リンバスアーカイブっ!!!!!   作:粉末蜜柑

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思ったより文字数が多くなってしまいました。続きはたぶんその日のうちに上がります。
黒雲イシュとヒース楽しみっすねー。出血パ強化ありがてぇ!!!


1‐12 ん 、 銀 行 を 襲 う

「ふぅ...ここまでくれば大丈夫ですかね。」 

 

 

約一分の逃走劇は、ビルを数個挟んだ通りについたことでようやっと幕を下ろした。

 

 

「ヒフミ、ずいぶんここを危険視してるんだね。」

 

 

ほっと一息つくヒフミに、息の一つも上がっていないシロコが聞く。

 

 

「え、それは...そうですよ。連邦生徒会の手が及ばない、数少ない場所の一つですから。ブラックマーケットだけでも、学園数個分の規模に匹敵しますし、決して無視はできないかと……。」

 

 

そこから続けて、ヒフミはブラックマーケットがどのような場所か。自分が知っている範囲で話してくれた。

 

ブラックマーケットは、複数の学園の自治区を跨いで存在するかなり大規模な市場であり、その規模の大きさ、内情からもはや連邦生徒会ですら手が出せない場所になってしまったらしい。

 

手が出せない要因として、様々な「企業」による利権争い。マーケットガードを始めとする非認可の治安機関、金融の発展など、ブラックマーケット内でキヴォトスの秩序とは乖離した一つの社会構造が完成してしまっているのが主な原因らしい。

 

キヴォトスほとんどを統括、管理する連邦生徒会でも、ブラックマーケットに与する数多の企業を相手取るには人手不足であるということなのだろう。特に連邦生徒会長?が失踪した現在であれば猶更のこと。

 

 

(…待てよ、大勢の企業がここに与しているという話なら、そのうちのどれかが幻想体を研究してギフトを横流ししたという可能性は…)

 

 

ない、と言いたいところだが、実際に私の手元に記念硬貨がある以上それも完全には否定できない。 

それにブラックマーケット程実情が不明瞭な場所はこのキヴォトスでも数少ないという話だっただろう。もし私の悪い想像がただの想像に留まらなたかったとしたら…

 

 

「よし、決めたー。先生もそれでいいよね?」

 

 

思案に耽っていた私の意識を揺り戻したのは、ヒフミの説明を聞き終えたホシノの一言だった。

 

 

『え?あ、ごめん。ちょっと考えごとをしてた。何の話?』

 

「もうダンテ~?ちゃんと気を引き締めなきゃ。」

 

『…焼き鳥を片手に言われても説得力がないよ、ロージャ。』

 

 

いつの間に買ったのか、焼き鳥三本を指の間に挟んだロージャに気を引き締めろと注意された。確かにボーっとしていたのは事実だが、それでも遺憾である。

私の言葉を聞いて、ロージャは気まずそうに目線を逸らした。それでも焼き鳥を食べる口の動きは止まらない。あぁほらシロコも食べ始めてしまった。

 

 

「今、ヒフミちゃんに助けてあげたお礼に案内役を頼んでたんだー。この場所を随分と良く知ってるみたいだし?」

 

「あ、あうう...私なんかでお役に立てるかはわかりませんが…アビドスの皆さんにはお世話になりましたし、喜んで引き受けます。」

 

「よーし、決まり。それじゃあちょっとだけ同行お願いね?」

 

 

こうして、一時的に同行者となったヒフミを連れて、私たちは再びブラックマーケットの奥へと進んでいった。長く歩いているとお腹が減るもので、露店で軽食を購入したりなどしながらゆったりと進んでいたが、生憎ヘルメット団の兵器の手掛かりも、便利屋たちの手掛かりもなにも見つからなかった。兆しすらなく、それでも私たちは歩き続ける。

 

 

「はぁ…しんど。」

 

 

セリカの口からぽつりと言葉が零れると、それを皮切りに他のメンバーも続々と口を開く。

 

 

「まぁ、もう何時間も歩いてますしね~...」

 

「流石におじさんも限界かも~。腰も膝も悲鳴を上げてるよー。」

 

「えっ...ホシノさんはおいくつなんですか...?」

 

「ほぼ同年代!!」

 

 

そんなヒフミとセリカによるコントの様なやり取りも聞こえてきた。

皆表に出さないだけでそうとうキている。長時間の移動に、この炎天下だ。無理もないだろう。流石にどうにかしないとな...

