スターリー閉店   作:三十路スキー

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蛇足は続くよどこまでも。


蛇足3 水の中にいるようだ。

「えー、店長の吉田銀次郎です。今日は来てくれてありがとうね」

 

 目が覚めると、私は新宿フォルトに居た。……おかしいな、昨日はしこたま飲んだ後、何とか自宅の最寄り駅まではたどり着けたけど、アパートまで帰れなくてゴミ置き場に飛び込んでそのまま寝落ちしたはず。つーか、なんだこれ。私だけが天井にプカプカと浮き上がってるみたいになってら。おもしれー!

 

「こんな時だからこそ、明るくしなきゃって思うんだけどさ。ズズッ……ダメね、アタシったら……」

 

 ……って言ってる場合じゃないわな。なんでステージに銀ちゃんが立ってるわけ? 随分畏まっちゃって。つーかさ、あのメイク命の銀ちゃんがスーツにノーメイクで人前に出てんだよね。ピアスまで外しちゃってまぁ。そんなマジメちゃんだっけか? なぜか鼻なんか啜っちゃって、花粉症か? 季節外れのさ。それに普段はこんな挨拶なんてしないで、すぐ1曲目の演奏から入るのがフォルトの流儀なのに。

 

「うぐ……えぐ……きくりぃ……グス……」

「イライザ……もうライブ始まるんだからさ……」

 

 いつもバカみたいにはしゃいでる観客も今日は静かなもんだ。あら、グズグズとすすり泣いている奴がいると思ったら、イライザじゃん。そんなとこで何やってんだよ? そいでさ、肩を持ってるのが志麻ときたもんだ。2人ともらしくないクラーい恰好してやんの。どうしたんよマジで。

 

 ――これじゃまるで、誰かの葬式みたいじゃん。

 

「今日のライブ、急な募集だったにも関わらず、ぜひここで演奏したいってバンドが沢山いてくれてね。まあ、時間も無限ってわけにはいかないから、こちらで選ばせてもらう形になったわけだけど、本当に申し訳ないわ」

 

 お、やっぱライブすんだよね? そりゃ新宿フォルトで他にやることないし。

 

「あんたたち! 今日は楽しんでいってね! 思いっきり盛り上がって、大いに笑って送り出してあげましょ。さあ、辛気臭いのはこれでおしまい!」

 

 銀ちゃんが袖に引っ込んで、入れ替わりに大槻ちゃんたちが入って来る。

 

「1番手、シデロスです。この曲をきくり姐さんに捧げます」

 

 ん? この聞き覚えのあるイントロは……。ハチャメチャな変調子で唯一無二の世界観。メタルにアレンジされてるけど。あれ? こいつはまぎれもなく『ワタシダケユウレイ』だよね。私が作詞作曲した。一番のお気に入り曲。ライブでは1曲目はこれと決めてるんだよね。……ってちょっと待てよ!

 

『ふざけんな! お前ら堂々と人の曲パクッてんじゃねぇ!』

 

 めちゃくちゃムカついて叫んだけど、声にならない。誰も私の存在に気づいてくれない。どーなってんだ、全く意に介されてない。

 

「姐さん……」

 

 大槻ヨヨコが感極まって続ける。イントロは止まらないで続いている。大槻の奴、ギター弾きながらMCしだしたぞ?

 

「今日は志麻さんとイライザさんの許可をいただいて特別に演奏させていただいています。……姐さん。天国にコンサート行くったって、早すぎますよ。もっと貴方の曲を聞きたかった! 声が聞きたかった! もっと一緒に居たかった! 教えてもらいたいことだって沢山あったのに、それはもう、叶わない……」

 

 おいおい、大槻ちゃん? 何言ってんだよ。それじゃまるで私が死んだみたいじゃないか。え、あれ? 死んだ? 私が? なんで?

 

「廣井きくり追悼ライブ、1曲目は『ワタシダケユウレイ・メタルアレンジバージョン』よ! アンタたち、振り落とされないようしっかり着いてきなさい! みんなで姐さんをアツく送り出してやるんだから!」

 

 

 

 

 

 ――あれ、私死んでたんだ。それに、ステージでワタシダケユウレイだなんて出来すぎてんよ。まるで神様が用意した悪趣味なギャグみたいじゃない。

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