俺様勇者と武闘家日記   作:星海月

93 / 204
シーラの意志

 

「待って、シーラ!! 一体どこに行くの!?」

 

 先に走り出したシーラたちを追いかける、私とユウリ。

 

 私の制止も聞かず彼女は、広大で迷路のような廊下を迷うことなく突っ走ると、誘われるようにとある部屋へと入っていった。

 

「シーラ、戻れ!! 今次期大僧正にお会いになれば、どうなるかわかっているのか!?」

 

 遥か後ろからは、門番のノールさんまでもが追いかけてきている。次第に騒ぎを聞き付けて、転職者や他の僧侶たちもやってきた。

 

 シーラが入っていった部屋は、書庫のような場所だった。広い室内には膨大な数の本が棚に並べてあり、一冊残らず整頓されている。

 

 だが、その部屋にはあいにく誰もいなかった。シーラはここにマーリンがいると思っていたのだろう。それでも彼女は諦めず、部屋から出た。

 

「どうした? 騒々しい」

 

 すると、ちょうど廊下を歩いていたであろう男性が現れ、突然シーラが立ち止まる。

 

「父様!!」

 

 目の前にやって来た人物を見て、シーラが声を上げた。父様と呼ばれた男性は、シーラの弟とおぼしき人物と似たような格好をした中年の僧侶だった。だが彼は、娘であるシーラの顔を見た途端、厭わしそうに顔を歪めた。

 

「もうここへは二度と来るなと言ったはずだが?」

「違うの! 今回はマーリンと話をするために来たの!!」

「どんな理由があろうと、お前がこの聖なる場所に足を踏み入れることは許さん」

 

 そう冷たく言い放つと、シーラのお父さんは周りにいる他の僧侶たちに目配せをした。すると、一斉にその僧侶たちがシーラを取り囲んだ。

 

「シーラ!?」

 

 一体どういう状況なのだろう。今すぐにでも助けに行きたいが、こんな大人数に囲まれたシーラを助ける手段が思い付かない。

 

「おい、シーラを離せ!!」

 

 ナギがシーラを拘束しようとする僧侶たちの手を振り払おうとするが、すぐに他の僧侶に取り押さえられ、二人とも身動きができない状態になってしまった。

 

「シーラ、ナギ!!」

 

 耐えかねた私は、彼らを助けようと前のめりになるが、いつの間にか隣にいたユウリに止められる。

 

「下手に動くな。もう少し様子を見るぞ」

「うっ……」

 

 ユウリの言うとおり、確かに今の状況で動けば、こっちまで捕まってしまう。

 

 ……いやでもさっき、思い切り呪文で扉を破壊してたよね?

 

 私は小さなツッコミを胸にしまい込み、ひとまず固唾を飲んで見守ることにした。

 

「父様、聞いてください!! 『悟りの書』は一体どこにあるんですか!?」

「なっ……!? 『悟りの書』だと!?」

 

 その言葉に、シーラのお父さんは動揺の色を露にした。

 

 ……『悟りの書』って、一体何なのだろう?

 

「なぜお前ごときが『悟りの書』のことを聞く!? お前には一切関係のないことだろう!!」

「いいえ!! あたしは悟りの書を手に入れて、父様に認めてもらいたいんです!! だけど、マーリンに教えられてガルナの塔に行きましたが、宝箱には何も入っていませんでした!!」

「ガルナの塔……!? お前、ガルナの塔に行ったのか?」

 

 シーラのお父さんは、信じられないものを見るような目でシーラに問いかけるが、彼女は答えない。彼女が欲しい答えは、それではないからだ。

 

「マーリン様!! 今こちらに来るのは危険です!!」

 

 すると、シーラが探していた相手である、マーリンとかいう人物がやってくる足音が聞こえた。

 

「まさか姉上が本当にガルナの塔に行くなんて、正直驚いたな」

 

 人だかりの向こうから現れたのは、先ほどの美少年僧侶だった。やはり、あの子がマーリンなのだろう。

 

「マーリン……!」

 

 シーラの弟……マーリンは、怒りで顔を歪めるシーラを、見下すように眺めていた。それは、姉弟が再会するシーンとはほど遠いものであった。

 