 

 

『…ん?』

 

 

ふと横を見ると、道路沿いの道に一つ屋台が開かれているのが見えた。

掛けられている看板にはでかでかと「たい焼き」と書かれている。聞いたことのない食べ物だ。文字から推測するに、焼き魚でも売っているのだろうか。幾つかテーブルと椅子も置いてあるみたいだしちょうどいいだろう。

 

 

『みんな、あそこで休んでいくのはどうかな?お金は私が出すから。』

 

「え、いいんですか先生?私のカードもありますけど…」

 

『流石にこんな場面で生徒に支払わせるわけにはいかないよ。休憩を提案したのは私だし。』

 

 

そう言って、生徒たちを休ませて私は屋台に向かう。鏡ダンジョンでも、ショップでは囚人を休ませ買い物は私一人でしていることが多い。代わりに戦ってくれている分、せめて束の間の休憩時間くらいはしっかりとした休息をとってほしいというのが私の考えだ。

 

 

「まいどーー!!」

 

 

店主から、やけに甘いにおいのする紙袋を手渡されみんなの下へと戻る。

 

 

『はいみんな、たい焼き。私は食べられないから、みんなで食べていいよ。』

 

「わ~☆ありがとうございます先生!!」

 

「え、わ、私もいいんですか⁉」

 

『ヒフミも疲れてるだろうしね。遠慮しないで。』

 

 

私の言葉を聞いて、ヒフミも満面の笑みを浮かべながら紙袋に手を入れた。

どうでもいいことだが、たい焼きというのは中にクリームやあんこが入ったお菓子の事であり、焼き魚の一種ではなかったようだった。わざわざ鯛の形にして焼き上げるところに遊び心を感じて、私は少し感心する。

 

 

「おいしい!!」

 

 

セリカが満面の笑みで声を上げる。どうやら、生徒たちは大層喜んでくれたみたいだ。

 

 

「ん~やっぱ最高ねこれ!!裏路地の屋台と同じものがこっちにもあるだなんて思わなかった!!」

 

 

…訂正しよう。喜んでいるのは生徒だけではなかったようだ。

 

 

「アヤネちゃんには、戻ったら私の方から何か御馳走しますね。私たちだけでごめんなさい…」

 

《あはは、大丈夫ですよノノミ先輩。私はここでゆっくりお菓子とかつまんでるので。》

 

「安心なさいアヤネ?ちゃ~んと帰りにダンテがお土産買って帰るから!!」

 

『…そうだね。アヤネにも何か買っていくよ。』

 

《あ、ありがとうございますダンテ先生。楽しみにしてますね。》

 

 

アヤネの声を聴いて、私も漸く椅子に座って一息つく。いくら食事の必要がないとはいえ、精神的な疲労はどうしても付きまとってしまう。早いとこ何か見つけて帰りたいものだが…

 

 

「それにしても…」

 

 

たい焼き片手に、ヒフミがそう切り出す。何か気づいたことがあるようだ。

 

 

「皆さんが探している戦車の情報…ここまで見つからないなんてありえないです。なんか妙なんですよね。アレくらいの兵器の情報なら、ここを歩いていれば何かしら見つかるはずなんですけど....」

 

 

