俺様勇者と武闘家日記   作:星海月

184 / 204
ネクロゴンドの火山にて

 

「もうホント信じらんないよね! 普通年頃の女性の部屋に鍵開けて入る? ありえないよね!? 皆で野宿するときとは違うんだからさ!」

 

 船内の食堂で遅めの朝食を取りながら、私の向かいに座ってパンをかじっているシーラは、延々と文句を言っていた。

 

 どうやらシーラが寝ている間にナギが盗賊の鍵でシーラの部屋の鍵を開け、勝手に入ってきたらしい。そのときはまだ私は寝ていて知らなかったのだが、あのナギがそんな事するなんて、何度聞いても信じがたい話だ。

 

「ホントだね。でも、そこまでしてシーラと話がしたかったってことは、何かよっぽど重大な用事があったってことだよね? 結局なんだったの?」

 

 するとシーラは目をパチクリしたあと、私の方をじっと見た。

 

「あ、えっとね。ビビのことで聞きたいことがあったみたい」

 

「え、それでわざわざシーラの部屋に無断で入ったってこと? それは流石にひどいね」

 

「でしょ!? もうホントナギちんてば、思いついたらすぐ実行! みたいなところがあるから困っちゃうよ〜」

 

「ああ、たしかにそういう所あるかもね。ところでシーラ、パンがシチューの中に落ちちゃってるけど大丈夫?」

 

「え、あ、ヤバ! ホントだ!! でもこれはこれで美味しいから良し!」

 

 そう言うとシーラはひたひたにシチューが滲みたパンを口に放り込んだ。

 

「それよりミオちん、これからネクロゴンド山脈に向かうけど、体調とか大丈夫?」

 

「へ? どうしたの急に」

 

 祠の牢獄でガイアの剣を手に入れた私たちは、色々寄り道をしながらもようやく本来の目的であるネクロゴンド山脈へと向かっている。ナギの予知夢やお父さんの話では、ガイアの剣があれば、火山によって塞がれた道があっても通れることができるらしい。その剣も手に入れ、ようやく最後のオーブがあるというネクロゴンドの洞窟に向かおうとしているのだが――。

 

「いや、これから行くのってサイモンさんたちが魔王軍に襲われた場所じゃない? そんな危険なところに今から向かうんだもの。心構えとか、体調とか万全にしとかなきゃならないと思ってさ」

 

「ああ、それなら大丈夫だよ。私昔から全然風邪とか引かないし、それに皆がいるからきっと大丈夫って思ってるから」

 

 そう素直に言うと、何故かシーラは泣きそうな顔になった。

 

「ミオちんてば、健気すぎるよ……! あたしもミオちんみたいにどーんと構えられたらいいんだけど」

 

「もしかしてシーラ、不安なの?」

 

「……正直言うと、ちょっぴり不安かな。今までは順調に行ってたけど、いざ魔王城が近くなると、現実味が増すっていうか……。あと、もっと強い魔物と対峙しなきゃならないっていう恐怖もあるよ」

 

 ここまでシーラが素直に自分の気持ちを吐露するのは珍しかった。とはいえ私だって、不安や恐怖がないわけではない。でも、レベルが低かった昔とは違って、今は皆レベルも上がり、四天王の一人を倒せるくらいまで強くなった。そんな自信が、不安や恐怖を上回っているのだ。

 

「私だって怖くないわけじゃないよ。でも、シーラが賢者になって、ユウリやナギもレベルアップして、皆前よりもずっと強くなってるんだもの。皆となら魔王を倒せるって信じてるんだよ」

 

「ミオちん……」

 

 シーラを元気づけてあげるつもりだったのに、シーラの目には涙が今にもこぼれ落ちそうになっている。身を乗り出した私は指でシーラの涙を拭い取ると、小さく微笑んだ。

 

「私はずっとシーラと旅をしてよかったって思ってる。シーラがいるから、絶対魔王を倒せるって信じてる。だからシーラも、私を信じてほしいな」

 

「……ありがと、ミオちん。あたし、今まで生きてきて、誰かに頼られたことなんて一度もなかったから、ミオちんにそう言われて、すごく嬉しい」

 

