当作品はこのまま読んでも全く問題ありませんが、作者の別作品である『負けず嫌いな女勇者』をお読みくださると更にお楽しみいただけます。
いつも通りの朝。船室にて、私はいつも通りに目が覚めた。
ベッドから降りて戦いに向け身支度をする。そんないつも通りの日常が今日も繰り返される、はずだった。
「きゃああああっっ!! 何よこれ!!」
「!?」
初めて聞く女性の悲鳴に、私は驚いて思わず船室のドアを開けた。この船には船員と仲間しかいないはず。まさか知らない間に侵入者が現れた!?
「ミオちん、今の悲鳴って……」
「わかんない。シーラじゃないよね?」
私とシーラは顔を見合わせると、急いで声にした方へ向かった。
すると、通路の先に声を聞きつけたのか、ナギも立っていた。まるで私たちがやってくるのを待ちかねていたように、こちらに気づいた途端険しい顔で近づいてきた。
「なあ、今の声、聞こえたか?」
「うん、女の人の声みたいだったけど」
私が答えると、ナギは深刻な顔でユウリの部屋の方に目を向けた。
「その声、ユウリの部屋から聞こえてきたんだけど」
『ええっ!?』
私とシーラ、2人の驚愕の声が揃った。
「ま、まさかユウリちゃん、あたしたちの知らない間に女の子を連れ込んだんじゃ……」
「ちょ、ちょっと待ってよ!! 船の中でそれはさすがに無理があるよ!!」
なんて否定したものの、絶対に違うとは言えない。でもあのユウリが女の子を連れ込むなんて、信じがたい話だった。……いや、自分が信じたくないだけかもしれないが。
「とにかく、オレたちには事情を知る権利がある!! 中に入ってみようぜ!!」
そう言うとナギは懐から盗賊の鍵を出し、ドアの鍵穴に差し込んだ。船室などの簡単な作りのドアの鍵なら容易く開けられる代物だが、今回も例外ではなかった。カチャリ、という機械音とともに、ナギがドアノブを回し扉を開く。そして、部屋の中を見て仰天した。
「……………………」
「……………………」
部屋には、主であるユウリの姿はなかった。代わりに私たちと同じくらいの年頃の女の子がベッドに座っていた。
ショートカットの黒い髪に黒い瞳。青いマントの下に見え隠れする軽装鎧に、マントと同じ色合いのインナー。手袋からブーツまで、何もかもがユウリの普段の姿と似通った格好をしていた。
「きゃああああああっっっっ!!」
「うわああああああっっっっ!!」
しばしの沈黙の後、お互いの絶叫がこだまする。その後、先に悲鳴を上げた黒髪の女の子の方がぴたりと私たちに目を留めると、急に落ち着き払った態度を見せた。
「……えーと、あなたたち、誰?」
「お前こそ誰だよ!? ここはユウリの部屋だぞ? ていうかユウリはどこに行ったんだよ!!」
「はあ? 誰よユウリって。そんなことよりここはどこ? 船の中みたいだけど」
お互い話が平行線のまま、疑問の声をぶつけ合う二人。ユウリが女の子を連れ込んだ可能性は低いようだが、新たな疑問が浮かぶ。
「あの、その姿……。私達の仲間のユウリに格好が似てるんですけど、きょうだいか何かですか?」
私がおずおずと尋ねると、少女はますます不可解な顔をした。
「ごめん。あんたたちの言ってること、少しも理解できないわ。取り敢えず、お互いに状況を整理しましょ」
意外にも冷静な判断に私の胸の内には、彼女にはやっぱりユウリとなにか関係があるのではないかという根拠のない自信が生まれていた。
そして私たちは、彼女の話を最後まで聞いて耳を疑った。どうやら彼女は私たちのいる世界とは似て非なる別の世界からやってきたらしい。似て非なるというのは、私たちの知る町や村の名前を彼女も知っており、彼女も私たちと同じくこの世界を脅かす魔王を倒すために、仲間と旅をしているというのだ。
「あたしはアリアハンの勇者、アニスよ。父さんが成し得なかった魔王討伐を、あたしが代わりにやることにしたの」
「それって、ユウリと同じじゃあ……」
私たちのリーダーであるユウリも、彼女と同じくお父さんであるオルテガさんの遺志を継ぎ、魔王を倒そうとしている。さらに彼女にお父さんの名前を尋ねると、『オルテガ』と答えた。
「どういうことだ? オルテガさんの子供はユウリだけじゃないってことか?」
「何言ってんの? あたしは一人っ子よ? 他に兄弟なんていないわよ」
ナギの疑問に対するアニスさんの言葉は、ある意味想定内だった。オルテガさんはアリアハンにユウリとお母さんを残して旅に出たからだ。ユウリに妹がいたなんて聞いてないし、彼自身も一人っ子だと言っていた。隠し子、という可能性も無くはないが、根本的にそういうものとは違う感じがする。
