俺様勇者と武闘家日記   作:星海月

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偏屈な客

 

「や、やっと着いた……!」

 

 火炎ムカデと対峙してから三時間。ようやく私たちは、魔法の鍵の情報を知っていると言われるヴェスパーさんの住んでいる家に辿り着いた。

 

 幸いにもあれ以降ムカデは現れなかったが、他の魔物とは何匹か遭遇した。

 

 おばけきのこや人喰い蛾はどうにかなったが、地獄のハサミというカニの姿をした魔物と同時にこられると厄介だった。なにしろそのカニは自身の防御力も高いが、複数に効果のある防御系呪文のスクルトを唱えてくるのだ。最初にそれを唱えさせてしまい苦戦したが、次に現れたときはユウリがすぐさまベギラマを唱え、魔物を一網打尽にしてくれたおかげで、なんとか無事に進むことができたのだった。

 

 一方、戦闘面で意外な力を発揮したのはルカだった。武器の扱い方は年齢や経験の差もありほぼ素人同然なのだが、身のこなしが軽く、体も小さいため敵の攻撃が当たることはほとんどなかった。

 

 あとで聞いたら、毎日ドリスさんの知り合いの武闘家と戦闘の修行をさせてもらってるという。もっぱら攻撃を避けることしか出来ていないが、それだけでも十分成長している。実家にいたころの彼は遊ぶことしかしていなかったはずだったから、よくここまでがんばってきたと思う。

 

 ふと気づくと、早朝に町を出立したにも関わらず、すでにお昼を回っていた。携帯食料は持ち歩いているが、食事は後回しにし、先にヴェスパーさんのところに行くことにした。

 

 ここから少し離れたところに小高い丘陵があり、あちこちに岩や石くれが転がっている。その丘陵の頂上に、ポツンと小さな家が建っていた。

 

 家といっても、普通の木造家屋ではなく、大きくて固そうな石を煉瓦のように積み重ねたような家だ。ルカが言うには、ここイシス地方ではこういう家は珍しくないという。暑さだけではなく、他の地域に比べて竜巻などの発生も多いため、簡単には壊れない造りにしてあるのだそうだ。

 

 早速訪ねようと丘を登り、家のそばまで近づいてみるが、なぜか家の周りには動物の死骸やら鳥のフンやらが散乱している。

 

「ねえルカ。本当にここに人が住んでるの?」

 

「うん。あの人大の人嫌いでさ、わざわざ人が立ち入らないような場所を選んでんだ。ずっと一人で住んでるみたい」

 

 ルカは平然とした顔で答えると、入り口から少し離れたところまで歩いて立ち止まる。

 

「ここなら人一人くらい通れます。オレがいつも使ってる道だから安心して下さい」

 

 そう言いながら、腐敗した地面の合間から見える砂地に足を踏み入れる。刺激臭はするが、我慢できないほどではない。私たちはルカのあとに続いていった。

 

 そして、てっきり入り口に向かうのかと思いきや、ルカは家を通りすぎ、奥の方へと進んでいくではないか。

 

「この家に入らないの?」

 

「ここは臭いがすごいから誰も住んでないよ。普段ヴェスパーさんは、この奥の祠で生活してるんだ」

 

 祠? 祠でどうやって生活してるんだろう? ますますヴェスパーさんが何者なのかわからなくなってきた。

 

 とにかくこの家には誰もいないらしい。遠い昔は誰かが住んでいたのかもしれないが、よく見れば壁のあちこちに亀裂が入っており、長い時間かけて劣化していったのがわかる。

 

 祠と一軒だけぽつんとある家。きっとそこは昔、何かを奉っていたのだろう。そしてそれを守る神官だかが住んでいた。もはや推測でしか図れないが、魔王が復活する前はこんな辺鄙な場所でも生活できるくらい平和だったのかもしれない。私はやりきれない思いでそれを見ながら、少し歩いたところにある小さな祠へと向かった。