 それでも、シーラの涙は止まらなかった。私は大げさだなあ、と思いつつも、彼女が泣き止むまでずっと励ましていたのだった。

 

 

 

――この場所、懐かしいなあ……。

 

 あれはナギとシーラと別れてからすぐの頃。ヒックスさんの船に乗せてもらって、最初に訪れたのがここネクロゴンド山脈付近の海域だ。

 

 あのときは途中で引き返したが、今回はなんとしても上陸しなければならない。

 

「このあたりには船を泊める場所がありませんので、もう少し迂回してみましょう」

 

 ヒックスさんの提案に、操舵室に集まっていた私たちは揃って賛成した。

 

 前回引き返した場所からさらに内陸側に進んでいくと、どんどん狭い海峡に入っていった。左右には峻険な山々が連なり、いくつかの山の頂上からは噴煙が上がっている。火山からは大分離れているはずだが、ここからでも活火山特有の熱気が伝わってくる。

 

 船上にいる船員たちも、慣れない地形にいつも以上に気を張っているのがわかる。ヒックスさんも、念入りに周囲の状況を伺っては、近くにいる船員たちに指示を送っていた。

 

 そしてそれは私たち四人も同じだった。ユウリはもちろん、ナギやシーラも普段と比べると必要以上に警戒しているように見える。

 

 もちろん私も注意深く辺りを見回していた。もしかしたら海だけでなく、山の方からも魔物が現れるかもしれない。そう思ってじっと様子をうかがってはいたが、結局魔物が襲いかかってくることはなかった。

 

 やがて、眼前に巨大な岩壁がいくつもそそり立つのが見えた。ここから先に進むには、目の前にある岩壁の合間を縫って行かなければならない。

 

「皆さん、ここからは小舟でしか行けませんので、私が舟を出します。準備ができたら、お声掛けください」

 

 ヒックスさんの声に、操舵室を出た私たちは各自装備や所持品の確認を始めた。

 

「あれ、ユウリ。その兜って……」

 

 いつの間にかユウリの頭には、以前ムオルで防具屋さんから受け取ったオルテガさんの兜を着用している。もらった当初はデザインが古いとか言って、全く装備していなかったはずだけど……。

 

「何か心境の変化でもあったの?」

 

 私が尋ねると、ユウリはそっぽを向いたまま答えた。

 

「……別に。ずっとしまったままじゃ錆びると思っただけだ」

 

 なんだかユウリらしくない答えだ。だけど、これ以上あれこれ詮索するのも気が引けた。

 

「お前の方こそ、準備はできてるんだろうな?」

 

「もちろんだよ!」

 

 と、いつもどんくさい私の身支度に対して皮肉交じりに注意しているが、今回はいつも以上に念を押した言い方だ。

 

「俺が言ったやつもちゃんと持ってきてるな?」

 

「もちろん!!」

 

 そう。今回はユウリに頼まれて、あるものを私の鞄に入れてある。意図は分からないけれど、これは絶対に忘れるわけには行かないので、甲板に上る前も10回くらい中を見た。

 

「ふん。それならいいんだ」

 

 良かった。今度ばかりは怒られずに済んだようだ。

 

「よっしゃ! 準備が整ったところで、早いとこネクロゴンドに行こうぜ!」

 

 ナギの一声に、俄然気持ちが引き締まる。なぜなら、これから向かう場所が、サイモンさん達ですら太刀打ちできなかった魔王軍のいる場所だからだ。これが武者震いなのか恐怖による震えなのか自分でもわからないが、私は無意識に動く自分の手をぎゅっと押さえた。

 

「そうだ、シーラ。これをお前に渡しておく」

 

 そう言ってユウリがシーラに渡してきたのは、青い宝石のついた小さな指輪だった。なんかどこかで見たことがあるような……。

 

「あっ、これってエルフの女王様がくれたやつだよね?」

 

 いち早く気づいたシーラが正解を言い当てた。そうだ。あれは以前、ノアニールの事件を解決した時にエルフの女王様からもらったものだ。

 

「ずっと鞄にしまっていて忘れていたが、この『祈りの指輪』は、対象者のMPを回復してくれるらしい」

 

