俺様勇者と武闘家日記   作:星海月

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シーラの決意

 

「えっと……、ちょっと待って。てことは、二人だけでダーマに行くってこと?」

 

 私はシーラの言葉に衝撃を受けながらも、俄には信じられず、すぐに聞き返した。

 

「うん。さっきナギちんとも話したけど、早くポルトガの王様に黒胡椒を持っていってあげないと、船が手に入らないでしょ? だったら、ここで一度二手に分かれた方がいいと思うの」

 

「いや、確かにそうだけど……でも!」

 

「確かにバハラタからダーマまではここからそう遠くない場所にある。だが、なぜ今行く必要がある?」

 

 ユウリのもっともな意見に、シーラは決意を秘めた表情で答える。

 

「もうあたし、誰かに助けられるだけの存在になりたくない。僧侶の修行を中途半端に投げ出した自分にケリをつけたいの」

 

「俺たちと離れてもか?」

 

「……このままユウリちゃんたちといても、迷惑になるだけだもん。あたしはともかく、ナギちんがいなくて寂しくなるかもしれないけど、お願い。あたしたちをダーマに行かせて!」

 

「……」

 

 それ以上何も言わないユウリに業を煮やした私は、何とかシーラが思いとどまることを願い、別の提案をした。

 

「守られてる自分が嫌なのはわかるよ? でもさ、だったらみんなでダーマに行けばいいじゃない?」

 

 けれど、シーラはゆっくりと首を横に振った。

 

「あたしもできるならみんなと行きたい。でも、あたし一人のわがままで皆に迷惑かけられないよ。それにこの先、街を封鎖するのはポルトガだけじゃなくなると思うの」

 

「どういうこと?」

 

「……なるほどな。ポルトガの大臣が言っていたな。どこかの国に、魔物が潜入していると」

 

「今はそんなに騒がれてないけど、いずれその噂はほかの国にも広がるんじゃないかな。そうしたら、その噂を聞いた他の国は危機感を持って都市を封鎖して、ポルトガと同じように簡単に出入りできなくするかもしれない」

 

 いつものシーラらしからぬ発言に、私は目を丸くした。

 

 ユウリも顔には出さないが、横目で見る限り、少なからず驚いているように見える。

 

「だから、船は一刻も早く手に入れたほうがいい。あたしなんかに時間を取られてる場合じゃないよ」

 

「でも……」

 

 私の言葉を遮り、隣でため息をつく音が聞こえた。

 

「……わかった」

 

「!!」

 

「え!?」

 

 私とシーラ、二人の視線が勇者に注目する。

 

「魔王討伐のために役に立とうとしているのなら、止めはしない。こっちとしても、呪文が使えるやつがいたほうが助かるからな」

 

「ホント!?」

 

「ユウリ!?」

 

「その代わり、戻ってきたらちゃんと戦えよ。足手まといは俺のパーティーには必要ないからな」

 

「うん!! もちろん!! 頑張ってユウリちゃんの役に立てるように強くなって帰ってくるから!!」

 

「ふん。俺の仲間ならそれくらい当たり前だろ」

 

 そう言うと二人は、何事もなかったかのように再び料理を食べ始めた。

 

 え? 本当に二人だけでダーマに行っちゃうの?

 

「ねえユウリ。本当にいいの? 心配じゃないの?」

 

「俺はお前の方が心配だがな。このままだと一番の足手まといはお前だぞ」

 

「うっ!?」

 

 特大のブーメランを返され、ぐうの音も出ない。

 

「ご、ごちそうさま!」

 

 居心地が悪くなった私は早々に食事を切り上げた。そして逃げるようにテーブルから離れ、ダイニングから出ようと扉の前まで来たときだった。

 

 どんっ!