 

 祠に近づくと、私たちの気配に気づいたのか、人影が動くのが見えた。その男性は姿かたちだけ見れば初老に見えるが、髪の毛はボサボサで、全身埃まみれの状態でじっと立っており、実年齢は定かではない。

 

 彼はルカと私たちを交互に見たあと、再び祠の中に引っ込んでしまった。

 

「噂通り、かなり変わったおっさんみたいだな」

 

 ナギが小声で誰にともなく呟いた。まあでも、ヴェスパーさんの立場からすれば、いきなり見知らぬ人間が何人も目の前にやってきたのだ。そりゃあ多少警戒はするだろう。

 

「あのー、突然大勢で伺ってすいません! 私たち、魔王を倒すために旅をしている者なんですけど、ちょっとお話させてもらってもいいですか?」

 

 なるべく刺激しないように、下手に出ながらおじいさんとの接触を図ってみる。私が声をかけると、今度は目だけ出してこちらをじーっと伺っている。なんだか野生の獣のようだ。

 

「ヴェスパーさん。今日はあなたが欲しがってたものすごく珍しいものをたくさん用意してきたんですよ。ほら、これなんかどうです?」

 

 もともと彼と商売の交渉をしに来たルカが、素早く鞄の中から何かの本を取り出した。この間ドリスさんが言っていたものだろうか。

 

「見てください、その名も『ユーモアの本』! これを読めば大爆笑間違いなし! さらに性格が『お調子者』になり、ギャグのセンスもピカイチになり、皆の視線を一人占めできますよ!」

 

「……わし人のいるところ行かないし、別に必要ない」

 

 ルカの熱弁もむなしく、ヴェスパーさんはきっぱりと断った。

 

「もちろん、一人でいるときもこの本を読めばいい気分転換になりますよ! あ、あとこの『金のネックレス』なんかどうです?」

 

 それに負けじと、ルカは次々に鞄の中からアイテムを出して紹介するが、ヴェスパーさんの購買意欲が変わることはないかった。それどころか、徐々に不機嫌をあらわにしていく。

 

「今日もまたつまらんもん見せに来ただけか。食糧だけ買うからとっとと帰ってくれ」

 

 そう言うとヴェスパーさんは、お金代わりなのか、何やら鳥の羽根のようなものを無造作に置いて、また奥に引っ込んだ。これって家の前に散乱していた鳥の死骸から拾ったものなんじゃ……?

 

「待ってください! せめてこの人たちの話を聞いてください! この人たちは魔王を倒すため、あなたが知ってる『魔法の鍵』を探しているんです! どこにあるか教えて頂きたいんです!!」

 

 ヴェスパーさんは、顔を出して私たちを一瞥すると、面倒くさそうに鼻を鳴らした。

 

「ふん。そんなうさんくさい連中とは話なんぞする気にもならん。帰った帰った」

 

 再び奥に引っ込もうとするのを、ユウリが無機質な表情を顕わにしながら呼び止めた。

 

「おいジジイ。俺たちは魔王を倒す旅の途中で急いでるんだ。お前のわがままで救える命も救えなくなるんだぞ」

 

 ユウリの高圧的な態度に、みたび顔を出したヴェスパーさんはムッとした表情で返した。

 

「そんなんわしには関係ないわ。魔王だかなんだか知らんが、これ以上わしの生活を脅かさないでくれ」

 

 この人、本気で自分には関係ないと思っているらしい。さすが、オルテガさんでさえ諦めざるを得なかった人物だけある。

 

「仕方ない。魔王が世界を滅ぼす前に俺がこの地を焦土と化してやる」

 

「待って待って!! 早まらないでユウリ!!」

 

 ああもう、誰かこの暴走勇者を代わりに止めて欲しい。

 

 するとそこへ、マントに身を包んだシーラが、ふらふらしながらユウリの横へやって来た。

 

「うああ~、暑い~! 脱ぐ~!! ユウリちゃん、いったん返す~!」

 

 普段着慣れてないからなのか、マント一枚で暑がるシーラは、急いでマントを外すとユウリに無理やり渡した。

 

 急にバニーガール姿となった彼女を見たヴェスパーさんは、目を真ん丸にして微動だにしない。まるで生まれてはじめて見る生き物を見ているかのようだ。

 

 そして、震える手で彼女を指差しながら、こう言った。

 

「そ……その尻についてるものをくれ!!」

 

 は?!

