Monster Hunter:Wind Ark   作:カリオロス亜種

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出航⑨

「大きくて立派な船ね……!」

 

ドンドルマより旅立った四人とともにキャラバンに同乗していた、フォルンという名の女性がそう感嘆した。

彼女はこの"砕氷飛空船アルカ"の乗組員のリーダー兼操縦士であり、共に旅をする新たな仲間だ。

キャラバンとの航行中はオリオールと交代で操縦をしていたらしく、彼女とシウニ達は出発前に一度顔を合わせたのみであった。

 

「あの、よろしくお願いします。この船の操縦を担ってくれるんですよね」

「えぇ、そうよ。私の操縦でどこまでも連れて行ってあげるわ」

 

彼女は元々パローネ=キャラバンの一員であり、古龍観測所にその操縦技術と古龍の襲来にも動じない胆力を見込まれ、かつては大型探査船の操縦も任された程のエースパイロットであった。

キャラバンで商いについても学んでおり、飛空船の物資のやり取りも彼女のチームが担う事になっている。

 

「ハンターさんに私のモットーを教えてあげるよ。『一度翼を得た者がその翼を失う時は、自らの身体を忘れた時だ。』我々は地に生きる者だと、二本の足で大地を踏みしめる存在だと強く自覚して初めて、四肢とは別の翼を持つことが叶うのよ。"砕氷飛空船"、いいじゃないの。氷の大地を踏みしめて、どこまでも高く飛ぶことだってできる、まさしく私達にとっての翼ね」

 

彼女のモットーは、恐らく経験から来るものだ。空を飛ぶばかりではなし得ない航海もある。地を踏みしめる脚を持っているからこそ、力強く翔び続けられるのだと。

 

 

 

飛空船が完成して三日、一行はドンドルマへ帰還する事となった。砕氷飛空船アルカ、その処女航海となる。

進水式も恙無く終え、巨大な気嚢が取り付けられる。こちらには、ギルド紋章と共に帆と同じ紋章が刻まれている。一行を乗せた方舟は、今日初めて空を飛んだ。

 

「それではみなさん、お元気で!」

「風邪ひくんじゃないぞシウニ!!」

 

村長や鍛冶屋を初めとした村の面々に送り出され、空の旅が始まった。

航海は順調で、吹き抜ける風が冷たくもあり爽やかでもあった。

 

「心地いい……」

 

この翼が自分達をどこへ運ぶのか、それはまだ誰も知らない。

 

 

 

「さ、寒いぃ」

 

雪国育ちでないシャナは、未だフラヒヤの寒さには慣れずにいた。

 

「レイさん達はなんでそんな平気なの?」

「いや寒ぃよ。ただいい加減慣れてきたし、何よりお前より筋肉があるからな」

「私にも筋肉があればなぁ……」

「お?俺たちみたいな筋肉が欲しいか?ほれ」

「うぅ……そこまでは嫌だけどさ」

「その点シウニの奴は俺たち程の筋肉はねぇのにケロッとしてやがるよな」

「少し寒いけど、平気だよ。今はこの旅を楽しみたい。」

「そうだな。だが俺達はいい加減凍りついちまうから中に入らせてもらうぜ。おーさみぃ……」

 

大きな甲板で一人、広大な景色を見渡す。

ふと、雲の隙間に何かが見えた気がした。

 

「なんだ……?……白い、飛竜?いや、見間違いか」

 

青々とした空に白が混じる。それは単なる雲の群れか、それとも……

 

 

 

一行の航海は問題なく進み、九日程でドンドルマへと到着した。

 

「おぉ、おヌシら、久しぶりじゃな。例の飛空船もよく出来ておるようじゃ」

「お久しぶりです、快適な空の旅でした」

「うむ、なによりじゃ。早速だがおヌシら"彷徨調査隊"に、初の任務を授ける。」

 

自分達の初仕事。身が引き締まる思いだ。

 

「おヌシらにはタンジアに向かい、新たなる彷徨個体と思しき異変の調査に向かってもらう。」

「タンジアだって……?あそこはついこの間も彷徨個体が現れたって話じゃねぇか。まさかまた現れたってのか……?」

「断定は出来んがの。その線が強いと見ておる」

 

度重なるタンジア周辺での異変。もしこれが"彷徨個体"によるものだったとすれば、彼らが何処から来てなぜこの地に訪れるのかを知ることが出来るかもしれない。

 

「タンジアか……また行くことになるなんてね」

「シャナさんはタンジアに行ったことが?」

「うん、少しの間だけどね」

 

タンジアギルドといえば、水中での狩りが行われている数少ないギルドだ。シャナはそこで腕を磨いたのだと言う。

 

「おヌシらの役割は上空からの索敵、補足じゃ。まずはタンジア周辺では見掛けないモンスターを探す事が第一じゃ。補足したら乗組員が観測を行い、奴らがどのような行動をするのかを記録する。場合によっては追跡じゃな。発見されたその場にあまりに長く居座り、生態系を脅かすようであれば狩猟も視野に入れることじゃ。」