私たちだって、ただ店を見て回っていたわけじゃない。様々な店の店主に直接の聞き取りだってしていた。だが、答えはどれも一貫して知らぬ存ぜぬというものだったし、似たようなものを見つけた溶け結局は別物ということがほとんどだった。ただ私たちの運が悪いだけとも思っていたが、どうやら彼女によるとそうではないらしい。

 

 

「販売ルート、保管記録....すべて何者かが意図的に管理しているような…アビドスの皆さんが直面してる問題って、明確に巨大な力を持った何かの気配がするんですよね。でも、幾ら企業でもここまでブラックマーケットを統制するのは不可能なはず…。」

 

 

ヒフミはドツボにハマってしまったようで、一人でうんうん唸っている。

 

 

「もぐ…ヒフミの話だとここで大きな力を持ってるのって企業なんでしょ?こんなところで開き直って悪さしてきた奴らが、今になってこそこそ隠蔽ってそれこそおかしな話じゃない?」

 

 

ロージャの指摘はもっともだ。食事という行為に人間が罪悪感を感じないように、それが当たり前だと思っている人間はその行為に対して自責の念を持つことがない。むしろ自分たちの常識こそがこの世界の秩序だと言わんばかりの態度で堂々としているものだ。そこに遠慮といったたぐいのものは存在しない。

 

 

「うーん…となると考えられるのは、企業とはまた違う組織…銀行とかでしょうか。例えばあのでっかい建物は、ここらへんで一番の闇銀行です。キヴォトスで行われる犯罪の15%の盗品があそこに流されているそうで…横領、強盗、誘拐などの様々な犯罪によって獲得した財貨が、また別の武器兵器(かたち)で他の犯罪に使われる…ブラックマーケット(ここ)では、そんな悪循環が起こっているんです。」

 

「でも、それが周知されてるってことは銀行も企業と変わらない。あいつらも結局犯罪組織の一つ。」

 

「似たような悪党がいっぱいいるのも大変だね~。」

 

「もう全部一気に潰しちゃえばいいんじゃない?」

 

『ロージャ…連邦生徒会が出来なかったのに、私たちだけでできるわけないでしょ。』

 

 

それもそっか、と言う様にロージャは肩を竦める。

これからどうしようか、と私が空を見上げたタイミングで、アヤネから緊急の通信が入った。

 

 

《お取込み中失礼します!!そちらに武装した集団が接近中!!まだ気づかれてはいませんが、身を隠すことをお勧めします!!》

 

アヤネからの通信が切れるのと同時に、私たちは急いで近くの茂みに身を潜めた。

 

「あれって…マーケットガード⁉み、見つかったらまずいですー!!」

 

『マーケットガードって、さっきも言ってたけどそんなにヤバいの?』

 

「ここら辺の治安機関でも最上位の組織です!」

 

「そんなのに見つかったら何されるかわかったもんじゃないわね…。おチビちゃん達、少し声は小さくね。」

 

 

茂みの中で、私たちは息を潜めてマーケットガード達のいる方向を注視する。

 

 

「…パトロール?護衛中の様ですが…何を…」

 

「トラックを輸送してる…現金輸送車だね。」

 

「あれ…あっちって…」

 

『…闇銀行に入ったね。』

 

 

護送されていた現金輸送車は、そのまま進路を変えることなく真っすぐ闇銀行へと向かっていく。その先には闇銀行のスタッフらしき人間が立っている。

車が止まると、そこから一人の機械(にんげん)が現れた。そしてその人間を見て、私の隣にいたヒフミ以外の面々の空気感が一変した。

こういう時、真っ先に声を上げるのはいつもセリカである。

 

 

「ちょ、ちょっと待って⁉あいつ、毎月うちにきて利息を受け取りに来る銀行員じゃない!!」

 

「あれ、ほんとだ。」

 

 

何が何だかわからない。ヒフミも同じ状況の様で、私たちは互いに助けを求めあうように視線を送る。だがヒフミが何も知らないことは当然だし、私も現金回収の場面に立ち会ったわけじゃないからもちろんわからない。ただ一つわかるのは、アビドスから徴収された現金が、あの闇銀行に送られているということで…

