俺様勇者と武闘家日記   作:星海月

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父の秘密

 

 私のお父さん――ドワイト・ファブエルは、世界中を渡り歩く行商人で、故郷であるカザーブに戻るのは年に数回、家に戻ってもすぐにまた旅に出てしまうくらい、ひとところにとどまらない人である。あまりにも家にいないので、物心ついたばかりの頃は親戚のおじさんかと勘違いしたほどだ。

 

 実家にいても年数回、ユウリたちと旅を始めてからは一度も会うこともなく、一年半が過ぎた。そんなとき、まさかお父さんとルカの町で再会するなんて、誰が想像しただろうか。

 

「お、お父さんって……。ミオ、その人お前の親父なのか!?」

 

 信じられないといった様子で尋ねるナギに、私は平静を装いながら説明する。

 

「うん。この人は私のお父さんで、ドワイト・ファブエル。前に話したと思うけど、世界中を旅してる商人なの」

 

 三人がポカンとしている中、紹介されたお父さんは急にハッとした顔になり、差し迫った様子で私に詰め寄った。

 

「はっ!! もしかしてこの子たち、ミオの仲間かい!? それなら菓子折りでも渡したほうがいいかな!?」

 

「別にいらないって!! ていうか今そんな事してる場合じゃないでしょ!」

 

 普段家にいないから、ちょっぴり世間とズレているところがある。それがお父さんの魅力の一つでもあるんだけれど、身内以外にはなぜかあまり伝わらない。

 

「申し遅れました。商人のドワイトです。娘がいつもお世話になっております」

 

 気を取り直し、真面目な顔に戻ったお父さんは、三人に向かって挨拶をした。

 

「……アリアハンの勇者のユウリだ」

 

「どーも、盗賊のナギです。つーかやっぱどことなくミオに似てるなー」

 

「ナギちん、初対面の人に失礼だよ! すみません、あたしは賢者で、シーラって言います!」

 

 お互い自己紹介を終えたところで、私はお父さんに向き直った。

 

「それよりお父さん、なんでここにいるの?」

 

「おいおい、随分とご挨拶だな。まあ、そう思うのも無理はないが」

 

 そう言うとお父さんは、寂しそうな目でルカの家を見上げた。

 

「もう少し早く来ていれば、ルカを救うことができたんだがな」

 

「!! なんでそんなこと……」

 

「ルカが捕まったのは、オレのせいなんだ」

 

『!!??』

 

「お父さん、それってどういうことなの?」

 

 極力感情を抑えながら私は尋ねる。弟が牢屋に入れられたのが実の父のせいだなんて、冷静でいられなきゃ到底信じられることなどできない。そんな私の心のうちを知ってか知らずか、お父さんは淡々と話し始めた。

 

「ルカがここで町を作っていることは行商人仲間の噂で聞いていた。それを聞いたオレは、あるものをルカに渡すために一度この町を訪れたんだ」

 

「あるものって……?」

 

「フェリオさんから預かっていた、イエローオーブだよ」

 

『!!』

 

 師匠が、お父さんにイエローオーブを渡していた? しかもそれを、ルカに渡すために一度ここに来た? 突然の情報量に頭が追いつかない。

 

「おじさん、それがどんなものか知ってるの?」

 

 私の代わりに話を進めてくれたシーラの問いに、お父さんは大きく頷いた。

 

「ああ。そもそもフェリオさんとはお互い旅の途中で知り合ってな、病気で旅を続けられなくなったフェリオさんに、静養先としてオレが自分の故郷であるカザーブを紹介してあげたんだよ。そのときにフェリオさんが実は勇者サイモンの仲間だって聞いたんだ」

 

「え!? それじゃあずっと前からお父さんは、師匠がサイモンさんの仲間だってことを知ってたってこと?」

 

「ああ。お前たちに隠し事はしたくなかったが、フェリオさんのたっての頼みでな。オレ以外の村人には、そのことを話していなかったそうだ」

 

 旅に出る前ならば、どうして教えてくれなかったんだと問いただしていただろうが、サイモンさん達の目的や魔王軍の脅威を知った今なら、師匠が頑なに自分のことを話さなかった理由も納得がいく。それよりも、どうしてお父さんにだけ打ち明けたのか、そっちのほうが気になっていた。

 

「昔からオレはずっと行商人として、世界各地を旅していた。もちろんそれは家計のためでもあったが、オレが一処にとどまらずに商売をしていたのは、もう一つ理由があったんだ」

 

「もう一つの理由?」

 

「フェリオさんから預かったイエローオーブを、魔物から奪われないようにするためだった。当時行商人であるオレのことを知ったフェリオさんがオレにオーブを託したのも、世界中を旅しているオレなら魔物の目をかいくぐれると思ったからだ」

 

 まさか、そんなに前からお父さんがイエローオーブを持っていたなんて……。だけど、そうしなければノルドさんのように奪われたかもしれないのだ。師匠は相当心配性だったのかもしれない。だけど、新たな謎も生まれる。

