俺様勇者と武闘家日記   作:星海月

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一日王様

 

「おお!! さすがは勇者じゃの!! あの悪名高いカンダタから王冠を取り返してくるとは!!」

 

 私たちがロマリアに戻った頃にはすっかり日も暮れていた。とりあえず城の前まで向かってみたが、幸い城門が閉ざされていることはなかった。お城の兵に事情を伝えると、早急に玉座の間まで向かうようにとあわただしくも通してくれた。盗賊退治の話は私たちが玉座の間に着く頃には王様の耳に入っていたようで、王様はとても歓迎してくれた。

 

「やはりあの英雄オルテガの息子の噂は本当だったんじゃな。それだけの強さがあれば、必ずや魔王バラモスも討ち取ってくれるであろう。礼を言うぞ、勇者よ!!」

 

 王様がそういうと、ユウリは深々と礼をした。後ろにいた私たちもそれに倣う。

 

 すると、突然王様が神妙な顔をしてユウリの方を見た。

 

「……ところでユウリよ、そなた、王様になってみる気はないかのう?」

 

「……はい?」

 

 あまりにも突拍子のない言葉に、 ユウリの目が瞬く。

 

「いや、急な申し出で困惑させてしまっただろうが、わしは本気じゃ。そなたがよければ明日にでも、わしのかわりに王位を譲っても良いぞ」

 

 王様の目は冗談を言っているようには見えなかった。ユウリはしばらく考え込んだ後、やがて答えを出した。

 

「……あの、もしその話が本当なら」

 

 一呼吸の間を置いて、ユウリが慎重な声で尋ねる。

 

「ぜひその大役を承りたいのですが」

 

 その一言に、王様の顔がみるみる緩んでいく。

 

「ほほお!! そうかそうか!! そなたならそう言うと思っておったぞ!! ならば早速使いの者に頼んでそなたに似合う服を用意してやろう!! おい、侍女長はおるか!!」

 

 王様の呼びかけに、奥の廊下からしずしずと初老の女性が現われた。女性は後ろに若い侍女を数人引き連れて、何も言わずにユウリの傍までやってきた。

 

「はじめまして、わたくし、侍女長のミライザと申します。これから採寸をさせていただきますので、奥の部屋へどうぞ」

 

 これにはユウリも若干たじろいだ。だが彼が戸惑う暇も与えず、ミライザさんの後ろにいた侍女たちが半ば強引にユウリを連れ出した。そのあまりにも急な展開に、ユウリもそれに従うしかない。

 

 すると急にぴたりとミライザの足が止まり、私たちの方を振り返ってこう言った。

 

「貴方たちの服もご用意いたしますが?」

 

「い、いえ結構です!!」

 

 私たちは即座に断った。私たちまで王様になったらユウリに何を言われるかわからない。

 

 その後、結局ユウリは王様になる準備やら何やらでお城に泊まることになった。もちろん私たちはその後お城をあとにし、すぐ宿に戻ることにした。

 

 シーラなんかはお城にあるお酒が飲みたかったとか後でつぶやいていたけど、私は早くこの疲れた体をベッドに預けたかった。実際部屋に着くと同時に体の全機能が停止し、そのままベッドに倒れ込んだのは言うまでもない。

 

このまま明日まで一日中ずっと眠っていたい。私は本気でそう思っていたのだが、世の中そんなに甘くはなかった。

 

 なぜなら翌日、そんな疲れた体に鞭を打つような出来事に見舞われることになるのだから。

 

 

 

 まぶたに降り注ぐ日差しが、惰眠を貪ろうとする私の眠気を取り除いていく。

 

 やがて目を開けると、カーテンの隙間から零れる太陽の光が部屋を暖かく照らしていた。

 

 もう朝かぁ……。

 

 私は目を開けると、ぼんやりと心の中でつぶやいた。

 

 ここ数日、盗賊退治で強行軍だったせいか、一気に疲れが出てしまったらしい。自分でも気づかないほどに、体は休息を求めていたようだ。

 

 私はベッドから体を起こし、大きく伸びをした。窓からは、小鳥たちが朝の目覚めを喜んでるかのようにさえずんでいる。

 

 隣のベッドでは、シーラがとても気持ちよさそうな表情で眠っていた。普段は綺麗な金髪の巻き毛だけれど、本当は根っからのストレートヘアらしく、今も金色のまっすぐな髪の毛が寝返りを打つたびにさらさらと揺れている。

 

