俺様勇者と武闘家日記   作:星海月

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戦いの後で

 

 王様から『渇きの壺』を手に入れた私たちは、あのあと滅茶苦茶になったコンテスト会場を城の兵士たちとともに片付ける手伝いに加わった。

 

 ビビアンとアルヴィスも、何だかんだで一緒についてきて手伝ってくれている。

 

「こういうの、劇場でも毎日やってるからね、力仕事でもなんでも任せてよ」

 

 意外にもビビアンは、こういう作業に慣れているらしく、重そうな木の柱や散乱している観客席の椅子なども積極的に片付けていった。

 

「ビビアンに負けてらんないわネ。アタシも頑張らなきゃ★」

 

 アルヴィスはもっとすごかった。何しろ一人であの大岩を転がしていったのだから。私が正拳突きをしまくったせいで少し動かしたら崩れてしまったのだが、その小さくなった岩の欠片をそのまま城の外へ軽々と放り投げる様子に、私たちだけでなく周りの兵士たちも一斉に歓声を上げたほどだ。

 

 ちなみに聖水は、魔物が周辺にいないことを確認したあと、再び撒いたそうだ。なのでもうさっきみたいに魔物が侵入してくることはまず無い。

 

「皆様のお陰で、こんなに早く元通りになりました。ありがとうございます!」

 

「いえ、そんな、とんでもない」

 

 一通り後片付けが終わり、城の周辺が元通り綺麗になったところで、私たちは一緒に片づけてくれた兵士たちから感謝の言葉を受け取った。

 

「それじゃあ、用も済んだことだし、帰りましょうか」

 

 アルヴィスの言うとおり、もうこれ以上ここにとどまる理由もない。荷物も手にし、城を出ようとしたそのときだった。

 

「すいません、ユウリさん! 少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」

 

 タイミングよく声をかけてきたのは、まだ私たちとそう変わらない年の若い兵士だった。息を切らせているところを見ると、急いで走ってきたようである。

 

「ああ、構わない。何の用だ?」

 

 若い兵士は息を整えたあと、手にしていた封筒をユウリに差し出した。

 

「ヘレン王女殿下から言付かっております。ユウリさんにお渡しするようにと」

 

 そう話すと、ユウリに一枚の封筒を受け取ったのを確認すると、一礼してすぐに去っていってしまった。

 

「王女から……?」

 

 複雑な顔をしながら、ユウリは封を開けた。中には手紙が一枚入っている。

 

 手紙を開き、ざっと一通り目を通すと、無造作に私に手紙を渡した。

 

「私も見ていいの?」

 

「後半はお前宛だ」

 

 私は隣にいたビビアンと顔を見合わせながら、おそるおそる手紙を読んだ。

 

 

 

『拝啓 ユウリ様及び仲間の皆様へ

 

 この度は我が国の危機を救っていただいて本当にありがとうございました。

 

 わたくしの過ちでユウリ様をはじめ、多くの人たちに迷惑をかけてしまったこと、心からお詫び申し上げます。

 

 婚約者の件につきましては、今のわたくしではユウリ様に相応しくないと思い、一度身を引くことにしました。

 

 ですが、ユウリ様を想う気持ちは変わりません。ユウリ様に相応しい女性になるよう、これからは努力していきたいと思います。

 

 追伸 ミオさんにも大変ご迷惑をおかけしました。また、魔物から救っていただいて、本当にありがとうございました。

 

 コンテストの最終審査も、自分が優勝するために他の出場者を貶めるような行為をしてしまい、今ではなんて愚かな行為だったのかと、深く反省しています。本当にごめんなさい。

 

 わたくしは今外に出られず、直接会うことができないため、このような形で謝罪することになってしまいました。

 

 いつかまた再会できたら、改めてご挨拶できればよいかと思います。

 

 それでは、用件のみで恐縮ですが、失礼します。  ヘレン・アナベル・ド・エジンベア』

 

 

 

 それはヘレン王女がユウリを婚約者にすることを諦める内容と、私に対する謝罪が書き綴られていた。

 

「うーん……。なんか実際の王女様と文面のギャップがありすぎない?」

 

