俺様勇者と武闘家日記   作:星海月

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海賊の船

 

 私たちの船を狙って、海賊らしき船が放った黒い点……改め砲弾がこちらに向かって飛んできた。

 

 だが、ヒックスさんの予想通り、こちらの船に直撃することはなく、砲弾の軌道は弧を描き、何もない海面へと向かっていく。

 

「砲弾の方へ、全速前進!!」

 

 そこへヒックスさんの号令とともに、船がまっしぐらに砲弾の着弾地点へと向かっていく。

 

「うわっ、早い!!」

 

 急にこんな船の速度が速くなるわけはない。実はその間、他の船員たちが櫂を一生懸命漕いでいるのだ。後でヒックスさんに聞いたら、船員の中にピオリムが使える人がいるらしく、その呪文を船員にかけて漕ぐスピードを早めてるんだとか。呪文が切れた後が怖いような気がするけど……。

 

 そんな中、舳先の前に立つシーラが目の前に向かってくる砲弾に向けて、呪文を放つ。

 

「バシルーラ!!」

 

 ゴオオオォォォォッッッ!!

 

 前に突き出した彼女の手のひらから、強風が生み出された。前回はユウリとルークをテンタクルスのいる海上へ飛ばしたこの呪文、どうやら本来は魔物を吹き飛ばすためのものらしい。前回は人間、今回は砲弾と、未だに本来の使われ方をされないというなかなか不遇な呪文である。

 

 強風に煽られた砲弾は、こちらに直撃する手前で急に軌道を変え、180°反対の方向へ飛んでいった。その先には、砲弾を放った主である、例の海賊船の姿があった。

 

 ザバーーーン!!

 

 直撃は免れたが、盛大な波しぶきが相手の船にかかる。多少船を揺らしたが、無傷であった。

 

「ふーっ、あっぶなかったー☆」

 

 疲労感漂うシーラに、私は駆け寄った。

 

「大丈夫? なんかいつもより疲れてない?」

 

「うーん、やっぱり人間とかの生き物より、無機物を飛ばすほうが魔力使うし疲れるね♪」

 

 そういうものなのか。どうやらシーラには無理をさせてしまったようだ。

 

 とはいえ、これであの海賊船からの攻撃をかわすことができた。あとはあの船がどう動くか……。 

 

「おい! 船がこっちに向かってくるぞ!!」

 

「やっぱりな。おい、大砲の準備はできたか!?」

 

 鷹の目を使うナギの声に、想定していたかのようにすぐに近くの船員に尋ねるユウリ。

 

「はい、こちらは準備OKです!」

 

「よし、あの船が大砲の射程圏内に入ったら火をつけろ。あとタラップの準備もだ」

 

「はっ、はい!!」

 

 急ぎ準備する船員たちに、ユウリは指示をしながらこっちを見た。

 

「おいお前ら、出番だ」

 

「へ?」

 

「俺が合図をしたら、一気にあの船に乗り込むぞ」

 

「へっ!? あっ、そっか!」

 

「よっしゃ! やっとオレの出番だな!」

 

「僕も久々にひと暴れできるよ」

 

 ナギやルークも、臨戦態勢に入っている。

 

「ミオちん。もう疲れたから、あたしの分まで頑張ってね☆」

 

「うん! シーラはゆっくり休んでて!」

 

 シーラに託され、私は元気よく頷いた。

 

「ユウリさん!! 大砲に火をつけました!」

 

「よし!! ヒックス、船を左舷へ向けてくれ!」

 

「わかりました!!」

 

 操舵室から顔をのぞかせるヒックスさんの返事とともに、大砲から盛大な破裂音と煙が立った。弾が入っていない、すなわち空砲だが、相手を驚かすには十分だった。

 

「へっ。連中、今の音を聞いて混乱してるみたいだぜ」

 

 相手が近づいたからか、鷹の目で船の様子までわかるようになったらしい。ナギが皮肉交じりに笑った。

 

「ヒックス、全速前進!」

 

「アイアイサー!!」

 

 いつの間にかヒックスさんの掛け声が変わっている。ヒックスさん自身もなんだかノリノリである。なんて呑気に考えてたら、急に船が再び速度を増した。

 

「……ヒックス、やり過ぎだ……」

 

 ああっ、いつの間にかユウリの船酔いが復活してる!? さっき砲弾に向かったときも速かったけど、もしかしてその時から具合が悪かったのかな?