そのあとも、聞けば聞くほど不思議な話だった。私たちが戦ったはずのカンダタは、彼女の世界でも存在していて、彼女もまた私たちと同じようにロマリア王の金の冠を取り返すためにカンダタと戦ったらしい。他にもイシスの女王様に会ったり、ピラミッドを探索したりと、私たちが今でまで冒険してきた内容と一致していることが多いのだ。
この話を聞いてると、まるで――。
「まるでおんなじような世界が二つあるみたいだね」
『!!』
シーラの見解は、言い得て妙だった。確かに二つの世界が並行して存在しているように感じた。
「何それ、めっちゃ面白そうなんだけど!」
それを聞いたアニスさんは、目を爛々と輝かせて身を乗り出した。彼女の竹を割ったような性格とノリの良さに、私は彼女に対して好印象を持ち始めていた。
「ちょっと待って? てことは逆に今ユウリちゃんは、あーにゃんのいた世界にいるってことなんじゃない?」
「なるほど〜! ……って、『あーにゃん』ってあたしのこと? あはは、ウケるんだけど!」
どうやらシーラもアニスのことをあだ名で呼ぶくらい気に入っているようだ。
と、そこへ、ナギが呆れたように口を挟む。
「いやいや、なんか笑ってるけどよ。シーラの言ってることが正しいなら、元の世界に戻る方法を探したほうがよくねえか?」
「そうねえ、早く戻らないと、あの二人が心配するし……って、男?」
ナギの姿を改めて見た途端、アニスは真顔になった。そして次第に、顔を赤らめて取り乱し始めた。
「ちょ、ちょっと待って!? 男がいるの!? どどどどうしよう、髪ボサボサだし眉毛整えてないし服だってボロボロだし、めっちゃ恥ずかしいんだけど!!」
ナギを見てうろたえまくりで困っているアニスさんに助け舟を出そうと、すぐさま私はナギを部屋から追い出す。
「なっ、何すんだよミオ!?」
「いいから、今からここは男子禁制になったの! だからナギはちょっと外で待ってて!!」
グイグイとナギをドアの隙間から押し出している間に、シーラはアニスさんの髪の毛を丁寧に整えてあげている。そして強引にナギを締め出すと、アニスさんに向き直った。
「アニスさん、もしかしてアニスさんの仲間って、皆女の子?」
「う、うん。成り行きでね……。ほら、女同士だと、服装とか気を使わなくていいじゃない? 普段だって魔物とばっかり戦ってるし。だからまさかこんな身近に男がいるなんて、思っても見なかったわ」
そういって、はあとため息をつくアニスさん。彼女の意見に私は大きく頷いた。
「私もおしゃれとか苦手だし、ほとんどシーラに教えてもらったりしてるから、人のこと言えないなあ……」
アニスさんの気持ちは私にもわかる。何度ユウリに田舎者だと言われてきたことか。
「……なんだかあなたも色々苦労してるみたいね。よかったら、女同士色々おしゃべりでもしない?」
「お! いーねえ♪ やろやろ!」
「私も賛成!」
かくして、新たにアニスさんという新メンバーが加わった女子会が、唐突に開催されたのだった――。
「――でね、そのクラレットって子がめちゃくちゃ癖のある子でね、戦闘中に遊びまくるわ気絶しまくるわで、とにかく大変なのよ!」
「そ、それは……、アニスさんも苦労されてるんですね……」
「アニスでいーわよ! それにもう一人の仲間のロベリアって子も、ちょっとあたしより年上だからか、時々上から目線で物を言うっていうか……」
「あー、それはあーにゃんのことを妹みたいに思ってるんじゃない?」
「そうかしら? まあとにかく、あの二人……とくにクラレットには随分手を焼いてるのよ。それに比べて、あなたたちはかなり腕が立ちそうね? もしこっちの世界に来られたら、一緒に魔王を倒しに行かない?」
「あー……、こっちの魔王も倒さなきゃならないから、遠慮しとくよ」
「右に同じ〜。てか、二人のこと散々言ってる割には、話してる時結構寂しそうだったよ?」
「え!?」
シーラの指摘に、アニスは信じられない様な顔をした。それに私もうんうんと頷く。
「そうそう。なんだかんだ言ってやっぱり二人に会いたいんじゃない?」
「そっ、そんなこと……、あるわけないじゃない」
ほんのり頬を染めてそっぽを向くアニスがなんだか可愛く見えたと同時に、やっぱりどことなくユウリと似ているなあとしみじみ思った。
バンッ!!
