俺様勇者と武闘家日記   作:星海月

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魔法の鍵

 

 長い探索の末、私たちはようやく魔法の鍵を手に入れた。

 

 けれど喜びもひとしおの中、ユウリがその鍵を掴み取ると、そのまま黙って懐に鍵をしまい込んでしまった。

 

「いやいや、もうちょっと感動に浸らせてくれよ! 何無言でしまってんだよ!」

 

 ナギが抗議を働くが、ユウリは知らん顔。それでも喚くナギにさすがにうんざりしたのか、彼は鞄から盗賊の鍵をとりだし、ナギに投げ渡した。

 

「お前、これが前から欲しかったんだろ。もういらんからやる」

 

「……」

 

 おそらく思い描いていたものとは全く違う状況に、ナギは閉口するしかなかった。

 

「ねえねえ、さっそく使ってみよーよ! どっか扉っぽいところないかな~?」

 

 そんなナギの心情などどこ吹く風で、シーラが声を弾ませながらキョロキョロと見回す。

 

「そう言えば、ボタンがある場所に行く途中に枝分かれした道があったな」

 

「えっ、そんなところあったっけ?」

 

 ポツリとナギが呟く。私も一緒だったのに、全然気づかなかった。さすが盗賊、抜け目がない。

 

 ナギの言う場所に皆で行ってみると、確かに道の曲がり角の目立たないところに細い通路があった。人一人がやっと入れる程であり、おそらくアルヴィスさんみたいな大柄な人だったら通れなかっただろう。

 

「昔のイシスの人って細かったのかな?」

 

「さーな。単に宝を盗まれないための防衛策なだけかもしんねーし。……と、気を付けろよ、そこ罠があるから」

 

 罠を回避しつつ、奥へと進んでいく。通路は階段へと繋がっており、上ってみるとそこにはまた通路が奥へと延びていた。不思議と魔物の気配はない。代わりに寒気にも似た厳かな空気に満ちていた。

 

 仄暗い通路をさらに進んでいくと、やがて広間のような場所に出た。広間の中央には大きな扉があり、他の場所とは違う神秘的な雰囲気が漂っている。

 

「きっとこれが魔法の扉なんだよね」

 

 私がポツリとそういうと、扉の前に立ったユウリが、先ほど手に入れた魔法の鍵を鍵穴に差し込んだ。

 

 カチャリ、と心地よい音が響くと、扉はいとも簡単に開いた。ゆっくりと扉を押すと目に飛び込んだのは、ここよりさらに広い部屋だった。

 

 その部屋の中央に、いくつもの宝箱が並んでいる。その光景に何度もがっかりさせられた私たちは、今回も最大限の警戒をしながらナギに宝箱を開けてもらうことにしたのだが──。

 

「あー……、悪い、しくじった」

 

「え、やだなに?!」

 

 私が声を出すやいなや、宝箱の中から全身包帯で巻かれた魔物が4体飛び出してきたではないか。

 

「謝るなら先に魔物が出るって言え!!」

 ユウリが抗議しながら剣を抜く。私も即座に迎え撃つ体勢を整えた。

 

「はいはいオレが悪うございました!」

 

 ナギも後悔しているのか、半ばやけになりながらチェーンクロスを振り回す。

 

 魔物の戦闘力は大したことないのだが、体力が半端ないのか、なかなか早期決着に至らない。ユウリがベギラマを連発してやっと魔物を倒すことができた。

 

「こんなところにまで罠を張るなんて、作ったやつよっぽど性格が悪いぜ」

 

 ナギはぶつぶつ文句を言いながら、宝箱から中身を取り出した。広げてみると、見たことのないデザインの女性用の服だとわかる。

「なんだこれ……、スカート? ワンピース?」

 

 そう気づいてからナギは持ってることに恥ずかしくなったのか、すぐさまそれを私に渡してきた。 代わりに私がそれをまじまじと見てみると、それは少し奇抜なデザインだが所々の装飾がかわいらしい、明るい色のワンピースだった。

 

「そこそこ防御力の高そうな服だな。それに、僅かだが魔力が込められている」

 

 博識なユウリが分析をしてくれた。すると、ナギが私とシーラを交互に見て言う。

 

「お前かシーラが装備できるんじゃないか?」

 確かにどうみても女性用だ。でも武闘家の私が着るには戦いの時に不向きだし、何より私よりシーラの方が、デザイン的にも似合う気がする。

 

「だったらシーラがこれ着なよ。武闘家の私には戦いづらい服だから」

 急に私にワンピースを差し出されて、シーラは多少戸惑った表情を浮かべた。

 

「え、でも……いいの? あたし全然戦闘とか役に立ってないし……」

 

「そんなことないでしょ。シーラのお陰でここのピラミッドの謎が解けたし、アッサラームでもいろんなところで役に立ってるじゃない」

 

私がそう言うと、シーラはためらいがちに受け取った。

 

「きっとシーラに似合うと思うよ。それにさ、私こんなにウエスト細くないもの」

 

 そうなのだ。やっぱり昔の人は細かったのか、異様にウエストが細く作られているのだ。でも細身のシーラなら着られる気がする。そう思って素直に彼女に渡したのだ。

 

「……ありがとうミオちん」

 

