俺様勇者と武闘家日記   作:星海月

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海賊のオーブ

 

 イザベラさんにオーブを譲ってもらえることになり、私たちはイザベラさんの後に続いて早速外にある倉庫へと向かった。ちなみに行く前にユウリがしっかりとナギを起こしたので皆一緒だ。

 

「うわ、すごい……」

 

 倉庫には窓の外だけでは気づかないくらいのたくさんの宝が置かれていた。どれも貴重なアイテムばかりだが、多くがイザベラさんのお祖父さんのそのまた前の代から義賊として悪人から奪った盗品なのだそう。なのでイザベラさんが知らない盗品も多い。

 

 今回のオーブもずっと昔から倉庫に眠ってあったらしく、ユウリに指摘されて初めて知ったそうだ。

 

「確かあの窓の近くにあったと思うんだけど……」

 

 私が昨夜覗いた窓の方を指差すと、上を見上げたイザベラさんは何処かから梯子を持ってきた。その梯子をかけると、イザベラさんの代わりにナギが登った。

 

「何でお前、あの窓からここを覗こうと思ったんだ?」

 

 ユウリの鋭い指摘に、私はぎくりとして目を泳がせる。まさかユウリとイザベラさんが気になって覗き見してたなんて言えない。

 

「ああ。そういえば昨夜、あたいとユウリがいるところを見てたみたいだよ」

 

 イザベラさーん!! なんで言っちゃうかな!? こっちを見てるユウリも、若干引いてる顔してるし!!

 

「た、たまたま二人がいるところを見かけちゃって……。ごめんなさい」

 

 言い訳するのが精一杯で、まともにユウリの顔が見れない。

 

「おーい、見つけたぞ!」

 

 ナギ、ナイスタイミング! 脇に真っ赤に光るオーブを抱えながら、ナギがゆっくりと梯子を降りていく。赤い色のオーブ……。まさか!

 

「あれって、やっぱり……」

 

「ああ。ノルドが言ってた、レッドオーブだな」

 

 以前私とユウリがホビットのノルドさんのところに行った時に教えてもらったオーブだ。確かノルドさんが持ってたんだけど、魔王軍から逃げる途中海賊に奪われてしまったのだ。

 

「てことは、オーブを奪った海賊って……」

 

 私はイザベラさんをちらりと見る。ノルドさんがオーブを奪われたのは今から二十年近く前の話だ。ということは……。

 

「言っとくけど、あたいの家は代々悪い奴らからしか宝を奪わない義賊だからな!!」

 

 念を押すように言うイザベラさんに、私の予想は外れたと推察された。その間にナギが梯子を降りてきてユウリにオーブを渡す。

 

「ほらよ、ユウリ」

 

 ユウリが手にしたオーブは、今まで集めたものと同じ形ではあるが、炎のように赤く輝いている。

 

「これで四つめだな」

 

「ふん。まだあと二つ残ってるけどな」

 

 ナギから手渡されたオーブをそのまま鞄にしまい込むと、ユウリはイザベラさんの方に向き直った。

 

「あんたがオーブを大事に保管してくれたおかげで手に入れることが出来た。礼を言う」

 

「へっ、そうかい。礼を言うくらいならさっさと魔王を倒して、あたいたちの仲間になってもらいたいもんだね」

 

 イザベラさんてば、何だかんだ言って未だにユウリを海賊に引き入れることを諦めてないのでは……? 冗談だと思いたいけど、今の私には本気か冗談かを区別できるほど気持ちに余裕などなかった。

 

「へ? ユウリちゃん、海賊になりたいの?」

 

 事情を知らないシーラがユウリに問うと、彼はうんざりした顔で答えた。

 

「そんなわけないだろ。というか俺はもう船はこりごりだからな」

 

 それもそうだ。船酔い体質のユウリに海賊なんて出来っこない。

 

 ……我ながら酷いことを考えてるなと思いながら、私は海賊になるつもりはないユウリに安堵した。

 

 

 

「それじゃあ、お世話になりました」

 

 別れの挨拶をする私たちに、イザベラさんと他の海賊たちは名残惜しそうな顔をした。

 

「もしまた近くに寄る機会があったら、遊びに来いよ!」

 

「また酒でも酌み交わそうぜ!」

 

 色々勘違いはあったが、イザベラさんたちとは仲良くなれてよかった。

 

 すると突然、ナギの目の前にイザベラさんがずいと立った。

 

「ナギ! あんた今、恋人はいないのかい?」

 

「へ?」

 

 あまりにも唐突な質問に、ナギはしばらくの間目を瞬かせたあと、自信満々にこう言った。

 

