俺様勇者と武闘家日記   作:星海月

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最終審査の真実

 

「ミオ!! 無事だったのね!!」

 

 アルヴィスとともに城の中に入って早々、私たちを出迎えてくれたのは、ビビアンだった。

 

 ユウリに下ろしてもらい、私はビビアンと抱き合った。わっと涙が流れると、ビビアンは私の首もとに顔を埋めて泣き出した。

 

「よかったよぉ、無事に帰ってきてくれて!! もう私、あんな間近で魔物を見たの、初めてで……、ううっ、怖かった……!」

 

 そうだよね、普通の人は魔物に襲われることなんかないもんね。私はビビアンの背中を優しく撫でた。

 

 きっと、彼女だけじゃない。ここにいるほとんどの人が恐怖を感じたことだろう。

 

 見れば、怪我をして手当てを受けている人、家族と離ればなれになったのか必死で探している人、言い争っている人たち、疲労で眠っている人たちなど、魔物の襲撃によってさまざまな被害を受けた人たちが大勢いる。

 

 けれど幸い、亡くなった人はいないそうで、怪我人もそう多くはいなかった。それは何より、ユウリとアルヴィス、さらには城の衛兵たちの活躍に他ならない。

 

 ユウリはもちろんだが、アルヴィスも近くにいた兵士の武器を借りて積極的に魔物を倒していったらしい。さすがオルテガさんと一緒に旅をしてきただけある。そのお陰もあって、何十匹もいた魔物はあっという間に一掃されたそうだ。

 

「ユウリさん、それに他の仲間の皆さんも、お疲れさまでした。そちらに救護室があるので、先ずは体を休めてください」

 

 城内で衛兵に出迎えられた私たちは、戦闘でボロボロになった姿をどうにかするため、まずはそれぞれ着替えや手当てをすることになった。

 

 早速私はビビアンと一緒に女性用救護室に、ユウリとアルヴィスは男性用救護室に向かった。

 

 救護室にあるベンチに腰掛けると、すぐにビビアンが私の手と足に包帯を巻いてくれた。足だけでなく、大岩を壊そうと正拳突きを放ち続けてきたときにできた傷もあったことに今更ながら気づく。

 

「せっかくのドレスが台無しになっちゃったね」

 

 手当てをしながら、残念そうにビビアンが話しかける。せっかくビビアンが協力してくれたのにこんなことになるなんて、私は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 

「ごめんね。靴もどこかに放り投げてきちゃったんだ」

 

「仕方ないよ。マギーって子を助けるためだったんでしょ?」

 

 はい、これでよし! と包帯を巻き終えると、持ってくれていた私の荷物の中から、いつもの履き慣れた武闘家用のブーツを出してくれた。

 

「ありがとね、ビビアン」

 

「何言ってんの、私にはこれくらいしか出来ないんだから、当然よ」

 

 そのあと私は、仕切りになっている場所で着替えを始めた。髪をいったんほどき、いつも通りに結ぼうとしたのだが、さっき魔物が放ったベギラマで少し髪が焦げてしまったせいか、うまくまとまらない。そして、あちこち髪を触っているうちに、とんでもないことに気がついた。

 

「どうしよう、髪飾りがない……!!」

 

 ルカから借りた髪飾りが一つなくなっていたのだ。おそらく魔物との戦闘中に落としてしまったのだろう。私が呆然としていると、

 

「どしたのミオ? なんか手こずってる?」

 

 あまりにも遅いからか、ビビアンが仕切りの向こうから顔を出してきたので、私はすぐに彼女に事情を話した。

 

「あー……、確かにないわね、髪飾り。でも、事情を説明すればきっと許してくれるんじゃない?」

 

「うーん……、そうかなあ」

 

 探しに行きたいが、どこで落としたのか見当もつかない。

 

 救護室を出ると、既にユウリたちは身支度を終えていた。

 

「国王が俺たちに話があるそうだ。すぐに行くぞ」

 

 ユウリの側には立派な鎧を着た衛兵が立っていた。他の衛兵と多少鎧の雰囲気が違うのは、きっと国王様側近の人たちだからだろう。目が合うと、その人は私に向かって深くお辞儀をした。

 

「この度は、ヘレン殿下をお守りして下さって、ありがとうございました」

 

「あ、いえ、とんでもないです!」

 

 そんなに畏まられると、どう反応していいかわからない。その様子がおかしかったのか、向かいにいたアルヴィスが小さく苦笑する。

 

