陽も落ちはじめ、空が朱色に染まる頃。
ビーッ!!ビーッ!!
『!?』
アビドスの館内に、そんなけたたましい警報の音が鳴り響いた。
『け、警報?』
「…うん。不審者が現れたり、非常事態があった時にアラートが鳴る仕組み。でも、ヘルメット団は当分動ける様な状況じゃないはず…アヤネちゃん!!何があったか確認できる?」
ホシノの指示よりも早く、アヤネは既にパソコンを開きいち早く状況を把握していた。
「ちょっ、ちょっとホシノ?ヘルメット団はこないだ倒したはずでしょ?他にアビドスを狙ってる組織なんて…」
「いんやー?居ないとも限らないよ。元々、治安はそんなに良い方じゃ無いしね。ヘルメット団が何を目的にアビドスを襲ってたのかもよくわかんないし。となると…やっぱりあいつらの裏に居た誰かの仕業じゃ無いかなー?」
「校舎より南15㎞付近で大規模な兵力を確認!ヘルメット団ではありません!!あれは…傭兵です!!恐らく日雇いの!!」
「これ以上近づかれるとちょっとまずいかなー。よし、それじゃあみんな出よっか~。大丈夫、絶対なんとかなるよ。」
振り向いたホシノはショットガン片手にそう言って、こちらにいつも通りの気の抜けた笑顔を向ける。
それを見て、教室内の緊迫した雰囲気がいくらか和らいだのを感じた。
彼女が「大丈夫」と言えば本当に大丈夫なのだろうと、彼女の「絶対」が真に「絶対」なのだろうと、そう心から信じられるが故の安心。
(組織のトップとしては、生徒から学ぶことの方が多いな…)
上に立つ者としての資質を目の当たりにしながら、私は彼女たちの後を追って外に出た。
校門から約100m程の地点。道を埋め尽くすようにしてこちらに向かってくる人々が見える。そのほとんどが深くかぶったヘルメットで顔が見えない状態だった。戦闘中の防護と個人情報の保護を兼ねているのだろうか。
「前方に傭兵を率いている集団を確認!!」
無線機から聞こえてきたアヤネの声に従って前を向くと、傭兵たちよりも一つ前、隊列の最前列。そこにいた四人の少女に、私はひどく見覚えがあった。
「あれ………ラーメン屋さんの?」
呆然と、困惑を隠しきれずノノミがそう呟く。
傭兵を率いていたのは、あの柴関ラーメンで【便利屋】と名乗った少女達だった。
『もしかして、お店で言ってた仕事って...』
「誰かと思えばあんたたちだったのね!!ラーメンも無料で特盛にしてあげたのに、この恩知らず!!」
セリカの怒髪冠を衝く勢いの怒号が木霊して、リーダーらしき少女は気まずそうにしながら少したじろぐ。
その横から出てきた小悪魔の様なオーラを纏った少女は、この気まずくなるような状況をも楽しんでいるようで、面白そうに笑っている。
「あははは、その件はありがと。でもそれはそれ、これはこれ。こっちも仕事でさ?」
「......ん。なるほど、その仕事って言うのは、便利屋だったんだ。」
静かな様子でそういうシロコだけど、言葉の端からは静かな怒りが滲んでいる。後輩の優しさを踏みにじられたと思って憤慨しているのだろう。
だけど、彼女らは違う。
踏みにじっているなどとは、きっと考えていないのだ。あの時紫関で受けた恩にはきっと心の底から感謝している。恩を感じてすらいる。そしてその上で、彼女たちは
「残念だけど、公私ははっきり区別しないと。受けた仕事はきっちりこなす。それが、仕事の基本だから。」
そう、割り切っている。
あの世界でも蔓延している【便利屋としての基本】に、忠実に従っているのだ。
「ダンテ。まさかこの世界で、こんな子たちに合うことになるなんて思わなかったね。」
『…そうだね。』
ロージャの苦虫を嚙み潰したような表情に、私はただ一言そう答えてこの後に起こるであろう事に備えてPDAを手に取り人格を被せた。
「もう!!学生ならもうちょっとクリーンなアルバイトもあったでしょう!?どうして便利屋なんか!!」
「ちょっ、アルバイトじゃないわ‼︎れっきとしたビジネスなの、肩書だってあるんだから‼︎私が社長で、こっちが室長で...!!」
自慢げに笑みを浮かべながら、他の三人を肩書と共に紹介していく彼女の様子は、自分の作った砂の城を自慢げに見せつけてくる子供のようだった。
「社長...ここでそんな自慢げに言うと余計に薄っぺらさが目立つ。」
「……おじさんたちもあんまり暇じゃなくてさー。誰の差し金か答えてくれないかなぁ?」
一瞬流れたコミカルな雰囲気を両断したのはホシノだった。顔に浮かべている笑顔とは対照的に、目が一切笑ってない。暗い影が差すその笑顔に思わず、背筋が冷たくなった。
「ふふ、残念だけどもちろんそれは企業秘密よ。」
「まぁ、そうだよねー。こうなったら」
「ん、力づくで口を割らせるしかない。」
シロコのその言葉を皮切りに、その場の全員が戦闘態勢に入った。