「オレの心の恋人は、ビビアンちゃんだけだぜ!!」

 

 よくわからない返答に、今度はイザベラさんの方が目を瞬かせた。

 

「ははっ、だったらその心の恋人に勝たないといけないってことだな!」

 

「??」

 

 その言葉の意味が分からず、ぽかんとするナギ。

 

「ねえ、ナギちん。あの人と何かあったの?」

 

「いや、別に何もねえけど?」

 

 シーラがこっそりとナギに耳打ちするが、彼は首を傾げるばかり。事情を知っているのは私だけだが、ここは黙っておこう。

 

 その後お互い挨拶を交わし、私たちはイザベラさんたちのアジトを後にし、船に向かった。

 

 空は雲一つなく澄み渡り、平原の向こうには高台が見える。心地よい風が吹き渡る気持ちのいい陽気ではあるが、私はある違和感を覚えていた。皆と他愛のない話をする道中、いつも私の話に入ってくるルークが何故だか妙に大人しいのだ。

 

 どうしたのかなと疑問に思いつつ、ちらちらと横目で見ながら彼の様子をうかがっていると、突然ルークが立ち止まった。

 

「ごめん皆。ちょっとミオと二人で話がしたいから、先に船に戻ってくれないか?」

 

 彼の言葉に、私を含め皆が一斉にルークの方を振り返った。

 

「……間抜け女に任せる」

 

 一言だけそう言うと、ユウリは私の方を見ることもなく一人で先に行ってしまった。

 

「わ、わかった。皆先に行ってて」

 

 正直なところ、ルークが私と二人で何を話すのか、全く予想できずにいた。だけどわざわざここで話をするということは、よっぽどの事情があるのだろう。

 

「二人とも、気をつけて戻ってきてね♪」

 

「お前らが来るまで船で待ってるからな」

 

 シーラとナギも心配そうにしながらも、私とルークを残して先に行ってしまった。

 

 誰もいない平原に、穏やかに吹く風が近くの草木を揺らしてカサカサと鳴っている。人の気配などまったくないこの場所で、ルークは一体何を尋ねようとしているのか。

 

「それで、一体話って何?」

 

 内心緊張しながらも、私はいつも通りの振る舞いで話を促す。かえってルークのほうが、硬い表情をしていた。

 

「……僕の勘違いなら良いんだけど」

 

 いつもと違って俯き気味の顔はこころなしか暗く、声にも覇気がないように聞こえた。

 

「ミオってさ、ユウリのことが好きなの?」

 

「!!」

 

 急に核心をついた質問に、私は言葉を失う。そんな私の反応を見定めるかのように、顔を上げたルークの目が鈍く光った。

 

「な……、なんで……?」

 

「今朝、イザベラさんと話してるとき、僕起きてたんだよね。その時のユウリに対するミオの反応が、明らかにいつもと違ったんだ」

 

「そ、それは……」

 

 嘘もはぐらかすことも許さない、すべてを見透かしたような目。その目で見つめられて観念した私は、覚悟を決めた。

 

――あのときの返事を、ルークに伝えなければ。

 

「……うん、好きだよ」

 

 素直に頷くと、ルークは小さく息を吐いた。

 

「気づいたのは昨夜だけど。でもずっと前から、好きだったんだと思う」

 

 最初は近寄りがたい雰囲気で、レベルの低い私はいつもユウリに怒られていた。でも、一緒に旅をしていくうちに、彼が本当は優しいこと、人を助けるためには自ら危険を顧みないこと、言ったことは必ず実現させる強い意志を持っている人だということを知り、自覚のないまま、いつしか尊敬から恋心へと変わっていった。

 

「だから……。ごめんなさい。ルークの想いには応えられない」

 

 以前ルークに告白されたとき、言われた言葉を思い出す。

 

――いいよ、別に今答えを出さなくて。ただ、僕は君に嘘をついてほしくない。君の本当の気持ちがはっきりしたら、また教えてほしい――。

 

 ルークの想いを受け入れることができないのは心苦しい。だけどそれ以上に、彼には嘘をつきたくなかった。……私の勝手な自己満足かもしれないが。

 

「……やっぱりそうか」

 

 そう小さく呟く声が聞こえた。

 

「あーあ。あれだけ自信たっぷりに宣言しといて、結局取られちゃうなんてなあ」

 

「何の話?」

 

「いや、こっちの話。それより、本当にユウリがいいの? 僕じゃ駄目?」

 

 ひたむきな目で見つめられ、返答に困った私は口ごもる。

 

