Monster Hunter:Wind Ark 作:カリオロス亜種
──ただひたすらに、無我夢中で戦っていた。
相棒を破壊した落とし前をつける。共に戦う仲間もいた。ただそれだけを想い懸命に剣を振った。……
紅霞鳥、ハープスエイルが死に際に見せたあの動き、それは自分たちに向けた最後の抵抗というよりは、自身の過去に思いを馳せ、今を嘆いているかのように見えた。
"彷徨個体"、この竜が歩む旅を、俺がこの手で終わらせたのだ。
「う……!」
身体に痛みが走る。先程吹き飛ばされた時の衝撃によるものだろう。
「大丈夫か!待ってろ、今傷を見る。ブルームは白の信号を上げてくれ、シャナは周囲の警戒を頼む」
燦々と太陽が輝く空に、光の球が打ち上がった。
討伐パーティの狩猟が成功した証だ。
森林地帯の周囲で他のモンスターの対処に当たるために待機していたハンター達が用意した荷車に乗り、ジォ・ワンドレオに帰還する。
街の様子は賑やかで、いつもに増して雰囲気が明るかった。
「おまえさん達、本当によくやってくれたね。これで騒動の元凶は取り除かれ、縄張りの変化も落ち着いていくはずだぜな」
「あぁ、本当に頑張ってくれたな、三人とも」
レイはそう言って自分達ににかっと笑いかける。この狩猟が上手く運んだのはレイさんの堅実な指示あっての事なのに、全く謙虚な人だと笑った。
「今回現れた個体、"彷徨個体"は、各地を飛び回り他者の縄張りに足を踏み入れ続けながらも生き残り続けた故に、その種族としては突出した強さを身につけた個体だと推測できる。慣れない相手の、そのまた強力な個体だったという訳だぜな、このような個体と交戦したものは多くない、ドンドルマギルドにこの個体とこの騒動の事と共に君達の活躍も伝えることにしよう」
「あ、その報告、私が引き受けます!元々私はドンドルマから派遣されてきたので、私が直接見て聞いた事を伝えます」
「うんむ、よろしく頼むぜな」
一行は討伐達成の祝杯の為に、酒場に向かっていた。
「お前ら、例の強力な個体を退けた組だよな?俺らは姿までは見てねぇが、鳥竜とは思えねぇとんでもねぇ咆哮だったな」
「今日の主役はあんたらだ、盛大に祝うぜ!」
今回の騒動に尽力したハンター達を交えて、宴会が開かれる。
「あんたは飲まねぇのかい?」
「ごめんなさい、お酒は飲めなくて」
「そうかい、じゃあもっと食いな!勇敢なハンター殿!」
「おいおい、飲みすぎだぜあんた、あんたもハンターだろうが」
「ははは!あんたらに比べりゃ何の活躍も出来なかったがな!」
この宴会でシウニ達は様々な狩人と腹を割って語り合った。
様々な感情を向けられたが、皆一貫して敬意を持って接してくれていた。それだけ今回の騒動は大きく、解決に向かう事が嬉しいのだ。
宴会は好きだ。ただ、シウニはどこか乗り切れずにいる。
あの時振るった刃は軽かった。にも関わらず狩猟中に斬った時の感触を意識することは無かった。今になって今回の狩猟時の自分の危うさを認識する。
宿に戻り、休息を取る。
結局あの後完全に酔っ払ったレイにたらふく食わされ、少し気持ちが悪い。
「仇は討ったぞ。今までありがとう。」
完全に盾としての機能を果たせなくなったハイドラナイフの片割れを胸に抱き、眠りにつく。しかしその睡眠は浅かった。
"彷徨個体"紅霞鳥の討伐から一週間。引き続き街でアノルパティスの情報を集めていたシウニの元に、ドンドルマから戻ってきたシャナが話しかけた。
「おーいっ!シウニさーん!!」
「シャナさん!お久しぶりです」
「久しぶり〜!はぁっ、はぁ」
「そんなに慌ててどうしたんですか?」
「えっとね、報告する事が二つあります!
一つ目、シウニさんハンターランク昇格だって!おめでとう!」
ハンターランクの昇格、それはアノルパティスの素材の交渉をハンターとして行う為に、引き換えに頼まれた依頼を遂行する力を示せることになる。喜ばしい限りだ。
「そして二つ目!シウニさん、この間アノルパティスの素材を求めて旅をしている……って言ってたよね?その事を一緒に討伐したパーティメンバーの事を話すついでに言ったんだけど、そこでどうやらアノルパティスの狩猟許可が降りたことのあるギルドの設立に関わってた人が現れて、その青年と話がしたいって言ってきたんだよね!」
アノルパティスの管轄ギルド、まさか、メゼポルタギルドの設立に関わった人物…?