「えーっ!? じゃああたしにピッタリなアイテムじゃん!! どーして今まで隠してたの!?」

 

「だから忘れてたって言ったろ。あのときは呪文を覚えてる奴が俺しかいなかったからな。もし思い出していたら、ジパングのときに渡していた」

 

 不満げなシーラではあったが、ユウリから受け取ると、早速指輪を装備した。私もユウリからもらった銀の髪飾りを身に着けてるし、ナギもイザベラさんからもらったドラゴンテイルを腰に提げている。万全の状態で身支度を終えた私たちは、早速船へと乗り込んだ。

 

「皆さん、もう準備はお済みなのですか?」

 

「ああ。あまり長居はしたくないからな。さっさと向かうぞ」

 

「……わかりました。私もここを離れるので、船員たちと話をしてきます。少し待っていてください」

 

 ヒックスさんは船員を集め、何かを話し始めた。何を話していたのかは聞き取れなかったが、船員たちが揃って驚いた顔をしているのが目に入った。

 

 そして数分後、ヒックスさんは戻ってきた。

 

「本当に大丈夫なのか?」

 

 ユウリが尋ねると、ヒックスさんは平然とした顔で答えた。

 

「ええ。どうやら私がユウリさんと一緒に戦闘に参加することに驚いていたようです。これを見せたら安心してくれましたが」

 

 ヒックスさんが手にしていたのは、小振りの短剣だった。反りが入っていて刃幅も広く、あまりお店では売ってないような形だった。

 

「あんたも戦えるのか?」

 

「必要とあれば」

 

 少し得意げに、ヒックスさんは答えた。

 

「そりゃあ頼もしいな」

 

 ナギも興味深げにヒックスさんの武器に目を留める。

 

「では、早速行きましょう。舟の操作は私がします」

 

 まず初めにヒックスさんが舟に乗り込んだ。次いでユウリが舟に乗り、ヒックスさんの後ろに立つ。次は私、と舟に足をかけたところで、ユウリが手を差し伸べた。

 

「ほら、早く乗れ」

 

「あ、う、うん」

 

 戸惑いながらも、私はユウリの手を取り舟に乗り込んだ。足元が不安定になり、バランスを崩しそうになるが、その前にユウリに体を支えられる。

 

――うわあああ、近い!

 

 心臓がドキドキしすぎて身体が沸騰しそうになるが、ユウリに悟られないよう必死に平静を装う。そしてユウリの隣に座った後で、事の重大さに気がついた。

 

――ああああ、こんなに狭い舟の中で、ユウリの隣に座っちゃったよ!!

 

 小舟は二人づつ並んで座ると狭く、常にお互いの肩が触れてる状態なので、少しでも揺れると密着してしまう。これ以上近づいたら身が持たないと察した私は、なるべくユウリから離れて座ることにした。

 

 その間にナギとシーラが舟に乗り込んだ。先頭にはヒックスさん、そして私とユウリ、ナギとシーラが背中合わせに並んで座る。先頭のヒックスさんと、最後尾のナギがそれぞれ櫂を持つと、間もなくゆっくりと舟が動き始めた。

 

「皆さん、このあたりは岩礁が多いので避けながら進みます。揺れますのでどうか落ちないようにしてください。ナギさんは私の動きに合わせて漕いでください」

 

「おう、わかった!」

 

 ヒックスさんの言葉に従い、ナギは慣れた手つきで舟を漕ぐ。そんな中私は、落ちないように舟の縁を両手でしっかりと掴んだ。なんとなくバランスが悪い気もするが、ちゃんと両手で掴んでいればきっと大丈夫だろう。

 

「うわあ、早ーい♪」

 

「おい見ろよ、珍しい魚が泳いでるぜ!」

 

 後ろでは、シーラとナギのはしゃぐ声が聞こえてくる。ちなみに背中合わせなのは、周囲に魔物が襲ってきても全方位に対処できるようにするためだ。

 

「ふん、あまりはしゃぐな。舟が揺れるだろ」

 

 そんな二人を、煩わしげに注意するユウリ。しかしその言葉が言い終わらないうちに、舟が激しく揺れた。

 

「流れの違う場所があります! 皆さん気をつけて!」

 

『!!』

 

 ヒックスさんの警告を皮切りに、不規則に迫りくる波が舟を大きく揺らす。次第に重力に逆らえなくなり、座るのもままならないほど不安定な状態が続く。

 

 ガクン!!