「おいおめーら!! いつまでオレを仲間外れにしてやがんだよ!!」
「あっ、ごめんナギちん、すっかりわすれてた☆」
話に夢中で、ナギが蚊帳の外にされてることをすっかり忘れていた。
このあと三人で謝って、改めて四人で色んな話をして盛り上がった。途中甲板に出てお互いに手合わせをしたり、技や呪文の披露をしたりして、気づけばすっかり日が暮れていた。
「ふぁぁ、なんだか急に眠くなってきちゃった。悪いけど、あの部屋また借りてもいい?」
あくびを噛み殺しながら、アニスが私に尋ねてきた。ユウリは未だ帰って来る気配はないし、一晩くらいならいいかな?
「うん、いいよ。アニスと一緒に過ごすの、とっても楽しかったよ。また明日、手合わせしてもらってもいいかな?」
「うーん……、もしまだいれたら、やりましょ……」
どうやら眠気が限界みたいだ。私は眠気でふらつくアニスを支えながら、ユウリの部屋へと付き添うことにした。心配なのか、後ろからナギとシーラもついてきた。
「それじゃあ、おやすみ〜……」
「うん! ゆっくり休んでね」
「おやすみ〜♪ また明日ね☆」
「またお前の技、見せてくれよな!」
皆に挨拶をしながら、アニスはバタンと扉を閉めた。
そして翌朝。私たちは再びアニスに会うためにユウリの部屋の前にやってきた。ノックをし、数回声を掛けるも、返事はない。まだ寝ているのかと思い、そのまま寝かせてあげようかと踵を返そうとしたが、なぜかナギに止められた。
「待てミオ。この気配、もしかして……」
「え!?」
ナギは言葉を途中で途切れさせると、懐から盗賊のカギを取り出し、ユウリの部屋のカギを外し、扉を開けた。
「う、嘘……」
部屋のベッドで寝ていたのは、アニスではなくユウリだった。唖然とする私たちをよそに、ユウリは静かに寝息を立てている。
なるべく音を立てずに恐る恐るベッドに近づいて顔を覗き込んで確認するが、やっぱりユウリ本人だ。
「あーにゃんがここにいないってことは、これって、二人がお互い元の世界に戻ったってことだよね?」
シーラが私たちに確認するように呟く。正解がわからないので答えようもないのだが、ユウリがここに戻ってきている以上、その通りなのだろう。
というか、ナギと同じく気配に敏感なユウリが私たちに気づかず寝ているのも珍しい。この人は本当にユウリなのかと、わずかに警戒しながらもその寝顔を眺めていると、
「……う……」
ようやくユウリが目を覚ました。その瞬間、彼はぎょっと目を見開きながら飛び起きた。
「なっ!? ななななんでお前らが……!?」
これまた珍しく慌てふためくユウリの姿に新鮮味を感じながら、私は昨日の出来事を端的に話した。するとユウリは得心したかのように息を吐いた。
「なるほどな……。理屈は分からんが、異世界の勇者と俺がそれぞれ別の世界に入れ替わったってことなんだな」
「ねえねえ、あーにゃんのところの世界はどうだったの? 仲間は? 女の子だけのパーティーだって聞いたけど?」
シーラが目を輝かせながら興味津々にユウリに尋ねる。その途端、ユウリの顔色がみるみる青くなる。
「やめろ……。思い出すだけで胃が痛くなる……」
無意識なのか突然お腹を押さえ始めるユウリ。一体アニスのいた世界で何があったのだろうか。詳しく知りたいが、これ以降彼がその話題を口にすることはなかった。
その代わり、彼は一言こうつぶやいた。
「……あいつらといるより、お前らと一緒に旅をする方が数倍マシだ」
おわり
異世界転移男勇者編も考えましたが、あまりにもカオスになりそうな気がしたので今のところ書く予定はないです。
次からは新章です!