これは紛れもない僥倖だった。
「どうかな?一度話してみる気は無いかな、私はワンドレオのギルドマスターに幾つか報告しなくちゃ行けないことがあるから、その後また返答を聞くね!」
そう言うとシャナは慌ただしく走り去っていった。
──勇気を出して立ち向かい、その末に回ってきた大きなチャンスだ、掴まないわけにはいかなかった。
「おまたせ!いやー、ドンドルマギルドってば人遣いが荒いよ」
「お疲れ。それで、さっきの事なんだけど……俺はその人と話してみたい、と思う」
「わかった!そうと決まれば早速ドンドルマに帰ろう!」
「ご、ごめん、わざわざ二往復もさせて」
「いいのいいの!私はしょっちゅうこれだから!それでね、ギルドマスターが、『そういう事ならばレイやブルームも連れていけ』だってさ!あの男の事だから、また何か戦力を集めて面白い事をするつもりかもしれないって」
「戦力を集めて、面白い事……」
こうして四人組のパーティ一行は、ドンドルマギルドへと向かうこととなった。
ジォ・ワンドレオとドンドルマの行き来にかかる時間は、陸路でおよそ三日ほど。"彷徨個体"の討伐により、周辺各地のモンスター達の動きは落ち着きつつあり、スムーズに行き来する事が可能となっていた。
「よう、シウニ。まだ起きてんのか?」
「レイさん、……ちょっと眠れなくて」
「そうかい、こういう時、一緒に酒でも飲めればいいんだがな。……その顔色、ほんとに眠れてなさそうだな。なにか思うことでもあったのか?」
本当に、この人はよく見ている。
「……この前、俺とレイさんで話してた時に言ったこと、覚えてますかね。武器の重さが生命線だって」
「あぁ、言ったような気がするぜ、それがどうかしたのか?」
「俺は、あの狩りの時、武器の重さを忘れていた。命を奪い合うやり取りの最中に」
普段は堅実な立ち回りをするシウニだが、あの時の動きは全く違う、自分の命すら顧みないような不安定さを持つ肉薄であった。
「……奴は、死の間際に空を仰いだ。あの個体が歩んだ旅路の事を思うと、どうにも眠れなくなってしまって……」
「なるほどな、わかってやれるとまでは言わねぇが、俺も過去に似たような事を感じたことがあるぜ。あれは確か、火竜と雌火竜の同時狩猟の時だったかな」
「リオレウスと、リオレイア……その同時狩猟ですか」
「あぁ、あれは中々に骨が折れた。お互いがお互いをギリギリまで助け合って、結局倒す時はほぼ同時だった。ヤツらは命が尽きる間際にその身を寄せ合い、眠るように力尽きた。その時ばかりは俺も狩人が命を奪う意味を考えたさ。」
「わかってるんです、狩人の、命を奪う仕事が人の為、生態系の保全の為になっている事は。ただ、それでもどうしても考えてしまう」
「──……俺は災竜孤児でな、モンスターに襲われて村が崩壊した最中に俺の師匠、大剣使いのハンターに拾われてな。その師匠がある時こんな事を言っていた。」
『モンスターを恨むなとは言わない。仕方のないことだと飲み込もうとしなくてもいい。ただ、生き残ったならばその全てを背に、歩み続ける事だ。それが、倒れた者たちに対する弔いになる』
大剣使い、レイの堅実な強さの根源にある言葉だった。
「その言葉を胸に俺はこうして……ってお前、泣くなよ!そういうつもりで語ったわけじゃねぇぞ!!」
「……ありがとう、レイさん。俺も、同じように進んでみます」
「おうよ、気楽に行きな」
命をぶつけ合い、終わらせた物語の続きを背負い進む。その覚悟が、今できた。
一行はドンドルマに到着し、件の人物が待っているという古龍観測所へと足を踏み入れる。
「ここがドンドルマ……初めて来た。」
周囲が険しい山々に囲まれたこの地は、街の中心部に巨大な階段が聳え立っており、隙間から吹き付ける強い風で風車が力強く回っていた。街の様々な場所には火竜を思い起こさせる緑や赤の装飾が見受けられる。
古龍観測所の門前に立つ竜人の研究者らしき人物から放たれた一言
「おヌシら、風を船で泳いでみる気は無いかね?」
「……は?」
全員が困惑した。