俺様勇者と武闘家日記   作:星海月

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最後の宝玉

 

 四天王ホロゴーストとの戦いが終わったあと、私たちはすぐにシーラたちのところに戻った。

 

 アルヴィスの腕はすっかり元通りになり、普通に動かせるようになっていた。

 

「皆!! 大丈夫!? 怪我は……」

 

「こいつらの怪我なら俺の回復呪文で治した。それよりアルヴィスの方は?」

 

「アタシのことなら心配ないわ。それにしても、あなたたちだけであんな強い魔物を倒すなんて、すごいじゃない! 残念だけど、どうやらこれ以上アタシの出番はなさそうね」

 

 そう言ってアルヴィスは立ち上がると、ユウリに向き直り彼の頭にポンと手を置いた。

 

「今のアナタなら、きっと魔王を倒せるわ。なんたって、英雄オルテガの戦いをずっと間近で見てきたアタシのお墨付きですもの」

 

「……あんたにそう言ってもらえるのは、心強いな」

 

 少し照れながら話すユウリに、アルヴィスは苦笑しながら彼の頭をくしゃりと撫でた。

 

「よーし! そんじゃあボスっぽい奴も倒したことだし、とっとと先に進もうぜ!」

 

 そうだった。あくまで私たちの目的は、四天王を倒すことではなく、オーブを見つけること。ナギの言うとおり、次の敵が現れる前に先に進まなければならない。

 

「微かに風が吹き込んでいるな。出口は近いぞ」

 

 果たして、ユウリの言うとおり出口はすぐ近くにあった。さして長くない一本道を歩いてすぐに、光が見えたのだ。それを見た瞬間、私たちの足は自然と早くなった。近づくにつれ、どんどん視界に光が溢れ出す。暗闇にすっかり慣れてしまった目は、夕暮れのほの暗い空ですら、まぶしく輝く太陽のように感じた。

 

「やったあ! 洞窟を抜けたよ!」

 

 何日ぶりの外の空気だろうか。暗くてじめじめして、殺気に満ちた空間から抜けたこの瞬間が、かつてないほど心地いい。私は外に出た途端、思い切り息を吸い込んだ。

 

 だが、一番うしろを歩いていたナギが何かに気づき、ピタリと足を止める。

 

「いやちょっと待てよ、結局オーブは洞窟の中にはなかったってことか?」

 

「ナギちん、盗賊の鼻は?」

 

「あっ、そうか。確かめんの忘れてた」

 

 頭を搔くナギに、ユウリがつかつかと歩み寄る。

 

「なら今確かめてこい」

 

 げしっ!!

 

 言うやいなや、ナギを蹴り飛ばすユウリ。緩い下り坂になっていたからか、バランスを崩したナギはそのまま洞窟へと転がり、逆戻りしてしまった。

 

「てめえええ!! 覚えてやがれええぇぇ……」

 

 叫び声とともに、次第にフェードアウトするナギ。肩をすくめるシーラに、私は苦笑した。

 

 

 

 しかし、結局ナギの特技を使っても、洞窟の中にお宝――オーブは見つからなかった。

 

 かと言ってここにずっととどまってるわけにも行かないので、周囲を探索するために歩き続けた。すでに日は沈みきり、せっかく洞窟を抜けたこの場所も、あっという間に暗闇の世界と変貌した。

 

「そう言えばユウリ、ホロゴーストを倒したとき、どうして剣から光が出てきたの?」

 

 言い終わってから、質問の仕方がずいぶん子供っぽいなと後悔した。と言っても、それ以上表現のしようがなかったのだが。

 

「ユウリちゃんさあ、もしかしてあれってテンタクルスと戦ったときにやったのと同じ? 確かあのときは、剣にライデインの呪文を込めたんだよね?」

 

「いや、あのとき呪文を唱えたのは最初の一回だけだ。剣から光が出たのは、あの剣自身が生み出したからだ」

 

「え!?」

 

「バカザルの母親が言ってただろ。俺のこの剣がもし本物の稲妻の剣なら、特別な力を秘めているだろうって」

 

 確かにフィオナさんは言っていた。もともと稲妻の剣は何百年も前からある伝説の剣だと。レプリカの可能性もあるが、もしそうなら剣から光が生まれるなんてことはない。つまりユウリの持っている剣は、まさしく本物だったのだ。