 

「ヒックスさん!! もうちょっと遅くして! ユウリが吐きそう!!」

 

 必死に止めようとしたが、一致団結した船員たちのテンションはなかなか止められない。けれどそのおかげか、みるみるうちに相手の船との距離が縮まっていく。鷹の目がなくても、船の様子がはっきりと見えるくらいまで近づくと、船は相手の船に接舷させるため方向転換した。

 

「た、タラップを……」

 

 弱々しい口調で全員に伝えようとするユウリ。その後ろ姿がとても辛そうだ。それでも船員には伝わったのか、無駄のない動きでタラップを設置してくれた。

 

「何だよユウリ、だらしねえな! だったらオレが代わりに挨拶してやるよ!」

 

「なら僕も行くよ!」

 

「あっ、待ってよ二人とも!」

 

 自信たっぷりにタラップを駆けていくナギ。それを追いかけるルークに、私も及び腰ながら二人の後についていく。相手の船の近くまでやって来ると、突然人影が現れた。

 

「へえ、わざわざ敵の船に乗り込むなんて、大した度胸じゃないか」

 

 やや低いが、はっきりとした口調の声。そこには、一人の女性が片手に大きな斧を持ちながら悠然と立っていた。その後ろには、複数人の海賊らしき男たちがそれぞれ色んな武器を構えている。どうやらこちらの陽動を読み、私たちが乗り込んでくるのを待ち構えていたようだ。

 

 立ち位置から察するに、目の前にいる彼女はこの海賊たちのリーダー的存在だとわかった。

 

「しかもまだガキじゃないか。何であんたたちみたいなのが海賊船を襲ってるんだい?」

 

 見下すようにそう言うと、彼女は武器を下ろした。リーダーと言うにはまだ若く、まだ二十歳そこそこか半ばくらいに見える。ややつり目だがパッチリとした目と鼻筋の通った容貌は、なかなかの美人だ。背が高く日に焼けた肌は、グラマラスな体と相まって海の色によく映えた。赤銅色の髪をなびかせた美しいその姿は、おとぎ話にも出てくる戦女神のようにも見えた。

 

「えっ、えっと〜……、オレたちは魔王を倒すためにですね、そのぉ……」

 

 年上の美人に弱いナギは、女海賊を見た途端顔を赤らめ、だらしない表情でなにやらブツブツ言っている。こりゃあ駄目だと、代わりに私が前に出る。

 

「あのっ! 私たち、魔王を倒すために旅をしているんですけど! どうして海賊に襲われてる私たちを攻撃したんですか!?」

 

 私の説明に、キョトンとする女海賊。しばらくの後、彼女は張り詰めた糸が切れたように笑い声を上げた。

 

「あっはっはっは!! 魔王を倒す!? 今時そんな命知らずな奴らが存在するのかい!? しかも、海賊に襲われたってお前ら、返り討ちにしてるじゃないか!!」

 

「そりゃあ、不可抗力ですから」

 

 笑われてなんとなくムッとなった私は、口を尖らせながら答えた。

 

「ははっ、すまない。あたいはイザベラ。ここら一帯を縄張りにしてる海賊のキャプテンさ。と言っても、ただの海賊じゃない。密輸や不正を働いた同業者から金品を巻き上げる、いわば義賊みたいなもんさ」

 

「えっ、義賊!? オレのジジイと同じか?」

 