 

 

『………ん?なんで皆の払ったお金が、あの闇銀行に運ばれてるんだ?』

 

《わ、わかりません!!車も確かにカイザーローンの物です。今日の午前中に利息を支払ったときのあの車と同じようですが、なぜそれがブラックマーケットに…⁉》

 

「か、カイザーローン⁉」

 

 

無線機からアヤネのそんな声が聞こえてくると、今度は私の隣にいたヒフミが声を上げる。なんだ、なんだか混沌としてきたな。

 

 

『知ってるのヒフミ?』

 

「カイザーローンと言えば…かの有名なカイザーコーポレーションが運営する高利金融業者です…。」

 

「有名…って、なんかまずい噂でもあるの?」

 

「カイザーグループ自体は犯罪を起こしてはいないんですが…合法と違法の間のグレーゾーンでうまく振舞っている多角化企業で…様々な学園自治区…トリニティにもかなり進出しているのですが、生徒たちへの悪影響を考慮して【ティーパーティー】でも目を光らせています。」

 

『ティーパーティー…』

 

「ふーん、あのトリニティの生徒会がね…」

 

 

ホシノはティーパーティーの名前に何か思うところがあるようで、少し表情が冷たくなった。過去に、何かあったのだろうか。

 

 

「ところで、皆さんの借金ってもしかしてその…カイザーローンから?」

 

「借りたのは私たちじゃないんですけどね…」

 

「まぁ、その辺はややこしいから今はいいよ。ところでアヤネちゃん、さっきの現金輸送車の走行ルート、調べられる?」」

 

《少々お待ちください……うーん、駄目ですね。全てのデータをオフラインで管理しているようで、全然ヒットしません。》

 

「うへ、やっぱりかー。セキュリティ対策万全だ~。」

 

「…さっきから聞いてれば胸糞悪いわね。」

 

 

しばらく黙って話を聞いていたロージャが、突然そんな言葉をこぼした。どうやら多少憤りを覚えているようで、表情は強張っている。

 

 

「だって、この子達が頑張って稼いでいたお金は、ずっとそんな犯罪者共のために使われていたってことでしょ?この子達が毎日汗水垂らして、自分の学校のために頑張って頑張って頑張ったその結果、徳をしてるのは汚い成金どもだけ。この子達がなんたってそんな...!!」

 

『…落ち着いて、ロージャ。まだ確実にそうだと決まったわけじゃない。』

 

 

少し感情が高ぶりすぎているようだ。冷静さを欠いたロージャを見て、生徒たちも驚いたような表情をしている。

 

 

「あ、そ、そうねダンテ。ごめん、ちょっと興奮してたかも。はは、みんなもごめんねー。アタシ、ちょっと熱くなりすぎちゃったみたい。」

 

「…ううん、大丈夫。ありがとね~、先生。」

 

 

ホシノからの感謝の言葉で安心したのか、彼女は直ぐにぎこちない笑顔を浮かべた。

 

彼女(ロージャ)は、その優しさ故に燃える憤怒の炎を、理性の寒波で無理矢理抑えつけている人物だ。その燃え上がる衝動のままに動くと、取り返しのつかないことになってしまうことを、彼女はよく知っている。その果てに身を切るような後悔が待っていることも。

そして、その炎を調節するのは、管理人である私の役目だろう。

 

 

「うーん…証拠、証拠……あ。」

 

「あれです!!さっきあの人たちがサインしてた集金確認の書類……それを見れば証拠になりませんか?」

 

『…それだヒフミ!!』

 

 

ヒフミから提案された起死回生の一手に、私は思わず声を上げた。

いつかイサンが言っていた。アナログでデータを管理する利点は、けっしてハッキングされないことだが、最大の欠点は物理的に持ってくることが可能になってしまうという事だと。