「マーリン、どうしてあんな嘘を……?」

「嘘じゃないさ。僕はただ、悟りの書がある『らしい』と言っただけ。明確な根拠もないのにそれを鵜呑みにして行動したのは姉上の方だろう? 僕が責められる謂れはないと思うけど」

 

 何だろう、このムカムカする気持ち。実の姉に向かって言う台詞ではない。何をどうしたらこんな言葉が出てくるのだろう。

 

「けど、僕は生まれて初めて姉上に感心したよ。こんな人間以下のクズでも、偉大なる祖父と同じことができたんだなあって」

 

 人間以下の、クズ……!?

 

 私は天使のような外見から飛び出す彼の衝撃の言葉に、耳を疑った。

 

「お祖父様と同じ?」

 

 だが、普段から言われ慣れているのか、特に気にするそぶりも見せず、答えるシーラ。

 

「なんだ、自分の身内が成し遂げた偉業も知らないのか? お祖父様はダーマの一族が為し得なかったガルナの塔の攻略を、たった一人で成し遂げたんだ 」

 

 マーリンは、まるで自分のことのように流暢に話し始めた。

 

「そもそもガルナの塔は、我々ダーマの僧が修行のために作られた修行場だったんだ。そこには我々の祖先が書き記したとされる悟りの書が保管されており、それを手に入れれば賢者になれる。我がダーマの一族の間では有名な話さ。僧侶としての道を途中で投げ出した姉上は知らなかっただろうけど、悟りの書のある場所までたどり着けた者はただ一人、お祖父様だけだったんだ」

 

 やっぱり、シーラのお祖父さんはイグノーさんだったんだ。と言うことは、悟りの書を持っていったのは、イグノーさんだったんじゃ……。

 

「だが、塔を出たお祖父様は悟りの書を持っていなかった。お祖父様は悟りの書について何も語られなかったから、当時の周りの僧侶たちは最初から悟りの書なんてなかったんじゃないかと噂していたという。だが、真相はわからなかった。なぜなら、それ以降ガルナの塔を攻略できた僧侶は誰ひとりいなかったからだ」

「……じゃあ、悟りの書がなくても、お祖父様は賢者になってたってこと?」

 

 だが、マーリンはシーラの質問を無視するかのように言葉を続けた。

 

「その後、お祖父様はこう話したと言う。『他人から得た知識だけでは、真の賢者とは言えない』と。お祖父様はその後賢者になり、父上に大僧正の位を譲ると、勇者サイモンとともに旅立った。結局お祖父様が悟りの書を持っていたかは最後までわからなかったけれど、まさかそんな不確定な情報だけでガルナの塔に行くなんて流石だと思うよ、姉上」

 

 明らかにシーラを皮肉った言い方で、薄ら笑いを浮かべるマーリン。ナギが悪意に満ちた表情で睨みつけているにも関わらず、全く意に介していない。そして急に真面目な顔つきに戻ると父親の方を向いた。

 

「それほどまでに頑張ったんですから、姉上の転職を認めてみてはどうですか? 父上」

 

 するとシーラのお父さん……いや大僧正は、肩をわなわなと震わせながら、顔を真赤にして怒鳴った。

 

「……私でさえできなかったことを、お前が成し遂げただと!? ふざけるな!! お前のような出来損ないが、偉大なる父上と同列な訳がないだろうが!!」

 

 耳が痛くなるほどの激昂が、神殿に響き渡る。

 

「遊び人風情が、そんなことできるわけない!! 本当は塔になど行ってないだろう!! この、嘘つきが!!」

 

 大僧正はシーラにそう言い放つと、つかつかと彼女に歩み寄り、取り押さえている僧侶たちを押し退け、彼女の胸ぐらを掴んだ。

 

「一族の面汚しには、職を変える資格などない。お前は一生遊び人として、恥と後悔にまみれながら生きていくしか道はないんだ!!」

「……父様……」

 

 実の父親に罵倒され、シーラの目にぽろぽろと涙が溢れてはこぼれ落ちていく。

 

 もはや我慢の限界だ。仲間が泣いているのを見て、これ以上黙っていられるほど、私は薄情な人間ではない。彼女を助けようと、私は一歩踏み出した。

 

 だが、私より先に彼女のもとへと歩き出す人物がいた。その人物はシーラではなく、その隣の大僧正の目の前で立ち止まると、左手で拳を握りしめ、腕を大きく振りかぶった。

 

「いい加減にしろ!!」

 

 ドゴッ!!