「カザーブで出会ってから十年間、ずっと忘れることなんてできなかった。やっと君に想いを伝えることが出来たんだ。僕なら君を誰よりも幸せにしてみせる。ずっと君だけを愛し続ける自信がある。……それでも、彼を選ぶの?」

 

 ルークが話す一言一句に、彼の強い想いがひしひしと伝わってくる。私を好きになってくれたことはすごく嬉しい。だけど――。

 

「……ごめん。私が好きなのはユウリだけだから」

 

 この想いを自覚してしまった今、ユウリ以外の男の人を好きになることなんて考えられない。ルークとは今まで通り接することはできないかもしれないけれど、これだけは彼に伝えなければならなかった。

 

「……そっか」

 

 そう言ってルークは目を伏せた。

 

「君の気持ちはよくわかったよ。でも、もし君の想いがユウリに伝わったからって、二人が幸せになるとは思えないな」

 

「なっ、なんで!?」

 

「だって、彼は魔王を倒す勇者だろ? いつ命の危険にさらされるかわからない奴に君を任せることなんて出来ないよ」

 

 突然核心を突かれ、私は愕然とした。そう、いくらレベルが高い勇者でも、相手が魔王なら話は別だ。生きて帰れる保証などどこにもない。

 

「で、でもそれは私も同じだし……」

 

「それに、彼が君を大事にしてくれるなら僕もまだ諦めがつく。けど、今の彼を見てると、とてもそうは思えない」

 

「そんなこと……」

 

 あるわけない、って思いたかった。でも、私の一方的な想いに、ユウリが応えてくれるとは限らない。そもそも今までの旅を思い返しても、ユウリにとっての私の扱いはただの仲間、もしくはそれ以下だ。もしかしたら今でも足手まといと思われているかもしれない。大事にされているか以前に、私は彼に頼られる程の仲間にすらなっていないのだ。

 

「……ごめん。君を落ち込ませるために言ったわけじゃないんだ。僕も少し冷静になったほうが良いのかもしれない」

 

「ルーク……」

 

「戻ろう。皆が待ちくたびれてる」

 

 強引に話を切り上げたルークは、私に背を向けて歩き出した。

 

 ルークの気持ちは嬉しい。でも、私のこの気持ちがルークが求めているものではないことに気づいてしまった今、彼の気持ちを受け取るわけには行かない。

 

 そんなどうしようもないやるせなさを胸の内に抱えながら、皆の待つ船へと向かう道中のことだった。

 

「本当はさ。サマンオサに戻る前に、君にプロポーズしようと思ってたんだ」

 

「へ!?」

 

 洞窟へと続く崖道を下りながら、突然ルークが爆弾発言をした。

 

「母さんに父さんのことを報告するのももちろん大事だけど、今のうちに君を婚約者として紹介しようと思ってたんだ」

 

「え、ちょ、ちょっとまって、結婚て……」

 

 平然と答えるルークに、私は一人で動揺していた。

 

「それくらい好きだったんだ、君のことが」

 

るーくのほうをめ 何て答えたらいいかわからず、ただ俯くことしか出来なかった。

 

「でも、もう僕は君たちと一緒に旅はできない。このままサマンオサに戻って母さんと暮らすよ」

 

「ルーク……、ごめんなさい、私……」

 

「君は謝らなくていい。君は僕の望み通り、正直に自分の気持ちを僕に伝えてくれたんだから。だから、僕のことは気にしないで」

 

 優しい口調で話すルークのその言葉が、深々と私の心に突き刺さる。私は彼を傷つけてしまった。だけどその傷を癒やす術すら、今の私には持ちあわせていない。

 

「取り敢えず皆には、もう僕の助けがなくてもミオは立派に武器を使いこなせるようになったから、サマンオサに帰るって説明するよ。さすがに失恋したから旅をやめます、なんて恥ずかしくて言えないからさ」

 

 だからミオも僕に話を合わせといてね、とルークは小さく笑って言った。

 

「そうだ、ミオにこれを返さなきゃ」

 

 そう言ってルークはポケットから私から預かった星降る腕輪を取り出した。

 

「もうこれに頼るような戦い方はしてないようだからね。身につけてても、きっとミオなら大事な時に使い分けられると思う」

 

 ルークから星降る腕輪を渡された途端、懐かしい重みが手に伝わる。

 

「ルーク……。色々ありがとう」

 

「ストップ。いくらなんでもそのセリフは早すぎるよ」

 

 そう言うとルークは、呆れたように苦笑したのだった。

 

 

 

「……サイモンさんのこと、コゼットさんに伝えるんだよね」

 