 

 

「あはは……でも考えてみたら、書類はもう銀行の中ですし…無理ですね。ブラックマーケットでも最も強固なセキュリティを誇る銀行の中となると……。それにあれだけの数のマーケットガードが目を光らせてますし……。でもそれ以外に輸送車の集金ルートを確認する方法は…ええっと…」

 

「うん。」

 

 

突然、シロコが謎に納得したような声を出して前に出た。気のせいであってほしいが、彼女の声には今までにない程の歓喜の色が含まれている気がした。いや、普段とあんまりトーンが変わらないから気のせいかもしれないし、気のせいであってほしいんだけど。

 

 

「他に方法はないよ。ホシノ先輩、ここは例の方法しか。」

 

「なるほどねー。やっぱりあれしかないかー。」

 

「あ、あれですね!!確かにあれなら足も付きませんし、大丈夫そうです!!」

 

「あぁ~、前準備してたあれ?まぁ確かに書類を取りに行くだけだし、大丈夫よね♪」

 

「え、もしかしてあれのこと言ってる!?噓でしょ⁉先生も本気で行ってるの⁉」

 

 

何やら、ロージャ含めてアビドスの面々は皆何の話をしているのかが分かっているようだ。私はこの疎外感を誰かと分かち合うべくヒフミに視線を向けた。彼女もおろおろとした様子で周りの様子を見るが、何の話をしているのか一向にわかったもんじゃ…

 

 

『ちょっとまってシロコ、その覆面何?』

 

 

シロコのカバンから取り出されたのは、色とりどりの覆面だった。一体何のためにそんなものを取り出したのだろうか。シロコに渡された覆面を次々に装着していく面々を見て、なんだか嫌な予感が胸中に広がっていく。

 

覆面を装着したシロコの目が、こちらを見つめる。そして周囲に敵もいないのに銃を持ち、襟を正して覆面を更に深くかぶった。そうして、全ての準備を終えた彼女が口を開く。

 

 

「ん、銀行を襲う。」

 

 

言葉を聞いて、私は唖然とする。

私が見た中で最高に堂々とした犯行宣言をする彼女の表情は、これ以上ない程晴れやかだった。

これから繰り広げられる混沌が、楽しみなことこの上ないとでもいうかのように。

 

 


 

 

【アビドスによる銀行強盗決行一時間前】

 

 

ぷるるる

 

アビドスとゲヘナ自治区の境界線近くに位置するビルの一室。便利屋68の事務所として使われているその一室で、現代(いま)にそぐわない黒電話の音がけたたましく鳴り響く。

 

 

「アルちゃん、何してんの?電話でないの?」

 

 

室長であるムツキの呼びかけに、アルは答えない。

机の前で、回るタイプの椅子をくるくると回しながら虚空を見つめている。彼女は何も言わない。

 

 

「表情が暗いね…もしかしてクライアント?」

 

「うわそりゃそんな顔にもなるわ。失敗したって報告しないとじゃん?」

 

「アル様…」

 

 

カヨコの推論から始まり、ムツキによる同情とハルカによる心配がその後を追う。

養わなければならない社員たちからの哀れみや悲観の感情をいちどに浴びて、流石にただ黙っているわけにもいかなくなったのか。

 

ガチャーー

 

アルは未だしつこく鳴り響く黒電話にようやく手を伸ばした。

 

 

「はい…便利屋68です。」

 

 

受話器の奥から、妙に低い男の声が聞こえてくる。機械的なその声は淡々と、されど反論を許さぬ高圧的な言い回しでアルに要件を伝えていく。

 

 

《今までの練習は見ていたよ。それで、本番はいつだね?》

 

「え。」

 

 

ーーこないだのが本番だったんですが…

 

なんて言えるはずもなく、アルは少し口ごもる。だが、

 

 