 

 その瞬間、大僧正は衝撃音とともに壁際へと吹っ飛ばされた。

 

「ぐはあっ!!」

 

 ドサッ、と床に倒れた大僧正の右頬には、殴られた跡がくっきりと残っている。

 

「お前らの不愉快な茶番にはもう飽きた」

 

 怒気のこもった低い声で、彼は言った。そして、周囲を見回し、うんざりした様子でため息をついた。

 

「もういいだろ、ザルウサギ。帰るぞ」

「ユウリちゃん……?」

 

 大僧正を殴った張本人であるユウリは、利き手をさすりながらシーラにそう言うと、逆の手で彼女の手を取った。

 

「な……、何だ、お前は……?」

 

 何が起こったのかわからず、殴られた頬を押さえながら大僧正が尋ねる。そんな彼の姿を映すユウリの目には、炎が猛々しく燃え盛っているように見えた。

 

「俺はユウリ。アリアハンの勇者だ」

『!!??』

 

 その一言に、大僧正だけでなく周囲の僧侶たち全員が驚愕した。

 

「ゆ、勇者だと!? 勇者がこんな野蛮なことをするもんか!! それに、転職のできない人間がこのダーマの地にいる理由がない!!」

「ああ、もちろん転職しにここに来た訳じゃない。ここに来たのは、俺の仲間を連れ戻すためだ」

「仲間……?」

 

 大僧正の視線の先には、立ち尽くしていたシーラの手を握っているユウリの姿。それは明らかにシーラが勇者の仲間だということを体現していた。

 

「う、嘘だ!! こんな……、大僧正である私を殴るようなごろつき風情が、勇者な訳がない!! この……、勇者の名を騙る偽物めが!」

 

 ああもう、『嘘だ!』 しか言えないのか、この人は!

 

「偽物なんかじゃありません!! 彼は正真正銘、本物の勇者です!! 私も彼と一緒に、アリアハンからシーラと一緒に旅をしてきました!!」

 

 たまらず私もシーラをかばうように前に出て言い放つ。

 

「お、お前はさっきの……」

 

 さっきぶつかった人が私だと気づき、ぽつりと呟くマーリン。ていうか、『お前』というあたり、すでに本性が垣間見えている。

 

「シーラは私たちの仲間です!! これ以上私たちの仲間を悪く言わないでください!!」

「ミオちん……!」

 

 私が現れたことで、シーラの涙腺がさらに緩くなる。そこへナギもやってきた。

 

「お前ら……、出てくんのが遅えんだよ!!」

「ふん。お前が機転を利かせていればこんな面倒なことにはならなかったんだ」

 

 ナギの文句を受け流すユウリ。あんなこと言ってるけど、本当はずっと助けたくて仕方がなかったはずだ。

 

 全員揃ったところで、場の空気が一変した。それは僧侶たちも感じたようで、シーラとナギを拘束していた僧侶達が次第に後ずさりしていく。

 

「シーラ。もういいよ。転職なんてしなくていいから、一緒にここを出よう?」

 

 そう言うと私もまた、もう片方のシーラの手を握る。けれどシーラは、首を横にふるふると振った。

 

「ダメだよ。遊び人のままじゃ、魔王には勝てない。それはあたしが一番よくわかってる」

「シーラ……」

 

 そんなことないよ、とは言えなかった。確かに遊び人である以上、魔王はおろか、魔物とまともに戦えることも出来ない。それは本人であるシーラが何よりも感じていたことだ。

 

「でも、無理に戦わなくてもいいんじゃない? 私も前よりレベルアップしたし、シーラの分も戦えれば……」

「それじゃダメなんだよ!!」

「っ!!」

 

 シーラは強い口調で、私の提案を一蹴した。

 

