ビーッ!!ビーッ!!ビーッ!!
会議が終わり、皆が背を椅子に預けていた時。対策委員会の部室の中で緊急事態を伝えるブザーが鳴り響いた。
このブザーが鳴る条件は二つ。一つ目は、学園に大規模な敵の接近を感知したとき。そしてもう一つは、アビドスの学区内で大規模な破壊が行われたとき。いずれにせよ、アビドスにとって早急に解決せねばならない事象が起こってしまったことを意味する。
『アヤネ、状況の確認を頼めるか!?』
アヤネはすぐさま端末を起動し状況の確認を急ぐ。
(どうしてこんな時に限って…!!)
私が来たのが今からおよそ三十分程前。
教室の扉を開くと、中にいたのはシロコとノノミ、アヤネとセリカの計四名。そこにいるはずの二人の姿がなかった。聞けば、ロージャは親睦を深めようと外に昼寝しに行ったホシノについて行って未だ帰ってきていないという話だった。
昼頃に戻るというのが彼女の言葉だったらしいが、いないということは何か誤算があったのだろう。幸い死亡通知は来ていないから、連絡すればすぐに返信が来るはず…だったのだが。こんな大事な時に限って一切のレスポンスがない。
「うーん…ダメです。いつもならすぐに返信が来るはずなんですけど…」
『そっちもか…ならしょうがない。今回は二人抜きで解決するしかない。アヤネ、状況は?』
「は、はい…これは…市街地が、何者かによって破壊されています!!すごい勢いで…って、そんな!!紫関ラーメンが、跡形もありません!!」
柴関ラーメンは、セリカのバイト先でもある。私もラーメンこそ食べられていないものの、店内のその暖かな雰囲気と大将の人柄からかなり気に入っていた場所でもあった。
そんな店が、跡形もなくなったというのだ。当然教室内は一時騒然。皆混乱しているようだった。
「うそ、なんであそこが襲われるのよ!?」
「推測は後からでもできる。今は早く現場に行かないと。」
シロコの一言で、私も混乱していた思考がはっきりし、今やるべきことが明確化した。
そうだ。今は御託を並べたり、無意味な推測を並べ立てている場合ではない。シロコの言う通り、今すぐ出発するべきだろう。
『みんな、事態は一刻を争う。準備はいいね?』
私の言葉に、首を横に振る物はいなかった。
そうして、私たちは市街地へと向かった。その先に、何が待っているのかも知らないまま。
ーーアビドス市街地ーー
「な。なに、これ…」
目の前が、煙と埃で白く濁っている。倒壊した建物からは炎が立ち上がり、混沌とした町中に不特定多数の誰かの悲鳴が響いている。
荒れ果てた市街地の様子を見て、セリカ含めた私たちは呆然とその場に立ち尽くしていた。
『………ひどいな。』
そんな単純な感想がついて出た。ノノミとシロコの二年生ですら驚愕の表情を浮かべているのを見るに、この規模の破壊活動はめったに見れるものではないらしい。
《なに、これ…明らかに個人のできる範疇を超えてます...!!》
「大将は!?お、お店はどうなったの!?」
セリカは気が動転した様子で、柴関ラーメンがあったであろう場所へ走っていく。私たちもそれを追いかけたが、あいにくもう手遅れだった。
『………』
アヤネの報告通り、店は跡形もなく焼失していた。店先にかけられていたはずの看板の破片が、地面で黒く燃えている。
「許さない…誰が、こんなことを…!!」
セリカの握った拳が、怒りで微かに震えている。よく考えれば、この世界で生徒たち以外の生命の耐久性について考えたことがなかった。
店がこの様子だと、大将の生存もおそらくは期待できないだろう。私がどう彼女に声を掛けたものかと悩んでいると。
「あ、アビドス!?」
後ろから、そんな声が聞こえてきた。
声のする方を向けば、そこにいたのはすでに見慣れた四人の少女たち。便利屋68の面々だった。
「べ、便利屋!?なんであんたらがここにいるのよ!?」
「ん、犯人登場。」
突然の敵対組織の登場に、三人が一斉に彼女たちへと銃を向けた。が、そんな状況に一切動じる様子無く、カヨコがアルの前に出た。
「勘違いしてるみたいだけど、この騒動を引き起こしたのは私たちじゃない。むしろ、私たちも被害者…っていうべきかな。」
「そ、そうよ…私たちは今回の件に関しては何もしてないわ。」
カヨコとアルの弁明を裏付けるかのように、彼女たちの体にはところどころ真新しい火傷の跡があった。服はところどころ破けているか煤で黒くなっている箇所があり、相当な修羅場だったことが伺える。
「……確かに、皆さん随分とぼろぼろですね?」
「待って!?というかラーメン食べに来たって言ってたよね?大将は無事なの!?」
「ん~?あぁラーメン屋の大将さんなら、けがも大したことなかったからもう避難したよ。ハルカちゃんが、近くのシェルターに案内しに行ったはず。」
ムツキがそういうと、セリカは心底安心したようにふーっと息を吐いた。ノノミとシロコも胸を撫でおろしているようだった。
「というか、今日はロージャ先生と…あの盾を持った子はいないんだ。」
「二人はすこーし用事がありまして♧」
『アルたちは、ずっとここにいたんだよね?何があったのか聞かせてもらえる?』
ひとまずは情報収集。幸い、この惨状を引き起こした原因は今はなりを潜めているようだった。
私の質問に、アルは少し間をおいてから答える。
「え、えぇ。端的に言うと、この町は急に襲われたのよ。どこから来たのかもわからない牛の化け物に。」
『……牛の化け物?』