「ミオってば、そこは堂々とするべきなんじゃない?」

 

 アルヴィスに指摘され、私は思わず赤面する。

 

「では、皆様。こちらへ」

 

 衛兵に案内され、私たちは中央の玉座の間へと続く廊下を進んだ。途中ビビアンが、「私までいていいのかな? 場違いじゃない? 」と呟いたが、その言葉を聞いていた衛兵が「大丈夫です」と言ってくれたので胸をなでおろしていた。

 

 玉座の間へ到着すると、扉を守っている兵士が私たちに譲るようにその場から離れる。

 

「国王陛下から、我々兵士は席を外すよう申し付けられましたので、これで失礼致します」

 

 衛兵はそう言うと、扉を守っていた他の兵士とともにその場から去っていった。

 

 玉座の間の前に残ったのは、私たち四人のみ。

 

「人払い? 何か大事な話でもあるのかしら」

 

 去り行く衛兵たちを眺めながら、アルヴィスが呟く。

 

 開ける人がいないので、一番前にいたユウリが、荘厳な扉をゆっくりと開ける。扉の向こうには、先ほどコンテストで拝見した王様と王妃様が静かに座っていた。

 

 私たちは玉座へと延びる赤い絨毯の上を進み、王様の御前でしゃがむと、そのまま頭を下げた。

 

「そうかしこまるな、勇者とその仲間たちよ。この度は、我が国の民たちを救ってくれて、大変感謝している」

 

「いえ、当然のことをしたまでです。私たちは本来魔物の脅威から人々を救うのが目的で旅をしておりますから」

 

 頭を垂れていたユウリが顔を上げると、王様は心なしかほっとした表情を作った。

 

「そればかりでなく、わが娘も救ってくれたと聞いた。ヘレンは遅くにできた娘でな。私や妻にとってはかけがえのない唯一無二の宝なのだ。もし失ってしまったらと思うだけで、身を引き裂かれるほどの心中であった」

 

 すると王様は、私の方を向いて優しく笑った。

 

「そなたのおかげだ。ありがとう」

 

「あっ、こっ、こちらこそ、もったいないお言葉です」

 

 急にお礼を言われたものだから、頭が真っ白になって変な言葉遣いになってしまった。

 

「そう固くなるな。コンテストは中止となってしまったが、皆が無事でよかった」

 

 やっぱり中止になってしまったようだ。でも、被害が最小限に抑えられただけでもよかった。

 

 すると、何か言いたそうにユウリが一歩前に出る。

 

「差し出がましいようですが、少しお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 

「構わぬ。申してみよ」

 

 王様は特に気を悪くすることなく、ユウリの話に耳を傾ける。

 

「この国には魔物避けの聖水の力で魔物からの脅威を防いでいたようですが、一ヶ所だけ聖水の力が失われた場所がありました。その原因については、調査されましたか?」

 

「あ、ああ……、そうだな。したことはしたのだがな……」

 

 何とも歯切れの悪い物言いに、訝しげな顔をするユウリ。

 

「国の危機に関わることだと思われますので、もし調査に難航しているのでしたら、微力ながらお力添えさせていただきます」

 

「あ、ああ……」

 

 そう言ってユウリは恭しく一礼する。だが、ここまで言われても、王様は何かを躊躇っているのか、口をもごもご動かすのみ。

 

「あなた。無関係でないのですから、ここは正直にお話した方がよろしいですわ」

 

 すると隣に座っていた王妃様が、そっと王様に話しかける。やがて王様は決意したのか、再びユウリに向き直った。

 

「う、うむ。そうだな。実はその件だが、実は我が城の者が聖水の効力を消してしまったそうだ」

 

「どういうことですか?」

 

 ユウリだけでなく、王様と王妃様以外の全員が眉をひそめる。

 

「正確に言うと、コンテストの関係者だ。最終審査の迷路に使う障害物を準備するときに、誤って本物の岩を用意したそうだ」

 

「えっ!?」

 

 それって、私のところにあった大岩だよね? やっぱりあの岩が置いてあったのは間違ってたんだ。

 

「しかもその岩は、町外れの森からわざわざ持ってきたらしい。最終審査が始まる前に急いで持ってきた、と関係者が証言している」

 

