俺様勇者と武闘家日記   作:星海月

81 / 204
地球のへそ

 

 ランシールに行く途中船で船員さんに聞いたのだが、『地球のへそ』という名の由来は、その場所が世界の真ん中に位置しているからなんだそうだ。

 

 そのあと世界地図で確かめたら、確かに真ん中あたりに描かれていた。

 

 昔の人は着眼点が違うなあ、なんてことを暢気に思い返している間に、神殿の廊下の突き当たりまでやってきた。そこにあるのは一枚の大きな扉のみで、見ているだけで緊張感が漂う。一人ということもあり若干心細さを感じながらも、私は意を決して扉を開けた。

 

「うわぁ、すごい……」

 

 重い扉の向こうはすでに外へと通じており、一陣の風が足元を吹き抜ける。

 

 そして最初に目に飛び込んだのは、まばらに草が生えた地平線の上にどっしりと乗った、とてつもなく巨大な岩だった。

 

「あの岩に向かえばいいのかな?」

 

 神殿から伸びる粗末な道を歩き続けるうちに眼前に広がってきたのは、大きな岩というより平地に突然現れた山のようだった。その圧倒的な存在感に、私は思わず目を見張った。

 

 すぐそばまで近づくと、岩壁に人一人入れるくらいの大きさの亀裂が入っている。道はその亀裂へと繋がっており、きっとここが地球のへそへの入り口なのだとわかる。

 

 洞窟とも言えるその入り口を覗くと、意外に中は広い。私は恐る恐る、内部へと足を踏み入れた。

 

 中は真っ暗というわけではなく、この岩の持つ成分に発光作用があるのか、所々ぼんやりと光っている。上を見上げると天井の岩壁はちょうど私の背丈よりやや高いくらいしかなく、ユウリが入るには少し狭そうだ。

 

 そもそもこの大岩はどうやって掘り抜いたのだろう。もしくは自然にできたものなのだろうか。

 

 私が今歩いている洞窟は、亀裂に沿ってどこまでも続いており、先へ進むにつれどんどん広くなっていく。天井も次第に高くなり、人の手の届く高さよりもずっと高いところまで削られていた。

 

 そのあまりにも非現実な景色に、私は孤独感よりも好奇心の方に心を支配されていた。

 

 この先に何があるのか、どんな景色が待っているのか、得体の知れない高揚感に胸を躍らせる。

 

 だがそれが、一瞬の判断に迷いを生んでしまった。岩壁のすき間から突然、魔物が現れたのだ。

 

 魔物の先制攻撃に、私は避けきれず足に一撃を受けてしまう。

 

 しまった、ミスした……!

 

 幸いたいした怪我ではないが、薄暗い洞窟は、攻撃をした魔物の位置を正確に視認することができず、判断を鈍らせる。

 

 そうだ。こんな状況だからこそ、視覚だけでなく、気配を感じとらなければ。

 

 そう考え、あえて私は目を瞑る。さっきは意識してなかったので避けきれなかったが、星降る腕輪を身に付けているので、もし反応が遅くなってもなんとか避けきれるはず。

 

 神経を研ぎ澄ませ、魔物の気配を直感で感じとる。集中しろ。ほんの僅かな動きが空気を歪め、風となり、自分の肌へと伝わるはずだ。

 

「!!」

 

 空気が揺らいだ。今だ!

 

 ドゴッ!!

 

 鈍い音を立て、何かが倒れた。目を開けると、側には私の蹴りを受けて昏倒しているキャットフライの姿があった。

 

「できた……!    気配だけで、倒せた……!!」

 

 嬉しさのあまり、私はつい言葉に出してしまった。それで浮かれてる場合じゃない。まだ近くに魔物が潜んでいるかもしれないのだ。

 

 再び、目を閉じる。残るはあと一匹。今度はなかなか動きを見せない。先程の一撃で、警戒しているのだろうか。

 

「!!」

 

 今だ!!

 

 私は直感的に正拳突きを放った。

 

「ギャアアアアア!!」

 

 悲鳴と共に倒れたのは、オオアリクイの上位種、アントベアだ。長い爪をひくつかせながら、目を回している。

 

 やがて事切れると、私は完全に魔物の気配がないことを確認した。

 

「やった……!!」

 

 視界に頼らず、一人だけで二体も魔物を倒した。その事実が、私の自信をこれ以上ないまでに高めてくれる。

 

 私だって、やるときはやるんだ!