 

 皆の目が点になる。ナニヲイッテルンダロウ、コノヒトハ。

 

「え~と、さすがにおしりはあげられないかな~?」

 

「違う!! その尻についてるふわふわしたものじゃ!!」

 

 言われてシーラは後ろを振り向く。確かに、バニースーツのお尻のところに、丸い毛玉みたいなものがついている。

 

「それ、『うさぎのしっぽ』ですよね。ヴェスパーさん、あれが欲しいんですか?」

 

 ルカが目のやり場に困りながらおずおずと尋ねると、ぶんぶんと首を縦に振った。

 

「それだったら今度またここに来たときに仕入れておきますよ。今日は食糧だけで良いですか?」

 

「嫌じゃ! わしはその子の尻についてるのが欲しいんじゃ!!」

 

 駄々をこねる子供のように、わめき続けるヴェスパーさん。

 

「なんだ、ただの変態ジジイじゃないか。やっぱりここで葬り去った方が世の中の為になるんじゃないのか」

 

 手をヴェスパーさんに向け、再び死の宣告をするユウリ。うん、今回は私も止めない。

 

「別にあげてもいいよ? また新しいのに変えればいいし」

 

 けれどシーラはあっさりと、その『うさぎのしっぽ』を取り外した。

 

「その代わり、さっきも言ったけど、『魔法の鍵』の場所教えてね?」

 

「ほ、ほんとか!? 教えるとも! わしの持ってる情報でよければ、いくらでも教えてやる!」

 

 にっこりと、ヴェスパーさんにそれを渡すシーラ。ヴェスパーさんもよっぽど『うさぎのしっぽ』が欲しいのか、先程とはうってかわった態度で快諾した。

 

 その後ヴェスパーさんは態度を改め、私たちを祠に招き入れてくれた。

 

 祠の中は朽ち果てた女神像が転がっており、あとは必要最低限の生活道具が並べてあるだけだった。これだけ見て、本当にここが人の住居だと分かる人はほぼいないだろう。

 

 その後、草を編んだ敷物の上で車座になりながら、私たちはヴェスパーさんの話を聞くことにした。

 

「それで、お前らはわしに何を聞きたいんじゃ?」

 

 ヴェスパーさんの問いに対し、口火を切ったのはユウリだった。

 

「今から十年以上前、お前の元にオルテガと名乗る男が来なかったか?」

 

「……ああ、確か魔王を倒そうとしてるといっとったな。確かにここに来おった」

 

「その男は俺の親父なんだが、そのとき『魔法の鍵』がどこにあるか尋ねなかったか?」

 

「ああ。そういえば聞いとったな。魔王の城に行くにはそいつが必要だと言っておった」

 

「その時、なんでその鍵を渡さなかったんだ? もしあの時親父が鍵を手に入れられたら、今頃世界が平和になってたかも知れないんだぞ?」

 

 ユウリの問いに、ヴェスパーさんは遠い目をしながら答えた。

 

「『渡さなかった』んじゃない、『渡せなかった』んじゃ」

 

「どういうことだ?」

 

 ヴェスパーさんは一つ咳ばらいをし、居住まいを正す。

 

「実を言うと鍵はここにはない。本当はここから北にある、古代の王族が眠る墓と一緒に隠されている」

 

「古代の王族が眠る墓?」

 

 そう言われても全くピンとこない。お墓と一緒に埋められてるってこと? 師匠がくれた鉄の爪みたいなものだろうか?

