スターリー閉店   作:三十路スキー

5 / 8
蛇足ですが、久々更新。これでホントにおしまい。


蛇足 仏滅トリシュナー

 そういや廣井が逝って今年で10年が経つ。私はもうアラフォー。そりゃほうれい線や目元の小皺も気になるわけだ。虹夏たちも正直メジャーデビューは厳しい年齢だ。でも、あいつらは諦めていない。

 

「お姉ちゃん、CD借りるね」

「ああ、好きに持ってけ」

 

 私の部屋、我が物顔で棚を物色する妹。それを特に咎めることはしない。私たちの関係性は、あの頃から少しも変わっていない。

 

「じゃ、これにしようかな」

 

 虹夏が手に取ったのは廣井のバンド、シックハックのベストアルバム。ファン投票で曲を選んで作った最初で最後のベストアルバム。結局メジャーデビューは叶わなかったけど、ファンに恵まれたいいバンドだった。

 

「サイケデリックは好みじゃないって言ってなかったか?」

「いいじゃん。たまには聞きたいの。それに廣井さんのバンドはやっぱ特別だよ」

 

 虹夏はいつもの『にひひ』とはにかんだ笑顔。いくつになっても可愛いな、おい。

 

「そうかい。好きにしなよ」

「ありがと。じゃあ借りてくね」

 

 虹夏は結束バンドを再結成してから、暫くして仕事を辞めた。私がまだスターリー再開のために奮闘していたころの話だ。優秀な虹夏でも、正社員とガチでプロを目指すバンド活動との両立は厳しかったようだ。会社を辞めると言い出した時、私は折角いい大学を出て大企業に入ったのに勿体ないと必死で止めたよ。姉としては当然だろ? 父さんも交えた家族会議は大揉めした。でも結局は虹夏の熱意に私たちが折れることになった。

 私は不器用なりに夢を追って頑張ってきたし、後悔はしていないつもりだ。虹夏にも悔いのない選択をしてほしい。……ゴメン父さん。親不孝な娘たちで。

 虹夏は資格を取って時間の融通が利く訪問ヘルパーのバイトをやっている。元々人の世話を焼くのが好きな奴だ。介護は天職かもな。

 

 

 

 

 

「入籍おめでとう、リナ。まさかお前が身を固めるとはな」

 

 プロドラマーのリナ、私の元バンド仲間。私の身勝手でバンドを解散してからもダチでいてくれた親友。まさかスタジオの社長と結婚するとはな。結構な歳の差婚だよ。

 

「ありがと星歌。そっちはいいオトコいないの?」

「うっせーな。私は仕事と結婚したんだよ。そういや山田は元気か?」

「ああ、リョウちゃん? シゴト頑張ってるよー! 相変わらずの不愛想だけど」

 

 虹夏のバンドメンバーにして親友の山田リョウ。今はリナと一緒にスタジオミュージシャンをしている。ネットで作曲仕事も引き受けているらしい。クソニートだった時期もあったが、音楽活動で食っていきたいという意識は昔から一番高い。

 大学を卒業してからは、流石に親には甘えられなくなったらしい。生活していく以上、好きなことだけではやっていけない。あいつなりに地に足を付けてがんばってるんだな。今度スマホアプリの楽曲担当が決まったって。山田がらしくなくはしゃいでたってのはリナの談。

 

 

 

 

 

 リナとの飲みが終わって、帰りにふとスマホを見てみると、喜多のイソスタが更新されている。一時期に比べたら更新頻度も大人しくなったもんだ。たまには見てやろう。

 ……ああ! ぼっちちゃんと喜多が2人で写ってる! しかもぼっちちゃん顔崩れてないし、溶けてもない! おいおい、こりゃ明日は槍が降るぞ! つーかやべー! ぼっちちゃん超かわいい!!

 

 そういや喜多は憧れだった小学校の先生を激務と鬱で退職した。今はバンド活動の合間にソロでストリートミュージシャンをしながら、派遣を転々としている。美容関係やイベントのMCなどが多いらしい。彼氏は居ない時期が無いけど、続かないみたいだ。

 

 そして、私のぼっちちゃんは半年で彼氏と別れたがすぐ立ち直った。ギターヒーローの人気は全盛期の半分以下、ちょっとしたミスで正体がバレるもあまり話題にならなかったほどだ。あんなに可愛いのに。現在は昔やってたスーパーの仕出しバイトに居ついている。あれで、パートのじいちゃんばあちゃんたちに可愛がられているらしい。コミュ障も多少はマシになった。たまにはスターリーでもバイトしてほしい。籍は残してるからな!

 

 地道に社会人バンドをやってる結束バンドは華々しい活躍とは現状無縁だ。人生そう上手くいくわけじゃない。マンガやアニメじゃねえんだからさ。でも、あの4人が今でも音楽を楽しめてるんなら、それはそれでいいんじゃないか、なんて私は思うわけだ。

 

 

 

 

「君、ベースボーカルか。珍しいね。……準備が出来たらオーディション始めようか。言っておくけど、うちは厳しいぞ。気合い入れな!」

「は、はい!」

 

 ベースの女の子が返事を返す。大学生ぐらいでおさげ髪が似合っている。しかし、こいつら何となく見覚えあるな。やせっぽっちの陰気そうなベース、美形だけど男みてーなドラムス、青い目のガイジンさんギター。

 ……まんま廣井のバンドじゃねーか!

 

「よし、いい返事だ。いい音聞かせてくれよ」

 

 スターリーの経営は相変わらずカツカツ自転車操業だけど、なんとかやってる。シモキタでは若手バンドの登竜門的な存在として認知されるようになってきた。厳しくやってきた甲斐があるってもんだ。

 見てろよ廣井、このライブハウスをサイコーのハコにしてやる! 今居るのが天国だか地獄だか知らねぇけど、死んじまったこと絶対後悔させてやるからな!

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。