リンバスアーカイブっ!!!!!   作:粉末蜜柑

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時差の影響でまだギリギリ二月三日です。
今回の話は何回か迷走して気が狂いそうになりながら書きました。
気が狂ったので文字数が一万近くありますけど最後まで読んで楽しんでいただければ幸いです。

それではどうぞ。


1‐13 行こう!!あの夕日に向かって!!!!!!

 

~ブラックマーケット 銀行内部~

 

 

「アル様、これでは融資は難しいですね。」

 

「え、えっー!?」

 

 

そんな少女の悲痛な叫びが銀行内に木霊する。

最期の頼みの綱であった銀行からの融資。それが断ち切られたということはすなわち、彼女ーー便利屋68の社長、陸八魔アルには打つ手が無くなったことを意味する。

 

 

「まずはより堅実な職に就いてみるのはいかがでしょうか。日雇いや期間工など手っ取り早く始められるものもありますが。」

 

「は、はああ!?」

 

 

融資してもらうために来たはずなのに、その自分の職をすら小ばかにされる始末。流石の彼女も思わず怒りの声が漏れる。

当然だが、この時の彼女の心中はとても穏やかとは言えなかった。

 

 

(ムカつく……もう大暴れして、銀行のお金を持ち出しちゃおうかしら。……いや、でも持ち出せたとしても、ブラックマーケットから抜け出す途中でゲームオーバーね…いやでももしかしたら大したことないかもしれないし、私たち四人でなんとか…)

 

 

そんな様々な考えが胸中を渦巻くが、結局のところ彼女には一番肝心な物が足りていない。

それは、大それたことを実行するために必要な途方もない『勇気』。ブラックマーケット全体を敵に回すほどの度胸を、彼女は持ち合わせていなかったのだ。

 

 

(くそっ、何よこれ、情けない…キヴォトスいちのアウトローになるって心に決めたのに、私は…)

 

 

理想と現実の乖離(ぎゃっぷ)に、アルの思考が揺さぶられる。

 

 

(私が望んでいるのはこれじゃない…何事にも恐れず、何事にも縛られない、ハードボイルドなアウトロー…)

 

(そう…なりたかったのに…)

 

 

思い描いていたハードボイルドなアウトロー。それは、今の自分の様につまらない問題に囚われているような人間では決してない。むしろ、彼女は今の自分がその理想のちょうど対極に位置していることに気づいている。故に、彼女は苦悩していた。

 

 

「アル様、融資の承認はおりませんでした。お力に成れず、申し訳ありません。」

 

「あ、え?降りなかった⁉ちょ、ちょっと待ってーー」

 

 

無慈悲な最終通告に、アルが懇願にも近い態度で身を乗り出したその瞬間。

 

 

パッ!!

 

 

ブレーカーの落ちる音が聞こえ、銀行内は一瞬で暗闇に包まれた。

影の中で、その場にいた人々の悲鳴や怒号が木霊する。

 

 

「な、何事ですか⁉停電!?い、いったい誰がーー」

 

 

と、刹那。

 

 

ダダダダダダッ!!

 

 

「っ、銃声!?」

 

 

暗闇の中で、銃声が響き渡った。アルは瞬時に姿勢を低くし、近くに待機させておいた仲間たちへと声をかける。

 

 

「み、みんな大丈夫!?」

 

「あ、アルちゃん?こっちは全然大丈夫~!!それにしたっていったい何が..。」

 

 

便利屋の面々が困惑を隠しきれないでいる最中も、空間内ではマーケットガードの悲鳴が響いていた。

そうして、何回かの絶叫がが止み、再び銀行に光が灯った時。

 

 

「全員その場に伏せて!!持っている武器は捨てて!!」

 

 

そんな言葉と共に、覆面の銀行強盗達が姿を現した。

 

 

「ひ、非常事態発生!!ひじょうじたいはっせ…もがっ!!」

 

 

助けを求める銀行員の口が、赤い液体で覆われ塞がれる。

脳に酸素が行き渡らず、その銀行員はしばらくもがいた後意識を失った。幸い命はあるが、この騒ぎの間目を覚ますことはないだろう。

 