 

「うむ、世間では『ピラミッド』と呼ばれとるがな。墓といっても規模が違う。なにしろ墓自体がちょっとしたダンジョンよりも広いからな。その建物の中には代々の王族や、その王族が使ってた装飾品や宝が一緒に納められていてな。その宝を手に入れようと、今まで数多の盗賊や魔法使いどもがその墓に侵入したために、わしのご先祖が色んな仕掛けを施して入れんようにしたんじゃよ」

 

「へえ。じゃあ、その仕掛けを解かないと中には入れないってことか」

 

 仕掛けと聞いて、興味深げに頷くナギ。

 

「お前の先祖は、ピラミッドの管理者だったのか?」

 

「うむ。もともとわしの先祖は魔法使いが多くてな。その中でも優秀な者たちが墓の所有者であるイシスの王に選ばれ、墓の守り手としてピラミッドに様々な仕掛けを施したのじゃ」

 

 ユウリの問いに、ヴェスパーさんはやや得意げに答える。

 

「じゃが、わしの一族にもいろいろあってな。何十年もたつうちに、墓の守り手自体、放置されるようになったんじゃ。今ではイシス城内でも、墓の守り手という存在自体知らない者がほとんどじゃ。もちろんわしら子孫にも、ピラミッド内部について語り継がれることはなかった」

 

 そう言って、深くため息をつくヴェスパーさん。

 

「だから、魔法の鍵がピラミッドのどこに眠っているのかもわからん。罠や仕掛けもどこに隠されているのか、それすらも今のわしには何一つ知らんのじゃよ」

 

 それを聞いた私たちは、がっくりと肩を落とした。それでも、魔法の鍵がピラミッドにあるっていう情報だけでも大収穫だ。

 

「それじゃあその話、オルテガさんにも……?」

 

「うむ。一応話したが、わしはあの男はピラミッドには行かんと思っとったよ。いかにも見てくれが脳筋だったからな。だから別れ際に『あんたにピラミッドの謎が解けるとは思わんけどな』って言ったら、激怒して帰って行きおったわ」

 

 うん、やっぱりこの人、変わってる。何でわざわざ相手を怒らせるようなことを言うんだろう。オルテガさんも災難だったなあ。

 

「だからな、これ以上わしに聞いても無駄じゃぞ。あとは自分等でなんとかしてくれ」

 

「ずいぶん他人任せだな」

 

「何を言う。ちゃんとこいつのお代分は話したからな。もう用はないんだから、気が済んだのならとっとと帰ってくれ」

 

 なんて自分勝手なんだ。でも、魔法の鍵のありかを教えてくれた手前、彼がどんな気性であれ、そこは感謝しなくてはならない。

 

「教えてくれてありがとうございます、ヴェスパーさん。助かりました」

 

「ふん。まあ、お前の話のおかげで道が開けた。一応礼は言う」

 

「む、むう。そうやって正直に言えばいいんじゃよ」

 

 私たちがお礼を重ねると、ヴェスパーさんは少し照れた表情をした。

 

「けどよ、じーさん。そのウサギのしっぽをどうするつもりなんだ?」

 

 ナギの何気ない問いに、ヴェスパーさんは声を震わせた。

 

「な、なんじゃお前!! もしかしてやっぱり買い戻したいとか……」

 

「いや、絶対ないから」

 

「あたしも気になるなぁ~。元持ち主として」

 

 ナギとシーラがずい、と歩み寄る。ヴェスパーさんは必死の形相でウサギのしっぽを両手でしっかりと握りしめると、

 

「こ、これはわしの唯一の拠り所なんじゃ!! 誰にも渡さんぞ!!」

 

 そう言って、自分がウサギにでもなったんじゃないかというくらい小さく怯えながら、拒絶の反応を示した。

 

 その様子があまりにも必死だったので、不憫に思ったのだろう。半ばからかい交じりだった二人は、これ以上言うのをやめた。

 