 

 前をよく見ていなかったせいで、出合頭に誰かとぶつかってしまった。顔を上げると、一足先に降りてきたナギと目が合った。このやりとり、これで何度目だろう。

 

「ごっ、ごめん!」

 

「ああ、オレもよく見てなかった。……どうした?」

 

 ナギが心配そうに顔を覗き込んでくる。すると、なぜだか涙が溢れだした。

 

「ミオ!? まさか打ちどころが悪かったのか!?」

 

「ううん、違うの。ごめん、ちょっと一人にさせて」

 

 私は心配するナギの手を振り払い、一人外へと飛び出した。

 

 

 

 その後私はタニアの家から少し離れた聖なる川のほとりで、水面に映し出された満月をぼんやりと眺めながら座っていた。

 

 二つの月が辺りを明るく照らす中、川のせせらぎが聞こえてくる。その清らかな音色は、私の澱んだ心を洗い流してくれるようであった。

 

「シーラ……。ホントにダーマに行っちゃうのかなあ……」

 

 こうやってじっと眺めていると、いろんな考えが浮かんでは消えていき、それを繰り返していくうちに、気持ちが落ち着いてきた。

 

 冷静になったところで、私はこれからどうすればいいか考えていた。

 

 そもそもあんなにあっさりシーラたちを行かせるなんて、ユウリもユウリだ。ちょっと薄情なんじゃないか。シーラだって、これからも一緒にいていいのかと聞いていたのに。

 

 せっかくみんなが仲良くなってきたと思ったのに、どうして今になって別々に行動しなければならないんだろう。

 

 思わずはあ、と深いため息をつく。

 

 ……わかってる。これこそ子供のわがままなんだって。私たちは、お遊び気分でピクニックに行くんじゃない。

 

 魔王を倒すためには、今の自分を変えなくてはならない。きっとシーラも、自分を変えなきゃならないと思って、決断したのだろう。

 

 それなのに私は、彼女の出した答えに背を向けている。それは彼女の気持ちを理解していないということだ。

 

 何が「いつでも力になる」だ、結局口だけじゃないか。

 

 私は自分自身に腹が立ち、そして決断した。

 

「あ、いたいた! おーい、ミオ!!」

 

 私を呼ぶ声に反応すると、家の方から手を振ってやってくるナギの姿があった。

 

「どうしたんだ? 何があった? またユウリにいじめられたか?」

 

「ううん、なんでもないよ。大丈夫だから、早く家に戻ろう」

 

 そう言って戻ろうとする私の腕を、ナギは力強く掴んで制止した。

 

「はぐらかすなよ。あんな顔して、何でもないわけないだろ」

 

 う、と私は言葉に詰まる。普段大雑把な性格なのに、こういう時はなんて鋭いんだろう。

 

「……あのさ、ナギ。シーラから聞いたんだけど、本当にシーラと二人でダーマに行くの?」

 

「ああ。シーラのやつ、もう言ったのか。……そうだよ。最初はオレも止めたけどな」

 

「じゃあどうして行くことにしたの?」

 

「オレもあいつの気持ちがわかるからさ。強いやつが隣にいて、自分はいつまでたっても弱いし足手まとい。しかもその強いやつは気に食わないやつで、そのくせピンチになると助けてくれる。正直死んでもいいから助けてほしくないって思ったぜ」

 

 ああ、私も似たようなことを思っていた。気に食わないことはないけれど、助けられるたびに、自分がどれだけ惨めか痛感してしまっていた。

 

「けどさ、それって結局甘えだよな。自分が変わらない限り、その関係はずっと続くんだ。もしこの状況を変えたいのなら、オレ自身も強くなるために努力しなければならないのに」

 

 ナギは私の腕を離し、自身の手のひらを見つめた。

 

「あいつも同じなんだよ。ただ、オレたちと違ってあいつは強くなるだけじゃなくて、自分自身をリセットしなきゃならないんだそうだ」

 

「リセット……?」

 

「オレもよくはわからねえけど、とにかくダーマに行けばいいらしい。ただ、さすがに一人で行かせるのは無謀だからな。あいつのレベル上げも兼ねて、オレも同行することにしたんだ」

 

 その口調に、ナギ自身にも並々ならぬ決意が滲み出ているのを感じた。

 

「そっか……。……うん、やっぱり、決めたよ」

 

「何が?」

 

「実をいうと、シーラがダーマに行くの、反対だったんだ。でも、それって私がただ寂しいからっていう、子供みたいなわがままだって気づいてさ。シーラのことを考えたら、快く賛成するのが正解なんだよね」

 

「そういうもんか?」

 

