俺様勇者と武闘家日記   作:星海月

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半年ぶりの再会

 

「おい、いつまで寝てるんだ。そろそろ行くぞ」

 

 ユウリに体を揺り起こされ、私ははっと目を覚ました。

 

 ダーマの神殿の休憩所で話を聞いたあと、部屋の端に作られた簡易ベッドに身体を預けていた私は、そのままぐっすりと寝入ってしまったらしい。昼前にここにやって来たはずなのに、目が覚めたときにはすっかり窓の外がオレンジ色に輝いている。

 

 ベッドから身を起こすと、ユウリが仏頂面で私を見下ろしていた。

 

「ごめん! どのくらい寝てた?」

「二時間だ。さっさと支度しろ、寝坊女」

 

 そう言うと私に背を向け、さっさと部屋を出て行ってしまった。その後ろ姿を追おうと慌てて追いかける最中、私はふとあることに気が付いた。

 

「ねえ、そういうユウリも寝てたんじゃないの?」

 

 私はユウリのそばまで駆け寄ると、彼の後ろ髪を引っ張った。

 

「っ!?」

「寝癖ついてるよ、ここ」

 

 私を寝坊女扱いしてるくせに、自分が寝ていたことは隠そうとしていたのだ。普段私の髪の毛を思い切り引っ張ってるし、このくらいは許されるだろう。

 

「急に触るな!!」

「!!」

 

 だが、ユウリは強い口調で言い放つと、私の手を振り払った。そしてこちらを振り向きもせず歩き出したではないか。

 

――そんなにきつく言わなくたっていいじゃない!

 

 あまりにも理不尽な態度に、お腹の底からじわじわと怒りがこみあげてくる。

 

 そんな彼に文句のひとつでもぶちまけるべく、詰め寄ろうとしたそのときだった。

 

 どんっ!!

 

「わっ!?」

 

 怒りで周りが見えてなかったのか、あろうことか私は、出合頭に人とぶつかってしまった。

 

「ごっ、ごめんなさい!! 大丈夫ですか?」

 

 転びはしなかったものの、私に跳ね返されてバランスを崩した相手は、二、三歩たたらを踏んだ。

 

「……最近の僕はどうもついていないな」

 

 ぼそりと、小さく呟く声が耳に入った。

 

 ぶつかったのは、ルカと同じぐらいの背丈の子供だった。肩で切りそろえられたまっすぐな金髪に、透き通るほど美しい白い肌。さらにはお人形のように可愛らしい顔立ちをしているが、先ほど自分のことを『僕』と呼んでいたので、もしかしたら男の子なのかもしれない。

 

 よく見ると、その後ろには数人の大人の僧侶が立っている。比較してみると、子供の方は他の人とは違う服を身にまとっている。服の色味や模様、装飾からして、子供の方が位の高い僧侶のようだ。

 

 あれ? この子もどこかで見たことがあるような……。

 

「あ……、あの、本当にごめんなさい! どこか怪我はしてないですか!?」

 

 すると、相手は怒るどころかにっこりと微笑んだ。

 

「大丈夫ですので、ご心配なさらず。あなたこそ、どこかお怪我はありませんか?」

「い、いえ、平気です。本当に、申し訳ありませんでした」

「こちらこそ僕の不注意でした。では、失礼します」

 

 そう言って私に向かって会釈すると、他の僧侶たちと一緒に颯爽と去っていった。

 

「はあ。本当に大丈夫かな、あの子……」

 

 それにしても、年の割に随分と礼儀正しい子だったな。やっぱり位の高い僧侶なのだろうか。

 

「バカ。こんなところで突っ立ってたら、また人にぶつかるぞ」

 

 すると、いつの間にかユウリが戻ってきていた。

 

「あいつと何を話していた?」

 

 どうしてそんなことを聞くのだろう。私は不思議に思いながらも、今起きたことを正直に話した。

 

「何って……。私がぶつかったから、謝ったの。そしたら相手は怒るどころか私のことを心配してくれて、そのまま行っちゃった。あの子、この神殿の僧侶だよね?」

「……お前、気づかなかったのか?」

「?」

 

 ユウリが怪訝な顔で私に聞き返す。どういうことかと逆に問いただそうとしたが、ユウリの方が先に口を開いた。

 

「あいつ、ザルウサギに似てただろ」

「……あっ!!」

 

 どこかで見たことがあると思ったら、シーラだ! 確かにあの金髪といい、瞳の色といい、共通点はいくつもあった。どうして気づかなかったんだろう。

 

「……あ、もしかして弟!?」

「やっと気がついたのか」

 

 確かカンダタを捕まえたときに、年の離れた弟がいるって言ってた気がする。

 

「でもなんとなく、シーラとは雰囲気が違うよね」

 

 そう、顔は似ているが、明るくて快活なシーラとはまるで正反対だった。優しく穏やかな彼は、シーラより随分と大人びて見える。ユウリに指摘されなければ、気づかなかったかもしれない。

 

「あいつが次期大僧正なんだろうな」

「そっか……。シーラは、あの子と比べられてたんだ……」

 

 最初は次期大僧正として修行をしていたシーラだったが、才能のある弟が生まれて、周りはいつしか彼の方に目を向けるようになった。そんな彼と比べられたシーラは、いったいどれほどの劣等感を感じていたことだろう。

 