「も、もちろん実践はすぐにでも、という感じで!!え、…はい、あ、えっと一週間以内には…はい。」

 

 

よりにもよってこの場面で、彼女お得意の『見栄』が出た。

それは時に己を守る強固な鎧にもなり得るが、出しどころを間違えれば己を挫く障壁になり得る。今回は完全に後者だ。引きどころを見誤ったものに用意されている結末は、いつであれ搾取のみである。

 

 

「ふふっ、はい、そうです。…お任せください。」

 

 

その了承の言葉を最後に、小さな会合は終了した。

受話器を置いたアルはすぐさま背もたれに体を預け、口をぽっかりを開けたまま天井へと視線を預けた。

 

 

「やつれたねぇ、アルちゃん。」

 

「社長、いったいどういうこと…?まさか、また戦うの?」

 

「…あのクライアントは、私も詳しくは知らないけど、超大物なのよ。提供された資金も、提示された報酬の規模も普通じゃなかった。この依頼、失敗するわけには行かないのよ。」

 

「だけどアビドスの連中、思ったより強かったじゃん。それに、あの二人の先生たちが一緒にいる以上、私たちだけじゃ無理だと思うよ?お金も全部こないだので使い果たしちゃったしね。どう戦うのさ。」

 

「わっ、私がバイトでもしてきましょうか?」

 

「その稼ぎで傭兵を雇うには、全員後一年は働かないと....」

 

 

ごくごく自然に始まった作戦会議。

うら若き四人の少女たちは必死に知恵を振りぼるが、でた意見のどれもが非現実的であり空虚な物であった。

 

こうして、あわや再びのテント生活かという雰囲気になったその時。

 

 

「…融資を受けるわ。」

 

 

そう言って、アルは立ち上がった。

 

 

「は?アルちゃんはブラックリスト入りしてるでしょ。」

 

「違うわよ!!私は指名手配されて、口座が凍結されただけ!!」

 

「そうだっけ?…あ、そうだった。風紀委員会にやられたんだよね。」

 

「くっ、風紀委員会め…ここまで痛めつけられるとは思わなかったわ。」

 

 

悔しそうに言葉を漏らすアル。事実、彼女の口座は現在凍結されており、引き出しはおろか振り込みすらできない。現在彼女たちがこんなに困窮した生活を送っている理由の原因の一つがここにあった。

 

彼女はもとよりこまめな性格であり、口座に残されていた貯金もかなりの物であった。なのにもかかわらず、彼女の資産は凍結された。その懸命に積み上げてきた城は一瞬にして瓦解し崩壊したのだ。

 

 

「中央銀行に行っても、門前払いだろうねー。」

 

「通報されなかったら幸運ってくらいだね。」

 

「うるさいってば!!他にも方法はあるんだから!!」

 

 

やけになったかのように。アルはハンガーにきっちりかけられていたお気にのコートを手に取り羽織る。

 

 

「待ってなさいよアビドス…このままじゃ終わらないんだから!!便利屋のミッションはこれからなのよ!!」

 

 

そんなセリフを勢いよく叫びながら、彼女は勢いよく事務所を飛び出した。

その様子を後ろから見ていた他の社員たちも、お互い顔を見合わせた後ゆっくり歩いて彼女の背中を追う。

 

彼女が向かうのは、混沌と悪性の集合地帯。

不合理な秩序が引かれた無秩序(なんでもあり)の世界。

 

…世界の流れは今回も、彼女たちを引き結ぶことを選択したのだった。

 

 

 

 

 

 




というわけで銀行強盗実行は次回に持ち越しです。
とはいえ、一話を途中で二分割して出しただけなので続きも今日中に上がると思います。相変わらずTNPが悪くて申し訳ない。でも俺はこのままいくぞ俺は。

それではまた次回もお楽しみいただければ幸いです。お疲れさまでしたー。


PS.最近コメント返せてなくて申し訳ないです。そのうちまとめて返します。
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