俺様勇者と武闘家日記   作:星海月

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不思議な夜の町

 

 船長のヒックスさんが見つけたと言うその町は、辺りがすっかり暗くなったと言うのに、家々のあちこちに煌々と光が灯っていた。

 

 あのあとなんとか山あいの入り江に停泊し船を降りたのだが、今まで室内にいたせいか、それとも暖かい地方にずっといたせいだろうか、肌を刺すような寒さが身に染みる。

 

 船員さんの薦めで外套を羽織ってはいるが、それでも底冷えするほど寒い。 気づけばもう本格的な冬を迎えていた。

 

「イシスはあんなに暑かったのに。 場所が違うと、気候も全然違うんだね」

 

 私がぼやくが、ユウリは無反応。話しかけるなと言わんばかりに、じっと町の明かりを見つめている。

 

――こんなに外は寒くて暗いのに、なんであの町はあんなに明るいんだろう?

 

 普通は寒くなれば、暖炉に火をくべたり、部屋を暖めるための道具や燃料が必要になるので、なるべく消費しないために、日が落ちる頃にはもう皆寝てしまう。 少なくとも私の村ではそうだった。

 

 けれどこの町は、夜になってもほとんどの家に明かりがついている。 遠くからでも目立つこの眠らない町は、アッサラームとはまた別の異様な雰囲気を放っていた。

 

 町の入り口にたどり着くと、その光景はますます異質だった。 まず、こんな夜にもかかわらず、外を出歩いている人がちらほらいる。 アッサラームのように、夜でも開いている店があるから、というわけでもない。

 

 おまけに、その人たちはみんな外套を着ていない。 それどころか半袖の人までいる。 この寒さに慣れているのだろうか?

 

 この様子を見て推察されるのは一つ。

 

「ひょっとしてこの町って、夜の散歩ブームなのかな? 」

 

「何アホなこと言ってるんだ」

 

 私の名推理に、冷たくあしらうユウリ。

 

「でも、なんか変じゃない? この町。 なんか不自然っていうか……」

 

「お前でも、多少は物の分別がつくようになったんだな」

 

 明らかに馬鹿にした様子で言うと、ユウリは視線を巡らせる。

 

「まあ、何にしろ家に籠られるよりは全然いい。 その辺をフラフラしてるやつらに話を聞いてみるぞ」

 

 そう言って、最初に目に留まった一人の若い男性の元まで行き、声をかけた。

 

「おい。 ちょっといいか? 」

 

「おや、お二人さん、こんにちは。 旅人かい? 」

 

「ああ。 実は、この近くにあるネクロゴンドまで行きたいんだが、今あそこは火山が噴火して通れない。ほかにどこか通れる道があれば教えてくれないか? 」

 

「そうかい。 新婚旅行かい。 そりゃあ素敵な旅になりそうだ」

 

「は? 」

 

「いやあ、こんなにかわいい奥さんと一緒だなんて、うらやましいよ。 それじゃ、お幸せに! 」

 

 若い男性は一方的にそう言うと、さわやかな笑顔で私たちの前から歩き去った。

 

『……』

 

 あまりに支離滅裂な会話に、しばし言葉を失う私たち。

 

「…… 何か、間違っていたか? 」

 

 ぽつりと、ユウリが低い声で呟いた。

「俺はちゃんと相手にわかるように尋ねたつもりだったんだが。 どうして新婚旅行なんて言葉が出てくるんだ? 」

 

「いや、私に言われても……」

 

 不可解すぎて、私もどう捉えていいのかわからない。とりあえず今の男性は、忙しくてやんわり断るために、わざとジョークを交えて話を早く終わらそうとした、というかなり無理やりな解釈で納得することにした。

 

「相手が悪かった。 今度はあの女に聞いてみるぞ」

 

 即座に切り替えたユウリが視線を向けた先にいたのは、買い物かごを手にした子供連れの女性だった。 四~五歳ぐらいの女の子を連れて、楽しそうにおしゃべりをしている。

 

「それじゃあ今度は私が話しかけてみるよ。 あのー、すいません! 」

 

 私の声に気づいたのか、二人は向こうから近づいてきた。私が笑顔を見せると、二人も笑顔で返した。

 

「あの、私たち、この近くのネクロゴンドまで行きたいんですが、途中に火山があって通れないんです。 ほかに通れる道ってありますか? 」

 

 多少言い方は違うが、ほぼユウリと同じ訪ね方だ。 女性は少し考えこんだ後、子供と顔を見合わせてほほ笑んだ。

 

「ふふっ。 メアリー、かわいいですって。 よかったわね。 でも、いずれはあなたたちにも子供ができるでしょう。 きっとあなたたちに似て、とてもやさしくて素敵な子供になると思うわ」

 

『???』

 

 いや、だれもメアリーちゃんの話はしてないんだけど。 それに、私たちに子供ができる話なんて、どこから出てきたんだ?

