「よう、久しぶりだな」
片田舎にある墓地。廣井の墓、久々に来たよ。ライブハウスを再開してから早数年。私は多忙な中でもなんとか時間を作ってここに何度か足を運んでいる。私以外にも岩下や銀ちゃん、大槻なんかがたまにやって来て墓の世話をやっているらしい。
廣井の奴、いいとこのお嬢様だったんだな。もちろん山田と比べるほどではないけど、地元の名士ってやつで結構裕福な育ちみたいだ。あんだけ好き勝手やって、立派なお墓を立ててもらったんだから。
……家の墓には入れてもらえなかったんだな。つまんねー人生を拒んだ代償、なのかもな。
「虹夏が言ってた。ぼっちちゃん、彼氏出来たらしいぞ」
墓の前にしゃがみこんで独りごつ。
「びっくりだろ? まさかあのぼっちちゃんがだよ? ホント、よかったよな」
コミュ障で陰キャでギター以外はどうしようもないあの娘。でもとってもいい娘なんだ。やっとそれに気づいた男がいたってことだろうか? もしカラダ目的だったらタマ潰してやろうかな。正直それもありえるかも知れん。ぼっちちゃん、顔とスタイルはいいからな。今度ライブに招待するらしいから、私たちみんなでゆっくり見定めてやるとするかな。私たちの大事なぼっちちゃんだ。絶対幸せになってほしい。
「さて、綺麗にしてやるか」
持ってきた掃除道具で廣井が眠る場所をしっかりと洗ってやる。綺麗な御影石の隅々まで、汚れの溜まりやすい窪みもしっかりと洗って磨いて……と。花瓶代わりのカップ酒の空き瓶、花を替えてやる。
「よし。綺麗になった。さて……」
墓の前で胡坐をかいて、鞄から『おにころ』を取り出す。
「喜べ。今日は2本あるぞ。大槻からも預かって来たんだ」
紙パックの安酒にストローを刺して墓に供えてやる。今日は贅沢に2本。多忙なはずの大槻がわざわざ私のところに来て預けてきたおにころ。高い酒じゃないからって文句言うなよ。私が飲む分も取り出しておこう。
それにしても大槻の奴、最近はすっかり丸くなったな。昔のあいつならテレビのバラエティなんか絶対出ないだろうに。死ぬほど負けず嫌いなあいつが司会者の芸人に散々弄られてヘラヘラ笑ってたよ。人は変わるもんだ。それがいいか悪いかはわからねぇけどさ。メジャーなバンドマンも大変だ。
「乾杯」
紙パック同士を軽く当てて乾杯の代わり。私はもっぱらビール派で日本酒は普段飲まない。ましてやコンビニ売りの安いおにころなんて学生の頃廣井に飲まされて以来か。
「つぁー! まっず! こんなもんよく飲んでたな。喉が焼けそうだし、のど越しも後味も悪いのなんの!」
正直ひどいもんだ。まあ、あいつは現実逃避で呑んでただけだから酔えれば何でもよかったんだろうけど。それにしても、な。口直しに『いいこりんご100』を飲む。ほのかな甘さが口に広がる。やっぱこれだな。
「へへ。お前なんかは一夜限りでヤらせた男の数も覚えてないほどなのに、まともな恋愛もできずに死んじまったんだからさ。悔しいだろ? 悔しかったら化けて出て来いよ! ……お願いだ」
最近は精神科で貰ってる薬が効いてるのか、部屋にもどこにも『廣井きくり』は出てこなくなった。あんなに聞こえてた声も全然聞こえない。それはいいことなんだ、いいことなんだよ。もう虹夏にも迷惑を掛けることはないしな。
――もう一度だけ逢いたいよ。きくり。
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