俺様勇者と武闘家日記   作:星海月

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ランシール
いざ、ランシールへ


 

 テドンを離れたあと、私とユウリは次の目的地であるランシールの町に向かうため、ヒックスさんとともに船長室で今後の進路について話し合うことにした。

 

 なぜならランシールという町自体、博識なユウリでもあまりよく知らないらしく、正確な場所もわからないという。

 

 そこで長年海を渡り歩いたヒックスさんなら何か知っていると思い、ランシールについて尋ねると、何度も訪れたことがある、と期待以上の返事をもらうことができた。

 

「なるほど。『地球のへそ』に行かれるのですか。あそこはもう何年も試練を受けた者はいないと聞きます。けれど魔王が現れたばかりのころは、皆こぞってランシールに向かわれましたよ。当時私も試練を受ける冒険者を乗せて、何度も町を往復してました。けれど、その中の誰も、試練を突破できた人はいなかったと言われています」

 

 カリーナさんの言うとおりだ。そして今は、何年もその修行場に足を運ぶ者がいないことに驚く。

 

「今時そんな場所に行く奴なんて、俺たちぐらいのもんだろ」

 

 皮肉交じりに言い放つユウリ。魔王が復活して二十年近く経つが、すでに人々は半ば諦めにも似た感情を持っている。それでも魔王が復活してすぐの頃、人々は魔王討伐に次々と乗り出したようだが、魔王どころか魔王軍の配下の魔物相手ですら一矢報いることができなかったという。

 

 そこで、人間が魔物に対抗できる力を得るために、各地で自身のレベルを上げる修行場ができた。『地球のへそ』もその時に話題となり、世間に広く知れ渡ることになったと言われている。

 

「元々は、ランシール大神殿の神官が修行のために使っていたそうで、何百年も前からあったそうですよ。魔王が復活してからは、すっかり冒険者御用達になってしまったみたいですが」

「ふん。神官が挑む修行場だったということは、大した場所ではなさそうだな」

 

 どうやら期待外れだったらしく、ユウリは鼻白む。そして私の方に視線を移す。

 

「それならまずお前から先に試練を受けろ」

「え、私?」

「お前ぐらいのレベルでも突破できそうな修行場だから譲ってやる。それにもし俺が先に受けて突破したら、意欲がわかないだろ」

 

 突破できる前提で言っている勇者に、私は複雑な顔を向ける。

 

 まあ、本当にそうなったらユウリの言う通りやる気が萎えそうなので、お言葉に甘えて先に試練を受けさせてもらうことにする。

 

 けれど言われっぱなしも嫌なので、皮肉を込めて言い返す。

 

「別にいいけど、もし先に私が突破しちゃったらどうする? ユウリの出番なくなるよ?」

 

 そう意地悪く言ったのだが、ユウリは急に口とお腹を手で押さえ、肩を震わせているではないか。

 

「お前……、こんなときに笑わせるな……。腹が痛い……」

「……冗談言ったつもりなんかないんだけど!?」

 

 完全にバカにしているユウリに対し必死で不平不満を投げつけるが、彼は私の文句などどこ吹く風で、ひたすら笑いをかみ殺していたのだった。

 

 

 

 二度目のテドンを離れてからおよそ半月。船は着実にランシールを目指している。

 

 ふと気づけば、ナギやシーラと別れてから、四ヶ月以上が経過していた。最初は会えなくて寂しい思いをしてきたが、徐々にこの生活に慣れてきた。とはいえ時折二人のことを思い出すと、無性に会いたくなってしまうのは仕方のないことだろう。

 

 ユウリとは、最初のころよりはだいぶ気安く話せるようになった。相変わらず毒舌だし、私が何か話しかけたり近づこうとするとたまに避けるけど、なんとなく最初の頃よりも性格が丸くなった気がする。それとも私が我慢強くなっただけだろうか?