「二人と別れるときに誓ったもん、強くなるって。それに、誰かに守られるだけの人生はもう嫌なの。あたしは、ユウリちゃんの仲間として、皆と一緒に戦いたい!」

 

 涙を振り払いながら言い放つ彼女の言葉は、心からの叫びに聞こえた。

 

 これが、シーラの本当の気持ち。普段本音を言わない彼女が放つ、私たちへのメッセージなんだ。

 

 受け取らなければ。同じ目的を持つ仲間として。

 

「わかったよ、シーラ。ごめんね、変なこと言って」

「ミオちん……」

 

 私は泣き腫らしたシーラの顔をそっと撫でた。

 

「私はいつでもシーラの味方だから。シーラが転職したいのなら、私も協力する」

「……ありがとう……!」

「オレは最初っからこいつのために奮闘してたからな?」

 

 突然私の横から割り込んできたナギが、ひょっこりと顔を出してきた。そうだね、と私は微苦笑した。

 

「な、仲間だかなんだか知らないが、何人で来ようと、転職は認めないからな……!」

「けっ、諦めの悪いオヤジだな」

「待って、ナギちん」

 

 悪態をつくナギを手で制すると、シーラは私たちから離れて大僧正の前まで近づき、突然しゃがんで土下座をした。

 

「!?」

「お願いです。一度だけでいいんです。あたしを僧侶に転職させてください」

「……!!」

 

 シーラを見下ろす大僧正の表情が露骨に歪む。対して周りにいた僧侶たちが漂わせていた敵愾心は徐々に薄れ、憐れみや同情の目を向け始めた。

 

「……くっ! そうやって頭を下げても無駄だ!! おい、何をしている! こいつらを早くつまみ出せ!!」

「お、お言葉ですが大僧正、シーラ殿の気持ちを考えると、その……一度くらいは転職させてあげてもよろしいのではと……」

 

 恐る恐る口を出したのは、門番のノールさんだ。彼は最初シーラを大僧正に会わせようとしなかったが、一連のやり取りを見て考えが変わったようだ。

 

「黙れ!! 私に指図をするな!!」

 

 だが、顔を真っ赤にしながら、ノールさんの言葉を一蹴する大僧正。

 

 シーラがこんなに懇願しているのに、一体大僧正はどうしたら認めてくれるのだろうか。

 

 再びふつふつと怒りが込み上げてくる中、ふとユウリの背中が光っているのが目に入った。

 

「ねえユウリ! 背中が光ってる!」

「は?」

 

 私の言葉に、何を言っているんだという顔をするユウリ。いや、私も自分で言ってて何を言ってるんだと思うけど、とにかく本当なんだもの。

 

 埒があかないと感じた私は、急いでユウリの背後に回って背中を見る。すると、彼がずっと背負っていたイグノーさんの杖が光っているではないか。

 

「そ、その杖は……!!」

 

 心当たりがあるのか、大僧正はその杖を見るなり口をパクパクと開け始めた。

 

 ユウリも異変に気づき、杖を背中から外してまじまじと眺める。私の身長ほどもあるイグノーさんの杖は木で出来ており、ひとりでに光り輝くということはあり得ないはずだ。だが、杖は何かを訴えるように、青白い光を仄かに放っている。

 

 その様子にユウリは何かに気づいたのか、手にした杖を大僧正の目の前に突きつけた。

 

「これは賢者イグノーが持っていた杖だ。身内であるあんたなら、わかるだろ?」

 

 だがユウリの声が聞こえないのか、大僧正は驚きのあまり、ただひたすら目を白黒させている。

 

「あり得ない……! だってあの杖は、父上がサイモン殿と旅に出るときに手にしていたもの……!? なぜこんな馬の骨風情が持っているんだ!?」

「なぜも何も、本人と会ったからな」

「はぁ?!」

 

 しれっと話すユウリの発言に、とうとう大僧正の口が塞がらなくなった。

 

「と言っても幽霊だがな。ついでにイグノーから、このオーブも受け取った」

 

 ここぞとばかりに鞄からグリーンオーブを取り出すユウリ。それを見た大僧正の顔が蒼白した。

 