 

「ゆっくりしていってね。 この町は何もないけれど、あなたたちのような素敵な旅人はみんな大歓迎よ」

 

 そして、この親子も言いたいことだけ言って、さっさと先へ行ってしまった。

 

「えーと、どういうこと? 」

 

「そんなもん、俺が聞きたい」

 

 二人して眉をひそめ、顔を見合わせる。

 この町の人たちは、みんな人の話を聞かないのだろうか。

 

 そのあとも、出歩いている人たちに片っ端から同じことを訪ねてみたが、どれも同じような反応だった。

 

 どうやらみんな、私たちのことを新婚旅行中の男女の旅人だと思い込んでいるらしい。

 

「俺たちのことを正しく認識していないように見えるな」

 

「うん、そうだね」

 

 会話だけでなく、私たちと話している間の人々の目線が、ちぐはぐなのだ。 普通目の前に人がいたら、その人の目線に合わせて話すだろう。 そうでない人もいるとは思うが、会う人皆が目を合わさないというのはおかしな話だ。

 ただそんな中、何人かの町人は気になることをいっていた。

 

「ここはネクロゴンドに近いだろう? だからあまり旅人が訪れることはないんだ。けど、神のご加護のおかげか、今まで一度も魔物に襲われたことはない。だから、安心してこの町にいるといい」

 

「テドンの北にある山脈は、ネクロゴンド火山帯とも言ってな、噴火が絶えないんだ。まあ、さすがにここまでは噴火の影響はないが、もし道中近くに寄ることがあれば気を付けた方がいい」

 

 どうやらここテドンはネクロゴンドに近いが、魔王による被害は今のところないらしい。

 

 けれど肝心の魔王の城の場所まではわからなかった。尋ねてもその言葉には耳を貸さず、ただ関係ない話を一方的に答えるだけ。そんな状況にジレンマを抱えつつ、刻一刻と時間は過ぎていった。

 

 そんな中、通りすがりの青年二人が、こんな気になる会話をしていた。

 

「イグノーの奴、おれに騙されたとも知らずに今頃牢屋の中で悔しがってるだろうぜ」

 

「お前もひどいやつだよな。いくらカリーナさんを取られそうになったからって、あいつに罪をなすりつけるなんてさ」

 

「あいつがおれを差し置いてカリーナさんと仲良くしてるのが悪いんだよ! 知ってるか? あいつ、毎日おれに隠れてコソコソと町外れにある彼女の家に通ってるんだぞ?」

 

「いや、別にお前カリーナさんの恋人でもなんでもないだろ?」

 

「うるせえな! これからなる予定なんだよ! だけどそうなるにはあいつが邪魔なんだよ!! くそっ、魔法使いだか僧侶だか知らないけど、調子に乗りやがって!!」

 

 などと言いながら、二人は私たちの横を通り過ぎていった。

 

「ひどい人もいるんだね。自分の好きな人が取られそうだからって、相手に罪をなすりつけるだなんて」

 

「ふん。下らない感情だな」

 

 素っ気ない態度ではあったが、あの二人の会話を聞いて、ユウリもあまりいい気分ではないようだった。

 

 それにしても、随分と歩き回ったせいか、足が痛い。 どこかで休める場所はないだろうか。 一応ヒックスさんには、二、三日中には戻る予定と伝えてきてあるので、ここに一晩泊まって、明日にでも船に戻った方がいいかもしれない。

 

 そうユウリに提案しようとしたとき、ふと気になるものがあり目に飛び込んできた。

 

「ねえ、あれなんだろう? 」

 

 私が指差すそのはるか先に、異様な建物が見えた。 町から離れたところにあるその建物は小部屋ほどの大きさで、四方が随分と堅牢な作りの石壁でできている。 町の一角にこんな建物があるのも珍しい。

 

 ユウリも気になったのか、その建物に近づいてみる。 間近で見ると、何となく物々しい雰囲気を醸し出していた。

 

「こら!  そこで何をしている! 」

 

 突然の呼びかけにびくっ、と反応すると、軽装鎧を身にまとい、手に警護用の槍を持った男の人が現れた。

 

「ごっ、ごめんなさい! 」

 

「一体ここは何の建物なんだ? 」

 

 すぐに謝る私とは対照的に、冷静に衛兵に尋ねるユウリ。

 

「ここは大罪を犯した者が入る牢屋だ。 即刻立ち去るがよい」

 

「大罪? いったいどういう罪を犯したんだ? こんな辺境の町で」

 

 だが、やはり私たちの声は届かないのか、衛兵はこれ以上何も言わず、じっとこちらをにらみつけている。 その圧迫感に、ただならぬ恐怖が襲った。それは彼の存在というよりもむしろ、この町全体の異質な雰囲気によるものに感じられた。

 

「何? 罪人と話がしたい? そんなの無理に決まってるだろ」

 

 いきなり衛兵が突拍子もないことを話してきた。そして、その会話が新婚夫婦とのやり取りだということに気づく。

 

「……まあ、伝言くらいなら、いいだろう」

 

 一体何を話したのだろう。そもそも、新婚夫婦がそこまでして罪人に伝えたいことって一体何なのだろうか?

