俺様勇者と武闘家日記   作:星海月

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喋る馬のエド

 

 『浅瀬の祠』について知っている者がいるかもしれないということで、スー族の里に住むエドという者に会いに行ったのだが、その人物というのが人ではなく人の言葉を話す馬だったという事実に、私たちは驚愕していた。

 

「あ、あの……あなたが本当にエドさん……?」

 

「はい。私がエドです」

 

 恐る恐る私が問いかけると、目の前にいる白い馬は落ち着き払った声できっぱりと答えた。

 

 一方のユウリはと言うと、微塵も動揺の色を見せずにエドの方に向き直った。

 

「俺はユウリ。アリアハンから来た勇者だ。俺達たちは魔王の城に行くために『最後の鍵』を探している。最後の鍵があるという『浅瀬の祠』に関して、知っていることがあれば教えてほしいのだが」

 

 淡々と自己紹介を済ませたユウリを、エドの琥珀色の大きな目が見据える。

 

「ジョナスから聞いています。あなたが次の勇者なのですね」

 

 立派な体躯の馬の口から発せられる、落ち着いた女性のようなその声に、ユウリは片方の眉を動かした。

 

「あんた、ただの喋る馬じゃなさそうだな。『次の勇者』とは、どういう意味だ?」

 

「その目、十数年前にも一度見たことがあります。あのときは確か『オルテガ』と名乗っていましたね。三賢者である私をわざわざ尋ねてきた、変わり者の勇者でした」

 

 いきなり予想外の単語を挙げられ、私たちの目が点になる。

 

「……ちょっと待ってくれ。情報量が多すぎるんだが」

 

「確かそのときは、魔王の城の場所を教えてあげましたよ。一人でどうやって行ったかは存じませんが」

 

 思わず手で頭を押さえるユウリを気にも留めず、エドは次々と重大な情報を話し続ける。

 

 エドが実は元人間で、三賢者の一人と称えられていたということ。賢者時代、魔王討伐の旅に出ていたユウリのお父さんに会ったこと。自分が作ったアイテムを魔物に奪われ、逆に自分がそのアイテムにより馬に姿を変えられてしまったこと。人間に戻るには、そのアイテムが必要だということ。これだけでも十分驚愕する内容だ。

 

「生き物を別の存在に変化させられるアイテムなんて、俺が知ってる文献にも載っていなかったが……、本当に可能なのか?」

 

「理論上は可能ですよ。ただ、技術的に問題があるので、量産は無理ですが」

 

「……」

 

 自分の知識を超える返答をされ、ユウリはそのまま閉口してしまった。 

 

「オルテガの意思を継ぐ次の勇者よ。あなたにお願いがあります。『浅瀬の祠』の場所を教える代わりに、私が作った『変化の杖』を取り返してはくれませんか? 今まで人の姿に戻ることを諦めていましたが、次の勇者であるあなたが私の目の前に現れた今、再び希望の火が灯るのを感じました。もし本当にあなた方が魔王を倒すほどの実力ならば、私の姿を変えさたあの魔物から変化の杖を取り戻せるはずです」

 

「さすが元人間だな。交渉の仕方が商人並みだ」

 

「ええ、私は元人間ですからね。死ぬ前くらいは本当の姿で過ごしたいんですよ」

 

 皮肉交じりのユウリの言葉に、エドもまた皮肉げに答えた。

 

 そしてユウリは、はあ、と深くため息をついた。こういうとき、大体彼の行動は決まっている。

 

「その『変化の杖』を奪った魔物の手がかりはわかるのか?」

 

「わかりません。ただ、相手は翼を持たないので空を飛ぶことは出来ません。おそらくこの大陸のどこかにはいると思います」

 

「……あくまで魔王を倒すついでだからな。期待はしない方がいい」

 

「期待していますよ、真の勇者となる者よ」

 

 馬なので表情はわからないが、エドはどことなく満足そうだった。

 

「それより、本当に『浅瀬の祠』の場所を教えてくれるんだろうな?」

 

「もちろんです。いいですか、『浅瀬の祠』はここスー族の大陸より西の海の真ん中にあります。祠は岩場に囲まれているので、満潮でも岩が密集しているところを探せば見つかるはずです」

 

 エドはあっさりと、浅瀬の祠の場所を教えてくれた。

 

「そうか。それで、渇きの壺はどう使えばいいんだ?」 

 

「干上がらせたい海の上で壺の蓋を開ければ、その壺が海の水を吸い込む構造となっているようです。私はそのアイテムを手にしたことはありませんが、スー族たちの話を聞いておおよその仕組みは把握しています」

 

 さらに、この壺は自然の摂理に反する力を持つということで、本当に必要な時しか使ってはいけないということまで教えてもらった。

 

「色々教えてくださって、ありがとうございます」

 

「礼には及びません。それが賢者なのですから」

 

 私がお礼を言っても、エドは謙虚だった。

 

「そういえば、あなた方は『オーブ』の存在を知っていますか?」

 

「ああ。まさにそのオーブを手に入れるため、最後の鍵を探している」

 

「なら話は早い。オーブの在りかを教えてくれるアイテムに興味はありますか?」

 

「そんなアイテムがあるのか?」

 

 エドの言葉に、瞬時にユウリの目の色が変わる。

 

「ここから南、大山脈を越えた先に、『アープの塔』と呼ばれる塔があります。そこで私は人々の生活の改善のため、様々なアイテムの研究や開発をしていたんですが、そのアイテムだけはどうしても普及しそうにないと思いましてね、作ったあとにそのままその塔に置いてあるんですよ。良かったら、持っていってください」

 

「……さすがだな。そんなものまで作れるとは」

 

 感心しながらユウリが言う。そんな2人の話を聞いていると、そばにいたルカが私の腕を肘で小突いた。

 

「なあ、さっきから賢者とかオーブとか、何の話してんの?」

 

「しっ! 後で話すよ」

 

 するとルカは私から離れると、口を尖らせてそっぽを向いた。うーん、拗ねちゃったかな?

