俺様勇者と武闘家日記   作:星海月

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一路、ポルトガへ

 

「うう~ん、もうお腹いっぱい……。入んない……」

 

「おいボケ女、起きろ。これから今後の予定について話し合うぞ」

 

 久々に美味しい料理を満腹になるまで堪能した私は、そのまま酒場のテーブルに突っ伏して眠りこけそうになったところを、ユウリの一声で起こされた。

 

 同じようにお腹が満たされてうとうとしているナギとシーラを揺り起こし、ユウリ自身も自分の頬を叩いて意識をはっきりさせる。

 

「なんだよ、今日くらい旅のことなんか忘れて、ゆっくりしようぜ」

 

 ナギが恨みがましそうにユウリを見る。ところがユウリは首を縦には振らなかった。

 

「そう言うわけにもいかない。これから俺たちが向かう場所がもうじき封鎖してしまうおそれがある」

 

「封鎖?」

 

 突如出てきた物騒な単語に、私は首を傾げた。

 

「そもそもこれから私たちはどこに行くの?」

 

 私が聞くと、ユウリはどこからともなく世界地図をテーブルの上に広げて、ある場所を指差した。

 

「この先魔王の城に向かうためには、どうしても船が必要だ。ここを見てみろ」

 

 そこは、今いるイシスより南、山岳地帯に囲まれた場所だった。

 

「ここが俺たちの旅の最終目的地、つまり魔王の城だ」

 

 その瞬間、ユウリを除く全員が息を呑んだ。改めて魔王の城に行くということを認識し、現実に引き戻された気がしたからだ。

 

 一方地図から目を離さないユウリは、眉間に皺を寄せながら指でテーブルを叩く。

 

「だが山々に囲まれて、陸地からでは到底たどり着けそうにない。そうなると、残る手段はただ一つ。大陸を迂回して船で向かうしかない」

 

「えー?! 船なんて持ってないよ?」

 

 私は思わず大声をあげた。

 

「アホか。お前みたいな田舎女が持ってたら世の中の全てを疑うぞ。船ならお前の弟が言ってただろ」

 

「そこまで言わなくても……。じゃなくて、ルカが言ってたこと? ……あ、そっか、ポルトガか!」

 

 私はぽんと手を叩く。

 

「造船業が盛んなポルトガなら、個人に貸すくらいの船ならあるだろ。だが、そこに行くには急がなきゃならない」

 

「そういやあのとき、船が出航できないとか言ってたよな。なんか関係あるのか?」

 

 ナギが皿に盛られたフルーツを口にいれながら尋ねる。

 

「ああ。さっきここの酒場で耳にしたんだが、ポルトガは最近他国に対して輸入規制をかけたらしい」

 

「輸入規制?」

 

「詳しいことはわからんが、当面の間他国からの輸入を禁止して、自国のみで経済を回そうと考えてるようだ。早ければ数日のうちに関所を封鎖するらしい」

 

 関所というのはおそらく、私がアリアハンに行くときに通ったロマリアの関所のことだ。確かそこがポルトガに行ける唯一の通り道だった気がするが……。

 

「……まあ、ポルトガにとっても他国からの信頼を失いかねない政策ではあるし、違和感は少しあるけどな」

 

 う~ん、よくわからないけど、他にも理由があるかもしれないってことかな?

 

「でも、そっか。そこが通れなくなったら、ポルトガで船を借りることが出来なくなっちゃうね」

 

 納得した私は、深く頷く。

 

「しっかし、そんなに急に関所を封鎖して大丈夫なのか?」

 

「俺に聞かれても知らん。とにかく、関所が封鎖されれば俺たちもポルトガに入れない。明日にはここを出るぞ」

 

 ナギの問いに半ばなげやりに返すユウリ。

 

 輸入規制と言っても、どのくらいの期間がかかるのか。もしかしたら何年も先かもしれない。船を手に入れなきゃならないのに、こんなところで何年も足止めを食っていたら世界が滅んでしまうだろう。

 

 ユウリは一息つくと、世界地図を懐にしまいこむ。ていうか、話し合いというより、ユウリが一方的に決めただけの気もするが。

 

「あ、その前に私、ロズさんのところに行ってもいい?」

 

「ああ。俺もピラミッドの件を女王に報告しに行くつもりだ」

 

 そんなわけで、お城までは全員で、ユウリは女王様のところ、私たち三人はロズさんのところに向かうことになった。

 

 

 

「ほ、本当に、これがピラミッドの内部の地図なんですか!?」

 

 心底驚いた様子で私が描いた地図を手にしているロズさんは、俄に信じがたいのか、私たちと地図を何度も交互に見比べながら言った。

 

「ホントだよー? 今なら魔物もいないと思うし、嘘だと思うなら自分で確かめてきてよ」

 

 シーラが不満げに答えるが、ロズさんは首を横に振る。

 