 

「はぁ…まだ主役が出てきてすらいないのに騒ぐなんて、パレードの楽しみ方を知らないのね…。」

 

 

覆面集団の背後から現れたその紫のドレスは、様々な意味で異質に映る。

歪な蝶の形をした仮面をつけた彼女は、室内だというのに日傘をさしたまま、興味なさげに目の前の光景を眺めていた。

 

 

「ほら、そこ!!伏せてってば!!下手に動くとあの世行きだよ!!」

 

 

それが脅しに留まらないことは、誰の目にも明らかだった。

恐怖に屈した他の銀行員たちも、信じる神に祈るように、手を合わせその場に伏せる。

 

 

「うへー、ここまでは計画通り!つぎのステップにすすもーう!!我ら覆面水着団のリーダー、ファウストさん!!指示を願う!」

 

「えっ!?えっ!?ファウストって、わ、私ですか!?リーダーですか?私が!?」

 

 

桃色の覆面の少女と紙袋を被った少女二人のコントの様な会話も、恐怖に溺れた人々は一切の違和感を抱くことがない。だが、その中でただ一つ。便利屋68の面々だけが、目の前の光景を正常に視認していた。

 

 

「あれ…あいつら…。ねぇカヨコちゃん。なんか雰囲気違うから全然気づかなかったけど、あの日傘差してるのもアビドスの先生だよね?ロージャ先生とか言ったっけ?」

 

「うん…アビドスの奴らだ。こんなところでなにやってるんだろう、あの子たち…」

 

「というかいつの間に知らない顔も増えてるね。皆覆面なんかしちゃってどうしたんだろ。」

 

「ね、狙いは私たちでしょうか!?それなら返り討ちにしちゃいましょうか!?」

 

 

カヨコとムツキによる閑静な会話の中に、ハルカの声が混じり少し響くが、覆面水着団の定期的な威嚇射撃によりかき消される。現状、彼女たちの正体に気づいているのはこの三人だけである。

 

 

 

「というか、肝心のアルちゃんはなにしてるのさ。」

 

 

ムツキがアルのいる方向に目を向けると、まるで女児の様に目を輝かせながら、この光景を見ている自分たちの社長の姿があった。

 

 

(や、やばーい!!この人たち何なの!?ブラックマーケットの銀行を襲うなんて!!今の時代、こんな大胆な計画を立てちゃうアウトローが未だに存在するなんて!!)

 

 

大胆な行動、そしてそれに一切物怖じしない不屈の精神。そして実際に銀行内を制圧できるほどの技量。陸八魔アルがあこがれとする理想の悪党(ハードボイルドなアウトロー)の姿がそこにはあった。

 

 

「監視カメラの死角、警備員の同船、銀行内の構造は全て頭に入ってる。無駄な抵抗はしないこと。さぁ、そこのあなた。このバッグに入れて。少し前位に到着した現金輸送車の…。」

 

「わ、わかりました!!なんでも差し上げます!!現金でも、債券でも、金塊でも、いくらでも持ってってください!!なので命だけは!!」

 

 

パニックを発症した銀行員に、シロコの要求は半分も聞こえていない。ただ我武者羅に、生き残るために動いていている銀行員のせいで、事態はシロコが想定していない方向へと進んでいく。

 

 

「そ、そうじゃなくて…集金記録を…。」

 

「しょ、書類もですね!!どうぞどうぞどうぞ!!」

 

 

シロコの手から半ば奪い取るような形でバッグを受け取った銀行員はすぐさま後ろに下がると、バッグの形が変わるぐらい、現金をパンパンに詰めてシロコに渡してきた。

 

 

「う、うーん…」

 

 

困惑するシロコと、そんなことは露知らず手際よく銀行内で制圧を続ける他のメンバー。彼女たちの正体にはてんで気づかないまま羨望の眼差しを向けるアル。事態は止まることなく深刻な混沌(カオス)へと進んでいく。

 

 

「社長、全然気づいてないみたいだけど…。」

 

「むしろ目なんか輝かせちゃって。ま、面白そうだし今は放置でいっか。」

 

「わ、私たちはここで待機でしょうか?

