スターリー閉店   作:三十路スキー

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私がおばさんになっても

「今日はスターリー復活記念ライブにお越しいただきありがとうございます!」

 

 虹夏のMCがライブハウスに響く。新生スターリーの開店記念ライブだ。あれから結構な時間が過ぎた。あたしはすっかりアラフォーになって、虹夏たちも20代半ば。今はそれぞれ社会人だ。数年前に結束バンドを再結成した。アマチュアバンドとしてコツコツと続けてきた甲斐あってか最近レーベルに所属できた。ストレイビートとかいう弱小なインディーズらしいけど。

 それから数か月後、以前から計画していた『スターリー復活』ついにその時が来た。前の店舗とは違う場所だけど、下北沢でライブハウスを再開できた。

 

「一番手は私たち結束バンドです! 盛り上がっていきましょう!」

 

 ライブハウスはキャパいっぱいの観客が詰めかけている。客席には昔馴染みだった連中もちらほら居る。あの頃に結束バンドのファン1号2号を自称してた連中も最前列で応援している。そしてふたりちゃんも。大きくなったな。それを私は事務スペースから遠巻きに眺める。PAや照明、主要なスタッフたちはあの頃のメンバーを出来るだけ集めることができた。

 

 ――高校生ぐらいの、おさげ女子。似ているだけか。ああいう奴はどこにでもいる。

 

 

 

 

 

「今日はお招きいただきありがとうございます、伊地知先輩」

「岩下、今日は来てくれてありがとうな。会うのはもう何年ぶりだっけ」

 

 ライブの合間、休憩時間に昔馴染みと少し話す。大学時代の後輩にして、元シックハックのドラムス岩下志麻。廣井が死んでから、バンドは解散。岩下は他のグループに入る気は無く、暫くはサポートメンバーやドラム教室の非常勤講師をして生計を立てていたと聞く。正直、他のバンドからも引く手あまた、メジャーデビューも夢じゃなかったろうに。つくづく廣井も罪な女だ。こんなに一途でいい女なんだぞ。それを置いて逝ってしまうんだからな。

 

「お前確か、今は音楽学校の正社員だっけ? すごいじゃねぇか」

「そんなことないですよ。責任ばっかり増えて給料全然上がりませんし。それに社員になったら、生徒にドラム教えるだけってわけにもいきませんからね。日々勉強です」

「まあ、そうだろうな」

 

 今日も仕事上がりで来てくれた。スーツ姿がキマっている。昔みたいにいかにもバンドマンって感じのスカジャンってわけにはいかないんだろう。

 

「向いてない営業もやらされます。私、人間関係とか結構不器用なんですよね。こういうのは廣井の方が向いてたんでしょうけど。もちろん酔ってるとき限定で」

「バカ言うな。万年酔っ払いを雇うような会社があるか」

「ですよね……ははは。先輩こそ頑張りましたよね。本当にすごいです、尊敬します」

「それほどでもねぇよ。ここまで来れたのは銀ちゃんたちのおかげさ」

 

 飲み屋をやりながら、昔馴染みや新しく出来た仲間たちの協力を受けて開店資金やその他諸々を集めて店を再開できた。もちろん私も必死に金を貯めたし、あちこち手を尽くした。

 銀ちゃんは今日も仕事でこちらには来れないみたいだけど、大きな花を店に贈ってくれた。なぜかうちに縁の無い大槻ヨヨコの花もある。結束バンドへのエールだろうか。シデロスはメジャーデビューを果たして今もプロの最前線で活躍中だ。

 

「そういや清水はどうしてるんだ? 故郷に帰ったと聞いたけど」

 

 清水イライザはシックハックが解散した後、母国のイギリスに帰ったそうだ。

 

「イラストの仕事をやっているそうです。あとバーチャルオーチューバ―も。コミマとか出てた時は趣味レベルでしたけど、今はかなり上手くなってました。近々結婚するみたいですね。オタク同士で国際結婚だーって、盛り上がってました。式はライブ配信するみたいなので、ぜひ参加してやってください」

「そっか。あいつも上手くやってるな。ま、今日はライブ楽しんでいってくれ」

「ええ、そうさせてもらいます」

 

 

 

 

 

「ふう。いつもこの調子なら言うこと無いんだがな。これからが大変だぞ」

 

 ライブが終わって、スタッフも全員帰った深夜のスターリー。今夜のライブは満員御礼。大盛況の内に終わった。今度こそ何十年も続くハコにしてやるぞ。ババアになってもずっと店長続けてやる、なんて思いながらステージに立って店内をぼんやりと眺める。後は戸締りをして帰るだけだ。

 

「よう、今日のライブは楽しめたか?」

 

 何となく客席のあいつに声を掛ける。誰も居ないと分かってるくせに。

 

「……」

 

 セーラー服の彼女はにっこりと微笑んで、消えた。




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