 

「テンタクルスの戦いのときにライデインの呪文を剣に付与したのは、剣に魔力を込められるか試してみたからだ。普通の剣なら魔力を剣に込めるなんてこと出来ないからな。だが、予想通りこいつは力を発揮した。だから今回は、剣自体が力を発揮するかを試してみたんだ」

 

 うんうん、と頷いてみせるが、専門外なことなのでよくわからない。

 

「簡単に言うけど……、魔力を別の媒体に注ぎ込むって、一般人には出来ないからね?」

 

 代わりにシーラが話を聞いてくれている。なぜか呆れているような物言いだけれど。

 

「あのエロジジイが言ってただろ。呪文は想像力だって。強くイメージさえすれば、いくらでも応用は利くんだ」

 

「うう……。賢者のあたしが魔力のことでユウリちゃんに教わるなんて、なんか複雑……」

 

「案の定、思惑通りになって良かった。もし失敗していたら、俺はあの時殺されていたかもしれない」

 

「こっ……!?」

 

 『殺されていた』なんて、例え話でも言わないで欲しい。一瞬ヒックスさんとの戦いで倒れていたユウリの姿が頭をよぎり、胸が痛くなる。

 

「まあとにかく、皆無事で良かったワ!! アタシの腕もシーラが治してくれたし。それにしもすごいわよ、皆! よく頑張ったわネ!」

 

 バシバシとユウリとシーラの背中を叩くアルヴィス。それに便乗して私も声を上げる。

 

「そうだよ、これで四天王の四体のうち三体を倒したんだよ!! これなら魔王だって倒せるよ!!」

 

「ミオの言う通りだ! それにこれからはアルヴィスも一緒だもんな! 五人ならきっと倒せるぜ!」

 

 そこへ、ボロボロの姿のナギも横から割って入ってきた。ユウリに蹴り飛ばされ洞窟に放り込まれたが、本人曰く無事らしい。

 

「あー……、それなんだけど、魔王の城にはアタシ、行けないワ」

 

『え!?』

 

「ナギくんを庇ったとは言え、あんな無様な姿見せちゃったんだもの。とてもじゃないけど一緒には行けないワ」

 

 アルヴィスの衝撃的な一言に、四人は愕然とした。

 

「なっ、なんでだよ!! あんたが怪我をしたのはオレを庇ったからだろ? アルヴィスのせいじゃねえ!!」

 

「ナギくん……。戦士として戦いに出た以上、アタシにもそれなりのプライドがあるの。形はどうあれ、アタシは致命的な怪我を負った。あのとき片腕を切られた時点で、アタシの戦士としての命は終わったのよ」

 

「アルヴィス……」

 

 アルヴィスの決意が揺るがないのは、端から見ている私たちでもわかった。ナギも引き留めたい気持ちはあるけれど、これ以上言葉が続かない。

 

「ナギ。アルヴィスの気持ちを汲んでやれ」

 

 沈黙を破ったのは、ユウリだった。諦めたように、ナギはがっくりと肩を落とした。

 

「ごめん……。オレのせいで……ごめん……」

 

「アナタが責任を負うことはないのよ。これはアタシが決めたルール。アタシの意思。アタシがいなくても、新たな可能性を持つアナタたちなら、きっと魔王を倒すことができるワ」

 

 あのとき、二人の間に何があったのかは知らない。だけど、ナギは後悔している。その気持ちを知ってなお、アルヴィスはこの旅を降りると言うのだ。私がどうこう言える立場などない。

 

「もう、そんなに寂しいの? オーブを見つけるまでは一緒についていくから、泣き止みなさい!」

 

「なっ、泣いてねーし!」

 

 まるで泣いてる子供をあやすように、アルヴィスはナギの背中を優しくさする。実際にナギが涙をこぼす姿は見ることはなかったが、一度だけ皆が目を離している隙に背を向けて袖口を拭っている光景が視界の隅に映った。もちろん見ないふりをしたけれど。

 

 それにしても、ここは火山の近くのはずなのに、薄ら寒い。いや、火山の近くだからって暖かいとは限らないのか。草木の少ない特有の土地だからだろうか、頻繁に冷たい夜風が頬をかすめる。

 

