Monster Hunter:Wind Ark 作:カリオロス亜種
「野郎、どんだけ鼻水蓄えてんだよ……!」
「鼻水なんですかこれ……!?」
奇猿狐の放つ水弾による遠距離攻撃、これは単純な質量による攻撃であると同時に、地面を濡らし足を滑らせる危険性も孕んでいる。
状況が長引く程に隙を晒してしまう危険が増し、最悪の場合、滑空による突進攻撃を避けきれずに喰らってしまうという事も有り得る。
「埒が明かん、ここら一帯がびしょ濡れになるようなら一度撤退も視野に入れる!」
「……!イザナさん、上空にモンスターだ!」
「やっと来やがったか、濡れ鼠になっちまう所だったぜ」
飛来する鳥竜種の影、もう一体の狩猟対象、イャンクックと思われる。
「……いや、違う!!イザナさん、アイツは──」
アイツは怪鳥じゃない。そう伝えようとした次の瞬間、明らかに怪鳥の放つ火炎液とは異なる火球が天から放たれ、ケチャワチャに着弾した。
「──火竜のブレスだと!?……いや、ヤツは……」
「イャンガルルガ……!」
黒狼鳥 イャンガルルガ。
生来の戦闘狂。
唐突な爆炎に包まれ、その衝撃と熱に悶絶しているその隙に、黒い怪鳥が一直線に落下する。
喰らうでも無く弄ぶでも無く、ただ殺す。黒銀の意思が牙獣を貫く。
「──ッ!滅茶苦茶しやがる、ケチャワチャはどうなった!確認できるか!?」
爆煙と土埃が視界を遮り、シウニの居る位置からも確認が出来ない。
「ギルドの連中が間違えやがったのか……いや、依頼文には確かに火炎液によって気が立っていると記載されていた。コイツが吐くのは火炎液じゃねぇ」
次第に煙が晴れ、その像が輪郭を帯び始めたその瞬間、黒狼鳥は狂ったようにシウニ目掛けて突進を繰り出した。
「!!」
いきなりの攻撃に驚きつつも、身構えていた為横跳びが間に合い、追撃に備えて即座に体制を立て直す。
「瞬発力は紅霞鳥以上だな…」
突進を躱された黒狼鳥は、ゆっくりとこちらを振り向き睨み付けてくる。こちらの出方を伺っているのだろうか、あまりの緩急にペースを狂わされそうだ。
ふと、後ろで唸り声が聴こえる。
「ケチャワチャ……!まだ息があったか!」
なんとか身体を持ち上げた奇猿狐。上空からの突き刺し攻撃は脇腹を抉ったようで、止まることなく出血しているのが見て取れる。
残る力を振り絞るように皮膜を広げ跳躍。逃げるつもりだろう。
「どの道あの様子だと遠くには逃げられないだろう、今はコイツの対処を──」
ギョオオオオンッ!!!
黒狼鳥が吼えた。一度標的としたお前を生きて帰すものかと言わんばかりに咆哮を上げ飛び上がり、牙獣との飛行能力の差を見せつけるが如き速度で、逃げる獣に靭尾を見舞い、地面に叩き伏せる……
黒狼鳥 イャンガルルガ。
生来の戦闘狂。
その執着は、どちらかの命が壊れるまで終わらない。
「なんだ今の音!」
「やはり間違いない、イャンガルルガの咆哮だ!」
「あれが鳴き声か、イャンガルルガ!確かイャンクックに似た強そうなやつだよな?」
「全くの別物と思った方がいい。アレは他のどんなモンスターともまるで違う。狩人として培った常識が尽く通用しない相手だ……」
音響弾を撃ち、交戦中の二人に合図を送る。
咆哮が響く場所まであと僅か……
相棒の猟虫、ドゥンクラープを飛ばし向かわせる。コイツは判断力に長けている為、指示の届かない距離でも戦力足り得る。
「──アイツの猟虫だ。やはりさっきの音は聞き間違いじゃあ無かったな」
「イザナさん、奴と戦った事は?」
「俺も実物は初めて見た。滅多にお目にかかれる相手じゃない。見たところ獲物に対する執着は俺達相手でも変わらんようだ、じきにここも更地にされて、見つかるのは時間の問題だろうぜ」
二人が近くまで来ている事を確認した時点で、シウニ達は身を隠した。無理に対峙せずに、すぐそこまで来ている増援を待つ。
このエリアには起伏に富んだ地形と身を隠すのに適した遺跡群がある。
「緊急事態だ、こいつを使用する」
「千里眼の薬……」
「感覚を総動員して、奴の動きを見極めるぞ。クソっ、頭痛くなるから使いたかねぇが……」
人から聞いた情報のみで実際に戦った経験のない相手、ましてやコイツは狩人としての経験があればある程むしろ予測が難しい。
まずは視る。その為に全神経を回避に回し、一時的にこじ開けたもう一つの感覚で分析する。