 私の出した結論に、ナギは首をかしげる。

 

「何が正解とか、そういうのないんじゃねーの? お前はシーラと離れ離れになるのが寂しくて、反対したんだろ? それがわがままだろうと何だろうと、自分で否定するのはちょっと違うと思うな」

 

 その言葉に、私は目を瞬いた。

 

「シーラに、お前の気持ちを正直に言ってみろよ。それでもダメなら、しょうがねえよ。あいつのことを思って、譲ってあげればいいさ」

 

「うん……そうだね」

 

 私はナギの言葉に背中を押されるように、再びタニアの家へと戻ることにした。

 

 

 

 家に戻ると、シーラは今にも泣きそうな顔で私を出迎えてくれた。

 

 そしてそのまま、私は今の気持ちをシーラに打ち明けた。

 

 シーラと離れるのが寂しいと。

 

 でも、やっぱりシーラの決意が揺らぐことはなかった。話している私も、こういう結末になることを予想していた。

 

「ありがとう、ミオちん。あたしもミオちんと離れるのは嫌だよ。でも、変わるなら今しかないと思ってるんだ」

 

「うん。わかってる。シーラが決めたんだもんね。それならもう私は止めないよ」

 

 もう私にはシーラを止めるすべはない。なら私は、シーラを信じて待つしかない。

 

「おいザル女。半年時間をやる。半年経ってここに戻ってこなかったら、そこのバカザル共々置いてくからな」

 

 部屋の奥からユウリがやって来たかと思うと、いきなりとんでもない条件を言い渡した。

 

「うん、わかった! ユウリちゃんがビックリするくらい、強くなって戻ってくるから!」

 

 そう言って、シーラは元気良くピースサインを見せる。

 

「おいおい、本当に大丈夫か? オレたちここに置き去りにされるかもしれねえぞ?」

 

「大丈夫だよ♪ そのくらい条件つけてくれた方がすごーくやる気でるから!」

 

 どうやら彼女は逆境に強いらしい。ナギもその自信に満ちた言葉に安堵したようだ。

 

「じゃあ、早速俺たちは明日の朝ポルトガに発つ。もしかしたらカンダタがまた企んでくるかもしれないから、しばらく用心しとけ」

 

「オッケー☆」

 

「言われなくても、わかってるっつーの」

 

 ユウリの言葉に頷いた二人は、明日の準備をしに各々部屋へと向かった。

 

 と、今度は取り残された私にユウリが向き直る。そして、

 

「お前も、今までみたいにボケっとするなよ。足手まといが三人から一人になったとはいえ、俺の負担が軽くなったわけじゃないからな」

 

 そう睨み付けながら念を押してくれた。

 

 ナギじゃないけど、そんなことわかってる。これからは二人で旅を続けなきゃならないんだ。今以上に強くならないと……。

 

 って、あれ? 二人ってことは、ユウリの嫌味や愚痴の矛先が、全部私に来るってこと?

 

 ……早く半年後になってほしい、そう思わずにはいられなかった。

 

 

 

 翌朝。久々にベッドの上で寝られたからか、これ以上ないくらいスッキリした目覚めだった。

 

 タニアが作ってくれた朝食をお腹いっぱい食べたあと、ユウリに急かされ大急ぎで旅支度を整える。

 

「早くしろ鈍足。モタモタしてたら昼になるぞ」

 

 玄関の外に立って私を待つユウリ。そうは言うけど、またお城に行くなら少しは身綺麗にしないと、結局注意するじゃない。声には出さず、心の中で文句を言いまくる。

 

「ミオちん、腕輪忘れてるよ」

 

「あっ、そうだった!」

 

 玄関先でシーラが持っている星降る腕輪を受けとると、急いで手首にはめた。

 

「忘れ物はもうないか?」

 

「うん、大丈夫」

 

 鞄の中身を確認し終えると、タニアとマーリーさんが奥からやってきた。

 

「皆さん、本当にありがとう。あなたたちのおかげで家族やグプタと離ればなれにならずに済んだわ」

 

「勇者殿たちのお陰でこの町も平和になりましたぞ。本当に、ありがとうございますじゃ」

 

「いえ、こちらこそ、黒胡椒を分けてくださってありがとうございます」

 