 

「…あの子たちと銀行、両方とも私たちが助太刀する理由がない。社長もあんな状態だし…まぁ聞いた感じ目的は現金じゃないみたい。あの時計先生がただの強盗を傍観するとも思えないし…すぐ帰るだろうから取り敢えず離れてよう。」

 

 

カヨコの勘は正しかった。便利屋の面々が身を潜めたタイミングで、覆面の彼女たちの耳元にチクタクと時計の音が響いた。

それは、第三者には把握出来ない(こえ)。覆面の彼女たちの、指揮官からの合図だった。

 

 

「あの、し…いや、ブルー先輩!!例のブツは手に入った!?」

 

「あ、う、うん。確保したよ。」

 

「ようし、それじゃあ撤退!!みんな帰るよ~‼」

 

「アディオース~♧」

 

「ケガ人もいないみたいなので失礼します!!さようなら!!」

 

「ほら、先生も走って!!」

 

「…はぁ。」

 

 

こうして、銀行内から嵐は去っていった。この惨状を創り出した銀行強盗達は脱兎の如き勢いでまんまと逃げおおせてしまったわけである。

 

 

「や、奴らを捕らえろ!!道路を封鎖!マーケットガードに通報だ!!一人も逃がすなぁーーー!!!」

 

  

先程の怯えた態度から一転、金をカバンに詰めた件の銀行員の怒号が銀行内を反響する。一気に別の要因であわただしくなる銀行内。

そしてそんな最中。店を抜け出したもう一つの集団がいたことには、その場の誰一人として気づかなかった。

 

 


 

 

【奴らを捕らえろ!!道路を封鎖!マーケットガードに通報だ!!一人も逃がすなぁーーー!!!!】

 

 

モニターから聞こえてきたそんな声を聴いて、私は頭を抱えた。

今戻ってきたばかりの生徒たちは、一仕事終えたといった感じで皆どこか晴れやかな表情を浮かべている。

 

 

『もうちょっと穏便に済ませる方法があった気がする...。』

 

「まぁ~しょうがないよ先生。アレぐらいやらなきゃ向こうに通報の隙を与えちゃうからね。だから必要経費必要経費。」

 

『それはそうなんだけど…』

 

 

内心、私も納得はしている。

これ以外に取るべき手段がなかったことも、実際成功してしまったわけなのだからこの行動を看過した時点で私に文句を言う権利は無い。

だが、今置かれている状況を見るとどうしてもそんな考えが過ってしまう。

 

…いや、冷静になれ。今がこんな状況だからこそ、私がくだらないもしもを想像している場合じゃない。

 

 

『アヤネ、道が完全に封鎖されるまであとどのくらい?』

 

《マーケットガード達の動きを見る限り、外部への全てのルートが封鎖されるまではまだそれなりに猶予があると思われます。警備が手薄なルートを突けば、こちらが有利かと。》

 

『わかった。そうしよう。』

 

 

アヤネが割り出したアビドスまでの最短ルートが、私のPDAに転送され表示される。

 

 

《今日、かなりの時間歩きましたからね。おかげで皆さんがいる周辺の道は大体記録できました。ナビゲートは私がやりますので、先生は指揮をお願いします。》

 

『ありがとう、何から何までごめんねアヤネ。』

 

 

いえいえ、とアヤネは謙遜の混じった返事をした。

すぐさま送られてきたルートを頭の中に保存(インプット)しながら、戦闘システムを起動しこれから起こる戦闘の流れを予測する。

そして今しがた帰ってきたばかりの生徒たちの方を向きなおし、作戦の概要を伝えた。

 

 

『みんな、帰宅の時間だ。道が完全に封鎖される前に、一点突破でぶっちぎる。指揮は私が、ナビゲートはアヤネがする。無線機は外れないようにしっかり固定しておくようにね。それじゃあ、出撃!!』

 

 

合図と同時に、私たちは今までいたビルの影から勢いよく飛び出した。目の前には数名の兵隊と戦車。あの程度なら一瞬だ。

 

 