黒狼鳥は自らの上を飛び回る羽虫の存在に気が付いたようだ。注意を引き、上手く遠ざけてくれている。
「二人はもう間もなく合流しますね、奴を挟見込む形で位置取りたい。今なら背後も狙える」
「あぁ、だが尻尾は狙わない方がいい。衝撃に反応して毒液が吹き出すって話だ」
猟虫の奮闘により、現在奴の意識は上に向いている。その関係か翼膜は通常よりも高い位置にあり、打点の低い片手剣で狙うには無理がある。尻尾も迂闊に手を出すのは危険……となれば、狙える位置は限られる。
「お前は右脚だ。左は任せろ!」
剣を左手に持ち構える関係上、左側面を通り抜けるように斬り付けるには少々コツがいる。だが、彼ならば可能だろう。
瓦礫の影から飛び出し、距離を詰める──
狙うは脚の付け根……!
ドゥンクラープもその動きの意図を理解し、同時に突撃を仕掛け自身に注意を向けさせる。
眼前の後脚に滑り込ませるように刃を振るう、その瞬間。
片手剣の刃を躱すように後ろに飛び、同時に咆哮を繰り出す。
奴は、咆哮を威嚇ではなく相手を怯ませる手段として用いる。
「……!! 勘づかれてやがったか……!」
至近距離での爆音に加えて翼による風圧、二人はバランスを崩し四つん這いの体制に追い込まれた。
体制を立て直すよりも先に二人が感じ取った悪寒のような感覚。これは、まずい……!
「……!!!」
「あっぶ……ねぇッ!!!」
即座に前転し盾を使って衝撃を受け止める。
千里眼の薬を服用していなければ、反応する間もなく焼け焦げていたかもしれない……
「今の攻撃、まさか俺達に気付いた上で狙っていた……?」
「恐らくな……聞いていた以上だ、コイツは確かに戦闘狂だが、馬鹿じゃねぇ。むしろ戦闘に関しては相当頭が切れるらしい」
「無事か!二人とも!」
「近くで聞くととんでもない声だな、腹の底から響くみたいだ」
「ラム、ベラータさん!」
結局、四人が一箇所に集まる形となった。
「すまない、遅くなった。やはり黒狼鳥か……奇猿狐は?」
「見つけて狩猟中だったが、ヤツが割り込んできてそのまま仕留められちまった。怪鳥は見つからなかったんだろう?ギルドが間違えたか?」
「いや、怪鳥は確かにこの地に居た。だが見つけた時には既に死体だった……おそらく、コイツの仕業だ」
「マジかよ……任務達成、って訳にはいかんだろうな」
「あぁ、クエストの達成条件は満たしてはいるが、今帰ってもどの道ギルドが狩猟依頼を発行するだろう。その間コイツが大人しくするとは思えないが……」
遺跡平原の狩猟環境の乱れ、根本的な問題は解決していないどころか事態は悪化している。黒狼鳥をどうにかしない限り、狩場の危険度は跳ね上がったままになる。
標的の人数が増え警戒していた黒狼鳥が動き始め、首をもたげる。
「火球来るぞ!」
牽制か……?奴の放つブレス自体は火竜のソレと近しい。
神経を集中させていれば躱せる。
「全員ヤツの方向に向かって走れ!!!」
イザナが声を張り上げる。
放たれた火球は火竜の放つ一発の比ではない程の物量で、先程まで自分達が居た一帯を吹き飛ばした。
「ブレスを連射した……!?それもとんでもない速さで……!」
「どういう喉をしてんだ……危ねぇ」
下り坂の地形を駆けた四人の真上を火球の雨が降り注いだ。牽制なんてとんでもない。奴の起こす一挙手一投足、全て殺す気満々だ……
「幸い誰も負傷してねぇ、俺ら四人で今仕留めるぞ!」
「四人とも一定の距離を保ちながら戦うんだ、巻き添えを喰らわないようにしつつ、一人を狙った隙に側面から一斉に仕掛ける!」
四人と一匹はそれぞれの方向に散開し、ブレスを避け切れるギリギリの距離まで接近する。
狙われたのは、シウニだった。
こちらに向かって狂ったように突撃を繰り出す。なるべく自分以外を視界から外させるように横に逃げ、追いつかれる直前に進行方向とは真逆の方向に横ステップで軸をずらす。数日前に購入した秘伝書、そこに記された技術が早速活かせている。
脚がもつれて転倒し、下がった翼に斬撃をぶち込む。しかし刃の通りはそれ程良くないようで、傷こそ付けられたものの厄介な飛行能力を削るには至らない。
「硬いな……!」
先程のようなバックジャンプブレスを警戒し、早めに距離を取る。
黒狼鳥は常にシウニを睨み付けており、唸り声を上げている。あくまでも狙いは俺か……?
