Monster Hunter:Wind Ark   作:カリオロス亜種

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リュウを屠る剣⑤

 

 

 

遺跡上で起きた発光現象の調査を開始してからしばらく経ち、一度はめっきり姿を見せなくなっていたモンスター達が徐々に戻り始めた頃、特異な大盾を携えた二人の片手剣使いが受注した狩猟依頼。

 

バルバレに訪れ立ち往生していた婦人が、ようやく帰りの目処がたったので帰路につこうとした矢先、今度は狗竜ドスジャギィとその子分達に行く手を阻まれ困り果てているとの事。

 

 

狩場に向かう荷車の上で、新品の装備の動作を確認しつつ辺りを見渡すと、以前よりもなんとなく、鳥や小さな獣の数が増えているように感じた。

 

「しかし、これ以上は何も見つからんだろうな、こりゃあ…… 狗竜一派まで姿を見せるようになったって事はよ」

「たしかに…… 狩猟難易度の高い竜だけでなく、ドスジャギィのような比較的戦いやすいモンスターも、ここが縄張りに適していると判断した訳ですからね」

 

自身が休養している間にも、小規模ながらアプトノスを初めとした草食竜の群れがいくつか確認されていたらしい。

天災の気配に敏感な彼らが怯えずに留まっているという事は、今回の事件の原因となった何かは既にここに居ない可能性が高い。

 

「そうなると、俺たち調査隊は近いうちにここを離れて仲間と合流する運びになるかもしれません」

「モタモタしてると何も試せずに終わっちまうな。最悪お前さんにどうにか秘伝書を売ってもらうよう交渉するハメになる」

「さすがに全て読み切る前に手放したくはないですね……」

 

新しい得物に新しい戦法、狩り慣れた狗竜を相手に初陣を切る。

まずは地の型、基礎となる立ち回りと、それを可能とする為の体捌きを実践する。

 

剣と盾の重量差による偏重心を制御、活用する事で、双剣とも異なる独特の機動戦が可能…… 理屈は理解していても、実践で活かせなければ意味が無い。

 

「俺らの盾は特別重てぇからな、これが出来ないようなら持て余すだけだ。ときにシウニ、尾槌竜ってやつを知ってるか?」

「名前だけは聞いた事があります。尾槌竜ドボルベルク…… 確か、山のように大きい身体の獣竜ですよね?」

「そうだ。だが、こいつはなんとそのバカでけぇ身体を丸ごと空高く飛ばす事ができる」

 

説明を続けながら、アイギスフォースの巨大な盾が放り上げられる。

 

「もちろんただの力技じゃ不可能な芸当だがな。まずは回転して勢いを付ける。そうして地面から浮いたハンマーみてぇな尻尾を全身で振り上げて、今度はそのハンマーの重みに引っ張られて持ち上がるってわけだ」

「そんな芸当をやってのける竜が居るなんて……。つまり、それが重心移動の活用ですか」

「そういうこった。起こりは遠心力でも気合いでも竜の攻撃でもなんでもいい、一度勢いを付けてやれば、その後の一瞬だけは空中に楔を打ったも同然の動きができる」

 

秘伝書に記されている重心制御はもちろん通常の盾でも重要だが、それ以上の重さを持つ盾ならば、盾自体を回転の軸と捉え、より勢いを乗せた斬撃や回避が行えるようになるという事か。

 

「まずは振り回されて転ばないようにする事だ。準備はいいか?」

「はい、盾の動作も問題ありません」

 

荷車から降りて間を置く事なく遭遇した狗竜と手下の群れに目線を向き直し、祀導器【不聴】を左手に握る。

ジャギィ達の威嚇する声に刀身が共鳴し、鋭く重たい金属音が響く。

周りのジャギィとジャギィノスはイザナさんが相手をしてくれる、重心を低く構え狩猟開始だ。

 

「雑魚は任せろ、自由に踊りな!」

 

狗竜の号令に応じ飛びかかるジャギィを景気よく弾き飛ばす様子を横目に、眼前に盾を構えつつ突貫する。

狙うは頭部、リーダーの証である巨大なエリマキだ。行く手を阻むジャギィノスを強力な龍属性を帯びた剣で牽制、盾は位置を変えず高く保つ。

彼らは多くの場合、こちらの初撃に対しては回避より迎撃を選択することが多い。

群れの手前、手下を無視して向かってくる相手に簡単に引いてしまうと示しがつかない…… という思考なのかもしれない。

 

「噛みつき、ビンゴだ!」

 

剣を逆手に構え直し、高く保ち続けた盾を両手で更に掲げる。噛みつきにかかる牙に身体を晒す形だが、持ち上げたこの塊はそれを許す質量ではない。

真上から内側へ、捻りを加えつつ抉るように盾を振り下ろし頭部に打ち付ける。

 