『ノノミはシロコのドローンと一緒に戦車を集中攻撃!!ホシノ、盾を展開しながら前へ!!セリカはホシノの後ろにくっつく様に行動してくれ!』

 

「おい、件の銀行強盗だ。総員迎撃準備!!」

 

 

向こうもこちらの様子に気づき、すぐさま迎撃の体制をとる。前衛のホシノとセリカが接触するまでは後三秒も無いといったところだろうか。私はすぐさま、皆の一番後ろに立っているロージャへと指示を飛ばす。

 

 

『ロージャ、皆に風を渡して援護を頼む!!』

 

「えぇ、わかったわダンテ…パレードを始めましょう。」

 

 

『ラマンチャランドの姫』の人格を被ったロージャがその手に握っていた紫色の日傘を振ると、途端周囲に紫色の風が舞い上がった。星河の如く煌めきながら、その風はホシノとセリカに向けて流れ、彼女たちの身体を包み込んだ。

 

 

「ん、んん!?なんか、急に体が熱いんだけど!?で、でもなんか…力が…」

 

「うん、みなぎってくる感じがするね。ようし、いくよセリカちゃん!!」

 

 

血鬼人格のロージャは、自らの血の持つ影響力を風として飛ばすことで、自他を強化して戦闘を進めることが出来る。

言い換えれば、風を通して対象の無意識へと命令を飛ばし、脳のリミッターを少しだけこじ開けているといったイメージだろうか。そのため、血で縛られている血鬼にはより濃くその影響が出る。船長イシュメールの命令が何かと近い例だろうか。

 

 

ガァンッ!!

 

 

ホシノのシールドバッシュによって、最前線に立っていた兵士の身体が宙を舞った。それと同時に、ホシノの後ろから飛び出したセリカは奥の兵士たちへ瞬時に狙いを定め引き金を引く。

銃声が響き、それと同時に彼女たちの隣で戦車が炎と煙を噴き上げ活動を停止した。敵に反撃の暇すら与えぬ見事な制圧だ。

 

 

『みんなよくやった、さぁどんどん進もう。』

 

 

アヤネのナビゲートに従いながら、私たち弾を放ち、時に血風を巻き上げながら、右に左にブラックマーケットの中を駆けまわる。

 

 

《ブラックマーケットの出口まで、残り百メートルです!!》

 

 

無線機からそんな音がしたその時、私たちの頭上に影が灯る。

 

 

『っ、上だ!!みんな避けて!!』

 

 

慌てて回避行動の指示をだし、私自身も少し後ろへと転がる。

ビルの上から私たちの頭上へと落下してきたその兵器は、砂埃を巻き上げながらその姿を現す。両腕に備え付けられたガトリング砲と、頭部に雑に取り付けられた主砲。二足歩行の利点である機能性を本体重量で打ち消しているその兵器に、私は見覚えがあった。

 

 

『ゴリアテ…!?』

 

 

間違いない。ヘルメット団のアジトで戦った、あの巨大兵器だ。

となると、やはりヘルメット団の使っていたアジトはブラックマーケットの物で間違いない…!!

 

意外なところで証拠を発見して喜んでいたのも束の間。ゴリアテのガトリング砲が放たれ、私たちの下へと降り注ぐ。

 

 

《ダンテ先生、大丈夫ですか!?》

 

『あぁ、こっちは大丈夫!!それよりもみんなは?』

 

「ん、こっちも全員無事。」

 

「ラスボス登場って感じかなー。にしてもこの兵器…まぁいいや。ぱっぱと片づけちゃおう~。」

 

「あぁもう痛いじゃない!!絶対ぶっ壊してやるんだから!!」

 

「…汚らわしい。ダンテ、早く終わらせましょう?」

 

 

よかった、ロージャ含めて全員無事だ。

安否は確認できた。前の様に、私はすぐさまビルの影に隠れ指揮の体制をとる。

 

 

『皆、増援が来る可能性も含めてあまり時間はかけられない。手早く済ませよう。』

 

 

以前、ホシノとロージャの二人で戦ったときの戦法をそのまま使ってもいいが、それだと振動が貯まるまで少し時間がかかるし、何より腐食するかどうかも不確実だ。今は何より時間との勝負。今回はより確実かつ迅速な方法で倒したい。

