俺様勇者と武闘家日記   作:星海月

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いざバラモス城へ・TAKE2

 

 ネクロゴンド王国――。かつてこの辺りには、そう呼ばれる強大な大国があったらしい。だが、約二十年前、魔王が復活した際に数多の魔物がどこからともなく現れると、その国は間もなく滅ぼされた。

 

 その名残とも言われるのが、今私たちの目の前にある城であり、今ではバラモス城と呼ばれている。

 

 広い敷地に堂々と建てられたその城は、所々壁や屋根が剥がれており、歴史とともに朽ち果てた姿をしているが、かつて栄華を誇っていた大国の面影は辛うじて残っている。

 

「このお城の中に、魔王がいるんだよね」

 

 魔王の城から発せられる濃い瘴気と威圧感に圧倒された私は、感情を押し殺すように呟いた。

 

「ああ。ここから先は敵の本拠地だ。これまで以上に気を引き締めて行け」

 

「わ、わかった」

 

 力強い口調のユウリに気圧された私は、魔王城を見つめるユウリを横目で見た。彼の瞳がいつもより輝いているのは、これから魔王を倒し、世界を平和に導くという強い意志が込められているのだろうと悟った。

 

「いや、大量の金貨を抱えてるお前が言うべきセリフじゃねえよ」

 

 そこへすかさずナギのツッコミが入った。実はユウリの腕の中には、先ほど倒した『踊る宝石』の戦利品で得た大量の金貨袋が抱えられている。大層な口上を述べた割にはあまりにもあっさりと倒された踊る宝石の持ち物は、私たちの旅の資金を潤してくれるどころか、体調が悪かったユウリをまたたく間に元気にさせた。……もしかしたらユウリの瞳が輝いているのは、金貨の光のせいかも知れない。

 

「ユウリちゃん。さすがに魔王を倒しに行くのに、そんなたくさんの金貨を抱えては進めなくない?」

 

 シーラにもダメ出しされ、ユウリはさすがに自分の置かれている状況に気がついたのか、しばらく考え込んだ後、金貨袋をそっと地面に置いた。

 

「ラーミア。しばらくの間、この金貨を見守ってくれるか?」

 

 ラーミアはユウリの頼みに頷くように、元気よく一声鳴いた。

 

「伝説の不死鳥を金庫番代わりにする勇者なんているんだ……」

 

 呆れとも、尊敬とも言える口調でシーラは呟いた。

 

 ともあれ、ラーミアにお金の管理を任せた私たちは、いよいよ魔王の城へと足を踏み入れることにした。

 

 外敵からの侵入に備えた城門は、瓦礫に埋もれその機能をなくし、居城となる外観は、かつては絵画に描かれるほど美しく荘厳な佇まいをしていたはずが、今では苔と蔦に覆われてもはや見る影もなくなっている。テドンを訪れたときにも似た寂寥感に襲われながら、私たちは荒れ果てた庭園を通り過ぎる。

 

「開けるぞ」

 

 城内へ入る大きな扉の前で、ユウリが立ち止まると、扉の取っ手に手をかけた。ゆっくりと押し開けるとともに、重く軋んだ音が鳴り響く。

 

 開いた瞬間、むせ返るような瘴気に思わず足を止めるが、構わずユウリは先に進む。開いた扉の先は広いエントランスだった。目の前には規則正しく柱が並んでおり、柱の太さと大きさから、この城がいかに広いかを窺わせる。

 

「二手に分かれているな」

 

 ユウリの言う通り、エントランスの中央から左右に通路が分かれており、向かって左側は下り階段、右側には上り階段がある。

 

 普通だったら、城の主である王様は上の階にいることの方が多いけれど、魔王の場合はどうなんだろう?

 

「どうする? 魔王が地下に潜ってんのも想像できねえけど」

 

「……上の階に行こう」

 

 どうやらナギもユウリも私と同じ考えのようだ。シーラも特に何も言わず、皆ユウリの言う通り、上に続く階段へと向かった。

 

「あれ? ここって外?」

 

 階段を上がった先は、屋上だった。想定外の場所に、一行は肩透かしを食らう。

 

 だだっ広い屋上に何かないかと辺りを見回すと、一箇所だけ下に降りる階段が見えた。どうしてあんなところに、と疑念が生まれるが、先に進むにはあの階段を降りるしかない。

 

「皆! あそこに階段があるよ」

 

 私が指さすと、他の三人もあそこしかないと悟ったのか、是非もなくそこへと向かった。そして階段を降りるが、そこにあるのは無造作に生え散らかした雑草が生い茂る、荒れ果てた庭だった。

 

「なんで城の中に入って早々に外に出されるんだ?」

 

「さあな。侵入者である俺たちを翻弄させようとしてるんじゃないのか」

 

 誰にともなく呟くナギに、うんざりするように答えるユウリ。せっかく魔王を倒そうと意気込んだのに、なんとなく出鼻をくじかれた感じだ。

 