「ひとまずこのあたりに魔物の気配はないようだから、一度休息を取ろう。念の為聖水を撒いておく」

 

 そう言うとユウリは鞄に手を突っ込み、聖水を探した。……しかし、いくら探しても、聖水は見つからなかった。

 

「あっ、そう言えばホロゴーストの戦いで投げたやつ、あれって聖水なんじゃ……」

 

「……」

 

 私の言葉に、しばし沈黙するユウリ。そして、何事もなかったかのようにスタスタと歩きだした。

 

「もう少し安全な場所がないか探すぞ」

 

「ユウリちゃん、こういう時は『あっ、いっけね! 忘れてた☆』って言ってお茶を濁すのがベストだよ♪」

 

「そーよぉ★ 何事もポジティブシンキングよ♪ 明るく明るく☆」

 

 二人に言い立てられても、ユウリは自分のキャラを崩すことなく無言で前に進み続けたのだった。

 

 

 

 それからしばらく歩いたところで、鷹の目を使っていたナギの足がピタリと止まった。

 

「あそこ、北東のほうかな……。なんか祠みたいのが見えるんだけど」

 

「祠?」

 

「体を休めるならどこでもいい。そこに向かうぞ」

 

 何日も洞窟にいてまともな食事もせず、度重なる戦闘で気力も体力も使い果たしていた私たちは、とにかく休息を求めていた。ユウリの提言に賛成した私たちは、すぐにナギの見つけた祠へと向かった。

 

 湖畔のほとりにぽつんと佇む、小さな祠。こんなところに誰が祠なんて作ったのだろう。

 

 祠の入り口の前で、ユウリが立ち止まった。入り口には木の扉が立てかけてあり、最後の鍵がなくても簡単に入れそうな作りだった。

 

「魔物の気配はなさそうだな。というか、これは……」

 

「うん。どっちかと言うと、真逆の存在がいるね」

 

 シーラがそう言うってことは、殺気とはまた違うもの……。シーラが感知できるもの、それはつまり……。

 

「この中に、魔法使いでもいるの?」

 

 しばしの沈黙。なぜか気まずい空気が流れる。

 

「うんうん、当たらずとも遠からずかな〜☆」

 

「お前にしては冴えてるな、鈍足」

 

 なんかバカにしてるような気がするけど、気のせい?

 

 などと話をしていると、ギイ、という開閉音とともに、内側から扉が開かれた。即座に身構える私たち。

 

 中から現れたのは、一人の中年の男性だった。赤茶色の髪は部屋のランプに照らされて、炎のように赤く見える。穏やかな印象を持つその男性は、私たちの姿を認めた途端、顔をほころばせた。

 

「扉の外から面白い会話が聞こえて来たから、何かと思って開けてみたら、随分と可愛らしい客人だ」

 

 話し方まで穏やかな男性は、ぽかんとする私たちに構わず、入れと言わんばかりに手招きをした。

 

「外は寒いだろう。さあ、早く中に入りなさい」

 

 男性に手を引かれ、一歩中に入った途端、暖炉のような暖かさが体を包みこんだ。祠の中は少し広いリビングくらいの広さで、床には絨毯、その上に立派な椅子が一つだけ置いてある。不思議なのは、これだけ暖かいにも関わらず、暖炉などの暖房設備が一切ないということだ。

 

「私はガイア。ここに一人で住んでおる。この地に人間が訪れたのは、何十年ぶりだろうか……」

 

 ガイア? サイモンさんが持っていたガイアの剣と同じ名前だ。当時はそういう名前が流行っていたのだろうか?

 

 ひとまず私たちはそれぞれ名を名乗り、ここに来るまでの経緯を話した。

 

「なるほど、君たちは魔王を倒すために、シルバーオーブを手に入れようとしているのか」

 

「ああ。それがあれば、不死鳥ラーミアを蘇らせ、魔王の城に乗り込むことができる。ここに住んでいるあなたなら、オーブがどこにあるか知っているんじゃないか?」

 

 まるでガイアさんが何者か分かっているような物言いで、ガイアさんを見据えるユウリ。ややあって、ガイアさんの口が開いた。

 

「……そうだな。精霊の加護のある君たちなら、きっと魔王を倒すことができるはず。これは君たちが持つにふさわしい」

 

「精霊の加護?」

 