 

 

『とはいえ、どうするか…』

 

 

今は取り敢えず脚部へ攻撃を集中させているけれど、以前戦ったのと違い脚を頑強なプレートで保護してるらしく余り攻撃の通りが良くない。これ以上時間をかけて増援が来ればそれこそ終わりだ。

 

と、その時。ふとゴリアテの足元の地面が、先の着地の衝撃で割れ少し沈んでいることに気づいた。

 

 

『…これだ。』

 

 

直ぐさま無線機のマイクをオンにし、皆に指示を出す。

 

 

『皆、脚本体じゃない!!あいつの足元を狙ってくれ!!』

 

「……あぁなるほどね。先生の意図はわかったけど、多分私たちの火力だけじゃ足りないよ?」

 

 

意図に気づいたのはホシノだけだった。

 

 

「いや、仕上げはロージャがやるから大丈夫。それまでにみんなはなるべく、あいつをその場に留めててほしい。そしてヒフミ、その…ひとつお願いがあるんだけど。」

 

 

「ーーよーし、それじゃあ行きますよー!!」

 

 

そんな明るい掛け声とともに、ノノミのガトリングが火を噴く。

霙の様に叩きつける弾幕の雨に、ゴリアテも負けじと手に持っていたガトリング砲を放つ。薬莢がバラまかれ、周囲に硝煙が立ち込める。

 

 

『シロコ、今だ!!』

 

 

立ち上がった煙の中から、純白のドローンが姿を表した。

ドローンに備え付けられた小型のマシンガンが放たれ、それと同時にシロコの手から手榴弾が投擲される。足元で煙が上がり、周辺のアスファルトがボロボロと崩れていく。

こちらの猛攻に耐えかねたのか、ゴリアテの頭部に備え付けられた主砲が音を立て始めた。

 

 

『っ、みんな、来る!』

 

 

指示は間に合わない。ゴリアテの主砲から砲弾が放たれ、生徒たちの頭上に降り注いだ。

 

ドゴォォォンッ!!!!!

 

鼓膜をつんざく爆発音。炎と共に黒煙が立ち上り、一時的に周囲の視界が悪くなる。

 

ーー待っていたのは、この状況だ。

 

 

『ロージャ!!』

 

 

煙が晴れる。

黒い盾の騎士に守られた血鬼の姫は、ひどく落ち着いたーーしかし決して遅くないーー足取りでゴリアテへと向かっていく。

 

慌ててガトリングの射撃準備をするゴリアテだが、準備に一秒でもかかる時点でもう迎撃には間に合わない。

 

 

「あ、あんまり汚さないでくださると…!!」

 

 

ヒフミの投げたペロロ様の人形が膨らみ、それは巨大な足場としての役割を果たす。ロージャは巨大ペロロ人形を一切の躊躇なく踏みつぶすと、そこから更にゴリアテの頭上程の高さまで跳躍し制止した。

 

ゴリアテのカメラが、彼女の姿を鮮明に捉える。

何処までも続く青い空を背に、白い仮面のその奥で、鮮血のような赤い眼が光っていた。

 

 

「フィナーレを始めましょうか。」

 

 

瞬間。

赤い結晶と共に、旋風が全てを覆い尽くした。

嵐よりも激しく刃よりも鋭い、祝祭の終わりを告げる暴風。突如上空から吹き付ける意思を持った暴風に、ゴリアテの機体と同時に地面がミシミシと音を立てる。

 

風は三度ゴリアテを襲い、そして…

 

「祝祭は、終わりよ。」

 

ドッ!!

 

一際強い衝撃音と共に、血の結晶が霧散していった。

そうして、地面に着地した彼女が仮面を外し、妖艶な微笑みを浮かべたその瞬間。

 

ドォォォォォォォォンッ!!!!!!