 しかも、庭に出たのはいいけれど、そこからどこに向かえばいいのかわからない。おまけに探している途中に草むらから魔物が現れ、油断してつい怪我を負ってしまった。

 

 幸い薬草一つで事なきを得たが、限りのあるアイテムを使ってしまった自責に駆られ、軽く落ち込む私。何とか魔物を倒したが、どうにも調子が狂う。

 

 しばらく庭を捜索していると、生い茂る木々の合間から建物のようなものが見えた。隣にいたナギもそれに気づいて鷹の目を使い、ユウリに報告した。

 

「どうやら離れのようだな。取り敢えず調べてみるか」

 

 草むらをかき分け、一行は建物へと近づいた。けして大きくはないが、城の中の建物なだけあって造りは普通の民家よりも立派である。それでもこんなところに魔王がいるとは到底思えず、皆この建物に入るべきかどうか踏みとどまった。

 

「……絶対怪しいよね」

 

 茂みの中から顔をわずかに出しながら、私は言った。

 

「さすがのお前でもそう思うか。だが、俺は逆にこの部屋の先に魔王がいると思う」

 

「あぁ、ユウリちゃんならそう言うと思った♪ 逆張り好きそうだもんね」

 

 ニヤニヤしながらシーラが言うと、ユウリにほっぺたをつねられた。

 

「どうして魔王がいると思うんだ?」

 

 疑問を口に出すナギに向き直り、答えるユウリ。

 

「この部屋のあちこちに魔力の残滓が残ってる。魔王かどうかはわからないが、おそらくこの部屋の先に上位クラスの魔物がいると思う」

 

「上位クラスって……。ひょっとして四天王がいるのか?」

 

「その可能性もないとは言えないな。どちらにしろ、俺たちはこの部屋の先にいる何者かと対峙しなくてはならない。もちろん罠や魔物の警戒は怠るな。ナギ、先に行って確認してくれ」

 

「あいよ」

 

 ユウリに指示され、ナギが茂みから抜け出して建物へと向かう。しばらくあちこち見回したあと、私たちに向かって大きく手を上げると、◯のポーズを取った。

 

「バカザルがサルのポーズ取ってるとバカみたいに見えるな」

 

 それ、本人に言ったら怒られるよ? という視線をユウリに送ったあと、一行はナギのもとへと向かった。

 

 建物の中を覗くと、そこには下へと続く階段があった。

 

「え、また階段!?」

 

「罠はねえけどよ、なんかすげえ怪しいよな」

 

 なんだかわざと私たち侵入者を迷わせているような気さえする。そう思っていたら、ユウリとシーラも同じことを思っていたようで、

 

「もしかしたらこの城自体が魔王の罠なのかもしれないな」

 

「そーだね。もしくはあたしたちを疑心暗鬼に陥らせて精神的に弱らせようとか、単純に迷わせて体力を消耗させようとしてるかも」

 

「だったらこっちも受けて立とうじゃねえか! いまさらそんなことにビビるようなオレたちじゃねえし!」

 

 四人は早速建物内にある階段を下りた。下りた先はひんやりと冷たい廊下になっていて、燭台の数も少なく薄暗い。

 

 しばらく歩いていくと、古ぼけた鉄の檻が見えてきた。檻の中には椅子があり、一体の朽ち果てた骸骨が座らされていた。

 

「っ……!!」

 

 それを見た途端、私は絶句した。死体の両手首には錆びた太い釘が打ち付けられており、両足首には動けないように鎖が巻きつけられている。そのあまりにも酷い仕打ちに思わず両手で口元を押さえた。だが、ふと以前にも似たような光景を見たことを思い出し、ユウリに尋ねる。

 

「……ユウリ。この死体、前にもどこかで見たことあったよね?」

 

「ああ。浅瀬の祠の中で、同じ光景を見た」

 

 そう。最後の鍵が眠っていた場所、浅瀬の祠の奥に、似たような白骨死体があった。確かその時はその死体の主である幽霊が出てきて、私たちに何かを伝えていた。ええと、なんて言ってたっけ?

 

『その人間はな、魂の契約によっておれに捧げられたんだよ』

 

「!?」

 

 地獄の底から響くかのような怖気の立つ声に、皆一斉に振り向く。

 

「誰だ!!」

 

 ユウリの声に反応するように、それ(・・)は蜃気楼のようにゆらりと姿を現した。紫色の身体に、鋭く光る金色の二つの目。背中にはコウモリの翼が生えており、手には禍々しい装飾の短剣と鞭をそれぞれ持っている。なのに奴からはあまり殺気を感じられない。

 

『おれの名はサタンパピー。見ての通り悪魔さ。そして、魔王バラモス様に従う魔王軍四天王の、最後の砦だ』

 

――四天王!! これまで三体倒したから、目の前にいる魔物は最後の一体ということになる。私は静かに鞄から鉄の爪を取り出し、右手に装備した。

 