 もともとくせっ毛気味の私にとっては、うらやましいことこの上ない。そもそも私が普段三つ編みをしているのは、くせ毛を隠すためなのだ。だから、まっすぐでも十分似合ってるのにわざわざ髪型を変えるシーラの意図が私には理解できない。シーラにはシーラの価値観があるんだと思うけど。

 

 なんて考えを巡らしてたら、タイミングを見計らったかのようにお腹が鳴った。

 

 とりあえず空腹を満たすために、私はベッドから降りて、朝食に行く準備をすることにした。もちろん三つ編みを結うのも支度のうちなので欠かさない。

 

 シーラは無理に起こすとかなり機嫌が悪くなるので、自分で起きてくるまで放っておくことにしている。これも、アリアハンから一緒に旅をしてきて知った、シーラの秘密の一つである。

 

 食堂に入ると、すでにナギが自分の分の朝食を食べ始めていた。

 

「おはよう。珍しいね、ナギ。こんなに朝早く起きてご飯食べてるなんて」

 

 するとナギは朝食のパンを手に持ったまま、眉間にしわを寄せた。

 

「オレだって好きで早く起きたわけじゃねーよ。できることならもっと寝てたかったぜ。けどまた変な夢見ちまってさ」

 

「へぇ~、また変な夢?」

 

 私は期待に満ちた目でナギを見た。彼はとてもうんざりした様子で、

 

「ちくしょー!! 夢なんて二度と見たくねーんだよ!!」

 

 といってパンをちぎって乱暴に口の中に放り込んだ。でも私はナギの見る夢が、今度はどうしても気になったので食い下がる。

 

「でもさ、もしかしたら将来ナギに関係があるものかもしれないよ。ねえ、どんな内容だったの?」

 

 ナギはしばらく渋々とした顔をしていたが、なんとなく自分の中だけで抱えているのは嫌だったのか、いつもより低い声で話し始めた。

 

「確か……墓場だったかな。真っ暗だったから夜だな。全然見たことないんだけど、なぜか懐かしさみたいなもんを感じて……そのあとおっさんの幽霊が出てきた」

 

「幽霊!?」

 

 その一言に、一瞬背筋が凍りついた。私は昔から幽霊とかおばけとかがものすごく苦手なのだ。

 

「そのおっさんも全然知らない人なんだけど、やっぱり見たことあるような感じがしたんだよな……。あー、なんかうまく言えねーんだけど」

 

「つ、つまり夜の墓場でおじさんの幽霊に会ったってことだよね。それでその後は?」

 

「は? それで終わりだけど。ていうか、途中で外にいる奴らに起こされた」

 

「外にいる奴ら?」

 

 ぴっとナギが人差し指を窓の方へ指す。つられて窓の方を見たけど、窓の外に人影はない。

 

「あそこの窓に人がいたって事?」

 

「ああ。オレが起きたときにはもうそこにいなかったけど。つーかお前ら、あんなうるさい声がしたのに気づかなかったのか!?」

 

「うん。疲れてたからぐっすり寝てた」

 

 私がきっぱり言うと、ナギは「お前ら幸せだなー、オレみたいな繊細な人間にはうらやましいわ」とかぶつぶつ言い始めた。何かそれ、私たちが図太い神経してるみたいな言い方に聞こえるんだけど。

 

 若干腹が立ったが、女将さんが私の心を覗いたかのようなタイミングで朝食を運んできてくれたので、私は反論する言葉を飲み込み、目の前に現れた空腹を満たす数々の食べ物に全神経を集中させた。

 

「うわー、おいしそう!! いただきまーす!!」

 

 バジル入りの特製ドレッシングで和えたグリーンサラダ、焼きたてのライ麦パン、ジューシーなソーセージを添えた半熟卵の目玉焼き、絞りたてのフルーツジュース。

 

 どれも食欲をそそる料理ばかりで、私は目を輝かせた。

 

 頬張るようにしてそれらを胃袋に収めていると、厨房へ戻ろうとする女将さんが小さくため息をついている音が聞こえた。

 

「どうかしたんですか?」

 

 反射的にそう言うと、おかみさんは無意識にため息をついていたのか、驚いた目で私を見た。

 

「ああ、ごめんよ。聞こえちまったかい? 気に障ったのなら謝るよ」

 

 私は首を振ったが、女将さんは申し訳なさそうな顔をしている。私はどうしても気になるので、再びため息の理由を聞いてみた。

 

「実はつい最近、カザーブにいる身内に聞いたんだけどね、北のノアニールからの連絡がここ数年ぱったりと途絶えてるみたいなんだよ」

 

「ノアニール……」

 