「いえ、けして疑ってるわけではなくてですね、まさかこんな詳細な地図を作ってきてくれるなんて思ってなかったもんですから、驚きましてね。これはミオさんが描いたんですか?」

 

「はい。こういうのはじめてだったから、バランスよく描けなかったですけど」

 

「いえいえ、素晴らしい出来ですよ! ミオさんは地図を作る才能があるのでは?」

 

「いやいや、そんなことないですよ」

 

 ロズさんがあまりにも褒めるので、私は否定しつつも顔が熱くなってしまった。この前もそうだったが、普段ユウリの毒舌を浴びてきているので、たまに褒められたりすると自分でもどうしていいかわからなくなるときがある。

 

「魔物はどんな姿でした? 倒してくれましたから確かめるすべはありませんが、資料として記録したいのです」

 

「だったらオレが描いてやるよ。なんとなくだけど」

 

 そういうとナギは、羊皮紙にさらさらと魔物の絵を描き始めた。描いたのは笑いぶくろに大王ガマ、ミイラ男と、それに人食い箱だ。

 

 ナギってば、意外と絵の才能があるようだ。シンプルな絵柄のわりには特徴をよくとらえてるし、観察眼が鋭いのもあるのかもしれない。

 

「ああ、この袋型の魔物は……『笑いぶくろ』ですかね。そうか、この地域にもいたのか……。うん、面白い。当時の魔物の生息に関する資料が作れそうです。それにこんなに上手な絵まで描いてくださって、ありがとうございます!」

 

「へへっ、まーな」

 

 ナギも私と同じで、ロズさんに素直に褒められて照れてるようだ。

 

「罠とか仕掛けとかの話も聞くか?」

 

「!! もちろん!!」

 

 罠や宝箱の仕掛けについてはナギが、魔法の鍵がある場所の仕掛けや書いてある古代文字に関しては私とシーラが詳しく話した。

 

 とくにシーラは、あのとき見た古代文字をいくつか覚えていたらしく、ロズさんの持っていた本と照らし合わせて書いてある意味をなんとなく解読することができた。

 

「きっと『太陽を知るものに光あれ』みたいなことが書いてあったんだと思います。それにしてもシーラさんは頭の良い方ですね。魔法使いか僧侶にでもなられてみては?」

 

「へ?」

 

 唐突に褒められ、変な声を上げるシーラ。

 

「やだなぁ、ロズぽんってば、誉め上手なんだから~」

 

 シーラははにかみながらも嬉しそうだ。それにしても、ロズさんの方こそ人を褒めるのが上手だと思う。

 

 ともあれ、ロズさんに気に入ってもらえたようでホッとした。その後ロズさんから今後の旅に役立てるよう、羊皮紙とロズさんお手製の木炭を追加でもらった。

 

「ミオさんたちのおかげで今まで凍結していたピラミッドの研究が大分捗りそうです。本来ならもっとたくさんのお礼を差し上げたかったのですが、しがない考古学者の身としては、出せる額も限られまして……」

 

「いえ、いいんですよ。私たちも魔法の鍵を手に入れるついでにやっただけですし」

 

「いや! ここまでしてもらって、さすがにお礼の品が紙と木炭だけだなんて、僕が許せません。ちょっと待ってください、確かあれが……」

 

 そういうとロズさんは、部屋の棚に押し込められているたくさんの箱の中から、ひとつだけ場違いなほど金の装飾が施されている小さな箱を取り出した。

 

「昔僕がイシスの歴史の研究を進めていたとき、女王様から賜ったものです。せっかく頂いたのですが、僕には必要がないのでずっと棚の奥にしまいっぱなしで……。これはミオさんたちが持っていた方がふさわしいと思いますよ」

 

 箱の蓋を開けると、中には腕輪が入っていた。緑色をベースに金の装飾で縁取られた、シンプルだが重厚感のある装飾品だ。そういえば、ピラミッドに行く前にロズさんが見せてくれた本で似たような絵を見た気がする。

 

「これは『星降る腕輪』と言って、イシス王家に代々伝わる宝の一つです。装備すると装備者自身の素早さが格段に上がるそうです」

 

「え……でも、女王様から頂いたものですよね? 私たちに渡しちゃっていいんですか?」

 

 私が戸惑っていると、ロズさんは黙って私の手に腕輪を渡した。

 

「いいんです。こんなところで埃かぶってるよりも、あなたたちに使っていただく方が、腕輪も喜ぶと思うんです。まあ、そういう考え方をしてる人なんて、僕ぐらいかもしれませんが」

 

 うーん、嬉しいけど、せっかく女王様がくれた宝物を、私たちが受け取ってしまって本当にいいんだろうか。

 

 横から顔を出したナギが、ロズさんに返そうとしている私の手を押し戻した。

 

