四天王の最後の一体を倒し、この勢いで魔王バラモスを倒す、そう息巻いていた私たちだったが――。
「なあ、どこにいるんだよ魔王は!!」
「知るか!! 探索はバカザルの専売特許だろ!!」
サタンパピーを倒したあと、奥に階段があったので上ったが、たどり着いた先は魔王の城のエントランスだった。その後城内をあちこち探して回っても魔王の姿はどこにも見えず、私たちは完全に手詰まり状態だった。
その間にも絶えず魔物は襲ってくるし、じわじわと体力が減らされる。おまけに常に瘴気のある空間にいるからか、精神的にも参っていた。
「ちょっと一旦休憩しようよ〜! 疲れた頭でウロウロしても、これじゃあ逆効果だよ」
賢者の杖にもたれかかりながら、シーラが提案する。一番体力の少ないシーラは、見るからに辛そうだった。
「そうだ! 今思いついたんだけど、一回この城の見取り図を描き出してみようよ」
私は咄嗟のひらめきで、鞄からロズさんにもらった羊皮紙と木炭を取り出した。ピラミッドの探索をした時も、これを使って地図を描いたのだ。
「ふん。今さらマッピングなんかに頼るなんて、駆け出しの冒険者じゃないんだぞ」
鼻を鳴らすユウリに、シーラがうんざりするように息を吐いた。
「もぉ〜、ユウリちゃんてば、そういうの要らないから! 何事も初心忘れるべからずって言うでしょ?」
「そーだそーだ! マッピングをバカにするな! 探索において場所の把握は一番大事なんだからな!」
「なら早くそうしろ、バカザル!!」
いつもならベギラマの一発も放つ展開だったが、ユウリも限界だったのか、拳を上げる力もなくそばの壁に寄りかかった。
とはいえいつまでもこんなところに留まるわけにもいかない。ひとまず周辺の気配を探り、魔物がいないことを確認してから、私はその場にしゃがみこみ、羊皮紙を床に広げた。そして記憶にある限りのこの城の配置を描き始めた。
「ちょっと待て、そこは違うと思うぞ」
さらにナギも加わり、二人で意見を交わしながら描き進める。途中から私よりナギのほうが絵がうまいことに気づき、木炭をナギに渡して描いてもらった。
大体の全体図が描けた所で、突然ユウリが私たちの間から顔を出してきた。
「おそらくだが……、この先に別の建物があったのを見た気がする」
「え!?」
ユウリが指さした場所は、現在地のあるお城よりもさらに北東だった。
「こんなところに建物なんてあったっけ?」
記憶をたどるがさっぱり思い出せず、ついユウリに尋ねると、「ああ」ときっぱり言い切った。
「最初に城の入り口に入ってからすぐ屋上に向かっただろ。その時に屋上から全体を見渡したんだが、この城の他にもう一つ、小さな離れがあったはずだ」
「ええ? オレもあの時鷹の目使って見渡したけど、そんな建物なかったぜ?」
「……ああ、そうか。お前らは気づかなくて当然だったな。あの建物の周りには、結界が張ってあった。おそらく魔力の少ない奴には見えないようになってるようだ。シーラ、お前は見えてたか?」
ユウリの問いに、言葉に詰まるシーラ。
「ごめん……、高いところが怖くてあんまり見れなかった……」
バツが悪そうに下を向くシーラに罪はない。ユウリも特に責めることはせず、私たちが描いた羊皮紙を手に取った。
「とにかく、俺が睨んだ場所に向かうぞ。お前たちが地図を描いてくれたおかげで、確信が持てた」
ユウリの発見により、私たちはようやく重い腰を上げた。ユウリが見つけた離れとやらに向かうことにしたのだった。
「おいおい、マジであったのかよ……」
あれから私たちは一度お城の外に出て、敷地内をくまなく探索した。魔力のない私には鬱蒼とした木々が生えているようにしか見えないが、何かを感じ取ったシーラはその場でピタリと足を止めた。
「この先に……強い魔力を感じるよ」
「ああ。結界の魔力もそうだが、おそらくこの先に魔王がいる」
『!!』
シーラとユウリの言葉に、私とナギは息を呑む。いよいよここからが、最終決戦になる……!
すると、横にいたナギが自分の両頬をバシッと叩いた。
「うしっ!! 気合い入れて行くぞ!!」
「お、おー!!」
なんとなく釣られて私も気合いを入れる。ところが足を踏み出そうとした所で、ユウリの手に遮られる。
「この鈍感どもが……。まだ行くんじゃない。この先には結界が張ってあるって言っただろ」
わかりかねる顔を向けると、ユウリはため息をついた。
「結界がある限り、あたしたちは中に入れないってことだよ」
かわりにシーラが説明してくれた。そういうことかと、一歩後ろに退いて納得する。
「なんで魔王の城に来てまで、お前らの無知に振り回されなきゃならないんだ……」
「えっと……。なんかごめん」
うなだれるユウリに、私は申し訳なく謝った。
「トラマナ!」
シーラの呪文により、私たちの身体の周りに、シャボン玉のような空気の膜が張り巡らされる。シーラによると、この呪文は私たち自身に結界を張る効果があるらしい。このシャボン玉に包まれている限り、外から受けるすべての影響を無効化するのだとか。けれどこれは一時的なものらしく、しばらくするとまた元に戻るのだという。
「皆、急いで建物に入って! 効果が切れる前に!」
ユウリとシーラが先に進み、結界が見えない私とナギが後を追いかける。何事もなく走っていくと、急に視界が変わり、目の前に建物が映し出された。
「これが、二人が言ってた離れの建物?」
疑っていたわけではないが、突如現れた建物を目の当たりにして、私はようやくこの先に魔王がいるのだと言う実感を得た。しばらくして、自分の周りにあったシャボン玉は消え失せ、建物を覆うように光る虹色のカーテンのようなものが目に映った。
「それで……、これが結界?」
「迂闊に近づくな。その結界は触れるだけでダメージを負う」
「ひえっ!?」
私は思わずその場から飛び退いた。この結界の中を、呪文のおかげで通り抜けることができたのだ。改めて、シーラの呪文は心強いと感じた。
「んじゃあ改めて、魔王を倒しに行くぞ!」
「さっきと随分ノリが違うね、ナギちん」
魔王との決戦を前にテンションが高いナギに、苦笑するシーラ。離れの入口を抜け、すぐ先に下へと下る階段を見つけた。いよいよこの先に、魔王がいる――。
「――!!」
途端、足が竦んで動かなくなってしまった。この日のために今まで旅を続けてきた。その思い出が唐突に蘇ってきて、魔王との戦いに勇んでいた気持ちが揺らぎ始める。
ぐいっ。
「痛っ!!」
すると突然いつもより強い力で髪の毛を引っ張られ、私は思わず涙目になる。横を向くと、いつもの仏頂面の勇者がそこにいた。
「余計なことを考えるな。今は前だけを見ろ」
「はっ、はい!!」
私は背筋を伸ばし、さっきナギがしていたようにバシバシと自分の頬を叩いた。しっかりしなくちゃ、ゴチャゴチャ考えるのはもうやめた。今は魔王を倒す、ただそれだけを考えるんだ。
「行くぞ」
そう言ってユウリは、先陣を切って階段を降りていく。覚悟を決めた私も、彼のあとを追うように前へと踏み出した。
ゲームではトラマナの詳細が不明なので(足元を浮遊させるのかバリアーを張るのか)、自己解釈しました。
今回ちょっと短いですが、次が魔王との戦いなのでキリよくしました。