俺様勇者と武闘家日記   作:星海月

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2024/6/8 加筆、修正しました。


ひとときの休息

 

 コンテストも終わり、やっと落ち着いた私たち。

 

 渇きの壺を手に入れたあとの次の目的は、最後の鍵を手に入れることたった。

 

 エジンベアでの騒動後、港に停泊したままの船まで戻り、待機していたヒックスさんに次の行き先を尋ねることにしたのだが……。

 

「浅瀬の祠……? すいません、聞いたことがありませんね」

 

 ピンとこない様子で、ヒックスさんは答えた。

 

『浅瀬の祠』というのは、実はエジンベアの王様が渇きの壺をくれたときに教えてもらった重要な情報である。

 

 なんでも当時の王様は、その祠に最後の鍵があるらしいと言う情報を聞いたそうだ。けれど場所までは把握することはできず、先代の王はそのまま息を引き取ったという。

 

 あちこちの海を股にかけるヒックスさんでもわからないなんて、浅瀬の祠とは一体どこにあるのだろうか?

 

「でもその壺がもともと持っていたと言う、スー族のいる大陸ならここから西にありますよ。迂回しますがそれほど遠くはありません。行ってみますか?」

 

 そうユウリに提案した。

 

「ああ、是非頼む」

 

 という訳で、私たちは急遽スー族のいる西の大陸に行くことになった。

 

「その前に、この二人をアッサラームまで送り届けたい。もうしばらく待ってもらってもいいか?」

 

「もちろん、いつでも構わないですよ。ちょうど船のメンテナンスが長引いてまして、明日にならないと出航できないんです。ご用事があれば先に済ませていただいて結構ですよ」

 

「ありがとうございます、ヒックスさん」

 

 ヒックスさんの言葉に、私は忘れずお礼を返す。

 

 船に戻っていったヒックスさんを見送ると、すでに日が大分傾いている。十分過ぎるほど盛りだくさんな今日の出来事を、空を見上げながら思い返していると、突然アルヴィスが声を上げた。

 

「ねえ、だったら三人とも、今夜はアタシの家に泊まりに来ない? もう暗くなってきたし、ここでお別れなんて寂しすぎるわよ」

 

「賛成! 今日なんかあっという間に一日経っちゃったんだもの、最後くらいゆっくりしたいわよね!」

 

 アルヴィスの提案に、すぐさま賛同するビビアン。ちらりとユウリをみると、

 

「何言ってるんだ。俺たちは一刻も早く最後の鍵を手に入れて、オーブを探さなきゃならないんだぞ。お前らのわがままに付き合ってたまるか」

 

 案の定、けんもほろろに却下される。するとビビアンは目を細めてニヤニヤしているではないか。

 

「ふーん……。そこまで否定するってことは、よっぽどミオと二人でいたいってことかしら」

 

「なるほどー。アタシたちはお邪魔虫ってわけネ」

 

 アルヴィスまで意味ありげに含み笑いをしている。そんな二人の態度に、ユウリはムキになって反論する。

 

「なんでそんな話になるんだ! オーブを探すためだって言ってるだろ!! おい、お前も何か言ってやれ!!」

 

 今にも掴みかからん勢いで、私に同意を求めようとするユウリ。だけど……。

 

「……私も二人の意見に賛成かな」

 

 

「!?」

 

 かくいう私も、二人とここで別れるのはとても名残惜しいと感じていた。

 

「だってここで別れたら、もうしばらくは会えなくなるんでしょ? それに、明日まで船が出ないなら、別に今急いでお別れしなくたっていいんじゃない?」 

 

 いつもならユウリの意見に従うのだが、今回ばかりは譲りたくない。そして喋ってる最中、あることを思い出す。

 

「それに、カリーナさんが言ってたよね。ホビットのノルドさんがオーブを持ってるって。ノルドさんのいる洞窟に一番近いのはアッサラームでしょ? だったらついでにノルドさんのところに行って、確かめてみようよ」

 

 取って付けたような言い訳だが、我ながらよく言えたものだ。でも、私の言葉は思いの外効いているらしく、珍しくユウリが迷っている。よし、あと一押しだ。

 

「それともビビアンの言うとおり、ホントに私と二人きりになりたいの?」

 

