俺様勇者と武闘家日記   作:星海月

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ノルドの洞窟

 

 お昼を済ませ、早速ユウリの呪文でアッサラームに向かうと、なにやら物々しい雰囲気に包まれていた。

 

 商人の町とは言うが、これほどまでに商人たちでごった返している風景を見たことがない。

 

 しかも人々が忙しなく動き回っている様は、活気があるというより、皆焦燥感に苛まれているという感じに見える。

 

 ついこの間訪れていた時とは全く違う町の様子に、私たちは町の入口に突っ立ったまま、面食らった顔をした。

 

「なんか……前来たときより雰囲気違くねーか?」

 

 ナギが戸惑いながら呟く。

 

「だよね? やっぱりそう思ったの私だけじゃなかった!」

 

「あたしの知ってる町じゃない! こんなの初めてだよ!」

 

 シーラも辺りを見回しながら疑問の声を上げる。

 

「もしかしたら、ロマリアの関所の急な封鎖で、ポルトガに行く商人達がここで足止めを食ってるのかもな」

 

 ユウリの一言に私たちは得心した。そっか。私たちは魔法の鍵で通れたけど、普通の人は通れないんだった。急にポルトガで商売が出来なくなったから、困ってるんだ。

 

「きっとここもじきに混乱するぞ。今はあまりここに立ち入らない方がいいかもな」

 

 ユウリの意見に、私たちはそろってうなずく。と、その時だった。

 

「あらやだ、誰かと思ったら、ユウリくんたちじゃない!」

 

 はっ! この声は?!

 

 なぜかつい身構えて、私たちは声のする方を振り返る。

 

 すると、予想通りの人物が驚いた様子でこちらに向かって手を振りながら近づいてきた。ただひとつ予想と違うのは、彼が身に付けているのがバニースーツではなく、立派な鎧姿だということだ。

 

「アルヴィスさん?! どうしたんですか、その格好!?」

 

 いや、逞しい体つきの大柄な男性の鎧姿なんて、普通に見ればなんら違和感などないのだが、相手がアルヴィスさんだと、何かただならぬことが起きているのではないかと心配になってしまう。

 

「実はね、この町に非常事態が起こってしまったの。聞いてるかしら、ポルトガが輸入規制が行われたこと」

 

「ああ。今関所が通れないらしいな」

 

 さすがに今ポルトガから来ました、とは言えず、適当に受け流すユウリ。

 

「そのせいで、こっちにたくさんの商人が集まっちゃってね。治安も悪くなってきてるから、急遽アタシたち元冒険者が警備や護衛をすることになったの」

 

 人が多くなればそれだけ揉め事も多くなる。それに元戦士で、ユウリのお父さんであるオルテガさんと共に魔王討伐の旅に出たこともあるアルヴィスさんなら、町としても頼もしい限りだろう。

 

 けれど当の本人は、不服そうだ。

 

「でも、アタシとしては、ビビアンみたいに歌や踊りで町の人を癒す方に回りたかったんだけどね」

 

 聞けば、ビビアンさんや劇場の人たちも、普段の仕事のほかに、ボランティアで興行を行っているらしい。アルヴィスさんだけじゃなくビビアンたちも彼女なりの方法で、町の人のために色々なことをしているということだ。つまり、この町が今いかに大変だというのが窺える。

 

「ま、今はそんなこと言ってる場合じゃないんだけどネ。……あらやだ。あんなところにスリの集団がいるワ★ 捕まえちゃおうっと」

 

 話し込んでる間に犯罪者を見つけたアルヴィスさんは、まるでその辺にいる蝶々を捕まえに行くようなノリで群衆に突っ込んでいく。

 

 ほどなくして、生気を失ったスリの集団を引き連れたアルヴィスさんが、いつもと変わらない笑顔でこちらに戻ってくるのが見えた。

 

 それはさながら掘った芋づるを引きずっているようだった。

 

「ちょっとこのコたち連れてくから、ここでお別れするわネ。アナタたちも、巻き込まれないうちにこの町を出た方がいいワ。それじゃあね☆」

 

 一体どこへ連れていく気なんだろう。言い知れぬ不安をよそに、アルヴィスさんは爽やかに去っていった。

 

「……とりあえず、あいつの言うとおり急いでここを出た方が良さそうだな」

 

 色々考えることを放棄したのか、投げやりな様子で言い放つユウリ。

 

 何はともあれまず向かうのは、バーンの抜け道があるという、ノルドの洞窟。

 