銃が構えられるときにわずかになる金属音と、
夕焼けに照らされた校門前で、恩知らずの血戦が幕を開けた。
「『総員、突撃』よ!!」
重なった掛け声によって、双方同時に発砲が開始される。
数は圧倒的に相手が有利。となると、この状況をどうにかするには私の指揮による部分が大きいだろう。
『ノノミ、弾幕を張って正面を牽制!!ホシノは便利屋のショットガンの子をマークして!!』
「「了解!!」」
『ロージャは時間貸与を使ってノノミの射程から逸れた子達の殲滅を頼む!!資源が貯まるまでは広く動いて撹乱してくれ!!』
「わかったわ、ダンテ。」
『セリカとシロコはーー』
と、二人に指示を出そうとしたその時だった。
「人が多いと、一人一人指示してちゃ大変でしょ?」
「えっ?」
『ノノミ!!』
指示を出すのを優先したせいで、ノノミの背後から飛びだしてきた便利屋の一人への反応が遅れた。ハンドガンを持った彼女は軽い身のこなしでノノミへと接近し、彼女の銃を蹴り上げ懐へと入る。
「ノノミ先輩!!」
慌ててセリカがノノミを助けようと向かっていくが、そこは既に敵の思惑通り。
「ナイスだよ、カヨコちゃん!!」
セリカと少女の間に黒いバッグが投擲され、反応する間もなくそれは強大な衝撃と共に爆発した。
「セリカ!!」
「ふふ、ここ、ですよね?」
ドォォォンッ!!
「シロコちゃ……っ!!」ガァンッ!!
(狙撃……!!方角はわかるけど、煙のせいで正確な位置が分からない…!!)
「シロコちゃん、大丈夫⁉セリカちゃんとノノミちゃん、無事なら返事して~!!」
「ん、私は大丈夫…」
「わ、私も大丈夫です~。」
「ケホッ…私も大丈夫!!でも、っ対処が追い付かない!!こいつら結構強いかも!!」
無線越しに聞こえる声でわかる切迫した状況。
敵の数が多いと言うのはもちろんあるが、それ以上に私の指示が追い付いていない。
私は外壁へと身を隠しながら戦場の様子を注意深くのぞき込む。銃撃戦が主体のこの世界じゃ、元の様にただ後ろに立っている状況だと流れ弾を喰らう可能性が高いためどうしても遮蔽物に隠れる必要が出てくる。
何とか指揮をしてはいるものの、戦闘指揮をするにおいて全体を見渡せない環境というのはかなりのハンデだ。これまではちょうどいい遮蔽があったか、敵があまり強くなかったおかげで何とかなっていたが、このように纏まった組織となるとそうもいかない。
(参ったな...徐々に追い詰められてる。せめてまともな視点を確保できれば...アヤネのドローンで中継してもらうか……?いや、するとただでさえギリギリな回復支援が間に合わない可能性がある...。なにか、ないか?)
「お困りですか!!先生!!」
『アロナ?』
私の考えを見透かしたかのようなタイミングで、シッテムの箱からそんなアロナの声が聞こえてきた。
『えーっと、実はそうなんだ。ここからじゃ全体が見渡せないせいで指揮がしづらくて。』
「あ、そういうことですか!!なら、このアロナちゃんにお任せください!!」
アロナが意気揚々とそう言うと同時に、私の持つPDAとシッテムの箱がふわふわと目の前で宙へと浮き上がった。
『え、ちょっとアロナ。何を…』
「むむ...ちょっと気難しい子ですね...。なら、形をそのまま...えいっ!!」
ガキンッ!!
そんな接合音の様な音がしたかと思えば、私の前の前に半透明なスクリーンが展開された。出力するものも、モニターも何もない状態で、ただ青いホログラム映像だけが私の目の前に浮かんでいる。私が頭を動かせば、画面もそれに合わせて動く。どうやら私の動きと同期しているようだ。
「これが、アロナちゃん特性の戦闘補助システムです!!左側の切り替えボタンを押せば、先生がもともと持っていたタブレットの機能も使えます。生憎、統合はできなかったので戦闘時以外はいつも通り使い分けてもらう必要があるんですが……。」
アロナが”まぁ、しょうがないですよね”みたいな目でこっちを見てくるが、私としてはこんなシステムを提供してくれた時点で十分だ。スクリーンには今も尚激しい抗戦を繰り広げる生徒の姿が鳥瞰したように映っていた。識別タグがあるようで、味方の名前は水色で、敵の姿は赤いマーカーで表示されているようだ。
指揮をする土壌としてはこれ以上ないぐらいだろう。
視界は確保した、後は私の指揮の実力だ。
目の前の画面をじっと見つめていると、あることに気づいた。
画面を拡大したり縮小したりして、画面上に映っている、他のメンバー、構成員の配置と周囲の地形に目をやる。
…これなら、もしかすると状況を打破できるかもしれない。
私はすぐに行動へと移した。
『皆、これから指示を出すからよく聞いてくれ。』
ーーー作戦はこうだ。
ダダダッ!!