「せっかくロズさんがくれるって言ってるんだ、お前が受け取れよ。俺はもともと素早いし、お前が素早く動ければ、あの勇者の鼻っ柱を折ることができるかもしれねえぞ」

 

「で、でも……」

 

「こいつを断ったら、ロズさんの気持ちも拒否するってことだぞ?」

 

 いつになく核心をついた発言をするナギに、私はハッとした。

 

「……ごめん、ロズさん。私、ロズさんの好意を拒否するところだった」

 

「いいんですよ、ミオさんが優しいのはわかってますから」

 

 そう言ってくれるロズさんの方が優しい。ちょっと変わってるかもしれないけど、人に対する思いやりがあるロズさんは、この短い間に私にたくさんの影響を与えてくれた。

 

「ありがとう、ロズさん。大事に使います」

 

「こちらこそ、ありがとうございます。あなたたちのおかげで、僕の大好きな考古学の研究がこれからも続けられます。感謝してもしきれないくらいだ」

 

「オレたちも、ロズさんがいなかったら魔法の鍵なんか手に入れなかったかもしれないし、すげー感謝してるよ」

 

「あたしも、ロズぽんと会えて楽しかった! 色んなこと教えてもらったし、また来るからね!」

 

 四人それぞれ思い思いに挨拶を交わし、別れを惜しんだ。またイシスに立ち寄ることがあったら、ロズさんに会いに行こうと思う。

 

「ユウリさんにもよろしく伝えてください。また何かあればご助力しますよ」

 

「はい! ロズさんもお元気で!」

 

 私たちは笑顔でロズさんの研究所を後にし、王宮へと戻ることにした。

 

 

 

 以前待ち合わせした大広間に戻ってみると、すでにユウリが腕組みをして立っていた。

 

「遅い」

 

 鋭い口調で一言言い放つと、私の方をじっと見ているではないか。なんとなく近寄り難くなり、一歩引いてユウリの視線の先を探ると、それは私の右手首に向いていた。

 

「なんだそれは?」

 

 苛立ちよりも好奇心が勝ったのか、彼の方から近づいてきた。慌てて隠そうとしたが、ユウリに腕を掴まれる。

 

 その瞬間、腕輪を取り上げられるんじゃないかと私は内心ヒヤヒヤしていた。どれだけ価値のあるアイテムなのかはわからないが、王家の宝と言うくらいだから、相当値打ちのあるものなのではないか。アイテムに詳しいユウリなら、見ただけで物の良し悪しはわかるはずだ。そんな装備を私が身に着けているのを見たら、きっとお前には不相応だとか言うだろう。でも、せっかくロズさんが私にくれたんだ。はいそうですか、と安易に渡したくはない。もしそう言われたら、はっきり断ろう。

 

「あ、あの、えーとね、私たちが地図とかいろいろピラミッドについての情報を教えたら、ロズさんがお礼にこの『星降る腕輪』をくれたの」

 

「『星降る腕輪』だと?! 何であんなしがない考古学者がそんなレアアイテムを持ってるんだ?」

 

 いやいや、しがない考古学者って、それをユウリが言っちゃダメでしょ。

 

「詳しくは知らないけど、ロズさんが女王様から頂いたんだって」

 

「あの女王がか?」

 

 ユウリは虚を突かれたような顔で聞き返した。戸惑いながらうなずくと、何やら考え込んでいる。

 

「……?」

 

 私が訝しげにユウリを見ると、急に彼は腕輪から視線を外した。

 

「あの、これ……私が装備しててもいいかな?」

 

 タイミングを見計らったつもりで、おずおずとユウリに聞いてみる。すると彼は表情を崩さず、

 

「別に、お前がもらったんなら好きにすればいいだろ」

 

 そうあっさりと言ってくれた。どうやら取り越し苦労だったようで、私は心底ほっとした。

 

「それより早く出発するぞ。一度ルーラでロマリアに行ってから、関所に向かう」

 

 ああ、そっか。ロマリアから行った方が関所に近いもんね。

 

「そういえば、女王様にはお会いできたの?」

 

「ああ。一応ピラミッドの報告も伝えてある。宝箱の中身も全部俺たちがもらっていいそうだ」

 

 実質ピラミッドの宝が報酬のようなものだ。ユウリはそう付け加えた。

 

「あのピラミッドは今後、イシスの王族が再び管理するそうだ。観光地にでもすると言っていたが、あんな罠だらけの遺跡に客なんか集まらないと思うけどな」

 

 

 確かに、命がけの落とし穴なんてある観光地なんて、誰も踏み入ったりはしないだろう。

 

 イシスの今後が気になるところだが、私たちはまず船を手に入れるため、ポルトガに向かわなければならない。

 

 お城を出てすぐに、ユウリがルーラの呪文を唱える。するとすぐに、私たちの体がふわりと宙に浮いた。そしてその瞬間、ロマリアへと文字通り飛び立ったのだった。

 

 

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