目で見遣るユウリ。

 

 これは一体どういう事態なのかと言うと、向こうから海賊船が接舷してきたあと、船から海賊たちが現れた。そしてその中の一人が前に出て、居丈高な口上を始めた。それを最後まで聞くことなく、ユウリが呪文一発で海賊たちを一掃した、というわけである。

 

「く……くそっ! よくもおれたちの部下を!! 全員、総攻撃だ!!」

 

「ヒャダルコ!!」

 

 カキイイィィン!!

 

「シーラ!! お前も人のこと言えねえだろうが!!」

 

「ごめーん♪ つい新しい呪文を試してみたくなっちゃって☆」

 

 残り半分の海賊たちが、シーラの呪文によって氷漬けにされた。残っているのは、首領らしき海賊ただ一人。

 

「ち、ちくしょう!! こうなったら破れかぶれだ!!」

 

 やけになった海賊は、ブロンズナイフを振り回し、タラップを越えてユウリに突っ込んできた。それを煩わしそうに眺めながら、ユウリは鞘から剣を抜いた。

 

「いいのか? 俺は魔物だろうと人間だろうと容赦はしない。殺す気で行くからな」

 

 その瞬間、ユウリの体から殺気が放たれた。一度でも戦いに身を置いた人間なら、彼がどれほどの手練れかわかるだろう。そして実感するのだ、自分と相手の圧倒的な差に。

 

「あ、あ……」

 

 体を震わせながら、海賊の手からナイフが滑り落ちた。カラン、と乾いた金属音が響いた後、丸腰の海賊は突然膝をついて土下座した。

 

「す、すいませんでした!! ここにあるお宝は、すべてあなた方にお譲りします!!」

 

「ふん。俺は海賊ではないからな。全部とは言わん、八割で勘弁してやる」

 

「いや、それでも十分要求してんじゃねえか」

 

 ユウリに聞こえないほどの小声でツッコミを入れるナギ。

 

 すると、何やらルークがある一点を見つめて固まっている。

 

「どうしたの? ルーク」

 

「あのさ、あそこにいるのって、船じゃない?」

 

『え!?』

 

 その言葉に、甲板にいた全員が一斉に振り返る。ルークの視線の先には、水平線の上にぽつんと置かれた黒い船影。紛れもなく船である。

 

「まさか……、この船以外にも海賊船が!?」

 

 珍しく動揺を隠せないヒックスさんに、ユウリはギロリと土下座を続けている海賊を睨みつける。

 

「おい!! あれはお前らの仲間か!?」

 

「ち、違います!! おれたちは何も知りません!!」

 

 仲間じゃない!? じゃあ、あの船は……。

 

「ユウリ!! あの船、ここに向かって大砲を打つ気だぞ!!」

 

「なんだと!?」

 

 いつの間にか鷹の目で例の船を見ていたナギが叫んだ。不測の事態にユウリにも焦りの表情が見える。

 

「大砲って……! そんなの打ち込まれたらこの船ひとたまりもないんじゃ……」

 

「いえ、おそらく相手は威嚇する目的で打とうとしてるんだと思います。海賊なら、この船も戦利品の一つですからね。迂闊に船を沈むことはしないはずです」

 

 海のことに詳しいヒックスさんの説明に、私たちは納得した。

 

「だが、やられっぱなしではいずれ攻撃されるかもしれない。なにか迎え撃つ方法はないか?」

 

「一応この船には、緊急用として左右に一門ずつ砲台が装備されてます。ですが、この距離で迎え撃つのは難しいかと……」

 

「なら、相手が大砲を撃ってきたら、この船に当たるように船を近づけてくれ」

 

「船に当たるようにですか!? いくらなんでも無茶では……」

 

「シーラ。バシルーラで大砲の弾を弾き飛ばせるか?」

 

「なっ、何それ!? でも、やってみる!!」

 

 ユウリの半ば無茶な提案に戸惑うシーラだったが、すぐに了承した。

 

「ヒックス。絶対にお前の船に被害は出さない。シーラの呪文の腕は確かだ」

 

「わっ、わかりました!」

 

 ユウリの自信たっぷりに言い切る態度に、ヒックスさんはすぐに頷いた。

 

「おい雑魚!! 今すぐそのタラップを外せ!! あと今すぐ自分の船に戻れ!!」

 

「はっ、はいっ!!」

 

 瞬時に土下座から飛び上がった海賊は、急いで自分の船に戻り、私たちの船にかけられていたタラップを外し始めた。

 

「ヒックス。あの船に向かって大砲を向けろ。弾は入れなくていい」

 

「わかりました!」

 

 ヒックスさんは全員に指示を出し、自身も操舵室へと向かった。

 

「バカザル、船の様子はどうだ?」

 

「船の方は全く動いてねえな。ただ砲身は明らかにこっちを向いてる」

 

「いつ打ってもおかしくないな。シーラ、呪文の準備を頼む」

 

「おっけー☆」

 

 的確に指示を出すユウリに、私は自分がいつどんな役回りをされるか内心ワクワクしながら待っていた。

 

「……」

 

「……」

 

 と思ったら、ユウリはこっちを見向きもせずにナギと二人で船の様子をじっと見ている。手持ち無沙汰の私とルークは、落ち着かない心持ちで彼ら二人を眺めていた。

 

「……えーと、私たちには何か指示ってないの?」

 

 おずおずと尋ねると、ユウリは眉を顰めながらこちらを向いた。

 

「別にない」

 

 そっ、そんなっ!! 私は頭の上に石を落とされた気分だった。

 

「確かに、今僕らにできることってないよね……」

 

「ルークまでそんな事言わないでっ!!」

 

 ううっ。せっかく自分も船の乗組員として働けると思ったのに。なんだか置いてけぼりにされた気分でがっかりだ。

 

「安心しろ。お前らにも仕事はある。あの船に乗り込んだ時に一緒に戦うぞ」

 

「わ、わかった!」

 

 戦闘なら得意分野だ。私は食い気味に了承した。

 

「来るぞ!!」

 

 ナギの一声に、一気に船上に緊張が走った。と同時に、船影からぽつんと黒い点のようなものが現れ、ものすごい勢いでこちらに向かってきたのであった。

 

 

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