 

 この調子で行こう。すっかり自信を持った私は、力強い足取りで先へと進んだ。

 

 

 

 それから、何度魔物と遭遇しただろうか。

 

 一体何匹いるのか数えるのも億劫なくらい、相当の数の魔物を倒して来た。

 

 一匹一匹は大したことないのだが、いかんせん数が多い。四、五匹で同時に来られるとさすがに捌ききれず、いくらかダメージを受けてしまった。

 

 それでも薬草などを使い体力を回復するが、どこまで行っても同じような道が続くだけで、先が見えない。

 

 いい加減うんざりした私は、一度休憩を挟むことにした。

 

 その場に腰を下ろすと、岩はひんやりとしていて、汗ばんだ体に冷気が染み渡る。岩壁にもたれようと背中を預けた瞬間、

 

「痛っ!」

 

 背中に痛みが走り、振り向いて壁をさわると、ちょうど背骨のところに岩壁の突起が当たっていた。背中をさすりながら私はその突起をまじまじと見る。

 

 随分と特徴的だな、と思いながら、少しずれて再び壁に寄りかかった。ふう、と一息つくと、今までの疲れが急にどっと押し寄せてきた。

 

 けれど、疲労感と同時に、自分が少しずつだが成長していく達成感も味わっていた。やはりここへ来て良かった。あとは先を目指すだけだ。

 

――そういえば。

 

 先を目指して、証を手にいれれば修行は達成したと言っていたが、証とは一体なんなのだろう。エドガンさんは具体的にどういうものか教えてくれなかった。ということは、証を見つけるのも試練の内ということだろうか。

 

――でももし、見つけられなかったら?

 

 先のわからない目的に多少の不安を感じ、じわりと額に汗が滲み出す。その些細な不安を取り払うように私は頭を振って気を取り直した。そしてすっくと立ち、何事もなかったかのように再び歩き出した。

 

 そうだ。目的なんて考えるだけ時間の無駄だ。早く、先に進まなきゃ。先に進めばわかるはず。

 

 だが、歩けど歩けど同じ道が続くばかりで、何も変化がない。まるで同じ道を何度もループしているような、奇妙な感覚だ。次第に息も切れ、体も重くなり始めた。

 

 何かがおかしい。言い知れぬ不安がさらに大きくなり、私は内心焦りだした。

 

 次第に胸の奥のざわめきが大きくなり、自然と歩調が速くなる。

 

 ふと、道の端々に、何か白いものが置かれているのが見えた。よく見るとそれは人の骨であり、それがあちこちに散乱している。

 

「……!!」

 

 私は声にならない声を上げ、恐怖をその場で無理やり飲み込んだ。だめだ、余計なことを考えちゃ。私はなるべく視界に入らないよう、足早に歩を進めた。

 

「あれ? あそこって……」

 

 視界の隅に見えたのは、先ほど背中に当たった特徴的な岩壁の突起だった。ずいぶん前に通り過ぎたと思ったのに、なぜ進む先に見えるのだろうか?

 

 不審に思い、私は足を止めその突起を凝視する。位置といい、大きさといい、やはり同じものだ。

 

 ということは、今まで同じ道を何度もぐるぐると回っているということだろうか? その割には、ずっとまっすぐに進んでいるような感覚なのだが、考えてもわからない。

 

 ここの洞窟の内部構造はいまだによくわからないが、このままではらちが明かない。きっとどこかに抜け道のようなものがあるはずだ。

 

 私はゆっくり深呼吸をしながら、注意深く周辺を見回した。大丈夫、落ち着いて周りをよく見なきゃ。

 

 そして、歩き始めて数十分。何気なく今いる場所から、かすかに風が吹き込んでいるのに気付いた。けれど怪しいと思いながら見回しても、それ以外はほかの場所と何ら変わりがない。どうしようかと思いあぐねて上を見上げた瞬間、私は思わず「あっ」と声を上げた。

 