 あとで聞いた話によると、王様の言うとおり、予選が終わり、最終審査が始まる前に上からの指示があり、急遽張りぼての岩と本物を取り替えることになった。だが、城の敷地内にそう都合よく大きな岩なんてない。そんな中、コンテスト関係者の一人が街の外にならあるのではないかと言い、できる限り人を集めて代わりになる岩を探した。そしてちょうどいい岩を見つけ、皆でコンテスト会場まで押しながら運んだ。その際、聖水が撒かれたところも引きずったため、消えてしまったのだという。

 

 聖水の効力は魔物と関わらない一般市民には馴染みがないため、聖水が撒かれていることすら知らなかったそうだ。つまり、城門のところにあった引きずったあとというのは、その大岩のことだったのだ。

 

「待ってください。どうしてわざわざ本物の岩に替えたんですか? 俺の仲間はそのせいで手に怪我を負ったんですよ?」

 

「それについては……。いや、それもコンテストの関係者から話を聞いている。本物の岩とすり替えるよう指示したのは……ヘレンだ」

 

『!!』

 

 王様と王妃様以外の全員が息を飲む音が聞こえた。そして私はというと……、どこかでそうじゃないかなという確信があった。

 

「……なぜ彼女が?」

 

 ユウリも薄々気づいてはいたのだろう。特に表情を変えることなく、彼は王様に問いかけた。

 

「そなたも知っての通り、ヘレンはそなたを大層気に入っておった。その上私は、今日のコンテストで優勝したらそなたを婚約者として迎え入れても良いと約束してしまった。その浅はかな考えが、ヘレンに正常な判断を失わせるきっかけとなってしまったのだ」

 

「……つまり彼女は、自分が優勝するために、他の出場者を陥れようと不正を働いたということですね」

 

 ユウリの低い声が玉座の間に響くと、辺りは重い沈黙に包まれた。娘が不正を行ったことは、王様たちも認めている。けれど最愛の娘がそのようなことを行い、さらにはそれがきっかけで魔物の侵入を許してしまった。親として、これ以上心が痛むことはないだろう。

 

「娘の過ちは、親である私の責任だ。コンテストを中止にしてしまったこと、魔物を国内に入れてしまったこと、それらは全て私の過失ということで、今から民に伝えようと思う」

 

『!!』

 

 ヘレン王女の代わりに、王様が全ての責任を負うってこと?

 

 確かにヘレン王女にも非はあるけど、だからって王様一人が背負うには、あまりにも荷が重すぎるのではないか。

 

「あ、あの! 王様一人が責任を負うのは、あまりにもお辛いことかと……」

 

 しまった、つい勢いで口を挟んでしまった。

 

「そ、そうですよ! 確かに不正を働くのは悪いことですけど、それを全部王様のせいなんかにしちゃったら、国の信用も失いかねないと思います!」

 

 ビビアンも、私に続いて王様に向かって言い放つ。それを聞いていたアルヴィスも、同意するように頷く。

 

「そうよねぇ……。でも、だからと言って王女様のやったことを無かったことにするのも無理があるわよね。王女様が指示したってのはもうすでに広まってるわけだし」

 

「……もうよいのだ。我が国のことにそこまで考えてくれるとは、なんと優しき者たちよ。しかし、我が娘のしたことは、私がしたことと同義。罪は償わなくてはならぬ」

 

「そんな……」

 

「ヘレンには、しばらくの間謹慎してもらう。そして、コンテストが中止になってしまった代わりに、出場者および観覧者、また関係者に多額の補償金を渡そうと思う」

 

「……確かに、そこまでしなければ、今後信用を回復するには難しいでしょうね」

 

 ユウリも納得した様子で頷いた。

 

「今までヘレンを散々甘やかしてしまったわしにも責任はある。むしろ一番の被害者は娘の方かもしれぬな」

 

 そこまで言うと、王様は沈痛な面持ちで項垂れた。でも、もとはといえばこの国を襲った魔物が原因なのだ。許されないのは魔物の方なのに、なんだかやり切れない思いだ。

 

「あ、あの! 差し出がましいことを言いますが、きっとエジンベアの人たちは、許してくれると思います。だって、王様と王妃様がこんなにも国民のことを思ってくれてるんですもの。それに、ヘレン王女をこんなにも愛しているお二人のお人柄は、きっと皆わかってくれると思うんです」

 

「そなたは……。娘を恨んではおらぬのか? せっかくのそなたの晴れの舞台を、台無しにしたのだぞ?」

 