 

「おい、間抜け女。寝てるのか?」

 

 船室のベッドに寝転がったまま、ぼんやりとそんなことを考えていたら、扉の向こうからユウリの声が聞こえてきた。返事をしないと、やっぱり寝ていたと思われてしまう。私は仕方なくベッドから跳ね起きて、船室の扉を開けた。

 

「やっぱり寝てたのか」

「寝てないよ! ……それより、何か用?」

 

 ムッとしながら尋ねると、ユウリは指で外に出ろと合図をした。

 

「そろそろ次の大陸に着くそうだ。準備して甲板に出ろ」

 

 慌てた私は急いで鞄に荷物を詰め込み、出発の準備をした。

 

 甲板に出ると、先に行っていたユウリとヒックスさんが待っていた。

 

「もう少しすれば、港町に到着します。そこからランシールまでは徒歩で一週間以上はかかります。どうか気をつけて行ってきてください」

「わかった。すまないが、しばらくの間待っててもらえるか?」

「ええ。私たちのことはお気になさらず。では、いってらっしゃいませ」

 

 手短に挨拶を済ませると、ユウリはさっさと下船の準備を始めた。

 

「おい、何してるんだ。早く来い鈍足」

 

 いつも通りの塩対応に内心不満を感じたが、怒りをそっと心にしまいこみ、ユウリの後に続く。うん、やっぱり忍耐力が上がっただけかもしれない。

 

 船から降りると、潮風が鼻をくすぐってくる。港町特有の匂いだ。ポルトガほど栄えているというわけではないが、ここは特に入国規制をしているわけではないようだ。のんびりとした風情の港町を抜け、すぐに次の町へと向かう。世界地図を見ると、確かにここからランシールまでは割と距離があった。

 

 だが、幸いにも途中襲い掛かる魔物のほとんどは、私たち二人でも余裕で倒せる程度の強さだった。いくつかの村や町を経由しながらも、あっという間にランシールの手前まで辿り着くことができた。

 

 こうも調子がいいと、『地球のへそ』と呼ばれる試練も、意外にあっさりクリアできるんじゃないかと思えてくる。

 

「そうやって調子に乗ってると、油断するぞ」

 

 私の心を読んだのか、ユウリが横目で釘を刺す。なんでこういうときばっかり私の考えが読めるのだろう。

 

 なんて思っていたら、視界の先にぽつぽつと家が見えてきた。

 

「もう少ししたら、ランシールだ」

 

 林の中の街道を抜けると、そこはもう町だった。家同士の間隔が空いており、あちこちに田畑が広がっている。中には牛や羊などが放牧されており、至ってのどかな風景だ。そんな牧歌的な雰囲気を醸し出している町並みから少し離れたところに、場違いなほど大きな神殿風の建物が聳え立っていた。

 

「何あれ? 随分大きな建物だね」

「あれが地球のへそへの入り口なんじゃないのか?」

 

 二人して建物について疑問を抱いていると、偶然通りかかった男の人が私たちを見て声をかけてきた。

 

「こんにちは。旅人さんかい? こんな辺鄙なところまでよく来たね」

 

 男性の朗らかな挨拶に気安さを感じた私は、目の前の神殿について尋ねることにした。

 

「あのー、すいません。あそこにある大きな建物って何なんですか?」

「あー、あれね。確かあの神殿の先に行くと、地球のへそっていう場所に行けるんだよ」

 

 やっぱりユウリの言うとおり、あそこに地球のへそがあるらしい。

 

「やっぱりそうだったんですね。私たち、今からそこに行こうとしてるんですけど、どうやったら入れます?」

「どうやってって……、入場料払えば誰でも入れるけど?」

『入場料!?』

 

 想定外の単語に、思わず私たちの声が重なる。

 

 試練を受けるのに入場料が必要って、いったいどういうことだろう?

 

「おい、お前。地球のへそっていうのは、戦士や魔法使いなどの冒険者が、試練を受けるための修行場なんじゃないのか?」

 

 ユウリの当然の問いに、男性の方が不思議そうな顔をする。

 

「ああ、確かに十年くらい前までは、そういう目的で来てた人も多かったみたいだけどね。だんだん人も来なくなって、今は観光地になってるよ」

「観光地!? 一体どういうことだ!?」

「ひっ!? 何だ君は!?」

「わわっ、待ってユウリ!!」

 

 憤然とした様子で男性に掴みかかろうとしたユウリだったが、慌てて私が止めに入る。

 

 男性はこれ以上関わり合いになるのは御免と思ったのか、そそくさと逃げるように去っていった。

 

「魔王がいる世界が当たり前になってるからって、修行場までなくなるのはおかしいだろ!」

「確かに、ヒックスさんは何年も試練を受ける人はいないって言ってたけど……。まさか観光地になってるだなんて……」

 

 未だ納得できないユウリと同様、私も同じ事を思いつつ、やるせなさを感じていた。

 

 と、ここで色々悩んでいても始まらない。私たちは神殿の入り口と思しき場所へと向かうことにした。

 

 

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