 自分の身長の二倍ぐらいの高さのところに、穴が開いている。その穴へと風が吹きこんでいたのだ。

 

 ここを登った先に、道があるかもしれない。瞬時にそう思い至った私は、すぐに足場を確認し、岩壁を登り始めた。壁の岩は固く、ちょっとやそっとじゃ崩れそうにない。けれど垂直で不安定な足場は、少しでも足を滑らせると真っ逆さまだ。私は幼いころの木登りの経験を思い出し、慎重に進んでいく。

 

 ゆっくりと、けれど確実に上へと上り詰め、ようやく穴のある場所へと到達した。顔を上げると、やはりそこは道になっており、先へと続いていた。

 

 少しずつだが、確実に前へと進んでいる。私は気合いを入れると、体勢を整え先を急ぐことにした。

 

 

 

「はあ……、はあ……」

 

 もはや、どれ程の時間が経過しているかも分からない。仄暗い洞窟内には外の景色など見えるはずもなく、自分の体力の消費具合で判断するしか術はない。

 

 加えて、この修行場の道は、人が通ることを前提として考えてはいないのか、不規則に入り組んでいた。まるで広場のように開けていると思ったら急に幅が狭くなったり、腹ばいにならないと進めなかったり、地面に無数の穴が開いてあったり。それは人が作ったピラミッドの罠とは違い、自然の恐ろしさをこれでもかというくらい突き付けられているような感覚だった。

 

 その間にも、無数の魔物が襲い掛かるから、心も体も休まる暇がない。さらに空腹により判断力も鈍くなった私の体は、すでに限界を迎えていた。

 

 辛い。体が重い。でも、動かなければ、やられてしまう。

 

 最初は素手で戦っていたが、次第に苦戦するようになり、今度は師匠の武器を装備して戦うことにした。一撃の攻撃力は高いのですぐ仕留められるのは利点だが、その分スピードは劣ってしまう。さらに武器の重さに慣れず、肉体的疲労が改善されるどころか余計に悪化していき、結局またすぐに素手で戦うことになった。

 

 一人で戦うとなると、魔物の動き、戦況、自分の体調、それらすべてを常に把握し予測しなくてはならない。仲間がいることのありがたさが、今になって身に染みる。

 

『地球のへそ』という修行場がある以上、自分を限界まで鍛え上げることはまちがっていない。でも、限界まで鍛え上げても、一人で魔王を倒せるとは限らない。ユウリのお父さんも、単身魔王の城へ乗り込み、消息が分からなくなった。そして魔王は今も健在だ。その事実こそが、すべてを物語っている。

 

「……ふう」

 

 仲間の大切さを再確認したところで、いくらか呼吸が落ち着いてきた。そう、今はそれよりも、この修行場をクリアすることが先決だ。

 

 いつの間にか首から下げたペンダントを握りしめていたことに気づき、慌ててパッと手を離すと、改めて進むべき道へと目を向けた。

 

 さらに歩を進めると、今まで無造作だった自然の洞くつが、急に人工的な造りへと変貌した。地面や壁はそのままだが、道幅や高さが均一になっている。

 

 突然の景色の変わりように若干面食らったが、ここで踏みとどまっても仕方がない。私は意を決して歩みを早めた。

 

 すると、どこか遠くの方で、地の底から呻くような声が聞こえてきた。近づくにつれ、その言葉ははっきりと耳に届く。

 

『引き返せ……』

『引き返せ……』

 

「ひっ!?」

 

 こんなところに私以外の人間なんているはずがない。ということは今の声は……。

 

「ゆ、幽霊!?」

 

 そう自ら言葉にした瞬間、さっと顔が青ざめる。

 

『引き返せ……』

『引き返せ……』

 

 気のせいかもと思ったが、やはりはっきりと私に対して言っている。

 

 人間でない以上、この声の主の正体は人間の言葉を話す魔物か、あるいはここで亡くなった冒険者の幽霊か。

 

 けど、前者なら、わざわざ「引き返せ」だなんて言わないはずだ。

 

 とすれば、やっぱり冒険者の幽霊!?