 

「でも、そしたら今度はお父さんが危険な目にあうよね? 断らなかったの?」

 

 オーブを持ってる人が狙われるのなら、今度はお父さんが魔物……いや魔王軍に狙われるのではないか。いくら世界中を旅していたとしても、もし万が一見つかったら、奪われてしまう可能性だってあるのではないか。

 

「もちろん魔物が狙ってる代物をずっと持っているわけには行かないからね。定期的に色んな人に売っては買い戻して、ひとところに置かないようにしていたんだ」

 

 なるほど。それなら足がつきにくいから、魔王軍に見つかる危険性も少なくなる。その事も考えて、師匠はお父さんにオーブを預けたのだろう。

 

「だけど、ある噂を聞いてから、急にそれを買い戻さなければならなくなった。まさかとは思ったが、お前が魔王討伐の旅に出ると風の噂で聞いたときは驚いたよ」

 

「え、私!?」

 

「本当はアリアハンの勇者に渡すつもりだったが、勇者とともに旅をしているのがお前と聞いて、急いでとある豪商からオーブを買い戻そうとしたんだ。けれど、急いでいたあまりその豪商に足元を見られてしまってね、なかなか言い値で買い戻すことが出来なかったんだよ」

 

 その豪商から突きつけられた額が、とんでもない値段だったそうで、今のお父さんの資金では到底買い取ることが出来なかったらしい。

 

「ちょうどその頃、ルカが未開の地で町を作っているという噂を聞いて、すぐにここに向かったんだ」

 

 そこまで聞いて、私はハッとなる。ルカが急にこの町のお店の値段を釣り上げるようになったのは、きっと……。

 

「まさかお父さん、ルカがこの町で稼いだお金をオーブの買い取り資金に……!?」

 

「……その通りだよ」

 

 この町のお店の値段が急激に上がったのは、お父さんがルカにオーブを買い取る商談を持ちかけたからだ。

 

 グレッグさんも言っていた。二ヶ月ほど前に、ルカのところに男がやってきて、それからルカは変わってしまったのだと――。その男というのが、他でもないお父さんだったのだ。

 

「もう少し資金の調達が早ければ、この町のお金に手を出すこともなかったし、ルカも捕まることはなかったんだ。……すべてはオレの責任だ」

 

 そこまで言うと、お父さんは手にしていた大きなカバンを私たちの前に見せた。

 

「この中に、この町の借金を賄えるだけの資金が入っている。オレは今からルカを捕まえた人たちのところに行って、改めて謝罪と、賠償金としてこのお金を渡してくる」

 

「待って! それならオーブが必要な私達にも責任が……」

 

「いいからお前たちは気にするな。ただでさえ魔王討伐という大義を背負っているんだ。他のことはオレたちに任せて、お前たちは果たすべき使命を全うしてくれ」

 

「でも……!!」

 

 納得できずにいる私の声を遮り、お父さんは私の肩を力強く掴んだ。

 

「いいから聞け!! ルカは全てわかった上でオレに協力したんだ!! あいつは後悔なんかしていない。むしろお前たちの力になれるんだと、嬉しそうにしていたぞ」

 

「……え?」

 

 顔を上げ、真剣な眼差しで私を見下ろすお父さんを見つめる。

 

「あいつはドリスに認められた一人前の商人だ。一人で商人を目指すとドリスのもとに向かったときから、腹をくくってはいたはずさ。自分で決めたことは最後まで貫き通す。そうでなきゃ、オレはあいつが商人になることを認めなかったよ」

 

「でも私、ルカのことを助けられなかった! ルカだけがあんな目に遭ってるのに、旅なんて出来ないよ!」

 

 涙ぐむ私の頭を、優しく撫でるお父さん。その瞬間、堪えてきたものが一気に溢れ出す。

 

「大丈夫。ルカはお前のそういう顔が見たくないから、きっとあえて突き放したんだろう? あいつのことは心配するな。オレが来たからには、ルカも、この町も皆幸せにしてみせる。十何年もお前たちを放って商売(しごと)をしてきたからな。今までお前たちに寂しい思いをさせてきた分、せめて今ここで親らしいことをさせてくれ」

 

「うう……、……お父さん……!」

 

 私は泣きながら、お父さんの胸にしがみついていた。こうしてお父さんによりかかりながら泣くのは何年ぶりだろうか。お父さんもまた、私を優しく抱きしめた。

 

「ごめん、お父さん……! ルカを、ルカをお願い……」

 

「ああ。オレたちのことは心配するな」

 

 お父さんがいるなら、きっとルカも、この町も大丈夫だろう。私はかつて実家でお父さんの腕に抱かれながら眠りについたことを思い出した。あの時と同じ安心感を、そのぬくもりに感じながら――。

 

 

 