 

 

ゴリアテの足元の地面が、そんな音を立てて崩落した。

ノノミの弾幕と、シロコの火力支援、そしてその場の全員による執拗な足元への攻撃で蓄積された道路の摩耗は、もはや耐えられないところまで来ていた。

ロージャの硬血式奥義と、崩落による瓦礫によって、ゴリアテは漸くその機能を停止した。同時にロージャに被せていた人格が破裂し、彼女の表象が元の姿へと戻った。私たちの勝利である。

 

 

《…はっ!!敵機沈黙しました!!皆さん、その先に敵対反応はありません!!すぐに出ましょう!!》

 

 

アヤネのその言葉で、私たちは一斉に走り出す…が、何やらロージャの様子がおかしい。

 

 

「うう…あったまいたい…ダンテごめん、ちょっと吐きそう。」

 

(っ、長時間の人格使用の弊害!!)

 

『ごめん!!もうちょいの辛抱だから我慢してくれ!!』

 

「うっぷ…あとで文句は言わせてもらうわよダンテぇ…」

 

 

こうして、潜入から約三時間。ロージャの恨みの言葉を聞きながら、私たちはこの混沌魔境からの脱出に成功したのだった。

 

 


 

 

《封鎖地点を突破。この先はセーフゾーンとなります。皆さん、お疲れさまでした!!》

 

「やった!!大成功!…と言いたいところなんだけど…その、大丈夫?ロージャ先生。」

 

「え、えぇ大丈夫よセリカ。しんぱいしnうっぷ…」

 

「先生…大丈夫ですか~?」

 

「あ、ごめんノノミ。背中さするのはやめて?ほんとに出ちゃうから。」

 

 

ブラックマーケットから出て…正確には人格を剥がしてから、ロージャはずっとグロッキーになっている。

人格技術は、本人の自我を他世界の自分で一時的に上書きする技術だ。当然副作用もある。これはその一部だ。長時間人格を被せていると、自我が曖昧になったり、こういった体調不良に見舞われることがある。しばらく他世界の自分の影響を引きずるときとかもあるけれど、今回はまだましな方だ。

 

とはいえ、頻繁にこんな風になられるのも困る。ここに居る間は、あまり休みなく人格をつけっぱなしにするのはやめておこう。

 

 

《はぁ…本当にブラックマーケットの銀行を襲っちゃうなんて…びっくりしましたよ。》

 

「シロコちゃん、集金記録の書類はちゃんと持ってるよね?」

 

「う、うん。これなんだけど…」

 

 

シロコは、何故か少し後ろめたそうにバッグを取り出した。

…なんか、ただ書類が入ってるにしてはバッグがパンパンなような気がするんだけど。

 

ジャッ!!

 

 

「……へ?なんじゃこりゃあ~!!カバンの中に…さ、札束が…!?」

 

「うええええええええええええええええっ!?シロコ先輩、現金盗んじゃったの!?」

 

「うわ~こりゃ大漁ね。見た所…あぁだめだ数えきれない。ダンテ、お金を一気に見すぎて酔っちゃいそう。」

 

 

もう酔ってるのでは?という突込みをするのはやめておいた。そんな事より、今はこのかばんにパンパンに詰まっている現金の話が先だ。

 

 

『し、シロコ。これどういうこと…?』

 

「ち、違う。目当ての書類はちゃんとある。ほら、これ。でも銀行員の人が勝手に勘違いして…それでこんなことに…」

 

「どれどれ…1、10…うへ、こりゃ軽く1億はあるね。本当に5分で1億稼いじゃったよー。」

 

 

1億。アビドスの借金の9分の1が一気に返済できてしまう額である。

聞けば聞くほど、だんだん自分たちがやばいことをしてしまったのではないかという自覚が湧いて出てくる。ここにヴェルギリウスが居れば、全員纏めて面談は免れないだろう。

 

 

「やったぁ!!何ボーっとしてるのよ。早く運びましょう!!」

 

 

満面の笑みでそういうセリカに、アヤネが慌てて反論する。

 

 

《ちょ、ちょっと待ってくださいセリカちゃん!!そのお金使う気ですか!?そんなことしたらほんとに犯罪ですよ!!》

 

「は、犯罪だから何!?このお金はそもそも、私たちのお金でしょ!?それがあの闇銀行に流れて行ってたの!!それに、そのままにしてたらまた犯罪を生むことになってたかもしれない!!悪人のお金を盗んで、何が悪いの!?」