 

 すると、別の方向からも同じ言葉が聞こえて来たではないか。

 

『引き返せ……』

『引き返せ……』

『引き返せ……』

『引き返せ……』

 

 まるで共鳴しているかのように四方から聞こえてくる謎の声。その得体のしれない現象に、私は幽霊だという確証がないにも関わらず、恐怖で足がすくみあがった。

 

『引き返せ……』

『引き返せ……』

 

 それでもなお連呼し続ける不気味な声は、私に冷静さを失わせるのに十分な威力を放っていた。

 

 どうして引き返さなければならないの?

 

 このまま引き返さなかったらどうなる?

 

 答えのない疑問はやがて大きな不安となって私の心を押し潰そうとする。

 

「ね……、ねえ!    誰なの!?    なんで引き返さなきゃならないの!?」

 

 呼び掛けてみるが、何の返事もない。頼れる者もない今、信じるのは自分自身しかいないのに、謎の声によって私の心はもうすでに挫けそうになっていた。

 

「この先に行ったらいけないの?!    ねえ、教えてよ!!」

 

 けれど私の声に謎の声が反応することはなく、静寂がそれを肯定していると言わざるを得なかった。

 

 怖い。この先に進んだら、なにかとても恐ろしい目に遭う気がする。

 

「……ううん、それじゃダメだ」

 

 怖いからって逃げていちゃ、今までの私と変わらないじゃないか。

 

 マイナスになっていた感情を必死で振り払うと、今度は耳を塞ぎながら走り出す。

 

 惑わされてはいけない。そう、ここはいわば心を鍛えるための場所なのだ。

 

『引き返せ……』

『引き返せ……』

「……ああ、もう!! やめてよ!!」

 

 再び言い続ける謎の声にしびれを切らした私は、声の主を必死で探した。そして、すぐ近くの壁に、不気味な顔をした白い仮面から声が発せられていることに気づいた。

 

『引き返せ……』

『引き返せ……』

 

 その白い仮面は、声を放つと同時に目から怪しげな光を放った。その様子はまさに仮面に乗り移った悪霊のように見えた。

 

 怖い。けど、この仮面をどうにかしない限り、先には進めないような気がする。

 

 辺りを見回し、何かヒントになるものはないかと再び周囲を見渡す。けれど、それらしきものは全く見つからない。

 

 いっそのこと、壊しちゃおうか……?

 

 でも、もし壊して何か良くないことが起きたら、それこそ一人で対処できる自信がない。

 

 考えが煮詰まり、もはやどうしていいかわからない精神状態になっていた。相談する仲間もいない。行く先を示してくれる人もいない。自分一人で決めなければならないのはわかっているのに、すでに心身ともに疲れ切っていた私には、正常な判断ができるとは思えなかった。

 

 その時だった。突然遠くから、風を切る音がこちらにやってくるのに気付き、私は振り向く暇もなく、横に飛び退いた。

 

 ゴオオオォォォォ!!

 

「きゃあああっっ!!??」

 

 背後に突如現れた炎が私の横をかすめた。間一髪かわすことができたが、代わりに数本の髪の毛を焦がしてしまう。

 

 振り向くと、宙に浮いたドラゴンと、その横に奇妙な顔をして杖を持った魔物がいた。二匹ともここで遭遇するのは初めてだ。けれどドラゴンの方は今にもあの鋭い牙と爪で襲いかかりそうだし、もう一匹も見るからに呪文を使いそうな風貌だ。

 

 警戒した私は体勢を整え、相手の出方をうかがう。こんなところで魔物などにてこずっている場合ではない。早くケリをつけなければ。

 

「はっっ!!」

 

 気合一閃、私は星降る腕輪の能力を発揮し、まずは体力の低そうな杖を持つ魔物に向かってダッシュした。魔物は反応し損ねたのか、私が自分の方へ向かっても、ほとんど動かない。

 

 ドガッ!!