 静かに問いかける王様を、私は真っ直ぐに見据える。

 

「王女様は、ユウリのことが好きだから、周りが見えなくなってしまわれたんです。誰かを好きになる人を恨む理由なんてありません。だから、もし皆に伝えるとしたら、王女様の気持ちも正直に伝えた方がいいと思います」

 

「……」

 

 はっ、しまった! つい調子に乗って随分ベラベラと好き勝手なことを言ってしまった! 王様を怒らせてしまったんじゃ……、そう思って私が身構えていると、

 

「……ありがとう。そなたの言うとおり、娘の気持ちも蔑ろにしてはいけないな。そなたのその言葉が、我々家族にとって、唯一の救いだ」

 

 そう言って王様と王妃様は玉座から立ち上がり、私に向かってお辞儀をしたではないか。

 

「かっ、顔を上げてください!! こんな、田舎者の私なんかに……」

 

「こらこら、そういうことは自分で言わないの」

 

 小声でアルヴィスが私に釘を刺す。そうは言っても、まさか王様に頭を下げられるなんて一体誰が予想できただろうか。

 

「しかし言葉だけでは感謝の意を伝えることは出来ぬな。魔物を倒してくれたことも含め、是非何か礼をさせてはもらえぬか?」

「え!? えっと……」

 

 お礼……。と、急に言われても……。

 

 すると、今まで黙っていたユウリが口を挟んできた。

 

「でしたら、一つ欲しいものがあるのですが、よろしいでしょうか?」

 

「構わぬ。欲しいものがあるのなら、何でも言ってみよ」

 

「以前もお話しましたが、我々は魔王の城に向かうため、こちらの地下にあるという『渇きの壺』がどうしても必要なのです。どうかお譲りしていただくことはできませんか?」

 

 あっ、そうだった! 危うく「特にありません」と言うところだった。

 

「ふむ……。『渇きの壺』か……。ううむ、手放すには少々惜しいが、他ならぬそなたらの頼みだ。わかった、『渇きの壺』はそなたらに渡すとしよう」

 

『ありがとうございます!!』

 

 私とユウリ、二人の声が同時に揃う。

 

「それはこちらの台詞だ。改めて、礼を言う」

 

 再び深々と頭を下げる王様。その表情は、玉座の間に入ったときよりも、穏やかだった。

 

 

 

 その後玉座の間を退出し、城の広間で待機していると、程なく一人の兵士が渇きの壺を手に、私たちの前にやってきた。

 

「陛下からのご命令により、渇きの壺をあなたたちへと賜るよう、仰せつかりました」

 

 ユウリに渡されたのは一抱えほどの大きさの素焼きの壺だった。けれどどう見ても、その辺の民家に置いてあるような何の変哲もない普通の壺にしか見えない。

 

「おい、本当にこれが渇きの壺か? どう見ても普通の壺にしか見えんが」

 

「もっ、もちろん!! お城の地下にある渇きの壺とのことで、王様たちにも確認しましたよ!!」

 

 ユウリも私と同じように疑っているようだ。

 

「へー、これが渇きの壺ねえ。確かにこのまま水瓶に使っても違和感なさそうね」

 

 ビビアンも壺を覗き込みながらそう呟いた。

 

「ま、何にせよ、目的のものが手に入って良かったワネ♪」

 

 そう言って、にっこりと私に笑いかけるアルヴィス。

 

「それもこれも皆、ミオが頑張ったおかげね!」

 

 ビビアンも満面の笑みで私の背中を叩いた。

 

「ううん。皆が協力してくれたからだよ。ありがとう」

 

 私だけなら、きっとコンテストどころかお城に入ることすらできなかっただろう。ビビアンやアルヴィス、それにユウリの力があったからこそ、渇きの壺を手に入れることができたんだ。

 

 私が感慨に浸っていると、ふとユウリと目が合った。

 

「……ありがとな」

 

「へっ!?」

 

 唐突にお礼を言われ、私は思わず変な声を出す。

 

「あらぁ? 声が小さくてよく聞き取れなかったみたいよ? もう一回言ってみたら?」

 

 ビビアンがニヤニヤしながらユウリに話しかけるが、無視したユウリは結局その後何も言わなかった。

 

 色々あったけれど、ようやく私たちはオーブを手に入れるために一歩近づいたのだ。まだまだ先は長いが、今は一時でもこの達成感と喜びを噛み締めることにしたのだった。

 

 

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