 

「私はセリカちゃんの意見に賛成です。犯罪者の資金ですし、正しい使い方をした方がいいと思います。」

 

《の、ノノミ先輩まで…》

 

 

ヒートアップしていく議論を、私はただ傍観していた。

確かに、セリカの言う事は理屈的には間違っていないだろう。このお金は、自分たちの学校を救うために彼女たちが稼いだお金であり、決して犯罪者の手助けをするための物ではない。正しい使い方をするというのは、理にかなっているだろう。

 

だが…私にはそれが、破滅への入り口の様に見えた。筋が通っていることと、正しいことはまた別の問題なのだ。

 

 

「ふむ…シロコちゃんはどう思う?」

 

「……わざわざ自分の意見を言うまでもない。ホシノ先輩が反対するだろうから。」

 

 

ホシノの質問に、シロコはきっぱりとそう答えた。困惑するセリカとは対照的に満足げな態度のホシノだったが、その表情は直ぐに真剣な物へと変わった。

 

 

「…まず、私たちに必要なのは書類だけ。お金じゃない。今回のは悪人の犯罪資金だからいいとして、次はどうする?その次は?」

 

 

ホシノの言葉に対して、誰も、何も言わなかった。

 

 

「こんな方法に慣れちゃったら、ゆくゆくは、きっと平気で同じことをするようになるよ。そしたら、この先またピンチになった時…『仕方ないよね』と言いながら、やっちゃいけないことに手を出すと思う。このおじさんとしては、可愛い後輩がそうなっちゃうのは嫌だなー。そうやって学校を守ったって、何の意味があるのさ。」

 

 

おどけた様に言うホシノだったが、最後の言葉は心の底からの本音だということが、直観的に理解できた。

 

例え今、このお金を使って借金を返したとして。それはただ自分の悪事を他人の悪を引き合いに出して正当化しただけだ。罪の重さが軽くなったわけでは決してない。

その罪を許容してしまうと、自分の中でその歪んだ動機は自分の中で正常なものとして記憶されてしまう。

 

自分には特別な理由が、止むを得ない理由があるんだと。だからこの行為は正しいんだと。

そう、自分に言い聞かせ続けるだけの人生を送ることになりかねないのだ。かつて寒さに耐えかねて斧を振るった誰かの様に…

 

…ロージャも、きっと同じことを考えてる。だからこそ何も言わないのだ。同じ轍を踏ませないために大事なのは、自分自身で気づくことだとわかっているが故に。

私たちの役目は道を示すことであり、答えを示すことではないということが理解できているがゆえに。

 

 

「先輩の気持ち、わかります。いくら頑張ったところで、きちんとした方法で返済をしない限り、アビドスはアビドスじゃなくなってしまう。私たちのアビドスを、自分たちでこわすことになっちゃうんですよね。」

 

「……そーいうことなら、顧問のあたしも反対。とーっても口惜しいけど、このバッグはここに放置!!書類だけもらって帰りましょ。」

 

「な、なにそれ意味わかんない‼もどかしい!!こんな大金を捨ててく!?変なところで真面目なんだから!!」

 

「私はアビドスさんの事情をよく知りませんが…このお金を持っていると他のトラブルに巻き込まれるかもしれません。災いの種みたいなものでしょうから…」

 

「バッグは、私が適当に処分しておきますね。」

 

「ほいほーい、頼んだよ。」

 

 

一件落着…だろうか。

結果的に、アビドスの問題解決へ大きく進むことはなかった。でも、着実に一歩ずつ進んでいるのは理解できる。

小さな歩みでも、一歩ずつ進んでいけばいずれ至ることが出来るだろう。

 

 

《……待ってください!!何者かがそちらに接近しています!!》

 

 

イイ感じに締めれると思ったのに、追手だろうか。人格をこれ以上被せることは避けたいため、必然的に生徒たちだけの戦闘指揮になる。問題は無いだろうが、それでも戦力が一人減るのは大きいところだ。いったい誰が…

 

 

《え…あ、あれは…便利屋のアルさん!?》

 

『!?』

 

 

パキンッ!!