「何はともあれ観察ってこったな。その間俺達は周辺のモンスターの対処にあたる事になるだろうな」

「その通りじゃ。あちらのギルドと連携し、上手く立ち回る事じゃな。それともう一つ、我ら"彷徨調査隊"に協力したいという者が居れば、ぜひ勧誘してもらいたいのじゃ」

 

現状はハンターが四人、あとは乗組員数名のみとかなりの人手不足である。

ギルドは"彷徨個体"の関連性について懐疑的な上、未だ何の成果も上げていないことが関係していた。

まずは実績を作りつつ人材確保。全てはそこからであった。

 

 

 

ジォ・クルーク海を越え、西竜洋へ。この地域は南より温暖な風が流れ、ヒルメルン山脈より南に位置する地もまた温暖な気候となっている。

その気候ゆえに様々な生物が息づいており、陸、海、空問わず様々なモンスターの狩猟地となっていた。

 

その海の湾岸部に沿う形で発展した港町、タンジア。

その街は貿易のメッカと呼ばれる程交易が盛んに行われていて、多数の船が波止場に泊まっている様が印象的だ。

山の斜面には風車が多数立ち並んでおり、海岸線には幾つものテントが備え付けられ、活気の溢れる商店街の様相を呈していた。

 

「まずはギルドに説明だ。フォルンさん、説明の為に一緒に来てくれますか?」

「えぇ、同行するわ」

 

一行は飛空船を降り、二人はタンジアのギルドに向かって足を進めた。

様々な船が訪れるこの地ではあるが、流石に飛空船は珍しいらしく、周囲からの視線が集まる。フォルンは特に気にも留めていない様子だった。

 

「ここがタンジア…活気に満ちた場所ですね」

「そうね!ただ、今は少し物々しい雰囲気も感じるわね……」

 

商店街を歩く二人は、通行人の中に、やけにハンターが多いことに気がついた。

間を置かずして二度も異変が発生しているのだ。ギルドも穏やかではないのだろう。

 

「こんにちは、ハンターのシウニと言います。」

「こんにちは!ようこそ、ハンターズギルドへ!今回はどういったご要件ですか?……ってフォルンさん!何故ここに!?」

「やぁ、久しぶりだねキャシー、変わりは無いかい?」

 

どうやら、この二人は面識があったらしい。

驚く受付嬢に、今回の異変を受けてドンドルマより訪れた事、"彷徨調査隊"が"彷徨個体"の調査を目的としている事を話した。

 

「……なるほど。つまり貴方がたが最近噂の"彷徨の狩人"さん……という事ですかね?

タンジアの方でも話題になってたんです、ジォ・ワンドレオでも同様の異変が発生し、対処されたと……」

「まぁ、そうですね……」

 

"彷徨の狩人"……この肩書きはまだ自分には重すぎるように感じて苦手だ。

 

「ギルドマスターには私から説明しておきますね!例の"彷徨個体"が発見されるまでは、周辺のモンスターの対処に当たってくれるという事で間違いありませんか?」

「はい、微力ながら加勢させていただきます。飛空船ならば空からも調査が可能なので、お役に立てるかと」

「ありがとうございます!とても助かります」

「キャシー、暇があったらうちの飛行船を見に来なよ。もうすっごいのよあの船!」

「あはは……時間があったら見に行きますね!」

「現在お役に立てそうなクエストはありますか?」

「そうですね、現在貴方のハンターランクで受注可能なクエストだと……雌火竜一頭の狩猟依頼が届いています、どうやらこの個体も例の如く気が立っているようで……狩猟を頼まれてくれると助かります!」

 

雌火竜、リオレイア……一流のハンターになるためには避けては通れない飛竜種のモンスターだ。この程度の相手は軽々倒してみせなければ、この先役には立てない。

 

「……わかりました、引き受けます!」

「助かります!くれぐれもお気をつけて……!」

 

今回、レイ達三人はそれぞれ別のクエストを受注する手筈になっている。その方が多くの情報を集められるからだ。

 

フォルンは空からの調査の準備を進めるために、一度飛空船に戻って行った。

ここからは別行動だ。

 

「よう、シウニ。ギルドへの説明は終わったようだな」

「はい、依頼も受けてきました。雌火竜一頭の狩猟との事です」

「リオレイアか……やつは陸の女王と呼ばれるだけあって、地上に居る時の行動がかなり苛烈だ。気を抜くんじゃねぇぞ」

「わかりました、必ず成功させてきます……!」

 

先の"彷徨個体"の狩猟、その時に無意識的に行った不安定な立ち回り、それを自分のものにする。自身の確かな訓練の経験をもって地を踏み締め、自身の感覚に従って翔ぶように活路を見出す。その為の登竜門として雌火竜はお誂え向きの相手と言えた。

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