 私はユウリが手に抱えている黒胡椒の入った袋を横目で見ながらお礼を言った。ちなみにポルトガに持っていく分の黒胡椒の代金は、あとでポルトガに雇われた冒険者が渡しに来るらしい。大臣から渡された例の書状は、商品を受けとるときに必要な書類だったようで、それをマーリーさんに渡すと、今度はタニアがユウリに別の書類を渡した。

 

「それをポルトガの方に渡してほしいの。いつもは買いに来てくれる冒険者の方に渡してるんだけど、今回は手順が違うから、支払いのときにこれをまた持ってきてくれるよう伝えてもらってもいいかしら?」

 

「わかった」

 

 手短に返事をすると、ユウリはその書類を懐に仕舞い込んだ。

 

「あと、ミオ。これ、よかったら使って」

 

 タニアが、私の手のひらにあるものを渡した。見ると、小瓶に黒胡椒が入っている。

 

「えっ……、これって!? こんなにたくさん、本当にもらってもいいの?」

 

 小さい瓶とはいえ、ぎっしり詰め込まれた黒胡椒の値段は計り知れないだろう。おそるおそる尋ねる私にタニアは小さく笑う。

 

「遠慮なく使って。その代わり 、これを使ってまた新しい料理を考えたら、教えてね」

 

「もちろん!!」

 

 そう言って、私も笑顔で返した。すると、外からなにやらユウリを呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「おーい、ユウリさーん!! よかった、間に合った!」

 

 息を切らしてやってきたのは、グプタさんだった。

 

「ユウリさんたちのお陰で、タニアはもちろん、町も平和になりました! ありがとうございます!」

 

「わざわざそれを言いに来たのか」

 

「そりゃそうですよ! なんたって命の恩人なんですから!」

 

 ユウリが呆れたように言い放つが、グプタさんは気にする様子もなく、改めてお礼を言う。

 

「それじゃ皆さん、お元気で!!」

 

 私が手を振ると、ナギとシーラも同じタイミングで手を振る。グプタさんたちもそれに反応するかのように、皆笑顔で返してくれた。

 

「またいつでも遊びに来てね。もし黒胡椒が足りなかったらいくらでもあげるから」

 

 そう言うとタニアは私のところに近づき、耳元で囁いた。

「ユウリさんと、仲良くね」

 

 そう一言言うと、パッと手を離す。そしてそれきり何も言わず、笑顔で手を振った。

 

「これからこの地で、勇者殿の功績を後世に伝えますじゃ!」

 

「カンダタは逃がしてしまいましたが、これから少しでも強くなって、タニアたちを守っていこうと思います。ユウリさんたちも、お気をつけて!」

 

 三人と挨拶すると、ナギとシーラはそのまま町の外に出ると言うので、途中まで一緒に向かうことにした。

 

 入り口に到着すると、シーラは私とユウリを交互に見やると、ユウリに向かって言った。

 

「ユウリちゃん、ミオちんのこと、お願いね☆」

 

「ふん。俺はこいつの保護者じゃないぞ」

 

「ミオ。あいつに振り回されて辛くなったらいつでもバハラタに来いよ」

 

「あはは、ありがとう、ナギ」

 

 隣でこっそり耳打ちするナギに気づいたユウリが、もはやお家芸であるベギラマをナギの足元に放った。 この風景も当分見られないと思うと、ちょっと寂しい。

 

「ナギ、シーラのことよろしくね。シーラ、頑張って強くなって戻ってきてね」

 

「うん☆ ミオちんも、二人で大変かもだけど、頑張って!」

 

 そう言うと、私とシーラは固く握手を交わす。ナギは……うん、今黒焦げ状態だからそっとしといた方がいいね。

 

 こうして二人と別れ、私とユウリはルーラの呪文で再びポルトガへと戻ることにしたのであった。

 

 




一応これで第一部完です。
(暁小説だと章の他に部も作れたので)

次は勇者と武闘家の二人旅(+α)となります。
とはいえ第二部の前にいくつか番外編っぽいのを乗せる予定です。

少しずつラブコメのラブ要素も出たり引っ込んだりしますので、今後もよろしくお願いします。
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