「そんなわけないだろ!! 誰がお前となんか!!」

 

 ……そんなにあからさまに否定されるとなんだか悲しくなるんだけど。悔しいので再びユウリに質問する。

 

「じゃあアルヴィスの家に泊まってもいい?」

 

「……勝手にしろ!」

 

 矢継ぎ早に質問したのが功を奏したのか、勢いに流されたのか、ユウリは渋々承諾してくれた。作戦成功……と言いたいところだが、そんなに嫌われているなんて夢にも思わず、私は人知れずショックを受けていた。

 

「流石勇者様ね! 話がわかるわ!」

 

「ふふ、こうなったら腕によりをかけてご馳走作らなきゃね♪」

 

 その間に、ばんざーい、と諸手を上げるアルヴィスとビビアン。二人の喜びように、傷心気味だった私も嬉しくなる。対してユウリに目を向けると、彼はふてくされていた。

 

「ありがとね、ユウリ」

 

「……ふん」

 

 けれどすっかり諦めたようで、ユウリは拗ねたように視線を逸らした。ユウリには悪いけど、せっかくの機会だからなるべく長く皆といたい。だって、旅に出たらそう簡単には会えないのだから。

 

「そうだ。忘れる前に、これを渡しておく」

 

 気を取り直したユウリは二人に声をかけると、鞄から、お金の入った袋を取り出した。

 

「こいつを二週間預かった分の依頼料だ」

 

「まあ、律儀ねえ。別に次に会ったときでもいいのに」

 

「次なんか、いつ会えるかわからないだろ」

 

「もうっ、そう言うとこばっかりあの人に似てるんだから★」

 

 そう言うとアルヴィスはユウリの鼻の頭をちょん、と小突いた。ユウリは微動だにしなかったが、動かなかったのではなく動けなかったようだ。アルヴィス、恐るべし。

 

「じゃあこのお金で、お酒と食べ物を買いましょっか♪ ビビアンもそれでいい?」

 

「もちろん! お金は使うためにあるものよ!」

 

 二人が意気投合したところで、私たちはそのまま近くのお店へと直行した。もちろんお酒と今夜の食事の材料を買うためだ。普段見慣れない食材を使って料理を作るのもいいのではというアルヴィスの提案で、気に入ったものを片っ端から買っていくことにした。そしてあっという間にユウリにもらった依頼料が消えていったのを、あげた張本人は複雑な表情で眺めていた。

 

 大満足で買い物を終えると、すっかり日が暮れていた。私たちは店から少し離れた場所に移動し、隣同士で手を繋ぐ。そして全員の手が繋がれたのを確認したユウリは、一呼吸置いた後に呪文を唱えた。

 

「ルーラ!!」

 

 あっという間にアッサラームに到着すると、ユウリは疲れた顔を見せた。一日に二回も移動呪文を唱えたというのもあるが、人数に比例して術者の負担も大きくなるそうなので、四人での移動は体に相当堪えているようだ。

 

「さすがに疲れたわよね。早く家に入りましょ」

 

 エジンベアと違い、アッサラームの空はもう真っ暗だった。私たちは急いでアルヴィスの店に向かう。

 

「ねえ、ミオ。今夜は一緒の部屋で寝泊まりしましょう!」

 

 そう言えば、アッサラームで特訓してからの二週間、ビビアンはいつも劇場で寝泊まりしている寮からここに足を運んでくれていた。そんなに離れていないとはいえ、毎日行き来するだけでも大変だっただろう。

 

「もちろん! 私もビビアンと一緒にいられる時間が増えて嬉しいよ!」

 

 満面の笑みでそう言うと、ビビアンも笑顔で返してくれた。

 

 早速皆アルヴィスのお店に入ると、家主のアルヴィスはそのままキッチンに向かい食事の支度を始めた。私も手伝うと言ったが、ビビアンに「ミオは今日一番頑張ったんだから休んでて!」と引き留められ、代わりに彼女が手伝うことに。

 

 残された私とユウリは、お店の奥にある私室のリビングに通されると、中央にある大きめのソファに座って待つことになった。ふかふかのソファは座っているだけで居心地がよく、まるでそのまま体が溶けてしまいそうになる。

 

「……」

 

「……」

 

 しばらくぼーっとしていたが、お互い何も声を発しない。かといって何か話そうとしても、ユウリと会うのが二週間ぶりだからだろうか、何を話していいかわからない。

 

 ユウリって、こんなに無言だったっけ?