 名前だけはなんとなく聞いたことがあるが、カザーブ出身の私でさえ、その村の名前が話題に出てくることはほとんどなかった。なにしろここロマリア地方は、南は比較的温暖で平野が続いているが、北に行けば行くほど山岳地帯が広がっていき、行く道も険しくなっていく。加えて、気温の差も激しい。そのため、自然と人の行き交いも少なくなる。

 

 ただでさえカザーブですら旅人が村に入ることはめったにないのに、ノアニールに訪れる人間など、もってのほかだ。

 

 なので、ノアニールがどんな村で、今どういう状況になっているのか、ほとんど情報が入って来ないのである。

 

「でも何年も連絡が取れないなんて……」

 

「だったら直接そこに行けばいいんじゃねーの?」

 

 オニオンスープを一気に飲み干そうとしているナギがあっけらかんと言う。私は首を横に振った。

 

「この辺りは北に行けば行くほど魔物も強いんだよ。カザーブみたいな田舎で戦える人って言ったらせいぜい村の自警団ぐらいしかいないし。かといってロマリアの兵士たちがノアニールに派遣させるには距離が遠すぎるし、そもそも長旅に慣れてる兵士がいないからなかなか実行できないみたいだよ」

 

「そうそう。その上最近じゃ魔王がさらに強い魔物を放ってるとかって不気味な噂聞いちまうし、ノアニールにも何かあるんじゃないかと思ってね。実家のカザーブはノアニールにそう遠くないし、ちょっと心配になっちまってさ。ところであんた、カザーブのこと良く知ってるね。カザーブに行ったことがあるのかい?」

 

「実は私も、カザーブ出身なんです」

 

 まあ、と女将さんは嬉しそうに驚いた。女将さんは私が生まれるずっと前にカザーブからこの町に引っ越してきたらしく、カザーブの実家には今も彼女の親が住んでいるそうだ。

 

「これも何かの縁なんだろうね。もし里帰りすることがあったら、よろしく伝えといてくれないかい? 今も村の東にある食堂で働いてるはずだよ」

 

「え! 女将さんのご両親、あそこで働いてるんですか!?」

 

 思わぬところで同郷の人間に出会った私は、久しぶりの故郷の話題に懐かしさを感じ、いつしか朝食を食べる手を止め、すっかり女将さんと話し込んでしまっていた。

 

 話が落ち着いてきたところで、いつのまにかシーラが食堂にやってきた。そして席に着くなり手付かずの私の朝食を寝ぼけ眼で食べ始める。

 

「ちょっ、シーラ!! それ私の!!」

 

 だがシーラは寝起きでボーっとしているのか、私の声に耳を傾くことなく黙々とソーセージを食べている。

 

「せっかくのご飯どきなのに、私のせいで迷惑かけたね。心配しなくても、もう一人分、用意するよ。そこのお兄ちゃん、スープのお代わりはいるかい?」

 

「いる!!」

 

 食後のデザートを食べようとしたナギはフォークを置き、元気良く返事した。女将さんは笑顔で頷き、厨房に戻っていく。私は自分の分のサラダを口に入れながら、ふとぼんやりと考えていた。

 

――魔王がさらに強力な魔物を放っている――。

 

 このことをユウリは、知っているのだろうか。

 

 確かに魔王を倒すことが私たちの旅の最優先事項。けれど、その魔王の手によって一つの町に災いが降りかかっている可能性がある。もしそれが間違っていなかったとしたら、助けられるのは勇者であるユウリにしか出来ないのではないだろうか。

 

 だけどその間にも、魔王は世界を征服するために魔物を呼び寄せ、力をさらに強めているだろう。ぐずぐずしていると、取り返しのつかないことになってしまうかもしれない。

 

 一刻も早く魔王を倒すか、魔王に脅かされた町を救いながら向かうか。

 

 ユウリは、どちらを選択するんだろう。

 

 ……まあ、どちらにしても、おそらく私たちの意見なんて聞き入れることなく自分で決断するんだろうけど。

 

 

 

 朝食を済ませ、私たちは外に出た。なぜ外に出たかと言うと、ユウリの王様姿を一目見るためだ。文字通り、本当に一目だけだけど。変に関わったら余計なこと言われそうだし。

 

 ナギ曰く、偶然にも今朝宿屋のすぐ近くにユウリが来たらしく、その際起こった黄色い歓声がナギの寝ている部屋まで届き、そのせいで彼は起こされたという。

 

「ったく、王様になっても迷惑な奴だな」

 

 朝の件を思い出したのか、不愉快そうに人々の行き交う街角を眺めるナギ。その目の下には若干クマが見えている。

 

「でもユウリの王様姿ってどんなんだろうね?」

 