 

 ユウリも衛兵の会話に興味津々の様子だ。なにか少しでも情報を得られまいかと耳をそばだてている。

 

「……?? よくわからんが、この伝言を渡せばいいんだな?」

 

 そう言ってしばらくすると、衛兵はそのまま牢屋のある建物へと入っていったではないか。

 

「行くぞ」

 

 急いで衛兵のあとを追う私たち。だが、一瞬の判断が遅れたのか、寸前で建物の扉が閉まってしまった。

 

「くそっ、もう少しで部屋に入れたのに」

 

 ガチャガチャと、ドアノブを強引に回し続けるが、全く開く様子はない。

 

 ためしにユウリが魔法の鍵を取り出して鍵穴にいれてみたが、なぜか回ることはなかった。

 

「魔法の鍵でもダメなんて……」

 

 私が一人言ちると、ユウリは苦虫を噛み潰したように牢屋を睨んだ。そして、ふうと大きく溜め息をつくと、踵を返した。

 

「ねえ、もう疲れたし、今日はここで休んで、また明日にしない? 」

 

 タイミングを見計らい、先ほど思い付いた提案をしてみる。

 

「……そうだな。 宿屋に行くか」

 

 意外にもユウリは、あっさりと了承してくれた。よほど疲れがたまっているのだろうか。

 早速私たちは、町に一軒しかないと思われる宿屋へと足を運んだ。 外観はいたって普通の宿屋である。 扉を開けると、それほど広くはないがシンプルなつくりのロビーが目に入った。

 

「いらっしゃい。 おや、旅人さんかい? 」

 

 カウンターには、宿屋の主人と思しき中年の女性が立っている。 彼女はニコニコと笑みを浮かべながら、私たちを歓迎してくれた。

 

「はい。 あの、二人なんですけど、今夜一晩泊めていただけ……」

 

「しかも随分若いねえ。 恋人同士かい? 」

 

「違います! 私たちはただの旅の仲間で、今夜一晩……」

 

「へえ。 もう結婚しているのかい。 それじゃあ上の階が一部屋空いてるから、手狭だけどそこを使っておくれ。 はいこれ、鍵」

 

「いや、だから……」

 

 宿屋の女主人は話を一方的に進めたあと、部屋の鍵を一つ渡して、笑顔で私たちを二階まで案内してくれた。 いや、薄々こうなることはわかっていたのだが。

 

「……もうこのやりとりも飽きてきたな」

 

「うん、そうだね」

 

 揃って遠い目をする私たち。 女主人は、部屋の簡単な設備の説明をしてくれたが、私たちの耳には入らなかった。

 

 とりあえず、言われたとおり二階へ向かう。だが、番号を確認し鍵を開けて扉を開くと、信じがたい光景が目に入った。

 

「なんでベッドが一つ……? 」

 

「…… そりゃ、あの女主人から見たら、俺たちは新婚夫婦らしいからな」

 

 半ば投げやりに言い放つユウリ。 もういちいち反応するのも疲れたようだ。

 

 ただ、一部屋なのはまだわかるが、ベッドが一つしかないのは困る。 二人で寝るには丁度良さそうな大きさではあるが、それは新婚夫婦に限った話だ。

 

「俺が床で寝るからお前はベッドで寝ろ」

 

 部屋を眺めるユウリが提案するが、さすがに体調の悪い彼を床で寝かせるわけにはいかない。

 

「もう一度下に行って、二部屋にしてもらうよう話してくるよ」

 

「…… 無駄だと思うけどな」

 

 正直私もそう思うが、行ってみないとわからない。

 

 私は溜め息を一つつき、再び女主人のところへ向かう。

 

「あのー、部屋を変えてもらいたいんですが」

 

「……」

 

「それか、もう一つ部屋を増やしてもらいたいんですけど……」

 

「……」

 

「あのー!! 」

 

「……」

 

 いくら声をかけても、話はおろか、口を開いてすらくれない。 完全に無視されて、私は心の中で泣きそうになった。

 

 一方的に話しかけて十数分、結局あきらめて、二階に戻ることにした。

 

「ごめん、やっぱり無理だっ……」

 

 言いかけて、私は思わず動きが止まる。

 

 二階の扉の前で待っていたユウリは、自力で立つこともできないのか、壁に寄りかかりながら荒い息をしていた。

 

「ユウリ!! 」

 

 私はあわてて駆け寄り、彼の顔を覗き込む。 顔は青白く、まるで血の気がない。 幸い熱はなさそうだが、呼吸をするのも辛そうだ。

 

「…… おれに……まう…… な……」

 

 小さい声で聴きとりづらいが、どうやら「俺にかまうな」と言っているようだ。 けれど、そんな言葉をやすやすと聞いてあげるほど無神経な人間ではない。 体を支えようとするが手を払われ、それでもなお彼は無理して立とうとする。

 

 半ば強引にでも肩を貸そうと手を伸ばした時だった。

 

「!! 」

 

 直ぐ目の前にあるユウリの体がぐらりと傾く。

 

 彼はすでに限界に達していた。

 

 

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