「んーー?逃げちゃうの黒猫ちゃーん?」
「ふふ、敵がひるんでるわ!!皆、畳みかけなさい!!」
【ーーまず、機動力に特化したシロコとセリカで敵を陽動してくれ。さっきの戦いを見た感じ、恐らく爆弾がそこら中に設置されてるはずだけど…】
シロコとセリカは背後から飛来する銃弾を直観的に回避しながら、ぐるりと円状に旋回しながら戦場の中を駆けていく。
そして、陽動の先。シロコとセリカが交わったその先。
「っ、社長!!今すぐ皆を退かせて!!」
「え、え?どうしたのカヨコ。」
【だけど、シロコとセリカは戦場の外側じゃなくて内側の方を走れば大丈夫だと思う。恐らく、そこら辺の爆弾はあらかた爆発させた後だ。そしてそのあとは…】
「間に合うかの保証はないわよ、ダンテ!!」
いつの間にいたのか。燃えた炭の様なドレスを身に纏ったロージャは廃墟から戦場の中心へ向かって飛び降り、その炎に包まれた斧を振り下ろした。瞬間、激しい爆発と共に炎が吹き上がり、周囲を炎で包み込む。
バチッ
【………爆弾は、戦場の中心を囲むように設置されてた。だから、まず縁の中心へ傭兵を誘導する。そしてそのあとは…】
『………頼むよ、ロージャ、ホシノ。』
【全部、爆弾起爆させちゃおう。】
ドォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!!
刹那、轟音が耳を焼いた。
目の前で連鎖的に起こった爆発はとんでもない爆風と熱を放ち、思わず学園の外壁へと身を潜めた。黒煙がもくもくと立ち込め、そしてその中から現れた『なにか』が一陣の風となって、私の横を通り過ぎた。
「あ、あっぶなかったー…巻き込まれると思ったわよ!!」
「ん…私も少しひやひやした。」
黒煙の中から現れたのは、ロージャの小脇に抱えられたセリカとシロコの二人だった。
「はぁ...ダンテも無茶言うわよね~。【爆弾を爆発させた後、『時間貸与』で加速して二人を連れてすぐ戻れ】…だなんて...おかげで時計に入ってた時間全部使いきっちゃったわよ。」
『でも、成功したんだからよかったよ。T社のドンキホーテが、昔戦闘中に似たような事をしているのを見たから、それでできるかなって。』
「一歩間違ったらこの子達はともかく、ダンテが時計を回すことになってたのかもね?でも、いい賭けだったわよダンテ♪」
《あーあー、皆無事―?聞こえてるー?こっちも終わったよー。》
無線機からホシノの声が聞こえてきて、同時に煙が段々と晴れていく。そして次に私の目の前に広がっていたのは、地面で伸びている大量の傭兵たちと、ホシノとノノミの二人によって制圧された便利屋の姿だった。
「ーーーいやぁ~、びっくりしたよ。まさかまだ閃光弾なんて隠し持ってただなんて。」
「あの紫の子...ハルカだっけ?一番何するかわからないわね。次あったら注意しないと。ね、ダンテ?」
あの後、情報を引き出そうとしていたところでハルカの隠し持っていた閃光弾が炸裂し…
【これで終わると思わないことね!!覚えてなさいよー!!】…なんていう三流悪党みたいなセリフを残して、便利屋の四人衆には逃げられてしまった。
「あ、おつかれさまです皆さん。妙な便利屋にまで狙われるとは...先が思いやられますね...。」
「まぁまぁ、目の前の事から一個ずつやってけばいいんだよアヤネちゃん。おじさんも、一度に色々考えるのは疲れるしさぁ~。」
「まぁそうねー。私も...んっ...今日はゆっくり寝たいかも。ふわぁ...」
皆の疲労困憊ぶりを見て、私も少し重く感じる肩を何回か回した。空ではうっすらと月が顔を見せ、橙色の空の端が黒に染まっているのが見える。
『それじゃあ皆、また明日。』
「「「「また明日!!」」」」
軽い労いを込めた言葉を告げて、私はアビドスに背を向けた。
【悪いけど、こっちも仕事でさ?】
【残念だけど、公私ははっきり区別しないと。】
あの便利屋の少女の言葉を思い出しながら、私はふと上を見た。
いつかの、血袋と化したフィクサーの言葉を思い出す。
『…………それはそれで、これはこれ、か。』
子供と大人の境界線は何処なのか。ふとそんな疑問が浮かんだが、それはすぐに星空へと消えていった。
砂漠の中には、大人である私だけが残った。
というわけで、この二か月文をまともに書いてないのでほんっとに駄文になってること請け合いですがどうかそこは目をつぶっていただければなと思います。
さて、ちょっと色々ありまして次いつ投稿できるかが未定の状況ですが。読んでくれてる人には申し訳ありませんが、早くても10月とかになると思います。評価と感想お気に入りは図々しく待ってます。
それでは今回も読んでくれてありがとうございました。次回の舞台はブラックマーケット。ファウスト(曖昧さ回避)さんの登場です。エルデの獣ぐらい首長くしてお楽しみに。