 高台から洞窟へと向かう途中、私は恐る恐るルークに尋ねた。真実とはいえ、父親の死を母親に伝えることは、ルークにとっても耐え難いはずだ。サイモンさんのことを聞いた後のコゼットさんの反応を想像して、思わず胸が締め付けられる。

 

「うん。父さんのことを伝えれば、母さんも少しは気持ちが楽になると思うからさ。……それに、たとえそれが受け入れがたい事実だとしても、僕たちは向き合わなきゃならないんだ」

 

 どこか遠くを見るルークの瞳には、揺るぎない決意が宿っているように見えた。覚悟を決めたルークに、これ以上私がかける言葉なんてない。

 

「それに、ミオに振られたってことも伝えなきゃね。母さん、君のことをすごく気に入ってたから」

 

「……ルークって時々意地悪だよね」

 

 皮肉交じりに言う彼を、私は横目で睨みつけた。けれどこれがきっかけで、私とルークの間に流れていた気まずい雰囲気が、いくらか和らいだ気がした。

 

 ほどなく洞窟へと入ると、足場の悪い道を進んでいく。その間、私たちはぽつぽつと他愛のない話を続けていた。いつも通り穏やかに会話をしてくれるルークの胸の内はどうだったのか。考えないようにしながらも、彼の顔を見るたびに胸が痛む。そんな私の気持ちとは裏腹にどんどん先に進むと、ようやく洞窟を抜けることが出来た。

 

「あれ、あそこにいるのって……」

 

 船が停泊している入り江まで来たところで、船の前で仁王立ちしている人物が見えた。確認しなくても、遠目でユウリだとわかる。待たされてイライラしているのか、かなり離れているはずなのに、彼から放たれている殺気がここまで伝わってきていた。

 

「なんかユウリ、もの凄く怒ってない?」

 

 ここからでは表情なんてわからないはずなのに、あれは間違いなく怒っているのだと確信を持って言えた。それを裏付けるかのように、私たちに気づいた途端、ユウリは早歩きでこちらに近づいてきた。彼に対する気持ちの変化に気づいたと言っても、体が染み付いているのか、怒られるとわかって咄嗟にルークの後ろに隠れてしまう。

 

「遅い!」

 

 ピリピリした空気を纏いながら、ユウリは言い放った。「ごめんなさい」と半ばビクビクしながら答えると、間に入っていたルークが私を庇うように前に出た。

 

「大事な話をしてたんだ。まあ、君には関係のないことだけど」

 

 明らかに怒気を孕んだ声でユウリを牽制するルーク。ていうか関係大有りなのに、何でわざわざ煽るようなことを言うんだろう。

 

「お前らの勝手な都合で、俺たちだけじゃなくヒックスたちを待たせることになるんだ。周囲の人間のことも考えろ」

 

「そのセリフ、そっくりそのまま返すよ。君ももっと周りの人間のことを考えたほうが良い」

 

「なんだと!?」

 

 一触即発とはこのことだ。ユウリは今にもルークに攻撃しようと手に魔力を込めながら睨み返している。

 

「ふ、二人とも、喧嘩してる場合じゃないでしょ! ヒックスさんたちが待ってるなら早く船に乗らないと!」

 

 ルークの陰から私が口を挟むと、ユウリは今度は私の方を睨みつけてきた。けれどそれきり何も言わず、一人でさっさと船に乗り込んでしまった。

 

「腹立つなあ。何度も言うけど、ホントにユウリでいいの? 君にまであんな態度を取るなんて、同じ男として許せないんだけど」

 

「いいの! ユウリだってヒックスさんたちのことを考えてああ言ってるんだし、ユウリの気持ちもわかるもん。それに、怒られるのも慣れてるし」

 

「それ慣れたら駄目なやつだよ! 下手したら虐待されるかもよ!」

 

「だ、大丈夫だよ、多分……」

 

 いやでも、前から髪の毛引っ張ったり、ほっぺたつねられたりしてるから、もしかしてこれが虐待!? ……いや、それはないと思いたい。

 

「あっ、ミオちんたち、戻って来た〜! おかえり〜!」

 

「おせーぞ、お前ら。待ちくたびれたぜ」

 

 船に戻ると、シーラとナギが待ちかねたように私たちを出迎えてくれた。

 

「ごめんごめん、早速出発しよう!」

 

「ふん、お前が仕切るな。リーダーはこの俺だ」

 

 相変わらず不機嫌なままのユウリだったが、私たちが乗り込むとほどなく船は出航した。様々な想いを抱えながらも、魔王の脅威は待っててくれない。次の目的地に向かうため、船は先へと進むのだった。

 

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