「あいつの見た目や言動に惑わされるな。さっきあいつとすれ違ったとき、お前のことを『野蛮で卑しい女』だとか言ってたぞ」

「え!?」

「ザルウサギと違って随分と裏表の激しい奴だな、あいつは」

 

 先ほどの慈愛に満ちた謙虚な姿勢とは程遠い台詞に、私の思考は停止した。

 

「ザルウサギが僧侶をやめて遊び人になったのも、あいつが原因の一端なのかもしれないな」

 

 ユウリも今ので何かを察したのだろう。私もにわかには信じがたいが、シーラの事情を考えると、ユウリの推察はあながち間違っているとは思えない。

 

「とにかく、バカザルとザルウサギがいないんだ。これ以上ここにとどまる理由もない。早く別の場所を探すぞ」

「うん、そうだね」

 

 私はユウリに同意すると、足早に神殿の出口へと向かった。

 

 

 

 外へと続く扉の近くまでやって来ると、若い女性の声が聞こえてきた。

 

「……お願い!! もう一度だけでいいから、マーリンに会わせて!!」

 

 けれど扉は閉まっており、外で何が起こっているのか一切わからなかった。

 

 このままでは私たちも外に出られない。そう思い、私は急いで扉の前まで近づいた。扉の向こうにいるのは先ほど会った門番の僧侶しかいないはず。いるとしたら新しい転職希望者くらいだろうけど……。

 

 さっきの声、なんだか懐かしいような……。もう一度声が聞こえないかと、私は耳を澄まして聞いてみる。

 

「おい!! オレたちは別に転職しに来たわけじゃねーんだ!! ただ、こいつの弟に会いたいだけなんだよ!!」

「!!」

 

 この声、ナギだ!!

 

 ということは、さっきの女性の声は、シーラ?

 

 マーリンって人に会いたいって言ってたけど、ナギの言葉から察するに、シーラの弟のことだろう。

 

「だから、ダメだって言ってるだろ!! どんな理由があろうと、お前たち二人はここから一歩も通すわけには行かないんだ!! わかってくれ!!」

「ノール!! あなたならわかるよね!? ここを離れていった息子を持つあなたなら!!」

 

 間違いない。この声はシーラだ!!

 

「っ!! 黙れ!! あいつは……、ワーグナーは、我々ダーマの一族に貢献するために旅に出たんだ!! お前のように一族の誇りを捨てたわけではない!!」

「ワーグナー?」

 

 ランシールで出会ったへそにゃんこと、ワーグナーさんと同じ名前だ。同姓同名だろうか。

 

 それより、一体この状況はどうすればいいのだろう? 考えあぐねていると、無言でユウリが一歩前に出て、左手を前に突き出した。

 

「ライデイン! 」

 

 ドガーーン!!

 

「えええっ!?」

 

 ユウリが放った雷撃の呪文は、目の前の扉に直撃し、白い煙を上げた。衝撃によってひん曲がってしまった扉には、人一人通れるほどの隙間ができている。

 

 突然扉が爆破され、向こう側から恐る恐る顔を覗かせるのは男女二人組。それは半年振りの懐かしい姿であった。

 

「お、お前……、ユウリ!?」

「ミオちん!?」

 

 声の主は、やはりナギとシーラだった。二人は私たちがここにいるとは当然思っておらず、ひどく驚いた顔でこっちを凝視している。

 

「な、なんでユウリちゃんたちがここに!?」

「さっきからグダグダグダグダと……。能書きはいいから早く扉を開けろ」

「いや、すでにもうお前が開けてるし!」

 

 目が据わっているユウリに対し、すぐさま突っ込みをいれるナギ。ああ、久しぶりだなあ、このやりとり。

 

 半年振りの感動の再会に、扉を開けるなら最後の鍵を使えばいいのにと思うことすら忘れてしまっていた私だが、普段と違うシーラの姿に目を丸くした。

 

 今の彼女の姿は、今までのバニーガールではなく、イシスで手に入れたあと彼女に渡した防具を身に付けていた。さらに、彼女の髪はいつもの巻き毛ではなく、さらさらのストレートヘアになっている。そう、まさに先ほど会ったシーラの弟と同じ真っ直ぐな髪をしていた。

 

「シーラ、その姿……」

「ごめん、二人とも。まだあたし、二人と一緒に行くことができないの」

「え?」

 

 想定外の答えに、私は耳を疑った。隣にいたユウリも二の句が継げないでいる。

 

「シーラ、今のうちだ!!」

 

 ナギの一声に、シーラはすぐさま呆気にとられる私たちの横を通りすぎ、神殿の方へと入っていった。一方で、一瞬の間を置いてから我に返る門番。確かノールさんとか呼ばれてたっけ。

 

「あっ、しまった!! 待つんだ、止まれ!!」

 

 彼は慌ててシーラたちの後を追った。そして私たちだけがぽつんと取り残される。

 

「ユウリ……、これってどういうこと?」

「知らん。だが、あいつが会いたがっているマーリンってやつは、さっきお前がぶつかった僧侶のことだろ。追いかけるぞ」

 

 そう言うやいなや、ユウリもまた、他の三人と同じ様に駆け出した。なんだかわからないが、シーラのただならぬ様子を見て、放っておけるわけがない。シーラがこんなに必死に自分の弟に会う理由もわからないこの状況の中、私も急いで追いかけることにしたのだった。

 

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