スターリー閉店   作:三十路スキー

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某所で見た『結束失敗バース』に影響を受けて書いてみた。

スターリー閉店IFです。死ネタ注意。


さよならビリー・ザ・キッド

『ライブハウスSTARRYは諸事情により閉店いたしました。ご愛顧ありがとうございました』

 

 扉に貼り紙をする。今日でSTARRYは閉店。理由は客の入りが悪くなって、資金繰りが上手くいかなくなったから。平凡な理由。全て私の責任だ。最終日の『さよならライブ』は盛況のうちに幕を閉じた。出演バンドは選りすぐりのバンドたちだ。メジャーデビューを勝ち取ったバンドも来てくれた。

 客もかなり詰めてもらったが会場は超満員。閉店を惜しんでくれた。でもみんなもっと前から来てくれてたら閉店しないで済んだのに……なんて、口が裂けても言えないけど。

 後始末の都合もあり月末を待たずに閉店となった。明日には中古屋のトラックが来て愛着ある機材や設備達に値段を付けて買い叩いていくだろう。負債が膨らむ前に廃業したおかげで諸々処分すれば借金はあまり残らずに済みそうだ。あとは空になった店舗を不動産屋に引き渡して終わりだ。

 

「店長。今までお世話になりました」

「ああ、PA。お前にも世話になった。ありがとな」

 

 最後に私とPAだけが残った。

 

「うふふ。大変お世話しました、なんて。元PAになってしまいましたけど」

「なら私も元店長だな」

「さよならは言いませんよ」

「そうだな。またいつか」

 

 そこそこ長い付き合いだ。あいつは地元に帰るらしい。暫く今後の事ゆっくり考えたいってさ。他のスタッフたちも散り散りになってしまった。そういう私は新宿FOLTの店長に拾われて、とあるBARで雇われ店長をすることになった。新しく出す系列店だとさ。いい歳してまともに宮仕えしたこともない私にはありがたい話だ。水商売なんてガラじゃないと思ったけど、ライブハウスも似たようなもんか。頑張るしかない。

 

「虹夏、ごめんな」

 

 独りごつ。妹たちのバンド『結束バンド』はあれからぼちぼちと活動して、最近解散した。虹夏たちが進級してから暫く経ってからのことだ。聞いた話だと文化祭の失敗から、少しずつ気まずくなったらしい。あの時は、ぼっちちゃんのギタートラブルを、喜多がアドリブでフォローして二曲目は乗り切った。でも都合よくサブギターがあるわけでもなく、ペグが壊れてぼっちちゃんが途方に暮れて3曲目は無しになった。もしアドリブでボトルネック奏法でも出来れば乗り越えられたかもしれないけど。……ありえんよな、マンガじゃあるまいし。そもそもボトルなんか無かった。

 それからは月1回ここでライブをする以外は特段活動もなく、パッとしないバンドで終わった。もしライターとかギョーカイ人に注目されるようなことでもあれば結果は変わったのだろうか? どのみちガチじゃないバンドに未来はないだろう。

 アマチュアのお遊びバンドで続けるならそれでも問題ないが、それは妹たちの夢と違うものだ。バンドを辞めてからは虹夏は大学進学を目指して勉強三昧。他の3人も別々の道だ。バイトは4人とも最後まで続けてくれた。本当に感謝している。今日はあの子たちだけで打ち上げに行ったみたいだ。山田の家に泊まるらしい。

 でもあいつらがまだ友達でいられるうちに辞めることが出来て、私はよかったと思う。バンド組んでたこともいい思い出になるだろう。

 

 

 

 

 

 電話が鳴る。大学の後輩、岩下からだ。

 

『久しぶりだな。何か用か?』

『今イライザと病院に居ます』

『どうした、また廣井がやらかしたのか?』

『伊地知先輩、落ち着いて聞いてください。……廣井が……死にました』

『……今なんつった!』

『吐しゃ物が喉に詰まって……路上で行き倒れになっていたそうです』

 

 ありえない。あいつは殺しても死なないような奴だ。廣井きくりなんだぞ!

 

『お前は昔からクソマジメで冗談なんか言わない奴だろ? らしくねぇこと言うなよ! なあ!』

『嘘ならどんなによかったか! ……すみません取り乱しました。遺体はご遺族が引き取るそうです。後のこと決まったらまた連絡します』

 

 いくらなんでも出来すぎだろ。27の誕生日に廣井がくたばっちまうなんて。ロッカーが短命なんてそんなの昔の話じゃないか! 最近酒の量が目に見えて増えたと聞いていたがこんなことになるとはな。暫く会えてなかった。私も忙しかったし、あいつもSTARRYに近寄らなくなった。

 

『せせせ先輩! 今日のライブ! 素敵でした……』

 

 思い出すよ。ライブハウスの出待ちで廣井と初めて出会った時、私は大学でバンドやってて、あいつはまだ高校生だっけ。第一印象はいかにも陰気そうなガキ。面識も無いのにいきなり馴れ馴れしく先輩って呼んでくるあいつの顔が妙に印象的だった。

 あの頃はバンドが私の全てだった。ギターで世間に反逆気取ってたあの頃。それも過去の幻。

 

 

 

 

 

「……」

 

 ライブハウスの上階にある私たちの家。物置からギターを取り出す。あの頃の相棒だ。今思えば未練なのか、メンテナンスだけは欠かしていない。でもこれで最後だ。当時でもバイトしまくって買った高級品だけど、今じゃプレミア付いてるらしい。ネットオークションにでも出すつもりだ。今は金が必要だからな。……それに未練も断ち切りたい。

 

「さあ、ラストライブといこうか!」

 

 ライブハウスの鍵を開けて、がらんとしたステージに明りを付け直す。昔やってたバンドでの定位置に立つ。

 

「いい眺めだ」

 

 客席には誰もいない。アンプにシールドを繋ぐ。ひとりぼっちのライブが始まる。

 

 

 

 

 

「……くそっ!」

 

 軽く弾いてみたが、ギターは正直だ。ブランクの長さがしっかりと演奏に跳ね返ってくる。あの頃のようには全く弾けない。

 

『たはー! 先輩、ヘタクソっすねぇ』

 

 聞き慣れた間延びした声、緩み切った赤ら顔が客席の隅に居た……気がした。

 

「あ? 化けて出るなら、せめてシラフで来いよ」

 

 私の声だけがステージに響いた。




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