 私たちは王様の依頼を達成させるため、アッサラームには寄らず、第一の関門であるノルドの洞窟へと向かうことにしたのだった。

 

 

 

 アッサラームを離れた私たちは、すぐにその北にある洞窟へと足を運んだ。思ったほど遠くはなく、半日ほどでたどり着けたのは幸いだった。

 

 洞窟はそこかしこに明かりが点っているのか奥に進んでもなお明るく、開けた場所に出るとそこは居住空間となっており、ベッドやテーブル、本棚などが揃えられていて、生活するには十分な広さを保っていた。

 

 どうやらここに、ポルトガ王の知人であるノルドさんがいるらしい。

 

 どこからが玄関なのかがわからないので、取り敢えずノルドさんを探すため辺りをうろうろしてみる。けれど、ホビットらしき姿は見当たらない。と言っても、そもそも今までホビット族を見たことがないので判断する術がないのだが。

 

「本当にここにノルドってやつがいるのか?」

 

 目の前にあるテーブルの下を覗き込みながら、ナギが不満を漏らす。

 

「こんなところに居住スペースを作るのは、ホビットくらいなもんだろ」

 

「ユウリはホビットのこと知ってるの?」

 

「文献でしか知らないがこういう種族だろ、確か」

 

「えー? それって実際に会ってみないとわかんないじゃない」

 

 ホビットを完全に色眼鏡で見ているユウリの発言に私は反論するが、ユウリも半分冗談で言ったのか、これ以上はなにも言わなかった。

 

 すると、入り口とは反対の方から、何やら足音が近づいてきたではないか。振り向くと、私たちより頭二つ分ほど背の低い、髭を蓄えた小柄な男性がこちらを見て立っていた。

 

「勝手にわしの家に入り込んで、旦那方は一体なんだね?」

 

「俺は勇者のユウリだ」

 

 きっぱりとそう言われ、一瞬ぽかんとする男性。そもそも、向こうから見れば私たちは完全に不法侵入者だ。私は補足するように、あわてて自己紹介をした。

 

「勝手に入ってしまってすいません! 実は私たち、本当は魔王を倒す旅をしてるんですが、わけあって黒胡椒を買いにバハラタまで行きたくて、ノルドさんなら抜け道を知っているという情報を聞いてここへ来たんです。ひょっとして、あなたがノルドさんですか?」

 

「確かにわしはノルドだが……、ここはあんたらみたいな怪しい連中が簡単にバハラタを行き来できないよう、管理も兼ねて住んでいる。おいそれと通すわけにはいかん。さあ、帰った帰った」

 

 そう言って、睨み付けるように私たちを追い出そうとするノルドさん。

 

「おいホビット。俺たちはポルトガの王から直々に書状をいただいた。お前に渡すようにとな」

 

 ユウリが一歩前に出て、懐から書状を取り出す。追い払われて機嫌が悪いのか、無造作にその書状をノルドさんに渡した。

 

「むっ?! これは……確かにあいつのサインだな。何々、『親愛なるノルドへ』……」

 

 手紙を受け取ったノルドさんは、不承不承ながらもそれを開いた。そして、読み進めるうちに、険しかった表情が徐々に変わっていく。やがて読み終えると、書状を折り畳み、こちらに向かって一礼した。

 

「さっきはあらぬ態度をとってすまんかった。まさかわしの親友からの依頼でここに来たとは思わんかった。なにせついこの間、故郷に帰るという怪しげな旅の一座をうっかり通らせてしまったからの。疑心暗鬼になっておった。手紙の内容通り、あんたらに抜け道を教えてあげよう」

 

「怪しげな旅の一座?」

 

 ユウリが眉をひそめて尋ねる。

 

「ああ。十人くらいの、全身黒ずくめの連中だった。各地を巡業しているとは言っていたが、今思えば疑問に残る点は色々あった」

 

 確かに、いきなり見知らぬ黒ずくめの集団が現れれば、間違いなく不審に思うだろう。けど、どうしてノルドさんは彼らを通してしまったのだろう。

 

 なんて思っていたら、ユウリが口を開いた。

 

「大方、一座の一人に病気の親がいて、その親が危篤だとかの知らせを受けたからすぐにでも通らせてくれ、とか言ってたんだろ」

 

「な、なぜわかった?」

 

 驚いたノルドさんを尻目に、小さくため息をつくユウリ。

 

「怪しさのテンプレートみたいな連中だな。そいつらの正体や目的はわからないが、バハラタに行ったら注意しなければならないな」

 

 そう言うと、ノルドさんは申し訳なさそうに眉を下げた。

 

