Monster Hunter:Wind Ark 作:カリオロス亜種
永き彷徨の末、行き着く先は人の域
幻視①
街の様子がおかしい。職員や狩人、商人や買い手に至るまで、誰も彼もが落ち着かない様子だ。
ここ数週間のどの騒ぎの時とも違う、異様な空気が漂っている。
ギルド関係者が忙しなく走り回る市場を抜け、狩猟の報告と現状の確認のために酒場へ入ってすぐ、こちらに気が付いた彷徨調査隊メンバー、レイとブルームが駆け寄ってきた。
「ギルドに根拠不明の報告が何個も上がっている、場所はバラバラ、どれも"巨大な蛇"についてだ」
高揚と困惑が同時に押し寄せ、冷や汗が伝う。
そう説明したブルームの表情もまた、焦りが隠しきれていない。
ついにラヴィエンテが見つかった?しかし、複数とは一体……
「報告の内容もデタラメだ。どれもこれも、『巨大な蛇に故郷が食い尽くされる夢を見た』って内容らしい」
「故郷……夢?そんな報告が、同時多発的に?」
不可解な報告はまだあると、バルバレのギルドマネージャーが続けた。
「これは君たちに宛てた報告だね。"彷徨個体"出現及び、"彷徨個体ラヴィエンテ発見" との事だ。尤も、例えギルド関係者からであっても今は情報の信頼性など無いに等しくはあるがね」
多数の場所から示し合わせたかのように報告が上がっていて、その原因も分からない以上、この報告もまた不確定なものと言える。
しかし、少なくとも"巨大な蛇"とラヴィエンテは関係していると見ていいはずだ。
「実はこのバルバレギルド以外でも似たような事が起こっている様子でね。この騒ぎの最中、近隣ギルドから応援要請が届いたのさ。お陰で酒場はご覧の有様というわけだ」
「全てが夢というならまだしも、彷徨調査隊の報告は"出現"と"発見"だ。実際に観測していなければ、この書き方にはならないだろう」
「あぁ、しかしどうする?夢の方だってこの騒ぎと無関係とは言えないだろう、"彷徨個体"に対処する上でも手分けすることになる。ギルドマネージャー、調査隊からこちらへの指示は?」
「報告のある近場の"彷徨個体"を狩猟し、討伐が済み次第速やかに合流せよ。大巌竜ラヴィエンテは既に二番船を用いて追跡を開始しているようだね。采配は君たちの現状を把握している私に委ねられているから、既にラムくんには向かってもらっているよ。シャナくんも先程出発した筈さ」
騒ぎを受けて合流を優先したレイとブルーム、狩猟から帰還途中のシウニよりも先に、2人は報告のあった場所に派遣されていたようだ。
「なるほど、探しても居ないわけだ…… マネージャー、俺たちは何処に向かうべきですか?」
「レイくんとシウニくんは、初めにラヴィエンテが目撃されたというユクモ地方に向かってくれたまえ。ブルームくんには、最後に目撃されたタンジアへ向かって貰うよ。いずれも"彷徨個体"の出現が報告されている。偶然……ではないのだろうね」
「ラヴィエンテは、龍脈に沿って移動しているようでした。"彷徨個体"も、同様に龍脈に何かしらの影響を受けているとか……?」
「確かに、そう見るのが自然と言えるかもしれない。しかし、我々に寄せられた出現報告の中には、龍脈の影響が少ないロックラック管轄地方も含まれていたのさ。ラムくんの故郷である水没林、既に被害が発生している報告が届いたロックラックに、それぞれ向かって貰っている所だね」
該当箇所に到着次第、避難の助力と彷徨個体の対処。もし報告が誤りであれば、村の安全を確認した後に次の候補へ。
「人手も時間も、何より確証も無いが、とにかく向かうしかないようだ。シウニくん、狩猟から帰ってきたばかりだが行けそうか?」
「行けます。問題ありません」
「"巨大な蛇"なんて言葉が各地で囁かれるこの状況、本音としては君達の手も借りたくはあるが、そうも行くまいね。御伽噺にも記されていない未曾有の事態に対する為、手練から新米まで、今この場に居る全ての狩人達に奮闘してもらうとしよう」
急ぎ準備を済ませ、飛空船に乗り込む。
「しかし、故郷を滅ぼされる……か」
奇妙な偶然か、つい数時間前に思い出した記憶と重なっている。
何ヶ月も動かなかった現状が短期間で一気に変わった事といい、少し出来すぎているとさえ感じるが……
「それでも、やるべき事は1つだ」
この獲物でモンスターを狩猟することで、自身の記憶と各地で起こっている謎を解き明かす。
自身の故郷を滅ぼした仇、散々仲間を奪った蛇。恐らくはそのどちらにも繋がるはずだ。
「よう、そういえばしばらくぶりだったな。色々あったから無理もないが、表情が以前とは少し変わったようだ」
「レイさん」
「いい変化にも見えるが……明るい表情とは言えないわな。ブルームのやつも同意見だった」
よく気にかけてくれるレイさんだけでなく、彼にも表情の違いを見られていたようだ。
……たしかに、心情の変化はあった。しかし、あまり人に言うべき変化ではないだろう。
「見覚えがあるのさ、俺もあいつにもな。確か、俺が竜災孤児だって話は前にしたよな?ハンターになる前の俺達の、お互いの表情を思い出しちまった。俺達はいつ死ぬかもわからない身だ、こういう時はお節介でも話せる時に話しておくってのが俺達の師匠からの教えだ」
「ありがとうございます。──少なくとも、今の俺に憂いはありません」
「……そうか、そうだな。そういう顔でもある。ならせめて、余裕は持たせておけよ?教官連中がよく言ってたろ、狩りの基本は食事と睡眠ってやつな」
「それってどこのギルドの教官でも変わらないんですね…… そうですね、改めて肝に銘じておきます」
そういえば、盾が無くても寝られるようになったな。
「じゃあメシにしようぜ、俺達の相手の情報も整理したい」
「確か、この大陸には居ない珍しいモンスターって話でしたね」
かつてジォ・ワンドレオで対峙した異邦の鳥竜。調査の結果、彼が渡ってきた箇所は西竜洋から更に西、まだ発見されていないどこかの島から来たのではと推測されていた。今回の対象も、同様に西からやってきた可能性があると情報が入っている。
資料が少なく、推測した経路と名前以外の殆どの情報はギルドが集めきれなかったようだ。
その竜の名は、珀殻竜ブランガウラ
淡黄色の炎を扱うとされている、白の飛竜である。