「ハァッ!」
いち早く追撃に駆けつけたのは、上位ハンター、ベラータ。操虫棍の射出機構を駆使して前方に跳躍し、上空から急襲する。空を飛べる竜と言えども、その更に上を取られた状態では飛び上がっても逃げることは叶わない。ましてや突進の勢いを殺しきれず体制を崩している今、身を躱す事も不可能だ。
ザシュッ、と。全体重と落下のエネルギーを乗せた突きが翼に突き刺さる。続けて、落下の軌跡をなぞるようにドゥンクラープの追撃。翼膜に複数の傷を負わせる事に成功した。
しかし大小様々な歴戦の傷が身体中に刻まれたイャンガルルガにとって、今更この程度の傷で怯む道理は無い。
乱暴に身体を動かし、跳ね除けるように尻尾を振り回す。マトモに喰らえば猛毒の餌食となる危険な攻撃だ。
「毒の扱いには慣れてるんでねッ!」
半円を描く尻尾の軌道に合わせるように、操虫棍、スニークロッドの刃を引っ掛け振り子のように飛び越え、引き斬る。危険な毒の棘の一部を流れるように切り落とした。
「とは言っても、コイツは毒に耐性があると聞く。期待は出来ないな」
影蜘蛛の素材を用いて作られた操虫棍には毒がある。一連の攻撃でその毒は傷口から侵入している筈だが、やはり黒狼鳥には効果が薄いようだ。
しかし、尻尾の毒棘の部位破壊は流石に効いたようで、低く恨めしそうに唸っている。
猟虫を腕に戻し次の行動に備えるベラータ。
その鮮やかな身のこなしに驚きつつも、シウニはポーチからアイテムを取り出す。一つは閃光玉。
飛行能力を持つ相手にはほぼ必須と言っていい代物であり、特に一発目は有効打となり得る。武器を構えていても右手にアイテムを保持できる片手剣使いにとっては、如何に戦闘にこれらの道具を組み込めるかが重要となるのだ。
もう一つはシビレ罠、理由はわからないが黒狼鳥はどうやら自分を優先的に狙っている。
ベラータさんの一撃はかなり効いたはずだ。しかしそれでも、目線はこちらに向けたまま動かさない。
一瞬でも奴の目線を逸らさせる事が出来れば……
「ラム!狙いは俺みたいだ、考えがある、足止めを頼む!」
「ブーストっ!」
ラムの新しい剣斧、名を『アルヴォーラアクスト』
凄まじい龍属性を有する、メゼポルタの剣斧だ。
剣状態の刃を下段に構え、瓶エネルギーを放出して推進力とする……これは、通常の剣斧では考えられない動きであり、剣状態の出力が尋常ではないスラッシュアックスFだからこそ為せる技だ。
あまりの出力に、長時間剣状態を維持する事は難しいが、瞬間的に獲られる威力、機動力は凄まじい。
「せー……のっ!!!」
赤黒いエネルギーで地面を灼きながら、黒狼鳥の足元に肉薄し、そのまま推進力で斬り上げる。即座に斧に変形し、叩きつけ。
「新しい相棒の試運転だ、付き合えよ!」
戦闘狂、イャンガルルガ。漏れ出す炎の息吹の故は、怒りか或いは喜びか。
スラッシュアックス、天の型です。