 なぜかガイアさんは、私の方にちらりと目をやった。しかしこれ以上ガイアさんはそれには答えず、私たちに背を向けた。そして部屋の中央まで歩いたあと立ち止まり、床に向かって手を掲げた。その行為を理解できる人は誰もいなかった。

 

「◯▲□◆☆!」

 

 なにやら聞き取れない言葉を呟くと、ガイアさんの足元に光の円環が現れた。光の円はそのまま光を伴って浮かび上がり、ガイアさんの手のひらに引き寄せられた。まるで床から光の円柱が立っているような神秘的な現象に、私は言葉を失った。

 

 やがて光の柱の中から、ぼんやりと丸い影が現れた。それをガイアさんが手に取ると、光はすっと消えた。

 

 ガイアさんの手に持っているのは、銀色に輝く丸い玉。それと同じ大きさの玉を、私たちはすでに5つ持っている。

 

「それは……」

 

「私がずっとこの地で守り続けていた、シルバーオーブだ。これを、勇者である君に託そう」

 

 ガイアさんはユウリに、シルバーオーブを手渡した。滑らかに光る銀色の宝玉は、どんな宝石よりもひときわ輝いて見えた。

 

 しかしそんな宝玉の美しさには目もくれず、ユウリは真顔でガイアさんを見た。

 

「ガイアさん、あなたはひょっとして精霊なのか?」

 

 ガイアさんの表情が、僅かに変わる。好奇心旺盛な子供のような目でユウリを見返すと、こくりと頷いた。

 

「いかにも。私はこの世界の炎と大地を司る精霊ガイア。以前君たちが大地に捧げたガイアの剣、あれを作ったのは私だ」

 

 ガイアの剣を作った? しかもガイアさんは人間ではなく、精霊なの!? 突然の情報過多に、頭が追いつかない。

 

 けれどユウリとシーラは最初からわかっていたのか、まったく動じていない。ナギも私同様驚いており、アルヴィスは何のことかわからずきょとんとしている。

 

「君たちが剣をこの地に返してくれたおかげで、魔物に封じられていた私の力がいくらか戻ったようだ。改めて、礼を言わせてもらおう」

 

 そう言ってガイアさんは、ぺこりとお辞儀をした。

 

「ユウリちゃんが火山に突き刺した剣、ガイアさんに捧げたことになってるみたいだね」

 

 小声でユウリに耳打ちするシーラ。そんなつもりではなかったユウリは無視を決め込んでいる。

 

「それより、ここまで来るのに疲れただろう。君たち人間ならなおさらだ。今晩はここに泊まっていきなさい」

 

「えっ、本当ですか!?」

 

 思わず声を張り上げる私。この室内はとても暖かく、床で寝られるだけでもありがたいほどだからだ。

 

「おっと、君たちを休ませるには少し殺風景すぎたな」

 

 すると、ガイアさんは再び床に手をかざした。今度はさっきよりもかなり大きな円環だ。先程と同じように光の柱が消えると、なんと五台分のベッド、それに沢山の食べ物が置かれたテーブルとイスが現れた。

 

「ええっ!?」

 

「なにこれ!? どういうこと!?」

 

「すげー!! うまそうな食い物がたくさん出てきた!!」

 

「なっ、なんだこれは……?」

 

 驚く四人に、ガイアさんはこともなげに答える。

 

「さっきも言ったが、私は炎と大地を司っている。火と土があれば、大抵のものは生み出せる。食べ物も、大地の恵みのものなら生み出して、火で調理することもできる。ちなみにこの中が暖かいのは、地熱を利用しているからなんだ。私が一声かければ、近くの火や土がすぐに応じてくれる」

 

 精霊というのは、そんなことまでできるのか。ただただ感心するばかりである。

 

「なら、お言葉に甘えて休ませてもらおう」

 

『やったー!!』

 

 ガイアさんの豪華すぎるもてなしを受けた私たちは、テーブルに所狭しと置かれたたくさんの食べ物をあっという間に平らげ、すぐにふかふかのベッドに吸い込まれるように眠ってしまった。

 

 

 

 

 




ゲームでずっと疑問に思っていた、シルバーオーブを持ってる謎のおっさんをどうするか悩みに悩んだ末、人外(精霊)にしました。
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