 

「わ……」

 

 その時、ひときわ大きな波がやってきて、舟が上下に大きく傾いた。思わず手を離してしまった私は、その衝撃で体が海に投げ出されそうになる。まずい、と思ったその時――。

 

「ミオ!」

 

 声を上げる間もなく、ユウリが私の手を掴んで引っ張った。今度は重心がユウリの方に傾き、そのまま私の体はユウリの腕の中にすぽんと収まった。

 

「あまり外側にいると舟が傾く。俺から離れるな」

 

――あああああああ!! 近い近い近い!!

 

 端から見れば完全に抱き合っている状態に、私の頭の中はパニック状態になった。離れたくても、ユウリが私の背中に手を回してしっかりと支えているので身動きが取れない。恥ずかしさで今すぐ離れたい気持ちと、もう少しこのままでいたいという相反する感情が私の頭の中でいつまでもせめぎ合っていた。

 

 すると、舟の揺れが収まったのか、突然ユウリは私から離れた。心配してくれていたと思いきや、急にそっぽを向いてしまった。

 

「あ、ええと、ありがとう」

 

「ふん。また揺れたら、俺に掴まればいい」

 

 ああ、きっとこれは舟に慣れてない私に対して、ユウリなりに気遣ってくれてるのだろう。ふと後ろを振り返ると、シーラもナギにしがみつきながらキャーキャー悲鳴を上げている。何となく気恥ずかしくて距離を取っていたけれど、今はそんなことを言っている場合ではない。命に関わることなのだ。

 

 その後私は舟が揺れる度に、ユウリの身体にしがみついた。幸か不幸か、鎧を着ているためユウリの体温は全くと言っていいほど感じない。そのおかげかさっきよりは冷静でいられたが、それでも彼との距離は私をドキドキさせるには十分であった。

 

「あそこに上陸しましょう」

 

 しばらく進んだ後、ヒックスさんが指さしたのは、黒いゴツゴツした岩が無数に広がっている海岸だった。ユウリによると、火山の噴火で流れた溶岩が冷えて固まったものらしい。座礁しないように慎重に舟を海岸に近づけながら、私たちはゆっくりと上陸した。

 

 辺りに木々は生えておらず、独特な匂いが立ち込めている。すぐ目の前には今にも噴火しそうな山々が聳え立っており、すぐ近くの地面からは時折蒸気のようなものが噴き出していて、熱気が収まらない。

 

「こりゃあ、早いとこ用事を済ませねえと倒れちまうぜ」

 

 額に浮かんだ汗を拭いながらナギがぼやく。火口からは程遠い山の麓にもかかわらず、この辺り一帯の気温はかなり暑い。アッサラームとはまた別の暑さに、この地を訪れてまだ間もない私たちの身体は悲鳴を上げた。

 

「おい、バカザル。お前の夢だと、俺は一番高い山の麓で剣を地面に突き立てたんだったな?」

 

 先頭を歩くユウリがナギに尋ねる。鎧を着ているからか、四人の中では一番暑そうだ。

 

「ああ。けどこんなに山ばっかじゃあ、どれがその山かわかんねえぞ」

 

「なら山頂まで行って一番高い山を探してこい」

 

「オレに死ねって言ってんの!?」

 

「冗談だ。お前の見た予知夢は、お前の視点で見てたのか? それとも別の視点……、例えば上空から覗き込むような形で見ていたのか?」

 

「えーと、あの時はオレ自身の目から見た光景だった気がする」

 

「ならここからでも一番高いとわかる山を探せばいい」

 

「あ、そっか」

 

 要するに一番高い山というのは、あくまでナギの視点から見たものなのだ。それならナギと一緒にこの場にいる私たちにも見つけやすい。

 

 探しながら先に進もうと歩き出すユウリだったが、何かに気づいたのかピタリと足を止めた。

 

「ヒックス。ここから先は危険だ。お前はここに残ってもいいんだぞ」

 