 

 いい加減何か話した方がいいかと、隣に座っているユウリの方へ顔を向けると、なんとすでに眠りこけているではないか。

 

 ……そうだよね。魔物の襲撃もあったし、流石のユウリも疲れたよね。

 

 彼の寝顔を見たせいか、私もなんだかうとうとしてきた。それに拍車をかけるように、ソファの座り心地が眠気を増長させている。

 

 心が安らぐと睡魔がやってくるって言うけれど、どうやら本当らしい。次第に私のまぶたがゆるゆると落ちていく。

 

 ああ、このまま寝ちゃいそうだな……。

 

 なんていくらも考えない内に、私も夢の世界へと旅立って行ったのだった。

 

 

 

「うわっ!?」

 

 ドサッ!!

 

「ふぇ!?」

 

 一瞬何が起きたのかわからず、私は情けない声を上げると同時に目を開ける。

 

 気づけば私の体はソファの上に倒れていた。

 

 今誰かの叫び声が聞こえたような……?

 

 ぼんやりした頭を揺り起こしながら、何事かと周りを見てみる。どうやら意識がなくなるほど眠りこけていたらしい。すると、私を見下ろすようにしてユウリが立っていた。

 

「あれ……、どうしたの? 顔が真っ赤だよ」

 

 ぼーっとしていても、目の前にいる人の顔色くらいはわかる。なぜかユウリは眉をつり上げながら、顔を真っ赤にしているではないか。

 

「なんでお前まで寝てるんだ!」

 

 いや、そんなことで怒られても、自然現象なのだから仕方がない。寝起きであまり頭も働かないので、適当に言葉を返してみる。

 

「だって、隣でユウリが寝てたから……」

 

「だったら別の部屋で寝れば良いだろうが!!」

 

 なんでそんなことで怒られなければならないんだ。私だって寝たくて寝たわけじゃないのに。

 

 でも、何だか今のユウリにこれ以上文句を言ってもさらにヒートアップしそうなので、黙っていることにした。それに、寝ぼけ眼の今の私に、反論できるほどの思考力はない。

 

 そのままユウリは不機嫌を露にしながら、ソファから離れた場所で床に座った。嫌っているとは言え、何もそんなに離れなくても、と思ってしまう。

 

 いじけた私は小さくため息を吐くと、ほどなくキッチンから漂ういい匂いに鼻をひくつかせた。

 

「は~い、お待たせ★ 出来たわよ♪」

 

 匂いに誘われてキッチンを覗くと、美味しそうな料理の数々がテーブルに所狭しと並べられている。

 

「いっぱい作ったから、沢山食べてね♪」

 

「すごい! 全部美味しそうだよ!!」

 

 私は早速ユウリを呼んで、ご相伴に与ることにした。

 

 けれど楽しい時間はあっという間で、あれだけ沢山あった料理も気がつくと、皆と会話している内にほとんどなくなっていた。

 

「やだ、いつの間になくなっちゃったの!? これから残った料理をお酒のお供にしようかと思ってたのに!」

 

「アルヴィス、あなた一度飲んだら歯止めが効かなくなっちゃうんだから、今日はほどほどにしときなさいよ」

 

「えーっ!? これからユウリくんと昔話に花咲かせようとしてたのに!」

 

 ユウリと昔話って、一体どんな話をするつもりなんだろう?

 

「悪いが、俺はもう休ませてもらう。明日は早めにノルドの所に行くからな」

 

 そう告げると、ユウリはリビングに向かい、そのままさっき座っていたソファに横になった。

 

「やだユウリくん! アタシのベッド使って良いのよ?」

 

 だが、返事が来ることはなかった。私たちに背を向けると、ほどなく寝息が聞こえてきたからだ。

 

「流石の勇者様も、大分お疲れだったみたいね」

 

 ビビアンの言うとおり、相当疲れがたまっていたのだろう。ユウリがあんなに無防備に眠るのを見るのは初めてだ。そういえば、私がアッサラームに行ってる間も、エジンベア周辺にいた魔物を退治する依頼をこなしていたと言っていたから、きっとその分の疲れもあったのだろう。