「そ、それは伝説の不死鳥、ラーミアを復活させるためのオーブ……!! まさか、まさか本当にあなたは……」

「最初から言っているだろ。勇者だと」

 

 きっぱりと言ったその言葉に、今度こそ大僧正は崩れ落ちた。

 

「なんかよくわかんねえけど、とりあえずあのオヤジに一泡吹かせることは出来たわけだな」

 

 大僧正の数々の情けない姿に、ナギがにやりと笑う。

 

 すると、今まで傍観していたマーリンが、大僧正の前に歩み出た。

 

「やれやれ、だから父上はお祖父様を越えられないんだ」

 

 マーリンはユウリの前で立ち止まると、自分より背の高いユウリを見下すように睨みつけた。

 

「仮に本物の勇者だとして、どうしてそこにいるクズを仲間にしているのか、理解に苦しみますね」

「……っ!」

 

 凍りつくような冷たい眼差しをシーラに向けながら、マーリンは低い声で言った。

 

「たとえ姉上が僧侶に戻ったとしても、おそらく戦力にはならないと思いますよ」

 

 きっぱり言い放つ弟の言葉に、わずかな希望を抱いていたシーラの瞳の色が失われていくのが見えた。

 

 ――実の姉に対してそんな事を言うなんて、許せない。いくらなんでもあんまりだ。

 

 けれど口を開こうとして、私はユウリの放つプレッシャーに飲まれ、これ以上言葉を発することができなかった。

 

「――悪いが、実の姉を人間扱いしていないような奴の言うことは信じないようにしている」

 

 ユウリもまた、目の前にいるマーリンを蔑むように見下ろす。勇者に見下されたと感じたマーリンは、その整った顔をこれでもかと歪ませた。

 

「勇者だと言う割には、人を見る目がなさそうな方ですね。残念だ」

「そういうあんたも、尊敬する人間を間違えてるんじゃないか?」

 

 お互い一歩も引かない毒舌合戦に口を挟める隙もなく、私は心の中でマーリンに対する怒りを必死で抑えながら、事の成り行きを見守っていた。

 

 するとマーリンは、ユウリに一歩近づくと、未だ仄かに輝き続けるイグノーさんの杖を掴んだではないか。

 

「どこでどうやって手に入れたか知りませんが、勝手に一族の持ち物を奪わないでもらえますか?」

 

 そう言うと、マーリンは強引にユウリから杖を取り上げようとした。しかし力の強いユウリが杖を奪われるはずもなく、マーリンがいくら引っ張っても杖はびくとも動かない。

 

「勝手なのはお前らだろ。今までこれの存在すら知らなかったような奴に渡せるか」

 

 まるで赤子の手を捻るかのように、杖ごとマーリンの手を振り払うユウリ。その行動にプライドを傷つけられたのか、マーリンの顔がみるみる真っ赤になっていく。

 

「待ってよユウリちゃん!! きっとその杖は、次期大僧正のマーリンに反応してるんだよ。……だから、マーリンに渡してあげて」

 

 強い口調で二人の間に割って入ったのは、シーラだった。あんなに酷いことを言われたのに、それでも彼女は弟のこと、この神殿のことを想っているのだ。

 

「……お前がそう言うなら仕方ないが、本当にそれでいいのか?」

「うん。その杖は大僧正だったお祖父様が使ってたんでしょ。だったらマーリンが持つのが相応しいよ」

「……わかった」

 

 ユウリは渋々杖をマーリンの前に突き出した。さも当然と言わんばかりに得意げな顔を浮かべるマーリンが、杖に向けて手を伸ばしたそのときだった。ユウリが持っていた杖が、ひとりでにぶるぶると激しく動き出したかと思うと、急にまばゆく光り出した。そして、二人の手から逃れるように宙に浮き、さ迷うようにゆっくりと移動したではないか。

 

「な、何!?」

 

 思わず私は声を上げるが、それがわかる人は誰一人いなかった。そして何かに反応したのか、ふらふらとある場所へと向かっていく。その場所とは……。

 

「へ!?」

 

 突然イグノーさんの杖が目の前にやって来て、唖然とするシーラ。そう、杖が向かったのは、シーラのところだったのである。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。