「それじゃあ、オーブも君たちの手に渡ったことだし、オレはルカのところに行くよ。しばらくはルカの代理としてここに滞在するつもりだから、何かあったらまた来てくれ」

 

「うん、わかった。お父さんも、無理しないでね」

 

「はは、お前のそういうところ、お母さんにそっくりだな」

 

「え?」

 

「なるべく早く、ルカを牢屋から出せるようにするからな。こっちのことは心配しないでお前はお前のすべきことをやってくれ」

 

「うん! 色々ありがとう」

 

 するとお父さんは、今度はユウリの方に向き直った。

 

「ユウリくん。これはフェリオさんから聞いた話なんだが、サイモンたちはもともと五つのオーブを持っていた。そんな彼らが最後のオーブを手に入れるために訪れたのが、ネクロゴンドの洞窟と言われるところだ」

 

「……サイモンたちは、最後のオーブを手に入れる前に魔王軍の襲撃に遭ったと聞いたな」

 

「ああ。おそらく今も、唯一手に入れられなかった最後のオーブはそこに眠っている。だが火山の噴火によって地形が変わり、通れなくなっているはずだ」

 

 そういえばテドンに行く前、実際にネクロゴンド近くまで船で行ったとき、道が塞がれているのを実際に見た。

 

「フェリオの話によると、サイモンが持っていたと言われるガイアの剣には、火と大地の精霊の力が宿っていると言われている。フェリオたちがネクロゴンドに訪れた際、火山の噴火によって道が塞がれたそうだが、ガイアの剣の力で無事に通ることが出来たらしい。もし今回も道が塞がれているようなら、サイモンの剣の力を借りたほうがいいかもしれない。まあ、その剣がどこにあるのかはオレにはわからないが」

 

「えーと、そのガイアの剣、実はもう手に入れてたりして……」

 

 なんとなく言いづらそうに私が答えると、お父さんは大げさなくらい驚いた。

 

「なんだって!? あの勇者サイモンの剣をもうすでに入手しているだなんて……! やっぱり君たちにオーブを託して正解だったな!」

 

 そう言って豪快に笑うお父さん。いやまあ、フィオナさんの本とナギの予知夢がなかったら、きっと今頃手に入れられることはなかったんだけど。

 

「最後のオーブを手に入れるのは容易ではないが、君たちならきっと苦難を乗り越えられるだろう」

 

「ふん。あんたに言われなくても残りのオーブも見つけるつもりだ」

 

 自信ありげに話すユウリに、お父さんは微苦笑を浮かべる。

 

「それは頼もしい限りだ。君たちの旅路に、神のご加護があらんことを」

 

 お父さんは祈る仕草を私たちに見せると、今度はナギとシーラに向き直った。

 

「皆さん、力不足なところもあると思いますが、娘をどうかよろしくお願いします」

 

「大丈夫! ミオちんにはいつも助けてもらってるもん!」

 

「ミオはオレたちがついてるから、安心していいぜ!」

 

「ありがとう。娘はいい仲間を持ったようだ」

 

 なんだか親に自分のことを紹介されるって、むず痒くて変な感じだ。結局私からは何も言えず、その後軽い挨拶を済ませ、お父さんとはここで別れることになった。

 

「お父さん、元気でね!!」

 

 別れ際、私が勢いよく手を振ると、お父さんは少し寂しそうにしながらも、笑顔で返してくれた。

 

「ああ、ミオも元気でな」

 

 そう言うとお父さんは、私のおでこにキスをすると、そのまま私たちに背を向けた。

 

「お父さん! ルカのことよろしくね!!」

 

 振り向きもせず手を振ると、そのままお父さんは私たちの前から去っていった。

 

「はあ……。まさかお父さんがオーブを持ってたなんて、驚いたよ」

 

 朝焼けが町を彩り始める中、私は小さくなったお父さんの背中を眺めながら、ポツリと呟いた。

 

「そーだな。でもこれで、オーブが五つ集まったんだ。あと一つ見つければ、不死鳥ラーミアってのが蘇るんだよな?」

 

「おっ、ナギちんにしては記憶力がいいね♪ そうそう、ラーミアが復活すれば、魔王の城への道が拓けるってことだよね☆ ユウリちゃん」

 

「ああ。これでようやく魔王を倒す足がかりができるわけだ。ここからはさらに気を引き締めていくぞ」

 

「うん!!」

 

 残りはシルバーオーブ唯一つ。けれどそのオーブを手にするには、魔王軍と戦わなければならない。生半可な覚悟ではやられてしまうだろう。

 

――ルカやお父さんのためにも、絶対にオーブを手に入れなきゃ。

 

 私は両頬を叩いて気を引き締めると、まばゆく輝く東の空を眺めながら決意を新たにしたのだった。

 




商人の町、これで終わりです。
次は番外編を載せます。

ストックがだいぶなくなってきたので、この先少し更新ペースがおそくなるかもしれませんのでご了承ください。
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