 するとヒックスさんは首を横に振った。

 

「いえ、僭越ながら私も行かせてください。こう見えて若い頃は一人で海の魔物と戦ってきましたので」

 

 そう言って腰に提げていた短剣を器用に振り回した。その華麗な動きに私たちは目を見張った。

 

「そうか。なら、ついてきてくれ。頼りにしている」

 

 ユウリもヒックスさんの剣さばきに納得したのか、素直に頷いた。

 

 その腕前を見てもわかるように、ヒックスさんが一時的にパーティーに参加したことで、魔物との戦闘でのリスクが緩和されたのはありがたかった。けれどそういうときに限って、何故か魔物が襲いかかることは無かったのである。

 

「不思議だね。こんなに魔物に遭遇しないなんて」

 

「かえって不気味だな。もしかしたら罠かもしれん」

 

 シーラとユウリの言う通り、慎重に周囲を警戒しているが、魔物の気配は感じられない。この環境では動物や植物が生育しないのはわかるが、環境など関係のない魔物までいないのは、不自然と思わざるを得ない。

 

「ここに来る人間を罠に嵌めようってのか? 魔物にそんな知恵があるとは思えねえけどな」

 

 ナギが空を仰ぎながら呟くと、ユウリが侮蔑を込めた目で睨んだ。

 

「お前はジパングやサマンオサでの記憶がないほどバカなのか? 少なくとも多くの人間を騙すほどの知能を持つ魔物は複数いるはずだ」

 

「いや覚えてるよ! そりゃあボスクラスの魔物ならいるだろうけど、この辺にいる雑魚はいないと思うだろ、普通」

 

「ちっちっ。ナギちん、そういう『思い込み』が油断を生むんだよ♪ 何事も疑うことを知らないと☆」

 

「なんだよシーラまで! つーか『盗賊』のオレがそんなことで警戒を怠るわけねーだろ! てことでミオ!」

 

「は? 私?」

 

「とりあえずお前はオレから離れたら駄目だからな!」

 

「????」

 

 唐突に意味不明なセリフを吐いたナギが、混乱する私の腕を絡ませた。

 

「え……。なんでいきなり腕組むの?」

 

「だから今言ったろ! もしかしたら魔物が襲いかかってくるかもれねえから、万が一に備えてお前を守……」

 

 ドガッ!!

 

「ドサクサに紛れて何セクハラしてるんだこの変態ザルが」

 

 ユウリに頭を殴られ、地面に突っ伏すナギ。打ちどころが悪かったのかなかなか起きないナギだったが、それより前にシーラに叩き起こされた。

 

「ナギちーん☆ あとでちょーっとお話しよーねー♪」

 

 そう言うとシーラはナギを引きずりながら少し離れたところに移動した。なんとなくシーラの背中から殺気が生まれているように見えるのは気のせいだろうか。

 

 そんな二人を見送りながら、ユウリは私にピシャリと言った。

 

「あのバカはともかく、用心するに越したことはないからな。お前も十分警戒しとけ」

 

「わ、わかってるよ!」

 

 何を今更、と言わんばかりに私は言い返した。

 

 そんな私たちのやりとりにしびれを切らしたのか、ヒックスさんが声をかけた。

 

「皆さん、あまり長居するのは危険です。急ぎましょう」

 

「ああ、そうだな。俺としたことが、バカの相手をしていて失念していた」

 

 気を取り直したユウリは、離れていたナギとシーラを呼び戻すと、連なる山脈のある一点を見つめた。

 

「おそらく、あれがそうだ」

 

 ユウリの視線の先にあるのは、噴煙とマグマにより赤黒く染まる峻峰の中でもひときわ高くそびえ立つ、とある大岳。山の頂からは絶えず噴煙が上がっており、ここからではまだ遠くにあるにもかかわらず、他の山々とは違う存在感を放っているように感じる。私以上に第六感が働くユウリのことだ。きっと何かしらの確信を持ってあの山が目的地だと言っているのだろう。

 

「行くぞ」

 

 目指すはあの山の麓。私たちは気持ちを引き締めると、新たな目的地に向かって歩き出したのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。