 魔物は薄笑いを浮かべながら、話し始めた。

 

『ここはかつて、人間共の暮らす城だった。だがある時、この城の主は何を血迷ったか、この地に降り立った魔王様に対抗すべく、大いなる力を求め、悪魔に魂を売ったのさ。結果、魂の対価としてそいつは確かに力を手に入れた。ただし、魔物として生まれ変わってな』

 

 察しの悪い私にもわかる。その悪魔というのは言うまでもなく、今目の前にいるサタンパピーのことだ。そしてこの城の主を魔物に変えたのも、奴の仕業だろう。

 

 だが次の瞬間、サタンパピーの顔から笑みが消えた。

 

『そう、人間なんてその程度の価値しかないんだよ! おれたちに蹂躙され、塵芥のように捨てられるだけの存在! そんなお前らが我が同胞を斃すなんて、ありえないことなんだよ!!』

 

 ぶわっ、と凄まじい殺気が膨れ上がる。今まで私たちに気づかれないように殺気を隠していたということか。けれど、私たちだってこんな所で怖気づくわけには行かない!

 

『お前らがこの城に来ていることは初めから分かってたんだよ! 待ちくたびれたぜ! 今からお前らの身体をズタズタに引き裂いて、魔王様に献上してやる!!』

 

「来るぞ!!」

 

 ゴゴゴゴ……!!

 

 その時、地響きが鳴り、足元が揺れ動いた。すると部屋の一部の床に亀裂が走り、そこから巨大な石像が顔を出して現れた。

 

「きゃああああっ!!」

 

「なっ、何これ!?」

 

 男性の姿を模した石像は、裂けた床に手をかけてのっそりと這い出てきた。私たちの身長の二〜三倍はあるだろうか。精巧に作られた石像は、動かないはずの両の目をぎょろりと動かし、こちらを鋭く見下ろした。

 

『そいつが例の魂の持ち主(・・・・・)だ!! おれたち魔物への恨み、己の弱さへの後悔、全ての負の感情を純粋な力に変えて、お前らを襲うよう命令をしておいた! お前らの最期の宴にふさわしい粋な計らいだろ?』

 

 サタンパピーは哄笑すると、手にした鞭を勢いよく床に叩きつけた。

 

『行け、動く石像!! あの目障りなゴミどもを始末しろ!!』

 

 意思を持った石像は、無言で私たちに近づくと、巨大な腕を振り上げた。

 

「散れっ!!」

 

 ドガンッ!!

 

 ユウリの声と共に、四人は一斉にその場から離れた。その直後、今まで私たちがいた床に石像の拳が叩きつけられる。抉れて瓦礫と化した床を見て、その威力の高さに愕然とする。

 

「ピオリム!!」

 

 早速シーラが仲間の素早さを上げる呪文を唱えた。仄白い光が私たちの体を包み込み、消えた瞬間身体が軽くなる。

 

「先手を取るぞ!!」

 

 ユウリの指示に、三人は頷く代わりに各々行動を取った。ナギはユウリと共に石像を迎え撃つため走り出し、私はシーラを守るように構えの態勢を取る。

 

 シーラが唱えてくれた呪文の力で、先にユウリとナギが左右から回り込む。あと少しで石像に差し迫ろうとした、その時だ。

 

『甘い!!』

 

 横からサタンパピーの放つ鞭が、ナギの足元を狙う。瞬時に反応したナギは、紙一重で飛び退き回避した。

 

 一方ユウリも、再び石像の振り上げた拳を既のところで躱し、体勢を立て直す。

 

「俺は石像を引き受ける!! お前はあの悪魔を!!」

 

「了解!!」

 

 ユウリはナギにそう言い放つと、剣を構え直して石像に向かい、走り出した。一方、自分の方に向かってくる新たな標的を見つけた石像は、上に掲げた拳をユウリの頭上に思い切り振り下ろした。

 

 ダァン!!

 

 しかしそれを見切っていたユウリは、拳が襲いかかる前にジャンプして躱し、そのまま石像の腕に飛び乗った。

 

 腕を足場にしたユウリは、さらにそれを伝って頭の方まで駆け上がった。石像はまるで虫でも追い払うかのように、もう片方の手でユウリを握りつぶそうとする。しかし石像自体を足場にしてちょこまか動くユウリの動きについていけず、次第に石像の動きも荒々しくなる。

 

「シーラ!! こいつに氷系の呪文をできるだけ浴びせてくれ!!」

 

「オッケー!!」

 

 何か考えがあるのだろうか。ユウリの頼みにシーラは一声頷くと、精神を集中させた。

 

「ミオちん、ここはなんとかするから、ナギちんの方をお願い!!」

 

「う、うん!!」

 

 見るとナギはサタンパピーが繰り出す鞭の攻撃に苦戦しているようだ。

 

 私はシーラの判断と決意を信じることにし、一人サタンパピーと相見えているナギに加勢することにした。

 

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