 顔を突き合わせて一緒に読んでいたビビアンが、難しい顔で呟いた。

 

「え、そう? きっとコンテストの件で考えが変わったんだと思うよ?」

 

 それにユウリのことで誤解されやすそうだが、時々難しい言葉を使っていたりしてたし、王女様なだけあって、おそらく色んな勉強をしているのだろう。

 

「まあ、本人が書いたかどうかは知らんが、俺との婚約を諦めてくれるなら有難い」

 

 確かにユウリにとっては、そこが一番大事な問題だよね。

 

 けれど、こうして直接会いに来ることも出来ないなんて、なんだか少しかわいそうな気がする。そんな私の心情を察したのか、ビビアンが私の肩をポンと叩いた。

 

「ほら、そんなに気に病まないの。王女様も、この件で反省すると思うし、きっと大丈夫よ」

 

「……うん、そうだね」

 

「そうそう、もうこれ以上はアタシたちがわざわざ介入することじゃないしね。とりあえず、お腹もすいたことだし、そろそろ帰りましょ?」

 

「あーっ、そういえば、お昼まだだったのよね!? せっかくアルヴィスが作ってくれたお弁当、駄目になる前に食べないと!!」

 

 ビビアンが危惧している通り、すでにお昼どころか、日が傾きかけている。私も今までごたごたしてたせいか、お腹がすいたことすら忘れていた。そしてふと、マギーの顔が頭を過る。彼女はあれから大丈夫だったのだろうか。

 

「ごめん、その前に、マギーのところに行きたいんだ。なんなら私一人だけ行くから、皆は先にご飯食べててよ」

 

「あっ、それなら私も行くわよ!!」

 

「そう言うことなら仕方ないわネ。……ユウリくんはどうする?」

 

「……行かなかったら、お前の作った弁当が食べられないんだろ?」

「そうね、もちろん」

 

「なら選択肢は一つしかないだろ」

 

 ユウリは横でにやにやしているアルヴィスを見上げながらため息混じりに言った。

 

 いつの間にか二人は、やはり私の知らないところでずいぶん仲良くなったようだ。私はそんな二人の姿を楽しげに眺め、そのあとすぐにユウリに気づかれ髪を引っ張られたのだった。

 

 

 

「マギー、いる!?」

 

 店の扉を開けてすぐに、私は中にいるだろう店の主の名前を呼んだ。

 

 そして目に飛び込んできたのは、カウンターの向こうに立っているいつもの姿のマギーと、そんな彼女の手を両手でしっかりと握りしめている一人の男性だった。

 

「みっ、ミオさん!?」

 

 マギーが声を上げた途端、隣にいた男性は慌てたように彼女の手を離した。そして、私と目があった途端、「あっ!!」と大きな声を上げた。

 

「あなたがマギーの言っていた、ミオさんですか?」

 

「は、はい! えーと、どちら様ですか?」

 

 すると、横にいたビビアンが肘で私の背中を小突いてきた。

 

「何野暮なこと聞いてんの。年頃の男女が見つめあって手を取り合うって言ったら、あの子の恋人に決まってるでしょ!」

 

「あっ……!!」

 

 じゃあこの人が、マギーのことを『変わった子』って言ってた人!?

 

 でも、どこかで見たことあるような……?

 

 その男の人は私より年上で、二十代前半に見えた。落ち着いた物腰で、年齢の割には立派な身なりをしている。彼は私に近づくと、なぜか深々とお辞儀をしたではないか。

 

「!?」

 

「あなたのお陰で、マギーの魅力に気づくことが出来ました! ありがとうございます!」

 

「いや、私は何も……」

 

 急に突拍子もないことを言われ、呆気にとられていると、カウンターから出てきたマギーまでもが私に向かって頭を下げたではないか。

 

「ミオさん、先程は助けていただいて、ありがとうございます!」

 

「ああ、気にしないで、みんな無事でよかったよ」

 

 すると今度は、二人揃ってユウリたちの方に向かってお辞儀をした。

 

「あの、皆さんも、魔物を退治していただいてありがとうございます! お陰で街の皆も大した怪我はなく、無事に家に戻ることが出来ました」

 

 そう言ったのはマギーではなく男性の方だ。その言い方だと、彼もそのとき現場にいたように感じるのだけれど……?