 

「ねえ、お城に魔物が現れたとき、アルヴィスはユウリと一緒にずっと魔物と戦ってたんだよね。どんな様子だった?」

 

「う~ん……、そうね。かつて一緒に戦ってたときのあの人みたいだったわ。一分の隙も見逃さず、必要最低限の動作で敵を仕留める。さすが、あの人が持っていたのと同じ剣を使ってるだけあるわ」

 

 本当はユウリの体調のことを聞きたかったのだが、アルヴィスは微妙に違うニュアンスで受け取ってしまったようだ。聞き返すほどでもないし、何よりそれ以上に気になることを答えたので、私はさらに尋ねてみた。

 

「そうなの? でもユウリは、オルテガさんみたいにはなりたくないって感じだったよ?」

 

 エジンベアに入るときも、オルテガさんの息子だと証明するようなものは何も持っていないと言っていた。むしろ彼は、必要以上に英雄オルテガの息子と言う肩書きを使いたがらないように見える。なのになぜ彼は、お父さんと似た動きをし、同じ武器を使っているのだろうか。

 

「まあ、子供からしてみれば、お母さんや幼い自分を置いて何年も旅に出る父親なんて、悪い印象でしかないからネ。ユウリくんの気持ちもわからなくはないワ★ でも、それ以上に親子の血の繋がりが、あの人とユウリくんを結びつけてるんじゃないかしら」

 

「血の繋がり……」

 

「なんだかんだ言っても結局、そんな父親と同じ武器を選んでるし、同じ道を歩いてるんだもの。アタシたちがとやかく言う問題じゃあないと思うワ」

 

「そ……、そうなのかな」

 

 アルヴィスはそこまで語ると、急に物憂げに眉を下げた。

 

「……でも、魔王を倒そうと決意するまで、あの子は相当悩んだでしょうね」

 

 そう遠い目をして話すアルヴィスに、私は瞠目した。ユウリのことをそんな風に理解してくれる人を、初めて見たからだ。

 

「ねえミオ。ユウリくんがもし悩んだり、困ってたりしてたら、手を差しのべてあげて。彼が彼でいるためには、あなたのような仲間が必要なの」

 

 それはまるで、母親が遠くに旅に出る息子を心配しているかのようだった。

 

 それにこたえるように、私は力強く頷く。

 

「もちろん。そのために私はユウリと共に戦うって決めたんだから」

 

「そう、それを聞いて安心したわ」

 

 言葉通り、心から安堵したような笑みを浮かべるアルヴィスの姿を見て、この人は本当にユウリのことを心配してくれているんだな、という気持ちが伝わってくる。

 

「ユウリくんにはミオみたいな子がそばにいて幸せね」

 

「え? そうかな? なんかすごく嫌われてるんだけど」

 

 なぜアルヴィスはそんなことを言うのか。そこだけは首をかしげるところだ。

 

「ああ、たぶんユウリくんはね、ちょっと遅めの思春期を迎えてるのかもしれないわネ」

 

「そーね。しかも大分拗らせてるし」

 

「?? どういうこと?」

 

 ビビアンまでも意味のわからないことを言う。けれど、二人はこれ以上教えてくれなかった。そこが一番聞きたかったのに。

 

「まっ、寝てる人の話はそのくらいにして、そろそろ別の話でもしましょ♪ まだまだ夜は長いんだし、喋り倒すわよ!」

 

「やだビビアン、明日ミオは朝早いんだから、ほどほどにしてあげてね?」

 

「大丈夫だよ、アルヴィス。普段から野宿の見張りで夜起きてるのは慣れてるし」

 

「オッケー! じゃあまずはミオの初恋話からね!」

 

「イイわね★ こうなったら根掘り葉掘り聞きまくるわよ!!」

 

「待って待って! そんなのないから!! 別の話題にして!!」

 

 なんてことを言っている間に、あっという間に時間だけが過ぎていく。結局シーラの部屋で寝るつもりだったのに、いつの間にか三人揃ってキッチンのテーブルに突っ伏して寝ているところを、明け方起きてきたユウリに起こされたのだった。

 

 

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