スターリー閉店   作:三十路スキー

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 最後の蛇足。

 2026最初の投稿です。あけましておめでとうございます。
 今年はぼざろ以外の二次創作かオリジナルに挑戦出来たらと思っています。


蛇足4 ラスト・クリスマス

『本日のライブは終了いたしました。お気をつけてお帰り下さい』

 

 ――私が状況を理解できず唖然としていると、ライブは終わっていた。

 

 ふと思う。伊地知先輩との思い出って、あんまり無いんだよね。先輩のライブを初めて見てからずっと憧れていた。志望校のランク落としてまで同じ大学に入って、所属サークルも調べて行ったのに。

 

『伊地知先輩のバンド? とっくに解散したよ』

 

 サークルの人が教えてくれた。先輩は2年ダブっている。今年こそは卒業しなきゃいけない。先輩なりの意地なのか単位を取るのはバンド関係の知り合いには頼りたくないらしく、授業はいつも全出でテストもバッチリらしい。

 で、なんかバイトを掛け持ちしているらしく、時々サークルで会ってもいつも忙しそうで目にクマを作っている。就活してるわけでもなく、やたら守銭奴で金貯めてるのは、当時は何か目的があるみたいだとしか分からなかった。それがライブハウスをやるためだなんて、当時は知らなかったけど。

 そして私との関係といえば、たまに連絡が来たと思って喜んでいたら、パシリに使われるぐらいだ。

 

『廣井、タバコ買ってこい。お前の金で』

 

 正直なにこいつって思ったね。こんなことが何度もあって、なんでこんなロクデナシに憧れてたんだってなった時もあったよ。でも、たまにすげー優しいんだ。機嫌が良いとジュースなんか奢ってくれちゃって。……大袈裟だけど、世間でよく言う『DV彼氏』ってこんな奴なのかなって思ったりする。まあ、素面の時は酔っ払いな今とは違ってプロレス技までは食らわなかったけどさ。

 

『終電逃したから泊めてくれ』

 

 大学1年のクリスマスイブ、一度だけ先輩を下宿に泊めたことがあったっけ。しこたま飲んで酔っ払った先輩と狭いシングルベッドで二人寝るはめになったっけ。

 でも翌日にネイルのやり方を教えてくれたんだ。バンドマンになりたかったら見た目をちゃんとしろってさ。私も一応女のくせにマニキュアの一つも塗ったこと無かったってのも情けない話。

 今でも、あの時先輩に教えてもらったやり方でやってる。まあ、死んじまったからもうできないけど。何となく先輩との絆のように思えるんだよね。……他のやり方調べるのめんどくせーのもあるけど。

 

『これ? 妹だよ。可愛いだろ』

 

 妹さんの写真も見せてくれた。まだ小学生だって。髪を赤いリボンで結っている。笑った顔がなんとなく先輩に似ていた。

 

 ――先輩が卒業してから、私たちは疎遠になった。

 

 バンド活動が忙しくなって、酒の量が増えた。ライブのプレッシャーを忘れるために飲んでいたのが、いつの間にか飲んでいない自分が肯定できなくなった。なんだろうな。世界が社会が隣人が、何もかもが恐ろしくなって、素面では居られなくなったんだ。元からのネクラとアルコール依存のチャンポン。これがたまらなく悪酔いを起こすんだ。イライザを加えたあたりから、バンドは軌道に乗り出した。未確認ライオットの優勝あたりから名前を上げて、今じゃ新宿ナンバーワンのインディーバンド。一般知名度は皆無だけど、ギョーカイではカルト好みでマニアックながら、それなりに稼げるようになった。

 でも。そんな私は先輩に合わせる顔が無かった。スターリーのこけら落としに招待されたのに、理由を付けて行かなかった。狭いギョーカイ、いつか鉢合わせしそなもんだけど、出来る限り先輩を避けていた。偶然ぼっちちゃんに出会ってスターリーでライブすると知るまでは。

 ぼっちちゃんには感謝している。先輩に会いに行く決心がついたのは君のおかげなんだよ。まあ、いつも以上に酔っぱらってないとあの階段を下ることはできなかったけど。

 

 

 

 

 

 あれから、永い時が過ぎた。過去も未来も時間そのものが曖昧になった。三途の川は無く、閻魔様も居なかった。なんとなくこの世界に漂うように存在している。いつまでこうしているのかもわからない。でも聞いた話では『生まれ変わり』があるらしい。

 

「おーっす! 先輩!」

 

 あれから何十年か後のクリスマスイブ。先輩の誕生日だなんて妹ちゃんたちが企画ライブするまで知らなかったけど。

 やっと来たんですね先輩。まあ、ここでは私が先輩なわけですけど。

 

「え? お前は……廣井、なのか?」

「お久しぶりです、天才ベーシスト、廣井きくりでーす!」

「あー。つーかさ、ここどこなんだよ? なんか若返ってるし。80過ぎのババアだぞ、私」

「一番マシな地獄らしいですよ。なーんもないところ。天国は人口過密で、滅多なことでは行けないらしいですし。あ、これどうぞ。なんか酒だけは無限にあるみたいですから。」

「げ、おにころかよ。これ嫌いなんだよね。ビールねえの?」

「えー。贅沢言わないでくださいよ先輩」

 

 深い地獄に落ちるほどの悪人でもなく、天国に行けるほどの善人でもない。まあ、ほとんどの人類当てはまるわな。妹ちゃんあたりなら天国いけるかもね。

 

「つーか暇人なんすか? 向こうでも私にちょくちょく会いに来てくれてたみたいっすけど」

「あ? うるせーな。私が墓参りしてやんねーと、朽ち果てて無縁仏になるだろうから仕方無くだよ」

「……嬉しかったですよ。だからこうして『お迎え』に来たわけですし」

 

 先輩はライブハウをスやっていたあの時の姿。私もあの頃から変わらない。

 

「それじゃあ、行きましょうか。もう未練はありませんか?」

「ああ、もう悔いはねぇよ。好きなように生きて。生涯独身だったがな。ハハハ」

「地獄にも音楽はありますから、退屈はしませんよ」

 

 ――生まれ変わっても、またロックやってんでしょうね。私たちは。




 これで完結とします。2期が始まる頃には、
 もちっとリアル寄りのサイドストーリーとか書ければいいな。
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