 

「もしかしてあんた、コンテストの審査員席にいなかったか?」

 

「え!?」

 

「あー、そういえば、見たことある顔だと思ったワ」

 

 ユウリの指摘に、アルヴィスも頷いている。確かに見たことがあるなと思ったが、いまいちピンと来ない。そもそもあのときは緊張と不安でそれどころではなかったので、周りを見る余裕などなかったのだ。

 

「覚えててくださって嬉しいです。僕はこの国のアグリッソス商会の責任者で、ライザーと申します。勇者様の仰る通り、審査員を務めていました」

 

「アグリッソス商会は、この国で最も影響力のある店なんです。ライザーさんは若くしてそこのトップに登り詰めた豪商なんですよ!」

 

 ライザーさんって、そんなすごい人だったんだ。それならコンテストの審査員だったとしてもおかしくない。

 

 私がまじまじとライザーさんを見ると、ライザーさんは私の様子など気にすることなく、屈託のない笑みを浮かべた。

 

「あ、ごめんなさい。ずっと見ちゃって」

 

「気にしないでください。それより、あなたのことはマギーから聞きましたが、聞いていた通りの方でしたね」

 

 え!? マギーってば、私のことを一体どんな風にライザーさんに伝えてたの!?

 

 顔がこわばっているのがわかったのか、ライザーさんは慌てて手を振る。

 

「誤解しないでください。あなたのことは、自分のことをよく理解してくれている、優しい人だとマギーから伺っています。彼女の美意識を変えてくれた、ただ一人の方だとも」

 

「そ、そうなんですね」

 

 そんな大層なことをした覚えは一切ないはずなんだけれど、随分大げさな言い方だなあ。

 

「自身の外見に無頓着な彼女が、まさかコンテストに参加していたなんて知りませんでしたけどね。……実はコンテストの予選では、二人に票を入れたんですよ」

 

「えっ、本当ですか!?」

 

「ええ。今までは僕も外見を着飾ることこそが真の美しさだと思っていましたが、マギーと出会って、その価値観が変わりました。美しさというのは人によって違う。その人が夢中になっている姿こそが光り輝いていると。そして、そんな僕を受け入れてくれたマギーを変えたのは、他でもないミオさんなんです」

 

 そう言われても、私がマギーにしてあげたことなんて何一つない。むしろマギーに助けられてばかりだったのだが。

 

 無意識にマギーを見ていたら、彼女も私の視線に気づき、柔らかく微笑んだ。

 

「私が本好きだということを、ミオさんは肯定してくれましたよね。今まで私の周りには、本が好きな女性なんて、女性としてすら認めない、そうおっしゃる人もいました。だから私も男性に興味を持たなくなったんですが、ミオさんのお陰で自分に自信を持つようになり、本以外のことにも目を向けられるようになりました」

 

「そんなの、私がただそう思っただけで……」

 

「まあまあ。人が変わるきっかけなんて、大体が言った本人にとっては些細なことなんだから。そこは素直に受け取った方がいいワよ?」

 

 いつの間にそばに来ていたのか、アルヴィスが顔を出してきてそう言った。

 

「そうそう。あんまり素直じゃないとどっかの勇者みたいにひねくれちゃうからね」

 

 ビビアンの一言に、一瞬ユウリの目が鋭く光る。

 

 それじゃあ私が予選を突破出来たのも、もしかしたらライザーさんのお陰だったのかもしれない。コンテストが中止になった今では、本当のところはわからないけれど。

 

「おい、もう話は済んだのか?」

 

 ずっと私たちから離れたところで待っていたユウリが、しびれを切らして口を挟んだ。その不機嫌な様子を一足早く感じ取ったマギーは、慌ててユウリに向き直る。

 

「すみません! 勇者様、それに他の皆さんも、ありがとうございました! 魔物と戦っているときの皆さん、とてもかっこよかったですよ!」

 

「ふふ。かっこいいだなんて、照れるワ♪ ね? ユウリくん」

 

