スターリー閉店   作:三十路スキー

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髪を切ってしまおう

『廣井きくり追悼ライブ アイツダケユウレイ』

 

 あれから少し経って岩下から連絡があった。新宿FOLTで廣井きくり追悼ライブが行われる。遺体は遺族が引き取って家族だけで弔うそうだ。店長曰く廣井はしみったれた葬式なんて望んでいないってさ。

 ド派手にライブやって、大いに笑って送り出してやるつもりらしい。チケットをなんとか都合してもらえることになった。ぼっちちゃんと山田を誘うことにする。虹夏と喜多は受験勉強で忙しいそうだ。

 

「お久しぶりです。伊地知先輩」

「意外と元気そうだな岩下。清水も」

「もう! いいかげんイライザって呼んでくださいヨ!」

「しょげてても仕方ありませんし、廣井にはしみったれたところ見せたくありませんから」

 

 気丈に振る舞うふたり。岩下と清水は山田とぼっちちゃんに目をやる。

 

「来てくれてうれしいよ。山田さん、後藤さん」

「ホラ! ふたりともスマイルスマイルねー!」

 

 岩下と清水が私の一歩後ろにいる山田とぼっちちゃんに話しかける。

 

「どうも……」

「……」

 

 二人とも元気がない。特にぼっちちゃんはバンド解散してから塞ぎ込むことが増えた。そして廣井の訃報だ。学校はかろうじて行っているが、喜多も学校では話しかけられないくらいにとてもつらそうにしているそうだ。

 

「挨拶ぐらいしろ、ぼっちちゃん」

「……こん……にちは」

「すまんな、ふたりともこんな調子で」

「いえ、こんな事になりましたからね。無理もありませんよ。廣井は結束バンドをとても気に入ってました。みんなも廣井を慕ってくれましたよね」

 

「あ、あの……」

 

 ぼっちちゃんが口を開く。

 

「お姉さんが亡くなったなんて……まだ信じられません」

 

 蚊の鳴くような声だ。

 

「本当は生きててひょっこり出てくるんじゃないですか? 私だってまた踏んでほしいですよ」

 

 そういや山田は昔からのファンだったよな。

 

「……」

 

 岩下が黙って首を横に振る。覆らない現実。

 

「私は店長のところに行くよ。来たら顔貸せって言われてるんだ」

「店長は喫煙スペースに居ますよ。君たちはこっちで話そうか」

「じゃあ、また後でな」

 

 私はひとりで奥のスペースに入る。

 

 

 

 

 

 灰皿の横でひとりタバコを吸う壮年の男性。新宿FOLTの店長、吉田銀次郎だ。コワモテだけど心は乙女なおっさん。廣井がそんなこと言ってたっけ。でもその通りの人だよな。

 

「……吉田さん」

「あ? なにそれ。昔みたいに銀ちゃんって呼びなさいな」

「でも……」

 

 昔馴染みだが、これからは労使関係だ。少し躊躇する。

 

「オーナー命令。調子狂っちゃうじゃない」

 

 銀ちゃんは少し肩をすくめてから続ける。

 

「ビジネスの話はまた今度にしましょう。折角雇ってあげたんだからキリキリ働いてもらうわよ。今日はライブ楽しんでいってちょうだい。結構いいバンド集まったから。あれで人望あったのよね廣井ちゃんは」

「……そうっすね」

「あんたも一本どう? ガツンとくるわよ」

「どうも」

 

 銀ちゃんから一本貰って火を借りる。深く吸い込んで煙が肺に流れ込む。なるほどこれはキツいな。銀ちゃんはヘビースモーカーだからな。こっちはこっちで体に悪いだろうに。

 

 

 

 

 

 ライブは大盛況のうちに終わった。どのバンドも粒揃いだったが、私はシデロスとかいうメタルバンドには特に感じるものがあった。

 10代限定のバンド甲子園的なイベント、未確認ライオットで優勝した若手のホープ。メジャーデビューを蹴ってポリシーを貫く姿は10代のガールズバンドとは思えない。大したもんだ。

 特にギターボーカルの大槻は廣井を姐さんと呼んで強く慕っていたという。泣き腫らしたのか目が真っ赤だった。でも出番を見事にやり切った。

 もし仮に結束バンドが未確認ライオットに出ていたらどうだったろうか? 正直デモ審査通過も厳しかっただろうな。もしかして何かが違えば、結束バンドがシデロスのライバルとして切磋琢磨するような関係になっていたかもしれないなと夢想せずにはいられない。あの4人には十分その可能性はあった。

 

「見てなさいよ、ギターヒーロー! 私の永遠のライバル!」

 

 あいつ最後にとんでもないこと言いやがった! ギターヒーローとはぼっちちゃんのもう一つの顔。プロレベルのギター演奏動画配信者。顔も声も出さずに一流クラスの登録数を達成する虚構の英雄。虹夏はぼっちちゃんだって4人での初ライブのときには知っていたらしいが、私たちがそれを知るのはもう少し後だ。

 

「あばばばば!!!」

 

 案の定ぼっちちゃんがドロドロに溶けて爆発四散した。つーかあいつらの間に何があったんだ?

 

 

 

 

 

「ライブどうだった?」

 

 夜の新宿。3人で駅に向かう道すがら問いかける。

 

「……よかったです、とても」

「そうか」

 

 ぼっちちゃんの声が少し明るくなった気がする。

 

「バンドはもうやらないって言ったけど、またやりたいな。やっぱり私はバンドが好き」

「わ、私もです!」

 

 山田もいつもの鉄面皮だけど、少しテンションが高いような気がする。そういや虹夏や喜多はどう思ってるんだろうな。

 お前らはまだ若いんだ。何度でも這い上がればいい。

 

 

 

 

 

「髪を切ってしまおう」

 

 自宅に帰って独りごちる。バンドをやってたあの頃みたいに。またイチからやり直しだ。明日は美容室に予約を入れる。




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