 私は半ばわくわくしながら皆に尋ねた。

 

「あー……。そういえば思い出したくないの思い出しちまった」

 

「何?」

 

「ほら、シャンパーニの塔でオレ、変な夢見たって言ったじゃん? あれ、あいつの王様姿が出てきたんだよ」

 

「ええっっ!?」

 

「ひょっとして、ヒゲとかつけてた?」

 

 シーラの言葉に、私とナギは思わず吹き出した。

 

「いやいや、王冠と王様っぽい服着ただけだけど。なんかすげーえらそうでむかついた」

 

「でもすごいね!! それって予知夢じゃん!!」

 

 予知夢ときいて私とシーラははしゃいだが、どうもナギはユウリの夢を見てしまったことが気に入らないようだ。これ以上思い出したくないのか、それきり会話が止まる。

 

「おいストップ! 噂をすれば何とやらだぜ」

 

 街の大通りの向こうからやってくる人影を見て、ナギは私たちに言った。

 

 私も大通りに目をやる。人影はやはり見知った人物のようだ。私たちは、予想通りの人物が近くまでやってくるのを静かに見守ることにした。

 

 するとナギがはっと思いつき、私たちに小声で耳打ちした。

 

「とりあえず、奴に気づかれないようにこっそりと覗いてみようぜ。王様姿のあいつが一般人にどういう態度を取るのか、興味あるだろ?」

 

 なるほど、それは一理あるかも。私とシーラは快く頷いた。

 

 私たちは急いで近くの店の壁へと向かい、ユウリの死角となる場所に寄り集まってしゃがみこんだ。

 

「そろそろか。……ん、ちょっと待て、あいつの後ろに何かいる」

 

 ナギの視線の先を追うと、ユウリらしき人物の後ろに、十数人程の人の固まりが見える。それは近づくうちに明らかになり、やがてそれが全員女性だと言うことに気づく。

 

「何あれ、何の集団?」

 

「オレに聞くなよ。それより、あいつの姿、オレたちの予想とは違ってるぜ」

 

 私は慌ててユウリの方に視線を変える。てっきりロマリア王のような、いかにもって感じの王様姿を想像していたのだけれど、全く違っていた。

 

 それは王様というより、王子様といった方が正しいかもしれない。

 

 落ち着いたブルーのベストには、繊細で美しい模様の刺繍が適度に縫い付けられており、マントにもけして派手すぎない程度に装飾が施されている。その色合いが黒髪のユウリに非常に良く合っており、精悍な顔立ちもあいまって、まるで本物の貴族のような気品さを漂わせている。

 

 もちろん頭には先日盗賊から取り返した金の冠が載っている。盗賊から取り返したばかりなのに外に出して良いんだろうか?

 

 後ろの女性たちは、ユウリの王様……もとい王子様姿に心を奪われたのだろうか、よく見ると皆うっとりとした目で彼を見つめているのがわかる。

 

 その見つめられている当人は、彼女たちに別段愛想を振りまくこともなく、いつもの無表情で街中を悠然と歩いている。おそらくそのクールな姿が余計女性たちの心をひきつけているのだろう。

 

「うーん、なんか変な感じ」

 

 私は複雑な表情でそれを見ていた。あの冷たい視線と威圧的な態度が、服装を変えるだけであんなに女性に好かれてしまうのだろうか? 彼の性格を知っている私には全く理解できなかった。

 

「いつものユウリちゃんじゃないみたーい。なんかつまんなーい」

 

 どうやらシーラにも不評のようだ。

 

「オレにとっちゃ、どんな姿でもむかつく奴に変わりはないけどな」

 

 予想通りの答えを出すのはもちろんナギだ。

 

「なあ、あいつの化けの皮はがしてやろうぜ」

 

 ナギの思いがけない提案に、私とシーラは目を見開いた。

 

「ちょ、ちょっとナギ、仮にもユウリは今王様なんだよ? 変な事したらロマリア王様にも迷惑がかかっちゃうよ!」

 

「大丈夫。迷惑かからない程度にするからさ」

 

 そういうと、ナギは行き先も告げずにその場から走り去った。

 

「一体どこに言ったんだろ、ナギ……」

 

 私が心配そうに言うと、シーラは目をキラキラと輝かせて、

 

「面白そ~♪ ミオちん、とりあえずユウリちんの後を追っかけて見ようよvvv」

 

 と、心底楽しそうに笑みを浮かべた。

 

 ――なんかこの二人って、似ているのかもしれない。

 

そう思いつつ好奇心が勝った私は、結局二人の後を追うことにした。

 

 

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