 受け取ったシーラはぎゅっとその服を握りしめる。

 

「でも、今はまだやめとく。着られる時が来たら着るから」

 

「? どういうこと?」

 

 やっぱりバニースーツの方がいいとか? でもそれならわざわざそんな言い方しないよね。

 

 受け取ってくれるということは、要らない訳じゃない。そう前向きに捉えた私は、シーラの僅かな違和感に気づくことなく、彼女の喜んでいる姿に顔をほころばせた。

 

 なんて考えていると、横からクイクイと髪の毛を引っ張られる感触に気づいたので振り返る。

 

「しゃべってないで、早くここから出るぞボケ女」

 

「はっ!? 出る?! てかボケ女って何?!」

 

 勇者の聞き捨てならない言葉に反応しつつ、情報が追い付かず変な声を上げる私。

 

「ここから出るってどういうこと? まだ一つしか宝箱開けてないよ?」

 

「アホか。残りの宝箱も同じような罠だったらそのうち全滅するぞ。下手に手を出してまた全滅になりかけるくらいなら一度引き返した方がマシだ」

 

「そりゃまあ確かに……。じゃあ、もう一回町に戻ってから、またここに来るってこと?」

 

「ああ。とりあえず、女王には魔物を一掃するように言ってしまったからな。罠とはいえ魔物が出てくる可能性のあるものは残すわけにはいかない」

 

 そうだった。それじゃあ、残りの宝箱も、罠とわかっててもあとで開けなきゃならないんだ。魔法の鍵を手にいれて喜んでる場合じゃない。

 

「わかったよ。それじゃ、リレミトで戻る?」

 

「ああ。ここも呪文は使えるようだし、ここから脱出したあと、またイシスに戻るぞ」

 

 そういうとユウリはすぐさまリレミトを唱えピラミッドを脱出し、ルーラを唱えて再度私たちはイシスへと戻った。

 

 

 

 翌日。さすがに三度目ともなると、勝手知ったる場所とはよくいったもので、描いた地図を見ずとも迷わずに大体進めるようになっていた。

 

 魔物の残党や宝箱の取り零しがないか、各階のフロアを隅々まで歩き回り、順調に上へと向かう。

 

 地図と現在地を見比べながら、未踏の場所の穴埋めも忘れずに描き留めておく。これは私の提案で、木炭をくれたお礼も兼ねて、ピラミッドの研究に少しでも役立てるよう、内部を事細かに描いたこの地図をロズさんにあげようと思ったのだ。

 

 けれど思いの外時間がかかり、二度目の宝箱の部屋に着いたときにはもう外は夕暮れ時を迎えていた。

 

 罠はすべて昨日と同じ仕組みだった。宝箱を開けては魔物を倒しを幾度となく繰り返していくうちに、気づけば残りの宝箱をすべて開けていた。

 

 宝箱の中は、ほとんどがお金だったので、当面旅の資金に困ることはない。

 

 ちなみに昨日手に入れたワンピースだけれど、イシスの商人に鑑定をしてもらった結果、『マジカルスカート』という防具だということがわかった。ある程度の攻撃呪文を防ぐことができるらしく、防具の中では割とレアな代物だそうで、この辺ではまず売られていない。そして……、なんと遊び人のシーラでは装備できないらしい。それでもこの中で一番サイズの合いそうなシーラに持っていてもらうことにした。

 

 町に戻り、残りの宝箱に入っていたアイテムも鑑定してもらったが、とくに目に留まるものはなかった。

 

 道具屋から出るとすでに辺りは暗くなっており、夜の帳が町を覆っていた。夜になるほど明るくなるアッサラームとは大違いだ。

 

「どうする? このまま宿に戻って寝るか?」

 

「うーん、戻るのは賛成だけど、お腹すいたし、どこかに食べにいこうよ」

 

 ナギの問いに、私は空っぽのお腹をさすりながら答えた。

 

 って、まずい! これじゃまた食い意地の張った奴ってユウリにからかわれる。

 

 ちらっとユウリの方を見ると、案の定呆れた顔をしてるではないか。

 

 仕方ないじゃない。もう三日もピラミッドに行ったり来たりしてるんだもの。ちゃんと屋根のある場所でテーブルに座り、美味しいご飯を食べるのは、人間の本能であり、抗うことはできないのだ。

 

「……仕方ない。今夜は特別に俺が奢ってやる。今から酒場に行くぞ」

 

『えっ!!??』

 

 ユウリの鶴の一声に、三人同時に驚愕する。普段宿代以外は各々が魔物を倒したお金や素材を売ったお金でやりくりしているのだが(シーラの分はユウリがほとんど払ってるけど)、全員の食事代をユウリが支払うのは滅多にないことなのだ。とはいえ深い意味はなく、ピラミッドで臨時収入が入ったからなのかもしれないけれど。

 

「マジで!? なんだよユウリ、お前もたまにはいいこと言うな!」

 

「お腹すいた〜! 早くご飯食べたい!」

 

「やったー!! お酒飲み放題だー!!」

 

「お前ら、調子に乗るなよ! 酒は一人一杯だからな!」

 

 だがもはやユウリの声は届いておらず、皆我先にと酒場に走って行ったのだった。

 

 

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