「そ、それじゃあヴェスパーさん。また何かあったら来ますんで」

 

 ルカが最後に挨拶をして、私たちは祠を後にした。振り向くと、ヴェスパーさんはずっと怯えたような目でこちらを見つめている。う~ん、やっぱり変わった人だ。

 

 

 

「最後まで変なやつだったな」

 

 ナギが何とも言えない表情で呟くと、ユウリが鼻を鳴らした。

 

「ふん。取り合えず、もうここには用はない。一旦町に戻って情報収集するぞ」

 

 太陽も大分傾き始め、昼間の暑さとはうって変わって空気がひんやりとしてきたのだが、未だに砂漠の気候は慣れない。

 

 鍵の場所はわかった。あとは、どうやってピラミッドの中に入るかだ。

 

「えと、あのー、ところで皆さん。本気でピラミッドの中に入るつもりですか?」

 

 行く気満々の私たちに、おずおずと口を挟むのはルカ。

 

「ああ。別にお前を連れていくつもりはない。アッサラームに着いたらそこで別れるつもりだ」

 

「いや、そうじゃなくて……。聞いた話だと、ピラミッドって仕掛けだけじゃなくて、魔物も沢山いるらしいじゃないですか」

 

「まあ、砂漠にこれだけ魔物がいるんなら、ピラミッドにいてもおかしくないだろ」

 

 しれっと答えるユウリ。けれど憂いの表情を浮かべたルカは、控えめだが力強い調子でさらに言い募る。

 

「でも、さっきのムカデよりももっと強い魔物がいるそうです。それにウワサでは、ピラミッド内部のどこかに呪文の一切効かない場所もあるらしくて、最近はほとんど誰もがそこに近寄ることすらしないそうです。……それでも行くんですか?」

 

「当たり前だ。俺たちの目的は魔王を倒すことだ。そのために必要なアイテムならば、手に入れるのが当然だろ」

 

「そうですが……」

 

 それでもなお言おうとするルカに、私は違和感を覚えた。すると、シーラがルカの隣に寄ってきた。

 

「るーくんはさ、おねーちゃんが心配なんだよね?」

 

――え?

 

 シーラが俯くルカの頭を撫でながら優しく話しかける。ルカは恥ずかしそうにしながらも、小さく頷いた。

 

「あー、さっきの戦闘で逆に不安にさせちまったってことか? まあ、オレも大口叩けるほどレベル高くはねーけどよ、こいつら守れるくらいはできるから。そんな心配すんなって」

 

 ナギも察したのか、にっと白い歯を見せながら、私とシーラを指差した。

 

 ああ、そっか。さっきの火炎ムカデとの戦闘で、かなりてこずってたからな。そのせいでルカに余計な不安を与えてしまったんだ。

 

「こいつらに不安を覚えるのも無理はない。だが安心しろ。レベル32のこの俺がいるからには絶対に全滅になるようなことはならない」

 

 そう言いながら、自信満々に前に出るユウリ。いつの間にかレベル32になっていたらしい。でもユウリのおかげで私たちが生き残っていられるのは紛れもない事実だ。逆にいうと、ユウリがいなければこの砂漠を越えることは出来ない。……それが事実なのだ。

 

 ルカは勇者の一言が聞いたのか、安堵の表情に変わっていった。ごめんね、私がもっと強ければ、そんな顔させないで済んだのに。

 

「そうですよね。勇者であるユウリさんが、負けるわけないですよね。おれも出来ることがあれば協力しますので、魔王を倒して、世界を平和にしてください。……あと、姉のこと、よろしくお願いします」

 

 深く頭を下げるルカ。その小さな背中を見て、私は胸に熱いものが込み上げてくるのを感じた。ルカも成長してるんだ。私も今以上に頑張らないといけない。

 