 

 私の一撃を受けた魔物は、ドラゴンの横を通り過ぎ、遠くへ吹っ飛ばされた。これで倒せたかはわからないが、少なくともしばらくは起き上がらないだろう。

 

 今度はドラゴンに狙いを定める。ドラゴンもまた私を標的とみなすと、口を大きく開けた。

 

 まさか何かを吐き出す気なんじゃ、と思ったのもつかの間、ドラゴンの口から真っ赤な炎が噴き出した。私はあわてて飛び退き機を脱するが、ドラゴンの口から放たれた炎は私が今までいた辺り一面を舐めるように灼きつくした。

 

 攻撃の反動からか、魔物は炎を吐いた後、隙だらけとなった。その機会を逃してはならないと思い、私は素早く移動しドラゴンの頭めがけて蹴り上げる。

 

 手応えを感じ、さらに追い討ちをかけようと攻撃を放とうとしたときだ。

 

「メダパニ!」

 

 突然、呪文のような声が聞こえた。声を発した方を振り向くと、いつの間にか復活したのか、もう一匹の魔物が杖を振りかざしながらこちらを見ている。

 

 今の呪文は、あの魔物が唱えた?

 

 それに、初めて聞く呪文だ。一体どんな効果があるかわからないが、どうやら攻撃系の呪文ではないらしい。

 

 それよりドラゴンの方が体制を立て直し、こちらに向かって猛スピードで突進してきた。体当りされてはこちらもただでは済まない。私はすぐにドラゴンの攻撃を避けようと、横に跳んだ。

 

 ドンッ!!

 

「!?」

 

 一瞬何が起きたのかわからなかった。強い衝撃と痛みとめまい。それが頭の中で正しく理解できたころには、すでに私は地面に横たわっていた。

 

 さっきの炎をかわしたあと、あのドラゴンは体当たりをしかけてきた。けれど視界の隅で見ていた私は、無意識に反応し、よけたはずだったのだ。それなのに、どうして私はドラゴンの攻撃を受けているの?

 

 急いで起き上がろうと手をつくが、なぜか思った方とは反対の方に体が動く。

 

 それだけではない。魔物の方へ向かおうとするのだが、なぜか足が動かないのだ。

 

 おまけにどんどんめまいがひどくなり、平衡感覚もなくなってきている。今どこにいるのかもわからない状態だ。

 

 このままじゃ、危険すぎる。反撃する間もなく、魔物にやられてしまうだろう。

 

 ふいに、ここへ来る途中に見かけた無数の白骨遺体が脳裏をよぎる。私も、ああなってしまうのだろうか?

 

 嫌だ!! こんなところで死ぬなんて!!

 

 私は混濁する意識をなんとか元に戻そうと、自分の指を噛んだ。口の中に血の味が広がったが、多少意識を保つことができた。

 

 すると、今度はドラゴンが自身のしっぽを振り上げている。その横では、杖の魔物がじっとこちらの様子をうかがっていた。

 

 ビュンッ!!

 

 ドラゴンのしっぽが、私の頭めがけて振り下ろされ、私は後ろに大きく飛び退いた……はずだった。

 

 ドガッッ!!

 

「うっ!!」

 

 後ろに下がったはずの私の足は、なぜか前へと出ていた。ドラゴンの攻撃をまともに食らい、私は地面に倒れ伏す。

 

「ベホイミ」

 

 さっきと同じ声で、杖の魔物が呪文を唱えた。ホイミよりも上位の回復呪文だ。おそらく、ドラゴンにかけたのだろう。

 

 まずい。このまま倒れていたら、回復したドラゴンにとどめを刺されてしまう。私は必死に体を起こそうとするが、思いの外ダメージが大きく、これ以上動かない。星降る腕輪も、装備者の体が動かなければ効果を発揮しない。私は悔しさのあまり歯を食いしばると、二匹の魔物をキッと睨みつけた。

 

 すると私の放つ殺気に反応したのか、魔物はゆっくりとこちらに近づく。ドラゴンは口を大きく開け、杖の魔物は呪文を唱えるしぐさを始める。

 

――ダメだ! このままじゃ、本当に死んでしまう!!

 

 命の危機を感じた私は、咄嗟に首もとのペンダントを握りしめた。

 

 お願い、神殿へ戻らせて!!

 

 キィィィン……!

 

 まるで石が擦れあうような音。それがどんどん大きくなり、やがて耳鳴りのように私の精神を揺さぶっていく。

 

 意識が混濁するなか、私はずっと、ユウリの姿を思い描いていたのだった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。