「ううむ。わしのせいで厄介ごとを増やしてしまったようだな。すまん」

 

 謝るノルドさんに、別段気にする風もなく肩に手を置くナギ。

 

「あんたが気にすることじゃねえだろ。ま、本当かも知れねえし、俺たちの目的に関わることでもないだろ」

 

「そーだよ! もし何かあってもユウリちゃんが何とかしてくれるし、大丈夫大丈夫☆」

 

 シーラもいつも通りの明るい口調で、ノルドさんを励ました。

 

「そう言ってくれると気が楽になる。本当にすまんかった」

 

 二人の励ましにいくらか立ち直ったノルドさんはもう一度お礼をいうと、洞窟の奥にある細い通路に私たちを誘った。あとに続いて歩きだすと、彼は話を続けた。

 

「わしとポルトガの王とは古くからの付き合いでな。あいつに頼まれてこの辺り一帯の水路を作ってやったりもしたんだ」

 

 そういえば、雨の少ないアッサラームでも大衆浴場があったり、いろんな場所で水が使えたりしたけれど、それってノルドさんのおかげだったんだ。

 

「最近めっきり音沙汰なかったが、あいつに会ったんだろ? 元気にしとったか?」

 

「いや。会ったのは大臣だけだ。この書状も大臣から手渡されただけだから直接は会っていない」

 

 ユウリが正直にいうと、ノルドさんの表情が曇る。

 

「なんと! まさか病気か? しかし、手紙を書けるだけの元気はあるようにみえるが……」

 

「ふん。お前がバハラタまでの道を案内してくれれば元気になると大臣は言っていたぞ」

 

 ユウリのその言葉を聞いて、一瞬ぱっと顔が明るくなるが、それは一体どういうことなのかと首を傾げる。

 

「よくわからんが、とにかく旦那方をバハラタまで案内すればあいつが元気になるんだな? ならここで待ってくれ」

 

 たどり着いたのは、行き止まりの壁だった。見たところ人が通れるほどの穴はなく、完全に塞がっている。

 

 けれどノルドさんはその場から一歩引いたかと思うと、その壁に向かって勢いよく走り出した。

 

「のっ、ノルドさん?!」

 

 まさか壁に激突するのでは、と思ったらそのまさかだった。

 

 激しい衝撃音とともに、ガラガラと土塊が崩れていく。肝心のノルドさんはというと、壁の向こう側の地面に突っ伏していた。

 

「大丈夫ですか?!  ノルドさん!!」

 

「大丈夫ー!?」

 

 私とシーラが壁際に駆け寄ると、ノルドさんは何事もなかったかのようにむくりと起き上がった。

 

「うむ。ちょっと鼻を擦りむいたが、大丈夫だ」

 

 逆にそれだけで済んだの!? ノルドさんがタフなのか、それともホビットがタフな種族なのかわからないが、体当たりして抜け道を作るなんて、人間にはなかなか真似できない。

 

「この崩れた土壁はどうするんですか?」

 

「勝手に誰かが通るわけにはいかんからな。またあとで修復するんだ」

 

 ええ!? じゃあいちいち壊しては直してるんだ。でも、水路とか作るくらいだからこういう作業は得意なんだろう。

 

「ここを通ってまっすぐ進めば、洞窟から出られる。洞窟を出てずっと南に行ったところにバハラタが見えるはずだ」

 

「本当? ありがとう、ノルドさん」

 

 私がお礼をいうと、ノルドさんは白い歯を見せた。

 

「わしにはこれくらいしか出来んが、また何かあったらいくらでも力を貸すぞ」

 

「そう言ってくれると助かる」

 

「ありがとうね、ノルちゃん♪」

 

「ノルドのおっさんも、体に気をつけろよな」

 

 それぞれ思い思いに言葉をかけると、ノルドさんは笑顔で私たちを見送った。

 

「なんか、いい人だったね」

 

 最初こそ不審者と思い排他的な態度をとっていたノルドさんだったが、事情を話せばわかってくれる人……いやホビットだった。

 

「変な奴だったけどな」

 

 相変わらずの物言いのユウリだったが、最初にノルドさんと話しているときと比べると、わずかに表情が和らいでいた。

 

 ポルトガの王様のことも凄く心配してるようだったし、ここはノルドさんのためにも、なんとしてでも黒胡椒を手に入れなくてはならない。

 

 私は改めてそう決意し、新たな地へと歩き出した。

 

 




※ゲームだとそんなに気にならないのにリアルだと違和感ありまくりなイベントは、書いてて悩みます。
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