 

 

「はぁ。ふぅ…ま、待って!!」

 

 

アヤネの言う通り、私たちを追ってきていたのは便利屋の社長、陸八魔アルだった。思わず近くの茂みに隠れてしまったしまたロージャに人格を被せてしまった。というか、私たちの通ったルートからそのまま来たということは、彼女たちもブラックマーケットにいたのだろう。まさか、銀行強盗を見られていたのだろうか。

 

 

「銀行の襲撃、見せてもらったわ…。ブラックマーケットの銀行を物の5分で攻略して見事に撤収…あなた達、稀にみるアウトローっぷりだったわね。」

 

 

どうやらがっつりみられていたらしい。覆面をつけていたとはいえ、一度戦った仇敵の顔が分からなくなるわけない。つまり、我々の犯行は堂々と見られていたわけだ。それはすなわち、

仇敵に弱みともいえる情報をにぎられたというこーー

 

 

「正直、すっごい感動したわ…!!」

 

 

…ん?

 

 

「このご時世にあんな大胆なことが出来る人がいたんだって感じだし…わ、私も頑張るわ!!法律や規律に縛られない、本当の意味での自由な魂!!そんなアウトローになりたいから!」

 

 

いったい、彼女は何の話をしているんだろうか。

というか、彼女のこの興奮具合。まるで、フィクサーの話をする時のドンキホーテのような雰囲気を感じる。もしかしてこの少女は、シロコたちの銀行強盗を見て、正体に気づくこともなく仇敵のファンになってしまったとでも言うのだろうか。

 

 

「そ、そういうことだから…な、名前を教えてくれるかしら!?その…組織名っていうか、チーム名とか、あるでしょ?正式な名称じゃなくてもいいから、私が今日のあなた達の雄姿を心に深く刻んでおけるようにように!!」

 

 

どうやらそう言う事らしい。

思ったより百倍おかしな状況に、どう転ぶのかとはらはらしていると…

 

 

「なるほど!!おっしゃることはよーくわかりました!!私たちは、人呼んで…覆面水着団!!」

 

 

ノノミが、そんな壊滅的なセンスのチーム名を堂々と名乗った。

 

 

「覆面水着団!?」

 

 

ほら。いきなりそんなこと言われたから、アルも困惑して…

 

 

「や、歓喜い(やばい)。超クール!!カッコ良すぎるわ!!」

 

 

してない。

もう何が何だか分からなくなってきた。段々とホシノとノノミの二人によって無駄な設定も付け足されて行ってるし、ノノミはクリスティーヌだとかわけわからない名前を名乗っているし、もう収集が付かなくなってきた。

 

 

「うへ、目には目を。歯には歯を。無慈悲に、孤高に、我が道の如く魔境を行く。これが私らのモットーだよ!!」

 

「な…なんですって~!?」

 

 

ホシノの出まかせの言葉に、アルは余程感銘を受けたのか口を開けたまま固まっている。アル、落ち着け、よく聞けばあまり中身はないよその名言。

 

 

「ふふ、それじゃあ私たちはこのあたりで。アディオス~♧」

 

「行こう!!夕日に向かって!」

 

「………」

 

「夕日、まだですけどね…」

 

 

こうして、私たちは無事(?)アビドスへと帰ってきた。グロッキーになったロージャと問題解決のための証拠を持って、これで何かが進むと信じながら。

 

そして、慌ただしい帰り道のその裏で、一億円と引き換えに、アルが理想の裏の真実にたどり着いてしまったのは、また別のお話。

 


 

次回【収束と転換点】




久しぶりに戦闘描写書いたけどむずいーーーーー!!!!!!
月姫プレイしたから書けると思ったんですけど、あまりにも状況が違うので無理ですね。プロの文章ってすげえや。
今回のブラックマーケット回はほんとは前回の話と合わせて一個でやる予定だったんですけどだとしたら文字数が二万超えてましたね。ふふ、ままならないね。


感想とか諸々待ってます。

それではお疲れさまでした。また次回も楽しんでいただけると幸いです。
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