 

「三賢者とはそういうものです。魔法と技術を組み合わせれば色んなものを作れますよ。なかでも個人的にお薦めなのが、歩くと自動的に描く世界地図とか……」

 

「えっ!? あの地図って、エドさんが作ったんですか!?」

 

 私はユウリに顔を向けると、仕方ないという顔で鞄から世界地図を取り出した。

 

「おお!! まさしくこれは私が作った世界地図! 昔方向音痴の旅人に頼まれて作ったんですよ。まさかこんな形で再会できるとは!」

 

 エドはご機嫌のあまり鼻息を荒くしながらユウリが持つ世界地図を凝視している。直に触ることが出来ないのがもどかしそうだ。

 

 それにしても、アリアハンにある誘いの洞窟で見つけた地図を作った人がエドだなんて、不思議な因果もあるものだ。

 

「話は変わるが、あんたが三賢者ということは、イグノーって奴のことは知ってるか?」

 

 ユウリの問いに、私ははっと思い出した。そういえば、テドンでカリーナさんが言っていたイグノーさんも、三賢者だったはずだ。

 

「ああ。あの自分の能力を過大評価している方ですね。知っていますよ」

 

 あれ? イグノーさんってそんな人だったの? カリーナさんの話と大分イメージが違うんだけど。

 

「確か勇者サイモンと共に魔王を倒しに行ったとか。でも結局未だに魔王が顕在しているということは、志半ばで力尽きたということでしょうね。で、彼が何か?」

 

「……いや、ただ少し気になっただけだ」

 

 なんとなく不穏な空気を感じたのか、ユウリはこれ以上追求しなかった。

 

 言ってることは間違ってはいないが、エドの言い方はどこか刺々しい。イグノーさんとの間に何かあったのだろうか? いや、……ここはあまり触れない方がいいのかもしれない。

 

「ああ、そうそう。もし塔に着いたら、私の名前を思い出してください」

 

「どういうことだ?」

 

 訝しげに尋ねるユウリに対し、エドは大きな瞳を彼に向けた。

 

「どういうことも何も、そのままの意味です。行けばわかると思いますよ」

 

「……?」

 

 結局エドはこれ以上何も言わなかった。

 

「話、終わったか?」

 

 丁度タイミング良く、ジョナスが馬小屋の奥からひょっこりと顔を出してきた。長い柄のブラシのような道具と桶を持っていることから、どうやら私たちが話をしている間に馬小屋の掃除をしていたようだ。

 

「ああ。紹介してくれてありがとう。これで先に進める」

 

「なら、良かった。何かあるとき、呼ぶ。私、助ける」

 

 先程の殺気はどこへやら。朗らかな笑顔を向けるジョナスは、目が合って早々にユウリに勝負を挑んだ人とは思えなかった。

 

「なら一つ聞きたい。浅瀬の祠に行く前に、ここから南にあるアープの塔とやらに行こうと思ってるんだが、どうやって行ったらいいかわかるか?」

 

「アープの塔、大山脈越えた先、ある。でもその道険しいし、迷う。道案内、必要」

 

「大山脈を越えるには、道案内が必要なの?」

 

 私が聞き直すと、ジョナスは深く頷いた。

 

「大山脈、とても危険。運悪い、風の精霊に連れ去られるか、魔物に襲われる」

 

「この土地に慣れない人間にとっては、大山脈は過酷でしょうね」

 

 ジョナスの隣で頷くエドの一言に、周りの空気が重くなる。

 

「なら、私、案内する。大山脈、詳しい」

 

 手を上げたのは、ジョナスだった。私たちは思わず目を丸くする。

 

「それは助かるが……いいのか?」

 

「ユウリ、私より強い。強い人、スー族では、尊敬の対象。助ける、当然」

 

「……なら、道案内を頼む」

 

 尊敬の対象と言われて、ユウリはまんざらではない様子で了承した。

 

「今日は、もう遅い。明日、出発する。今夜は私の家、休むといい」

 

「ジョナスの家に行っていいの?」

 

「もちろん! ユウリの仲間なら、助けるの当然」

 

 私が意外そうに聞くと、ジョナスは当たり前のように頷いた。なんていい人なんだろう。

 

「私、先に行く。妻にユウリたちのこと、伝える。皆は、ゆっくり来る」

 

 そう言い残すと、ジョナスはさっさと先へ行ってしまった。

 

 なんてありがたいんだ。奥さんにも私たちのことを伝えるなんて……。

 

「えっ!? ジョナスって、結婚してるの!?」

 

 当人がいなくなってから、私は彼の新たな事実に思わずツッコミを入れてしまったのだった。

 

 






ゲームにはないオリジナル設定

*変化の杖はサマンオサではなくエドが作った
*エドは元人間で賢者
*山彦の笛、世界地図はエド作
*大山脈
その他諸々

この先も色々設定を変えてますのでゲームとは別物と考えてください。
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