「……!!!」

 

振り抜いた勢いは殺さず、引き寄せるように重心を内側に纏めて回転、跳躍。軌道の先端でスピードを増した剣で勢いよくエリマキを引き裂く。

龍属性が弾け、斬り口から伝播するように焼き切れていく。たったの一撃で立派なエリマキに無数の穴が空いた。

狗竜は堪らず大きくよろめき、甲高い悲鳴を上げる。

一度の攻撃でめまいを誘発し、部位破壊も果たした……

止めていた息を鋭く吐きながら、激しい全身運動で繰り出した一撃の効果を身をもって実感する。

 

「!!……腕にかかる負担が尋常じゃない。だけど、上手くいった!!」

 

あの黒狼鳥の甲殻と鋼を用いた重厚な盾と、薄いエリマキを裂いただけで赤黒い稲妻が激しく迸る剣。会心の一撃を喰らわせた際の威力は、並の片手剣とは比較にならない。

 

 

「おいおい、初撃でやってのけるか!?」

 

確かに…… リハビリがてら、型の動きを予習した時にもやたら勘所がいいとは感じてたが……。

どうにも、あの剣を握りながらの動きは少々質が違う。

一朝一夕では変わらん筈の、特有の癖ようなものが見えて来ない。言ってしまえば別人の動きだ。

 

「──曰く付きって奴か……」

 

同時に試すと言っていた、盾での龍属性対策も当然のようにこなしているように見える。

長年片手剣を扱ってきたからこそ感じる違和感。

決して猛者とは言えない病み上がりのハンターの、初使用の得物での狩り。

すぐそこで繰り広げられている光景は、どう見ても手慣れたハンターによる蹂躙だ。

アレはもう、死線を潜り成長した…… どころの話ではない。

 

 

 

狩り慣れた相手だから。優秀な武器だから……。

 

「次は脚を崩す、その次は首元…!」

 

上手く動けている、この戦い方ならば戦力になれる。

その喜びで気持ちが高まっている事を感じながら、攻撃を重ねているうちに、独特な匂いが辺りに漂っている事に気が付いた。

これは、焼き付いた龍属性が発している匂いだろうか。どこかで嗅いだことがあるような……。

 

人体への影響を考慮し一旦距離を置きつつ、この匂いの記憶を辿る。

 

「……故郷?」

 

フラヒヤ山脈の故郷、それをなぜか思い出す。

いや、ただ思い出すよりもハッキリと……

 

「……!?」

 

匂いに紐付いた情景と体験の記憶が、鮮明に思い起こされる。

 

 

鮮明に…… しかし、これは。

 

「シウニ!どうした!!」

「……! イザナさん、すみません……」

「傷でも開いたか?顔色が悪いぞ」

「……いえ、身体は大丈夫です。畳み掛けます」

 

致命的な殴打から始まった激しい攻めによって、半ば戦意を失っている様子の狗竜に再び距離を詰める。

飛び込むように前転、横に伸ばした右腕を軸に一回転し斬りかかる。狙うは直接、首の血管。

 

「ハァッ…!!!」

 

全ての重さと回転の勢いを乗せた一撃で、深く引き裂く刃と容赦の無い黒雷の炸裂により、狗竜はまともな悲鳴すら上げられずに絶命した。

 

シウニは、至って平静を保っているように見える。

 

 

 

「なぁ、本当に大丈夫かよ……?」

「……少なくとも、身体は問題ありません。ただ……」

「?」

 

狗竜を絶命に至らしめた最後の一撃、その黒雷によって焼き付いた、一際強い匂い。それが最後の一押しだった。

以前からずっとモヤがかかったようにハッキリとしなかった過去の記憶。

 

自身がハンターを志した理由、そのきっかけ。まさに今、それが明確になった。

それも、ほんの数瞬前に目の当たりにしたばかりかのように鮮明に。

 

「昔の事を、思い出しました。俺がハンターになると心に決める直前の事です」

「…………」

 

イザナさんは何も語らない。

しかし、狩人として歴の長いこの人の事だ、大方察しが付けられてしまっているのかもしれない。

珍しくはない、ありふれた話。

しばらくの沈黙の後、既に頭の内で何度も回っている続きの言葉を紡いだ。

 

 

「俺はあの日、復讐の為に剣を握りました」

 

目に浮かぶのは、余りにも無力な己の姿。

 

「両親を殺した、龍を討ち取る為に」

 

この記憶には、何故か色が無い。

 

「なんて目を……してやがる」

 

銀灰色の視界は、(人間)の姿を見下している。

 

 

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