彼女のその言葉を聞いて、私の脳裏にはつい先日獲得したEGOギフトが思い浮かんだ。同時に、私たちの過去の冒険の記憶が、今現在の状況と鏡のように重なる。
倒壊したビルに、燃える街並み。どこからか聞こえる悲鳴。
私は、この状況と似た状況をよく知っている。
『その化け物は…どんな見た目だった?』
そんなわけがない。と思いながら、私は彼女にもう一つの質問を投げかける。
そうだ、いるはずがないのだ。幾ら鏡が結んだ世界だとしても、この世界は私たちの住む世界とは全くの別物だ。ロボトミーの支部もなければ、ダンジョンの存在もない。
「アルさまぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
大通りの方からそんな叫び声がして、その場にいた全員の意識がそっちに向く。
「ハルカ!?ふ、ふふ。さすが私の社員ね。無事に戻ってくると思っていたわ!!」
かなり心配していたのか、アルは喜びの表情を露にし建物の陰から飛び出しハルカを迎えた。アルの胸に飛び込んたハルカは、息をぜぇぜぇと切らしながら彼女の胸に顔をうずめていた。
「はぁ…はぁ…ご命令通り、皆さんシェルターに案内できました…」
「さすがハルカね。あの化け物は大丈夫だった?」
「あ、それなんですけど…その…」
「連れて…きちゃいました。」
「「「「「「「「…へ?」」」」」」」」
ピピッ
《そ、そちらの方向に、ものすごい勢いで何かが向かっています!!対象、発煙してて全貌把握できませんが…と、とにかく皆さんそこから離れてください!!》
フリーズした思考を溶かすかのように、アヤネの叫び声が耳元で響いた。
そこからは、もう考えるより早く体が動いたとした言いようがない。枝を巡る旅で培った危機察知能力の本領発揮といったところだろうか。
まぁとにかく、私たち全員は即座にその場から飛び退き、そしてその数秒後。
ドガァァァァァァアンッ!!!!!!!!!!!
凄まじい衝突音と共に、私たちを守ってくれた家屋は跡形もなく倒壊した。
『…………なんで。』
立ち上る炎と煙。
全身から熱気を立ち上らせたそれは、瓦礫の山の上で静止した。煙が少し晴れ、本来存在してはいけない幻想がその姿を現した。
ーーブモォォォォォォォォォォォォッ!!!!!!!!!!!!!!
『なんで、幻想体がこの世界にいるんだ!?』
真鍮の雄牛ーー私たちの世界にいた怪物のうちの一体であり、灼熱を帯びた金属の体を持つ牛の幻想体。採光ダンジョンで定期的に会うが、奴の突進はやけに威力が高く、油断していると囚人たちの体が立体パズルみたいになっていることもよくある。
鉄の体を持つその牛が天に向かって再び吠えると、それは再びこちらに体を向け前足でしきりに地面にひっかいていた。飽きるほど見たからこそ理解できる。あれは突進の準備だ。真正面からぶつかればただじゃすまない。
「は、ハルカー!?なんで連れてきたのよーー!?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!!!!!!!!」
「ちょっとなに遊んでんのよ!!」
「…来る!!」
シロコの言葉通り、幻想体はまっすぐシロコたちのいる方向へその双角を突き出したまま突進していく。熱された空気が突進と共に前方へと押し出され、周囲の空間が熱気が満ちていく。
「熱っ...!!」
「気を付けて、そいつの体に少しでも触れると肌が焼けるから。」
「BBQになりたいなら止めないけどね、ほらアルちゃん、ビビってる場合じゃないよ!!」
「うう……しかたないわね、アビドス!!今だけ共闘してあげるわ!!一緒にあの化け物を倒すわよ!!」
「偉そうに言うな!!」
「昨日の敵は今日の友、ですね♧」
《敵対生物、いまだこちらを狙っているようです…!!先生、指揮をお願いします!!!!!!!!!!!》
突発的な危機的状況に際し、何やらスムーズに、自然と共闘は開始した
生徒たちが気を引いてくれている間に、私は近くのまだ形が残っているビルへと身を潜め、ひとまず身の安全を確保する。
モニター越しの戦場を俯瞰する。
瓦礫の上で真鍮の雄牛は彼女たちの発射する弾丸を一切動じずに受け止めている。それもそのはず、奴は銃弾や槍など、貫通力に特化した攻撃の効きが悪い。外殻がかなり強固なため、ダメージを与えるなら強い衝撃を与えて中にいる本体に直接ダメージを与える他ない。同様の理由で、斬撃もほぼ効かない。
ロージャがいれば…なんてことを考えて、すぐにやめた。
採光ダンジョンで奴と対峙するときは、大体の場合彼女に頼んでいたため今の状況も彼女がいれば楽に解決できていただろう。だが、あいにく今彼女は不在だ。結局のところ人は与えられた手札で戦うしかない。それがブタなら、どうにか機転を利かせるしかない。
『とりあえず、今できることからやってみないとな…』
過去に数えきれないほどしてきた幻想との対峙を漸く飲み込み、私は指揮を開始した。
というわけで初の幻想体登場です。街の倒壊といい出てくる幻想体といいどこか既視感があるのは気のせいでしょう。ちなみに今回投稿してなかったのはただの惰性なので普通に殺してください。
というわけで筆が乗ればまた一週間後にお会いしましょう。乗らなかったら一か月後にお会いしましょう。待っててくれる人がもしもいるならば本当にごめんなさいね。
では、ホンル章でお会いしましょう。good-by