「俺に話を振るな」

 

 ユウリにウインクするアルヴィスに対し、わざと視線をそらすユウリ。

 

 すると、唐突にマギーがカウンターにある台帳と羽ペンを手にした。

 

「そうだ、もしもう一度勇者様に会えたらお話ししようと思ったんですが……。よければ、私が今度書く小説のモデルになってもらえませんか?」

 

「は? モデル?」

 

 突拍子もないことを言われ、ユウリは間の抜けた声を出す。

 

「マギー、小説を書くって……。いったいどういう心境の変化?」

 

 勇者物語は好きだが、小説を書きたいなんて一言も言ってなかったはず。しかもユウリをモデルにするってことは、マギーは自分で勇者物語を書こうとしているのだろうか?

 

「あのとき魔物を倒している勇者様を見て、創作意欲がわいたんです! ミオさんに助けられた後、お城の中から外の様子を見てたんですが、ちょうど勇者様が戦っていたんです。その姿がまるで本当に物語から出てきたかのように凛々しくて、そんな格好いい勇者様の勇姿を私の手で後世に残したいと感じたんです。なので是非主人公の人物像は勇者様を参考にさせて頂きたいと思って!」

 

 うっとりと蕩けそうな表情を見せたと思いきや、目を輝かせて力説するマギー。これにはユウリもタジタジかと思いきや、

 

「俺を参考にするだと? だったら俺が勇者になったきっかけから話さなければならないな」

 

 あ、なんか変なスイッチ入っちゃった。こういう時のユウリは、いつもの三倍くらい生き生きとしているのだ。

 

「そもそも俺が魔王という存在を知ったのは、3歳の時、アリアハンの王宮騎士であった祖父がレーベの村近くの森で遭遇したおおありくいを退治したことがきっかけでな……」

 

「あああ!! 勇者様の幼少期が聞けるなんて、なんて贅沢なんですか!? 早くメモをとらなきゃ!」

 

 興奮が止まらないマギーは、持っていた羽ペンを凄まじい早さで走らせる。

 

「マギー!? その感情は憧れなんだよね!? 決して別の感情ではないよね!?」

 

 ユウリに懸想しているのかと思い、慌ててマギーに詰め寄るライザーさん。

 

 そのとき、私は本能で悟った。この二人を合わせたら、何時間でも話し込むだろうと。

 

「あああ、あのさユウリ! 私、お腹が空いて今にも倒れそうだから今日はここでお暇しよう? ごめんマギー、私たちここで失礼するね!! ユウリのことは好きに書いていいから!!」

 

「おいこら、ボケ女! 話はまだ始まったばかりだろうが!!」

 

 文句を言うユウリを、半ば強引に店から押し出す私。ビビアンも何かに気づいたのだろう。私と一緒にユウリを連れ出そうとしている。

 

「いーから! あんたは話がいちいち長いんだから、腹ペコの時にそーゆーことしてもらっちゃ困るのよ!」

 

 女性二人に押し出され、さすがのユウリも暴れることはしなかったが、あからさまに不機嫌な態度を見せる。

 

「そう言うことだから、またね、マギー! ライザーさん!! ありがとう!」

 

「あっ、こ、こちらこそ! また是非遊びに来てくださいね!」

 

 私は笑顔で二人に手を振ると、向こうも笑顔で見送ってくれた。

 

 色々あったけれど、沢山の人と知り合いになったし、魔物に関する新しい情報も手に入れた。なにより、渇きの壺を手に入れたと言う最大の目的を達成したのだ。

 

 ひとまず一段落した私たちは、エジンベアに別れを告げたのだった。

 

 




★読まなくてもいい後書き★

これで一応エジンベアでの話は終わりです!
が、区切りとしてはもう少しだけ続きます。

渇きの壺イベントは自分の中の難産イベント第1位に輝いており、一章丸々書き直したりキャラを変えたり減らしたり、いろいろやらかしています。
そしてあれだけオリジナル展開させときながら石を動かすイベントだけは生かすという…。

ちなみに第3位はノルドの抜け穴体当たりイベントです。
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