「それはそうと、皆さんこれからアッサラームに戻ろうとしてますよね? 提案があるんですが、今からだと夜になってしまいます。それはさすがに危険なので、ここから北に少し行ったところにあるイシスに向かいませんか?」

 

「ああ。あの変態ジジイが言っていたイシスか。確かにピラミッドに行くには、所有者であるイシスの王……いや、あそこは女王か。彼女にも話を聞いといたほうがいいからな。ここから近いのか?」

 

「ここから一時間ほど歩けば着けます。それに、イシスではアイテムの素材の買い取りも行ってるので、実はここを出てから行こうと思っていました」

 

「素材の買い取りって何? ルカ持ってるの?」

 

 ルカは何を言っているんだ、と言わんばかりに私のほうを向いた。

 

「持ってるもなにも、さっきヴェスパーさんがくれたじゃんか。あれキメラの羽根なんだよ。その羽根を集めて加工したのがキメラの翼になるんだ」

 

「ええっ!? そうだったの!?」

 

 てっきり鳥の羽根かなにかと思ってたけど、まさか魔物のだったなんて。

 

「他にも『うさぎのしっぽ』なんかは一角ウサギの毛から作られてるし、結構魔物の一部を使って作ったアイテムって多いんだよ」

 

 頑張って覚えたのか、さすが商人見習い、と言わんばかりに饒舌に話すルカ。

 

「でもさ、この辺キメラなんて魔物、見かけないよ? なんでヴェスパーさん持ってるの?」

 

「うん、確かにこの辺にはいないんだけどさ。師匠が言うには、死期が近づくと、ある魔物なんかはみんなそろって同じ場所に集まって、そこで死ぬのを待ってるんだって。キメラもそういう習性があるかもって言われてる。ヴェスパーさんちの周り、動物とか魔物の死骸とか凄かっただろ? 世間じゃ『魔物の墓場』って呼ばれてるんだ」

 

「おいおい、そんなヤバそうなところに住んでんのかよ、あのじいさん」

 

 ナギがあきれた口調で言うと、ルカはナギに向き直り、

 

「でも商人の間じゃ、アイテムに使う貴重な素材もよく見つかるので、『魔物の宝物庫』とか呼ばれてたりしますよ」

 

 そう言って目を輝かせた。ひょっとしてドリスさんがルカをヴェスパーさんのところに向かわせているのも、そういう素材を手に入れるためなのかと推測してしまう。

 

 そして宝物庫と聞いて、一瞬ユウリの目が光ったが、敢えてそこには触れないことにした。

 

「それじゃそこで死んだキメラの羽根を、ヴェスパーさんは拾ってルカたちみたいな商人に売って、生計を立ててるってことなんだね」

 

「そういうこと」

 

 思わぬところでキメラの翼の作成方法を知ってしまった。ルカも色々勉強してるんだな。

 

「とりあえず、イシスに向かうぞ。まずはそこでピラミッドについての情報を集める。……よし、明日俺は女王のところへ向かうから、お前らは町で情報収集をしろ」

 

「二手に分かれるってこと?」

 

「ああ。全員で行ったら時間がかかるだろ」

 

 私は納得しながらうなずいた。そう言うと、ユウリは世界地図を広げながら、方角を確認していた。

 

 その様子を眺めているルカに近づくと、私に気づいたルカは少し気恥ずかしそうに言った。

 

「おれ、最初にユウリさんのこと、勇者っぽくないって言ったの取り消すよ。やっぱり人の上に立つ人って、カッコいいよな」

 

「あ、ああ、うん。そうだね」

 

 ルカに同意する私だったが、内心ユウリがまたお城に向かうという事態に若干の不安を抱いていた。なぜなら、ロマリアの王様交代事件があったからだ。まあ、そんな酔狂なことをする王様なんてそういないし、そんな何人もいてもたまったもんじゃない。

 

 ユウリに憧れを抱いたルカには悪いが、明日何事もないことを、私はただひたすら祈るしかないのだった。

 

 

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