 義賊と聞いて、イザベラさんに見惚れていたナギが目を覚ました。ナギのお祖父さんのアトレーさんも盗賊で、若い頃アリアハンで義賊をやっていたらしい。

 

「なんだ、お前も同業者かい? まあいい。ちょうどここを通りかかったら、お前らの船が海賊を襲っててるのを見てね。海賊狩りかと思って助太刀したんだよ」

 

「海賊狩り……。そんな奴らまでいるんだ」

 

 ぼそりとつぶやいたルークの言葉に、イザベラさんは豪快に笑ってみせる。

 

「海には色んな奴らがいるさ。国を追われて逃げ出した奴、海賊を襲う海賊、悪人を運ぶ船、今は流石になくなったが、かつては奴隷船も走っていた」

 

 奴隷船、と聞いて私はエリックさんたちのことを思い浮かべる。奴隷として船に乗せられるだけでなく、海賊などからの脅威もあったなんて、エリックさんが生きていた頃というのは随分とひどい時代だったようだ。

 

「それにしても魔王退治をする連中に会ったのはこれが初めてだ。すまなかったな、お前らの旅の邪魔をしてしまって」

 

「いえ、こっちも無事だったので」

 

 急に腰が低くなったイザベラさんに、私は拍子抜けする。

 

「お詫びとして、あたいらが悪者から奪った金品の一部をお前らにくれてやる。あたいらのアジトがあの海の向こうにあるから、ついて来な」

 

 イザベラさんの言葉に、周りの海賊たちが騒然となる。

 

「おっ、おかしら!? いいんですかい? こんな素性も知れねえガキどもに渡しちまっても……」

 

「別に全部やるわけじゃないからいいだろ。それに、海賊のあたいらを襲おうとするなんて、なかなか骨のある奴らじゃないか。さすが魔王退治に挑むだけある」

 

 イザベラさんは頷きながらそう言うと、羽織っていたマントを翻した。

 

「総員、持ち場につけ!! これからアジトに戻る!!」

 

「アイアイサー!!」

 

 イザベラさんの掛け声に、船内の空気が一瞬にして変わった。私たちを警戒していた海賊たちは、機敏な動きで各自持ち場についた。

 

「ほら、お前らも早く自分の船に戻れ。準備ができたら、あたいらの船について来い」

 

「あっ、はい!」

 

 しっしっ、と手で払われ、私たち三人は慌てて船に戻った。タラップを降りると、これ以上歩くことができないのか、シーラに肩を貸してもらって青ざめているユウリがいた。

 

「ねえねえ、結局どうなったわけ?」

 

 尋ねるシーラに、私たちは一部始終を話した。それを横で聞いていたユウリは、眉間に刻んだシワをより一層深くしながらがっくりと項垂れた。

 

「はあ……、何でそいつの言いなりになってんだ……。もしかしたら罠かもしれないだろ」

 

「いやでもイザベラさんて、案外いい人みたいだよ」

 

 私が必死で言い訳すると、ユウリは呆れたように見返した。

 

「本当にお前は間抜けなお人好しだな……。もういい。俺も早く陸地に上がりたい。もし罠でも返り討ちにすればいい。その女の言う通り、アジトに案内してもらうぞ……」

 

 静かにまくし立てるように言うと、ユウリはシーラに連れられてヒックスさんのところに行ってしまった。

 

「なんかユウリ、病人みたいだけど……。本当に大丈夫なの?」

 

 ユウリの後ろ姿を、ルークが心配そうに眺めながら私に尋ねた。

 

「最近は良くなってたみたいだけど、ユウリって旅の扉とか船に酔いやすい体質なんだよ」

 

 ユウリの体調を考えると、一刻も早くイザベラさんたちのアジトに向かったほうが良さそうだ。けど、海賊のアジトって、一体どんなものなんだろう?

 

 私たちは不安と期待が入り交じる胸中で、前を走るイザベラさんたちの船を追いかけたのだった。

 

 

 

 

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